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ひばかり

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悪友T氏との綱渡り的冒険

2005/12/13
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悪友T氏との綱渡り的冒険 エピソード1

(悪友T氏のイメージ図)
toku
いわゆるコワモテ。
くまのプーさんに登場する虎「ティガー」をスキンヘッドにし
眉を剃り落とした感じ。異様な程に頭の形、特に後頭部の形状が良い。
以外と優しい目をしていて、現在は眉も有り物腰も穏やかだが
底知れぬ不気味さを漂わせる味わい深い男。
以前、彼がこのワタクシのイメージについて何か語った気がするが
個人的に納得がいかないので、ここでは割愛させて戴く(笑)

廃墟が好きで、その昔いろんな所に押入った。
単なる廃墟好きということもあるが
骨董趣味も相俟って、一時期は平日休日を問わず
取り憑かれたようにその物件探しに夢中になった。
パートナーは15年来の悪友T氏。
面倒なので本分中ではトクちゃんとする。
実際の本名とは無関係の仮称である。

そしてこれは、今から十年以上前の年の暮れ
そのトクちゃんとの物件探しの中で出会った
一人の偉大なる男の話である。



窓の奥の闇がそのまま流れ出たかの様に古びて汚れた空きビル
不法投棄による瓦礫の山
釣り上げられて放置された奇妙な形態をした魚
音も無く流れる澱んだドブ川の向こうには
期間限定、移動式遊園地の電飾の光が臨まれ
その対照的な姿がこの場所の荒廃した景趣をより一層際立たせている。

自分とトクちゃんがこの吹溜まりの様な場所に辿り着いたのは
既に夜も明けかかった時分だった。

車を降りて辺りを見渡してみる。
以前は恐らく運輸会社の集荷センターだったであろう
だだっ広い敷地はコンクリート敷きになっていて
ゴミが散乱し、その所々がヒビ割れ、雑草が顔を出し
それらも辺りの雰囲気を察したかの様に干乾びている。
その土地を取り囲む様に捨てられ骸となった車が
幾つも座り込んでいるのだが
その殆んどが何者かにガラスを割られ抜け殻の様になっている。
しかし、よく見るとその群れの中に、まだガラスがしっかり残っていて
一体どこの誰が集めたのか
車内にあらゆる物品がごちゃごちゃ詰め込まれているものがある。

「なんだこりゃ?」

二人が興味を示したのは言うまでもない。

ロックされているドアを無理やりこじ開ける。

年代物の厚底婦人用ブーツ、やたらに重いタイプライター
巨人の星の一徹父ちゃんがひっくり返したかもしれない茶ぶ台
魅惑のムード音楽のレコード
カントリーウエスタンのカセットテープ
ヒッピーがニッコリ手を振りそうな裾の広がったジーパン等々。
まるでリサイクルショップの様な品揃え。思わぬ拾い物である。

荒れ果てた景色に寒空の下、この錆びたトラックの持ち主が現れるとは
到底思えない。
自分とトクちゃんはそれら数々の物品を丹念に物色し
時には「ほぉ~」と感心しながら
目欲しいものを自分の車に積み込んでいく。

一台分の検品を終えると、他にも同様の車がないか見回してみる。

「お、あった、あった」

見つけたのは白のセダンタイプで
ガラスの内側に段ボールがあてられていて
内部が見えないようにしてある。
先程と同じく、運転席側のドアをこじあけようとするが
今度はうまくいかない。
さんざん梃子摺った揚げ句、ガラスを蹴飛ばしたり
叩いたりするのだけど頑丈なものでビクともしない。
「あれれ?ここガラス無いじゃん」
以外にも気付かなかったが
右後部ドア、つまり運転席後ろのガラスが無く
木の板で塞がれている。
「なぁんだ」とそれをおもむろに取り払ってぎょっとした。

人間がいたのだ。

後部座席に座った男は窓を暴かれてもじっと運転席側を向いたままで
目こそ開いているが微動だにしない。
脂ぎって絡まった頭髪に伸び放題の髭。

そう、ここは彼の家だったのだ。
そして乱暴にも侵入しようとしている見えない暴漢に対し
どうする事も出来ず息を潜め
弱い動物が天敵に出会った際にそうするように
必死の思いで死んだフリ、いわゆる擬死行動を実践していたのだ。

全く唐突で思わぬ展開と、他人の領域に文字通り土足で踏み込もうとした
バツの悪さから、自分らは顔を見合わせ苦笑いを浮かべながら
その場を立ち去ろうとした。

その時、人の気配がある。

いつの間にどこから現れたのか、自分らを取り囲む様に歩み寄って来る
3人の男。

紺色の防寒作業着を着込んだ、割と背の高い長髪、髭。
黒いロングコートを着た染めてるとは思えないが茶髪の男。
緑の防寒作業着姿で頭の禿げ上がった小太り。
いずれも薄汚れていて一見して路上生活者と判断出来る。
歳の頃は40代半ばから後半位だろうか。

徒ならぬ雰囲気である。

「見かけん顔だなぁ」

・・・どうやら同業者と思われたらしい。

「こんなに荒らして。この辺にはボスがおるんだぞ!」
 長髪、髭が言った。
「殺されるぞ!お前ら!」
ドスの効いた声である。
 
しかし、自分はこのように強い者を楯にして偉そうにものを言う
ドラえもんに出てくるスネオの様なタイプが大嫌いである。

「ふうん、ボスがいるんだ。で、あんたは何なの?」

「俺はそこら辺に寝てるプー太郎だ!
 でもなぁ、関東や関西の方まで全部仕切っとるんだ!!」
長髪髭が胸を張って言い放った。

一瞬言葉を失った。

「悪かった、ごめんね」
決して馬鹿馬鹿しくなってニヤニヤと薄ら笑みを浮かべながら
いかにも小馬鹿にした調子でこの言葉を返した訳ではない。
自分は常日頃から尊敬に値する者に対しては
親しい人を除いて老若男女問わず敬語を使うことにしている。
彼らに対する敬意の程は自分が発したその言葉から
充分に察して戴けることだろう。

「あんたらが改心して、解ってくれればそれでいい」
長髪髭は少し得意気だ。
家も無く、大地を枕に逞しく生きるこの男
自称プー太郎でありながら関東関西まで幅広く顔が利くのだ。
しかもそこまでの大人物でありながら
この近辺の仕切りは他人に任せたりなど
案外奥ゆかしい部分もある好人物ではないだろうか。

いずれにしても俗世間の常識は遥かに超えている。
移動手段も彼ら専用の特殊な交通機関が存在するのかもしれない。

事なきを得て帰る帰り際
自分らが荒らした物品の残りカスを物珍しそうに見入る
ロングコート茶髪。
彼に声をかけた。
「悪かったねぇ」
「いえ、いえ」

当然ではあるが積み込んだ品物は全て持ち帰った。
いつの間にか夜は、白々と明けていた。

自分は今でも時折、ガード下の集団住宅から発散される臭気
或いは駅裏の赤茶けた景色に触れると思いだすのだ。
偉大なるあの長髪髭の事を。

彼の威厳は今でも健在だろうか。
いや、彼のことだ
もしかしたら今では、全世界を股にかけてるかもしれない。







最終更新日  2005/12/18 11:52:16 PM
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