読書とジャンプ

2011/12/23(金)07:06

【Why don’t you give love on X’mas day?】<六>

いただきもの(SS)(177)

※「銀魂」二次創作です。 【Why don’t you give love on X’mas day?】 四方八方何処を見回しても暗闇という状況を船の計器を頼りに、目的地に進んでいた快援隊の船は間も無く取引先に到着しようという時で、それを示すように前方には目的地であろう星の光が見えていた。地球の上で時差というものが在るように、星の間でも時間の概念というものは変化する。地球では現在夜のはずだが、快援隊の取引が始まるのはこれからだ。 これから待ち受ける長丁場に備え仮眠を取っていた陸奥は重い瞼を持ち上げた。陸奥は起き上がると同時に坂本のことを思い出し、此処まで来れば幾らなんでも大丈夫だろうと、船員の一人に自室に閉じ込めたままの坂本を呼びにいくよう告げた。 「寝てたら殴ってでも起こせ」 そう告げられた船員の一人は坂本を呼びに管制室から出て行ったがほんの数分もしないうちに息せき切って戻ってきて、一言叫んだ。 「坂本さんがいません!」 眠気覚ましにと珈琲を淹れていた陸奥はその手を一旦休め、ゆらりと立ち上がった。 「・・・何だと?」 寝起きの所為か若干髪の毛の乱れた状態の陸奥の迫力は凄まじいものがあり、側にいた船員たちは坂本を呼びに行ったその船員に心底同情すると同時に、あの立場に立たされたのが自分でなくて良かったと安堵していた。 「い、いないんです坂本さんが。何処にも」 「それはもう聞いた」 陸奥は一歩一歩踏みしめるようにしてその船員に近づいていった。船員はいつの間にか直立の姿勢で指先までピンと伸ばし、額には脂汗をかいていた。 「じ、錠は一度もあけてません」 「それで?」 「どうやったかは・・・さっぱりなんですが」 「つまり?」 「出張用のバイクが一台無くなってたので・・・お、恐らくそれに乗って・・・」 陸奥は暫くの間無言で立っていたが、やがて壁に一発渾身の力で蹴りを入れ船内にその音が反響して、船員たちの耳に何度も鳴り響いた。陸奥は椅子に腰掛けると静かに考えを巡らす。出張用のバイクとは、主に取引先の星に到着してからの移動手段として用いる為のものだ。最低限の装備はしてあるものの、宇宙規模の長距離に利用できるような代物では無い。それが無くなっているという事は宇宙に出る前かその直後に、それで逃げたという事なのだろう。迂闊であったと言わざるを得ない。もう一度確認すべきだった。取引先の星はもう目の前だ。今更戻る事は出来ない。予め坂本から計画を聞いていたので何とかなるだろうとは思うが何があってもこの取引をおじゃんにする訳にもいかない。会社の何たらがどうとか言うより、置き去りにされて仕事押し付けられた上に「使えない」だとか罵られたら腹立たしい上に口答えは許されず、更に陸奥自身のプライドも大いに傷つく。 しかし、陸奥は腹立たしさと同時にどこか諦めたような雰囲気も漂わせていて、周囲の船員たちは黙りこくったままの陸奥に未だ怯えていたものの当の陸奥自身はと言うと既に怒りはほとんど収まっていた。というのも、坂本が仕事をさぼるのは裏返せば陸奥への信頼の大きさを表している事を知っていたからだ。自分が遊びたかったからと言って任せられる人間がいなかったなら幾ら坂本とて己の信念でもある商談を放り出しはしなかっただろう。陸奥自身何だかんだ言って坂本の事は信じているし、だからこそこの船に乗っているのであり、坂本の考えが分からない程浅い付き合いでもなければ能無しでもない。 「商談はワシ一人で何とかする。その間に帰る準備しとき。終わり次第ボコりに行くぜよ」 陸奥は立ち上がりいつもの調子でそう言うと、船員たちは統率のとれた覇気のある声で返事をし、舵を切った。 宙を渡って空を降り、下へ下へと突き進むとやがて屯所の屋根に辿りつく。そのすぐ脇に見える黒髪に覆われた頭部は土方のものだ。近藤に頼まれて仕方なく参加していた宴会は最早ただの乱闘騒ぎ。まぁ予想はしていたが。 「ったく。侍が揃って浮かれやがって」 土方はそう呟くと、縁側で一人煙草を吹かした。煙草の先の火が赤く燃えて其処からじりじりと灰が屯所の庭の土の上へと落下する。 「クリスマスねぇ・・・」 気持ちが分からないという訳では無い。ただやはり、世間の連中のように両手離しで浮かれるかというと何だかそれは違うと感じるだけなのだ。天人が蔓延る今ではくだらない拘りかもしれないが、元々が西洋発祥の祭りであるし武州にいた頃なんていうのはその存在すら忘れていた事もしばしばだ。 あの頃はこの時期というと、1年最後の締め括り。大掃除に正月の準備とそちらの方で手一杯で、剣を振る時間が減って苛ついていたものだ。暇を見つけては庭に出て、竹刀を振っていた。田舎だったから周りも静かなもので、人が家の前を通りがかるのが見えるよりも先に足音で分かったものだ。 その日の足音は小さかった。それだけなら気にも留めなかったのだが聞こえる足音の数に対して近づいてくるのがやけに遅く、いつまで経っても姿が見えないので妙だと思っていたら、両手に大荷物を抱えたミツバがその荷物の重さの所為なのか、よろける様にフラフラと危なっかしく小股で歩いて来るのが見えて、土方はその姿を見るなり思わず竹刀を放り投げて門の外へと出て行った。 「あ、十四郎さん、こんにちは」 土方はミツバの言葉に返事をするより先にミツバから荷物を取り上げた。それは男である土方の手にもそれぞれずっしりとした重量感を与えた。こんな大量の買い物に行くなら一言そう言えばいいものを。近藤だって自分だって喜んで荷物持ちに行ったろうに。今だってもし自分がここにいなかったなら、家の前を素通りしてまだまだ歩くには結構な距離がある自宅までの道を、延々この荷物を担いで行くつもりだったのだろう。土方は自分の返事を待つミツバを前に、そう思った。 「持ってってやるよ」 そう言って荷物を持ちやすいように担ぎ直すと、沖田家へ続く道をさっさと歩き始める。 「そんな、悪いですよ十四郎さん」 「うちの前をあんなフラフラ歩かれる方が迷惑だわ」 土方がきっぱりとそう言い放つと、ミツバは少ししゅんとして謝った。 「でも・・・・・・じゃぁ、荷物一つ貸してください」 そう言われて土方は溜息をついた。持ってやるって言ってるんだから持たせておけばいいのに。でも多分コイツの性格上それは嫌なのだろう。其処で土方は幾つかあった荷物のうち、一番小さくて軽いものをミツバに渡した。ミツバは少々不満そうではあったが、土方は無視した。ミツバもそれ以上それについて何か言ってこようとはしなかった。 「一体何買ったんだよこんなに」 ミツバが余り無駄遣いをする類の女では無い事を土方は知っている。加えて早くに両親を亡くして弟と二人暮らしの家では食べ物にしろ何にしろ、そもそもそんなに必要無いのだ。 「色々かしら。年越し蕎麦とか、お餅とか、おせち料理の材料とか。あ、あとお掃除の道具も少し。ほら、年末年始ってお店も閉まってしまうでしょう?だから沢山買っておかないと」 そう返事をしたミツバに土方は納得した。そういう事があると二人暮らしでも結構な量になるものなんだなと考えていた。そしてふと気付く。そう、ミツバは二人暮らしなのだ。ミツバの事が好きで好きで堪らず、土方の事が嫌いで嫌いで堪らない弟と二人。普段なら何処へ出かけるにもその弟が付き纏っているのに、何故今日に限っていないのだろうと思っているとミツバがその疑問を解いてくれた。 「あと、そ-ちゃんが風邪ひいちゃったからお薬と」 土方は再び納得した。沖田家についてもアイツには会わない様にしようと考えた。ただでさえ嫌われている上に、ミツバと一緒にいると更に不機嫌になるんだアイツは。 「それから・・・これも!」 ミツバの話はまだ終わってはいなかった。ミツバがそう言って先程渡した一番小さくて軽い荷物の中から笑顔で取り出したのはモミの木を象った蝋燭だった。 「何だそれ」 「クリスマスのコーナーに売ってたんです」 ミツバはとても楽しそうにそう言って、暫くその蝋燭を眺めた後再び袋の中に戻した。何だかんだ言ってやはりミツバも女なんだなと土方は思った。自分には何が良いのかよく分からない代物だったが、ミツバの目にはどうやら素敵なものに映っているらしい。得てして女の好む物というのは無駄に華やかでよく分からない物が多い。 「今日はクリスマスイブだったんですね。私ったらお正月の事で頭がいっぱいですっかり忘れてて」 正直に言うと、土方もその日の存在は知っていても覚えてはいなかった。ミツバに言われるまであの蝋燭が一体どういう意味を持つのかも分かってはいなかった。でも何だかそれをミツバに言うのは少し気が引けて 「侍にそんなチャラついた行事必要ねぇ」 と冷たい口調で言い放った。ミツバはそんな土方の言葉にクスクスと笑うと、 「お正月は必要でも?」 と言って土方を見上げてきたので、土方は少し不思議がって 「そりゃそうだろ」 と答えると、やっぱりミツバは楽しそうに笑っているのだった。土方には何故なのかは分からなかったが、ミツバが楽しそうなのでまぁ別にいいかなどと思っていたのだが、今ならあの時ミツバが笑っていた理由がよく分かる。 土方は一際深く煙草を吸いこみ、それを空に向けて遠くへ遠くへと吐き出すと雲がかった空の下で思いを馳せる。あれは一体、今から幾年前の事だったろうか。 「やっぱし正月だけでいいかな」 土方はそう独り言を言うと、煙草の灰をトントン、と屯所の庭に落とした。すると、その庭の塀の隙間から山崎の姿が細切れに見えた。任務がある訳でも無かったので何処へ行こうと山崎の勝手ではあるのだが、全速力で走りぬける山崎を見つけてしまった土方は思わず呟いた。 「・・・どうしたんだアイツ?」 に続きます。

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