井上夢人(プラスティック)
2016年8月28日★★★★6月の読んだ「クリスマスの4人」は1970年から10年を区切りにした4つのクリスマスの夜を題材に書かれた長編だったが、本作は54個のフロッピーディスクに書かれたワープロ文書が題材になっていてミステリーとSFを融合したような小説で井上夢人の作品の中でも評価が高い本作を期待して読んでみた。54個の文書ファイルが収められたフロッピィがある。冒頭の文書に記録されていたのは、出張中の夫の帰りを待つ間に奇妙な出来事に遭遇した主婦・向井洵子が書きこんだ日記だった。その日記こそが、アイデンティティーをきしませ崩壊させる導火線となる!謎が謎を呼ぶ深遠な井上ワールドの傑作ミステリー。(BOOKデータベースより)ワープロ文書の記録先がフロッピーディスクとなっており、時代を感じさせる部分はあったが、そんな古めかしいことは差し引いてもさすが井上夢人と思わせる面白さで、私を十分満足させてくれた力作でした。向井洵子の練習で打つワープロの日記から物語は始まり、日記の中では彼女に起こる不可解な出来事が書かれていた。自分に身に覚えのない図書館の貸出登録や夫の会社へ電話した時の夫の同僚からの訳の分からない対応を受けたことなど、謎だらけの出だしでスリリングな話の展開に 読む手が止まらないほどワクワクして読み進めていけた。フロッピーディスクに書かれたワープロ文書が進んでいき、そこにどのような繋がりがあり、どんな意味が隠されているのか、実に巧妙な仕掛けで先が中々わからないまま終盤を迎えて、やっと真相が見えた時は仰天してしまったのは私だけではないでしょう。パズルを組み合わせていくような展開にスピード感もあり、著者の上手さを感じた作品だった。今度は解散前の岡嶋二人の小説を読んでみたいと思う。