淀川から遠く離れて。そして神戸の山並みが見えてくる。光が山肌に張り付いている。寒さは空気を透明にする。高速道路沿いの普通のマンションの壁にデジタル時計と温度計が交互に光っていた。
0時33分。2度。
大昔、三ノ宮の夜の街を歩いていると、前から顔にブドウをつけたブドウパンのような見覚えのある人が歩いてきた。それは、高校の時の全く聞き取れない英語を話す英語の先生であった。
「T先生!」と私は声をかけるや否や、「おお、君かあ」とさぞかし酔っ払いの様子で、すぐさま、次の店に飲みに連れていかけることになった。多少ラテン的ではある。
行った店は、バーであり、ママは高校のまた別の英語のY先生の奥さんがやっておられ、カラオケが置いていないところがやけに気に入った。
Y先生は、定年退職後、英語の先生の妊娠か何かの短期ピンチヒッター非常任講師としてやってこられ、60を越えても金髪に(年をとって脱色してきただけかと思われる)リーゼントという出で立ちで、青い便所スリッパを履いていた。Y先生は、なかなかストイックな喋りで、授業の内容はさっぱり覚えていないが、一度だけ冗談を言ったことがある。
「キミタチ、お金儲けの方法を教えてあげよう。猿(モンキー)から毛(K)を取るだけだ」
「シーン」
「それがお金だ。マネー」
「シーン」
それと、最後の授業で「もうキミタチとは一生会うことはないだろう」と演説を打って、翌日また会ったという憶えもある。
散々、T先生と飲み、最後に店を出る時にT先生は上機嫌で言った。
「ところで君だれ?」
そんな訳で、そこのバーには、学生時代からほんの時々細々と20年近く通ったわけだが、20年間ボトルがあればいつまで飲んでも2300円コースであったが、そのY先生もお亡くなりになり、店を閉めますと、ママから閉めてから半年ほどしてから電話があった。T先生は母校の校長先生になった。
もう恩師は死んでいくんだ。
ブスの店いつになれば行こうか。