あれこれ備忘録 ホスピス医のこころを支えるもの

2023/07/04(火)22:41

異父姉弟でのみとり

緩和ケア(159)

今朝、在宅みとりとなった80代の女性。 結婚して5年目、26歳で漸く子宝に恵まれた。生まれてきたのは女の子。その後は2度の流産。もともと姑との折り合いが悪かったこともあり、追い出されるように30歳で娘を連れて実家に帰った。 31歳で親族の紹介で再婚し、3人の生活が始まった。再婚した夫、最初は長女を可愛がってくれていたが、36歳で長男が生まれると豹変、長女を疎んじるようになり、中学卒業したと追い出してしまう。長女は母の実家、つまり祖父母の元に身を寄せ、高校卒業までそこで過ごし、就職して他県で過ごすようになる。 一方、女性は夫と長男、3人での生活となったが、女性が57歳の時に夫は死去。長男は大学を卒業、就職し35歳で結婚。孫も二人生まれたが、今度は女性と嫁との折り合いが悪くなり、女性が75歳の時に長男家族は出ていってしまう。 それからは年金で細々と独り暮らしをしていた。 昨年末、コロナ/インフルエンザを疑って撮影されたレントゲンで両肺に多発腫瘍を指摘、基幹病院で精査を受け肝臓がん、stageⅣと診断された。 3月に黄疸が出現し、痛みも出てくるようになり、3月末に入院となり、4月上旬にわがホスピスに転院となった。 転院時、姉弟の二人に付き添われてきたが、どこかお互い他人行儀。余命は一か月あるかどうかと説明した。 入院して2週間、本人、長女、長男から個別に情報を収集、ようやく我々に彼女の生活史が明らかになり、他人行儀なのは仕方ないか、と理解した。 しかし、間もなく肝性昏睡が出現し治療にも反応が悪く、お別れの時期が近いことを再度説明。 そうしたら長女がいきなり実家で私がみますと宣言。弟が出ていってから、心細くなったのか母がこれまでのことを謝ってくれて、距離があるので頻繁にというわけにはいかなかったが、面倒はみてきた。自分に悔いが残らぬよう母をみてあげたい。 弟も、姉が出入りしているのは知っていたが、これまでの関係もあって、見て見ぬふりを決め込んでいた。これからも母の介護には関与しないとのこと。 4/28にPCAポンプを使ってモルヒネの持続皮下注射をしながら退院。5/2、6、10、13と訪問診療すると昏睡はそれほどでもなく、ご飯を食べたり、喋ったり出来ていた。 ただ、弟家族は実家に出入りすることはなかった。 そして、退院して2週間余り経った今日、長女のところの孫、曾孫たちに見守られて旅立った。 長女が話してくれた。 母がホスピスに入院して、スタッフの皆さんに家族のことを話しているうちに、なんだか心が解れてきて、弟も辛かったのかなとも思うようになって、弟ともちゃんと話をするには母を連れて帰って、3人で話すのがいいのかなと思った。でも、弟とはやはり話し合えなかった。それは仕方ない。 我々のホスピスは入院してくれた患者さんが帰りたいといえば、在宅療養も引き受けている。 今回は訪問スタッフたちと連携し、シームレスにホスピスケアが提供出来たように思う。

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