メガネ・ホウキ・ビールビン・・・三種の神器。
誰も、このビーチで、私の本名を知る者はいない。裸の生活は、過去や現在の地位も名誉もない。チェックイン?私は、コテジCの客で、名前はCだ。チェックインするときに、Cと書かれた鍵を渡されただけで、後は何もない。そして、受付にあるCのノートに、食べたものとか、毎日宿泊料を書き込む様に言われただけだ。
だいたい、私の名前を耳慣れたイントネーションで呼ぶのは、親か親戚だけである。
チャイナタウンの泥棒市場で買ってきたラジカセの音楽が終われば、後は、することは、散歩だけだ。
人は生まれながらにして影を持っている。物は作られた瞬間から影を持っている。トカゲもそうだし、紅蜆蝶だってそうだ。影は、思いがけず、人の跡をついてきたり、時間によっては先導したり、あるいは、横になって生意気にも一緒に歩く。しかし、影は喋らない。時に影は人と同じだけ背が伸び、同時に同じだけの体形となる。不気味に喋らず、真似だけを展開する。一向に何を考えているのか分からないのである。影はその人の罪を一身に背負っている。
もし、影が薄くなり始め、その人が濃くなり始めれば注意しなけばならない。知らぬ間に入れ替わったところで他人は気がつかない。物陰で影を消すことが唯一の対処の仕方である。
影は、夕刻に、6メートルにも7メートルにも伸びる。そんなにいばらなくても、自己主張しなくてもいいとは思うのだが、消える前に精一杯の反抗と警告を鳴らす。やばいぞ、そのひと。
雲よ、影を消してくれ。人影が、15センチのイグアナになる前に。影は嘘をつくからな。俺は、メガネなのに、影はサングラスだからな。