瀬戸キリスト教会牧師 西風の会代表 堀 俊明  精神障害2級 (躁鬱病,アルコール依存症)

2007/06/12(火)20:46

生命倫理、議論を積み上げよ

医療(14)

 万能細胞、ES細胞が新たな医療技術、再生医療の面で注目を集めていますが、倫理上の問題から各国で対応が分かれています。ブッシュ大統領はES細胞の利用に否定的で、「生命を故意に壊す研究」として拒否権を行使しました。  生命倫理の規制が厳しくない国ではES細胞に関する研究が加速されています。韓国ではデーターの捏造が発覚し、国民的英雄が詐欺師と分かったくらいです。厳しい規制は国際競争からの脱落を意味するのが世界の現状です。  日本では京都大学のみがES細胞を作成し、研究機関に配布しているようですが、理化学研究所がES細胞の大量培養に成功したようです。日本でもES細胞に対する規制が厳しく、研究機関と国によるダブルチェックが入ります。  倫理上の最大の関門はES細胞が受精卵、胚を破壊して作成される点にあります。生命の始まりは卵子が受精して時点だとすれば、ES細胞は生命を破壊した結果得られるものですから、殺人行為だと批判されても仕方ありません。  ブッシュ陣営を支えるアメリカのキリスト教保守派は生命の尊厳を訴え、人工中絶にも反対して国論を2分させています。ヨーロッパでもキリスト教保守派の勢力が強い国ではES細胞に対するが規制が強い傾向がみられます。  米欧の規制に嫌気をさした企業がアジアに進出しています。世界の企業間での特許を巡る争いが激しくなっていますから、ES細胞の大量培養技術は日本の武器になります。受精卵を破壊してES細胞を作成しなくて済むからです。  生命技術の進歩はヒトインスリンを大量に供給し糖尿病患者を救いました。新しい技術、医薬品を生み出しましたが、ES細胞からの臓器形成による再生医療の面でも期待されています。自己免疫作用を防ぐことができるからです。  しかし、サイボーグのようになってまでも生き続けたいという人間の本能に迎合するのが科学の使命だと考える人もいますが、ブッシュ大統領のように考える人もいるのです。人間としての尊厳を保った死を再考する必要があります。  さらにES細胞から再生させられた臓器はガン化しやすいという研究報告もあります。不老不死は人間の永遠の夢ですが、彷徨えるオランダ人のようさまよい続けなくてはならなくなれば不老不死は人間に不幸をもたらすでしょう。  病腎移植をしなければならなかったのは死体腎臓が極端に不足していたからです。ES細胞から腎臓を形成できれば人工透析から自由になる患者は数十万人をくだらないでしょうし、糖尿病ならば膵臓を移植すれば完治します。  臓器移植のための臓器形成だけではなく、難病にも有効な治療法が期待できそうですが、生命を犠牲にした医療である点では変わりません。他国との競争ばかりに目を向け、生命倫理についての議論を積み上げなければ後悔します。  日本にはキリスト教倫理のような倫理が存在しません。科学技術至上主義が日本の価値基準の根本にありますから、公害列島であった時を思い起こす必要があります。新しい技術は利用する人間側次第で毒にも薬にもなるからです。  

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