池井戸潤(MIST)
2016年3月20日★★★池井戸潤の作品で本作以外は既に全て読んでいたのだが、本作は書店や古本屋でも見つからず下町ロケット2を読み終えた後にAmazonかオークションで買い求めるつもりでいたのだが、なんとなく地元の図書館で調べた結果、2002年発行の単行本が1冊置いてあることが分かり、すぐ予約して3連休の頭の土曜日の朝一番に取りに行き、期待して読んでみた。標高五百メートル、のどかで風光明媚な高原の町・紫野で、一人の経営者が遺体となって発見された。自殺か、他殺か。難航する捜査を嘲笑うように、第二、第三の事件が続けざまに起きる。その遺体はみな、鋭く喉を掻き切られ、殺人犯の存在を雄弁に物語っていた。“霧”のようにつかめぬ犯人に、紫野でただ一人の警察官・上松五郎が挑む。東京の事件との奇妙な符合に気づく五郎。そして見えてきた驚くべき真相とは…。(BOOKデータベース)通常、池井戸潤程の売れっ子作家の小説で文庫化されているのに何故絶版なのかが不思議で仕方がなかったのだが本作を読んでみた後、増版されない理由が分かったような気がする。ドラマで超高視聴率になり社会現象にもなった半沢直樹や直木賞を受賞し、つい最近ドラマ化され話題になった下町ロケットなど、池井戸潤の作品はどれも文句のつけようのない面白さで、読者を引き付ける何かがあり、読後も小説にのめりこみ、物思いにふけるなど、どの小説も期待を裏切らないものであったが、本作は読者の期待を裏切る普通のミステリー小説になってしまっている。駄作と言われても仕方がないのではないかと感じる。このあたりが文庫化されているのに増版されない理由ではないかと思われる。池井戸潤と言えば銀行や企業を舞台にした小説がすぐ思いつくが、ご存知の通り、ミステリー作家の登竜門である江戸川乱歩賞を「果つる底なき」で受賞しているなどミステリー小説が苦手だとは思えない。前半から中盤にかけては次々におこる連続殺人事件での殺し方に背筋が寒くなり恐怖を味わう部分もあったのだが、中盤から後半にかけての展開には全く面白さやワクワク感が感じられなかった。登場人物たちがこの先、事件の真相へ どうつながっていくのか、池井戸潤の筆力に期待したのだが、かなり裏切られた感じが否めない。真相の手がかりのリストにしろ、なぜ犯人がこのような事件を 起こしたのか、動機が実に曖昧で読者への説得力に欠けていたと思う。まぁ少し前に下町ロケット2を読んだ後なので、辛口のコメントになってしまったが、さすがに全ての作品が面白いなんて思うのは虫が良すぎるのかもしれない。読売新聞で連載されている「花咲舞は黙ってない」を毎日読むのが唯一の楽しみになってしまっているので、是非次なる作品を出してもらいたい思う。池井戸先生、期待していますよ。