スチュワデスが呆れたドクタートヒモイ公式げすとはうす ~世界は基本的に広い~んですけど・・

都市から砂漠へ インド

 急に冷たい風が列車内に吹き始め、目が覚める。六時前にジョードプル着。
駅構内では原色のサリー姿の女が多数。女達の腕は、腕飾りで肌が見えない。朝もやの特別な光線のためか、湯気の向こう側を覗いているようで、全ての輪郭だけがぼやけ、原色が光線を引いている。起きた瞬間、風景は数秒間ぼやけているが、輪郭だけが数分間ぼやけ続け、幻想の世界であった。沙漠の早朝の数分は、一日で唯一快適な時刻だ。

               ジョードプル

 この快適さのままであり続けると、錯覚してしまう。バスに乗る。
気温はグングン上がり、乗客がバンバン増え続け、天井にも乗っている。隣に座った女性が抱く子供が小便を漏らし、汗と交じりベタベタになって、塩が吹き出る。母親は無言。

 途中、原爆実験で有名なポカランという村でバスを乗り換えた。既に、熱さのために一歩動くのも辛い。気温は四十三度。暑さがめんどうだ。
 バスは走り、乗客は減り、意識はおぼろげな状態。いつしか、村に停まった。窓からふと外を見ると何と、沙漠に冷蔵庫があるではないか。
 走った。走った。開けた。奈落の底に落とされた。電気も通っていない村の戸外に何故、こんなものがあるのだ。絶望を助長させるためなのか。
 地べたにも慣れれば眠れる。暑さも慣れれば多少何とかなる。ふかふかのベッドやエアコンという快楽には、一瞬にして何の努力もなしに慣れ、当たり前になる。それが快楽所以か。テレビやソファやエアコンや車というものは、麻薬だ。止められないし、止めると禁断症状が出、またそれに接すると直ぐに戻る。
 
 暑さというものは、記憶や思考力をいとも簡単に衰弱させる。やがて、第一次生理的欲求しかなくなってしまう。マツゲが結構セクシーで優しく眠そうな目をしたラクダは、思いのほか狂暴だ。その狂暴さはだだをこねて手のつけられない子供のようだ。急に意味もなく怒り出すが、動作は鈍い。だが、その図体は恐怖だ。背中に乗っているときは、いうことを良くきく便利な奴なのだが、何も考えず前のラクダについていく習性があり、穴に落ちたり、木があると急にいうことを聞かなくなったり、休ませているときに近づくと、グエッとゲップをする。厭世的な生物に見える。
 日本から持って来た健気な温度計の目盛は五十五度まで。日中、温度計は隠す。壊すわけにはいかない。暑い。
 
 無謀にも駱駝を運転。

 熱い。朝夕しか移動できない。日中は木陰で休む。休憩といってもそれは言葉だけだ。楽ではない。ドライヤーを三十センチ離したところから顔面に向けて強風を浴びせられているのと同じである。汗は出ない。体中、塩だらけとなる。ただ時間を待っている。
 マルキャー。糞転がし。これがやたらに多い。寝ている私の顔のそばまで糞を転がしてきて、「わっ」っと叫ぶと、相手もびっくりして、糞を置いたまま逃げていく憎めない奴。砂漠の掃除人として存在するエコロジストである。エコロジストとはいえ、糞のいいところどりはする。人間のものは、一番の人気なのだ。栄養が違うのだろう。
 三百六十度、人工物はなく、数メートルの盛土がちょこちょこあって、我慢して生きている木がちょぼちょぼとある程度。あとは地平線という奴。
 朝食時、いきなり老人が現れる。いったいどこから現れたのか、何故やってきたのか分からない。老人はニコニコして何も尋ねず、素焼きのパイプを懐から取り出して、気持ちよさそうに吸う。一服終え、老人は、またふっと消えていった。
また三百六十度が始まった。

ジョードプル


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