昔、短期のバイトで「スーパーマーケット徹夜改装工事」というのをよくやった。肉体的には結構しんどい仕事ではあるが、作業中、頭の中は違うことを考えられることが好きだった。その夜は、少し遠方で仕事があるということで、バイクを飛ばして、現場に向かっていた。爆音は嫌いだが、スピード感はたまらない。「ロック・アラウンド・ザ・ロック」が頭の中を流れる。
そこに車が飛び出す。転がる私。「とにかく、止まってくれよ、俺の体よ」と念じつつ、「対向車線の車も止まってくれよ」と願いつつ、「うわー。修理代たまらんなあ」と悔やみつつ、私の頭の中では幼い頃からの成長過程がスローモーションで流れ、鮮明な映像として流れ、おまけにBGMとして微かに「夕焼け小焼け」が流れていた。2、3秒が何時間にも思えた。死ぬ瞬間って、凄く長い夢をみている感じになるのかなと思った。生まれてからのアルバムをめくって眺めて、長い夢だったと思って死んでいくのかと思った。
パノラマ現象は終わった。対向車と私の距離が三十センチの距離を残して。正気に戻った瞬間、強烈に恥ずかしくなり、対向車に向かって「なんちゃって」ポーズをして笑顔で答え、バイクに向かって「情けねえよな」とつぶやき、面倒くさそうに余裕のふりをしてバイクを立て直し、脇道に寄せる。車に乗っていたおっさんから金を巻き上げ、バイト先を急ぐ。ミラーのないハンドルの若干歪んだバイクで。人生は実は、いや時間というものは実に主観的なもので、かなり疑わしいものではないだろうか?と再認識しながら。時間枠のなくなる夢のようなものではないだろうか?ある日、起きると、もしかして、まだ小学生だったり、もう老人だったりすることはないだろうか?長い夢も一瞬なのだ。
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