読書とジャンプ

2007/03/02(金)23:12

「墨攻」(映画感想)

酒見賢一さんの小説を原作にした漫画が原作……と背景が少々複雑(そうでもないか)な映画でした。 漫画は読んでませんが小説は読んでまして、これがビックリ。全然違うっていうか、原作の雰囲気がまるでない。 小説のイメージを色濃く引きずっていたので、正直言って、無差別殺戮満載な血みどろ映画だと思ってたら、全編通してヒューマニズムの嵐、嵐、嵐。 戦争の無常を描ききってやるぜ!という監督の意気込みがびんびん伝わってくる映画でした。 戦国時代。趙と燕の国境にある粱城は、趙によって攻撃されようとしていた。10万の趙軍に対し、梁城の全住民はわずか4000人。頼みの綱は墨家の救援部隊だったが、間に合いそうもなく、粱王は降伏を決断する。墨家の革離(かくり)がたった1人で駆けつけたのは、その直後だった。兵に関する全権を粱王から与えられ、早速城を守る準備に取りかかる革離。趙軍の指揮官・巷淹中は革離を好敵手と見なし、やがて激しい攻撃を開始する。 10万の敵にたった1人で臨む 公式ホームページ 冒頭、小説と全然違うと書きましたが、まあ、原作の小説に忠実に映画化すると、主人公の隔離は女子ども容赦なく殺しまくる殺人鬼になりかねないので、改変もむべなるものかな、と思わず納得。 ちなみに、小説の革離は、殺人鬼なんかじゃありません。 そこには墨者としての確固たる信念の元、城を守るのに障害になると思えば、男女を差別することなく、斬るべきと思えば躊躇なく斬り伏せることのできる人物だというだけです。 文字という媒体と比較した時、映像という媒体の方がより情報を伝えやすいと同時に、誤解も招き安いものです。思想や現実がどうあれ、映画の主人公が無抵抗の女性を処刑するのはNGなんでしょう。 小説は、そんな革離のストイックな生き様に惚れ惚れしながら一気読みしたものですが、映画の革離は理想と現実のハザマに揺れ動くナイーブな青年でした。 その革離を演じるアンディ・ラウですが、これがもう、ふざけんな!って逆ギレを起こしそうになるくらい、超絶かっこいい! あれは反則です。ブラッドピットが首のとこがだるだるに伸びきったよれよれTシャツを着てても普通にかっこいいのと同様、これでもかってくらいボロボロの服をまとっても、無駄にかっこいいです。全身から、ストイックなオーラ(←何じゃそりゃ)が漂ってましたw 城を守るため奔走する戦術の天才であると同時に、敵とは言え目の前で大勢の人間が権力に巻き込まれて命を落としていく現実に呆然とする、一人の青年を見事に演じきってました。 小説版革離がすさまじかったせいか、ストーリー、演出ともに、革離の鬼神もかくやという孤軍奮闘振りはあまり描写されなかったので、10万人に1人という構図が見えにくいものになってましたし、革離自身の思想を強く打ち出したせいで墨家自体の思想がかすんだ印象を与えてしまっていて、その辺は正直マイナス評価です。 異能集団である墨家がすごいのか革離個人がすごいだけなのか、そのへんの焦点ががぼやけてしまっていました。 その辺、アンディ・ラウとアン・ソンギの熱演でかなり救われてます。 その他、個人的に一番気になったんですが、映画って、そんなにラブをいれなきゃいけないもんなんでしょうか。 映画オリジナルのキャラ、逸悦(ファン・ビンビン)の存在がどうしてもとってつけたようにしか感じられませんでした。そりゃ、見目麗しいのを投入しないと画面が男くさくなるのかもしれないけどさ。 逸悦っていう存在で革離の墨者としての思想が揺らいだととられかねない靴をもらうエピソードは、ホントに必要だったのか?あれが逸悦じゃなくて梁適とか牛子張とか微詳とかむっさい男共からだったら受け取らなかったんじゃないの? 逸悦との恋愛系のエピソードを入れることで異能集団としての墨家の神秘性がこそげおちたきがします。 墨家の兼愛は、自分にも他人にも等しく厳しい。それがつきつめられると、目的を阻むものは味方であろうと斬ることを厭わない。 もしかしたら、そんな墨家の、命を救うために命を犠牲にするある意味本末転倒ともとられかねない思想に真っ向から反論しようとした映画なのかもしれません。 でも、やっぱりこの映画でラブはいらない。 エピソードを詰め込みすぎると印象が散漫になるいい例なんじゃないかと個人的には思います。 その描写いれるより、10万人に立ち向かうための築城や組織作りみたいな微に入り細を穿った墨家ならではの城邑防衛戦をじっくり見せてほしかった。 その上で、権力者に嫉妬され裏切られる理不尽やら悲哀やらを説いてくれればもっと見応えがあったのに。 とまあ、期待が大きすぎたのが、文句だらけの感想になってしまいましたが、小説を読まずに映画単体としてみたら、墨家がどうとかじゃなく、戦争に直面した一人の青年のヒューマニズムを見事に描ききった作品として充分評価に値するものだと思います。 そうそう、映画が始まってすぐにタイトル「墨攻」の文字がどどーんと出るんですが、アンディ・ラウ自身が書いたんだそうです。すげえ上手い!達筆すぎる! あのタイトル文字だけでも、レンタルして見る価値はあります。もう、タイトルの文字に映画の全てが語りつくされてるって言っても過言じゃないくらい、素晴らしい勢いのある文字でしたw 墨攻@映画生活         

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