井上夢人(あわせ鏡に飛び込んで)
2023年6月17日★★★★先週読んだ隠蔽捜査のスピンオフ作品で読書の感覚が久しぶりに戻って来たので、この勢いのまま次は何を読もうかと考えた結果、4月に大好きな作家である岡嶋二人の「クリスマスイブ」を読んだあと、解散後の片割れである井上夢人の作品が気になったことを思い出し、本棚に数冊ある未読の本から取り出したのは幻の作品と言われていた本作のタイトルになった「あわせ鏡に飛び込んで」を含め未発表の短編作品を集めて出版された本作を一昨年の年末に読んだ「風が吹けば桶屋がもうかる」以来、約1年半振りに読んでみた。幻の名作「あわせ鏡に飛び込んで」をはじめ、瞬間接着剤で男をつなぎとめようとする女が出てくる「あなたをはなさない」、全篇、悩み相談の手紙だけで構成されたクライムミステリー「書かれなかった手紙」など、選りすぐりの10篇を収録。精緻に仕掛けられた“おとしあな”の恐怖と快感。(BOOKデータベースより)本作は過去に書籍として形で世に出ていない短編をまとめた、いわば寄せ集めの短編集であるが、いずれも味のある作品ばかりである。岡嶋二人時代の多くの短編は、あくまでもミステリーとして書かれていたが、一概にミステリーとは言えないものを含めた多様なジャンルの作品が集まっていてる点も興味深い。また、全編の最初に作者本人によるコメントがついているのが面白い。特に傑作はというと「あなたをはなさない」はインパクトがありすぎ。怖いを通り過ぎて笑うしかない。死んだあとも地獄を味わう「私は死なない」はまさに生き地獄とはこのことではないのか…。井上氏の得意のパソコンネタである「ジェイとアイとJI」はプログラミング力が凄いのかと思ったらなんとあっけにとられるこの結末…。幻の名作と呼ばれていた?表題作「あわせ鏡に飛び込んで」はなかなか捻りのきいた作品で納得しました。最後の手紙だけのお話の「書かれなかった手紙」には真相に私が気づくはずもなく全く騙されました。大好きな岡嶋二人の作品はもう世にでないことは分かっているが、井上夢人の作品もここ数年新刊が出版されていないが本作の巻末に掲載されているた大沢在昌さんとの対談でなかなか新刊が出ないことの理由(言い訳?)が書かれているので見て欲しい。一ファンとしてはがんばって書いてと願うしかない。