スチュワデスが呆れたドクタートヒモイ公式げすとはうす ~世界は基本的に広い~んですけど・・

中国 西寧

洋子山、村の男


中国内陸の都市、西寧。駅の裏に見える山が洋子山である。

二時間並んで、留学生と偽ってやっと手にした列車の切符。人のいないところに行きたいぞ、と呟く。上を向くと山があった。よし、この禿山にでも登ってみるか、と安易で幼稚な考えを実行に移すことにした。食料と飲み物だけは買い込んで、岩剥き出しの山に登り始める。賛同者はいない。三十分で山頂予定であったが、単なる騙しの峰。更に奥へと山は続いている。羊の放牧をしている少年を一度見掛けたが、誰もいない。というよりも確かな道がない。登りやすい所を見つけては登り続ける。

しばらくして、岩肌が不意にも窪み、日陰になっている所に一人の青年が休息の様なものをとっていた。彼はニヤリと笑って敵意のないことを示した。私も敵意がないことを示し、住所氏名年齢の筆談を行う為、ノートとペンを差し出した。筆談の結果、彼の名前は李逢月、年齢二十一。住所は洋子山西寧と判明。住所は山の名前だけなのかと聞くと、彼は静かに頷く。彼は、深山にひっそりと住む仙人的存在なのだろうか。ちょっと渋いのではないかい、と私は思った。彼に付いていくことに急遽決定。彼の隠遁生活の神秘のベールをちょいっと覗かせてもらおうと、無言で二人は山を登り始めた。

一時間後。盆地が広がった。黄色い花が一面に狂い咲きしていた。綺麗で退屈そうな天国だった。彼は、花の中に入って行き、私の方を向いて手招きする。「食えよ」それはエンドウ豆であった。生で食べるのはいまいちであるな、と思ったが、これも仙人食その一かと思い、また彼の好意を無駄には出来ぬと思い、彼の名誉と私の登竜門として、パカパカ口に放り込む。彼は、洗礼と受け取った様子もなく、私の決意を感じ取った様子もなく、更にエンドウ豆を摘み、更に私に与えてくれる。

なだらかな傾斜を更に登って行くと頂上に大きなパラボラアンテナを備えた工場らしきものがあった。その工場以外に工作物は一切なく、中国弁公室、国防情報局の牙城の様な雰囲気である。私も内閣調査室のスパイの様な気がしてきて、ちょっとヤバイな、と思ったが、草履のスパイなんていないか、と笑い飛ばそうとしたが、現地に溶け込む諜報員スリーパーと間違われては拿捕されて拷問受ければたまらないと思い、さっと緊張した。

更に、彼の後を追って平坦になった道を歩き続ける。
登り始めてから四時間後、忽然と村が出現した。泥の池を中心に二十件程の土で出来た家と家畜と防空壕。三千メートル程の高度、乾ききった家の土壁の色と泥池の色と地面の色がほとんど同じ色彩。
彼は、精一杯の好意からパンと水を出してくれた。パンは歯が砕けそうな程カチカチで、水は泥池の水を一度沸騰させただけと思われた。彼の名誉と好意の為、私は口に入れる。仙人の道程はまっすぐではない。

日が暮れるまでに帰ることにする。途中まで彼は送ってくれ、そこに木があった。私はナイフを取り出し、私の住所国籍氏名年齢を彫った。彼は、その横に自分の名前を彫って、最後に「友」という字を彫った。


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