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勿忘草~戯曲集~

勿忘草~戯曲集~

vol.2 転結の章

次の日の朝8時
玲子、健三 朝食を食べている
健夫 慌ただしく寝着のまま部屋に駆け込んでくる


健夫 おい!
玲子 あ、おはようございます。
健夫 何で、起こさないんだよ!
玲子 寝てたから。
健夫 だから、寝てるから起こすんだろ!?
玲子 私、分かってると思うけど、他人を起こすの嫌いなの。
健夫 他人じゃないだろ!?
玲子 血は繋がってませんよ。
健夫 おい、親父!親父からも何か言ってやってくれよ。
健三 起きないってコトは身体が睡眠を欲しているってことだからな・・・。


健夫 健三の顔を睨み付ける


健夫 もういい!


健夫 寝室に戻る

玲子、健三 再び朝食を食べ始める
琴美が部屋に入ってくる


琴美 おはよ~。
玲子 おはよう。
健三 おはよう。
琴美 何?朝からバタバタして。
玲子 何か、寝坊したみたいよ。
琴美 起こさなかったんだ。
玲子 誰かを起こしたら、みんなのコト起こさなきゃならないでしょ?
琴美 まあ、寝坊したのが悪いわね。
玲子 ご飯は?
琴美 着替えてからでいい。
玲子 そう。


琴美 出て行こうとすると、健夫 服を着替えながら駆け込んでくる


健夫 朝飯は?
玲子 あ、今、パン焼きますね。
健夫 何だよ、焼いてないのかよ!もういいよ!


健夫 そう言うと携帯を取り出し電話をかける

健夫 しばらく相手が出るのを待つが、誰も出ないようで電話を切り、携帯をテーブルに置いてネクタイを締め始める


健夫 やっぱり誰もまだ来てないか・・・。


健夫 不機嫌そうに


健夫 じゃあ、行ってくる。
玲子 いってらっしゃい。
健三 おう。


健夫 出て行く


健三 本当に慌ただしいな。
玲子 ええ。


健三 テーブルの上の携帯に気付く


健三 あいつ、電話忘れてったぞ。
玲子 あら、本当に。
健三 追いかけるか?今ならまだ間に合うだろうし。
玲子 いいんじゃないですか?別に。それに一人にそれを許すと、みんなにしなくちゃいけなくなりますから。
健三 徹底してるな。
玲子 ええ、頑固なんです。


琴美 着替えてくる 携帯に気付く


琴美 あれ?これ誰の携帯?
健三 健夫のだ。
琴美 お父さんの?新しくしたんだ・・・。
玲子 そうなの?
琴美 だってこれ最新だもん。お母さん知らなかったの?
玲子 全然。
健三 最近のは、あれだな。よく分からないな、機能が多すぎて。
琴美 おじいちゃんが若いときは、急に連絡を取りたいときなんてどうしたの?
健三 急な連絡ってどんなんだ?
琴美 電車が止まって、待ち合わせに間に合わないとか・・。
健三 そんなの駅員に聞けばわかるだろ?
琴美 じゃあ、寝坊したときは?
健三 それは、寝坊したのが悪いんだから、誠心誠意謝る。
琴美 待ってる方は、来るまでずっと、そこにいるの?
健三 それは、帰る奴もいるだろうし、待ってる奴もいる。
琴美 不便だよ。時間ももったいないし・・・。
健三 昔はそうならないように、みんな気を付けてるから時間に厳しかったよ。今は、簡単に遅刻するだろ?みんな。電話すればいいやって。
琴美 まあ。
健三 ってことは、昔は今の奴らが寝ている時間も活動してたんだよ。ちゃんと間に合うように向かうんだから。
玲子 そう、時間は今より有効に使ってたの。だから私はみんなを起こさないの。


健夫の携帯が鳴る

琴美 携帯を手に取る
玲子 食べ終わった食器を洗い始める


琴美 メールみたい。
健三 誰からだ?
琴美 見ていいの?
健三 許可する。


琴美 携帯を開き確認する


健三 誰からだった?


琴美 黙って携帯を健三に渡す
健三 携帯を手に取り


健三 これは・・・!?
琴美 うん・・・。
健三 どうやって見るんだ?
琴美 見れないのかよ!
健三 すまん・・・。


琴美 携帯を操作しメールを出した状態で健三に渡す
健三 携帯を見ながら


健三 まさか・・・!?
琴美 うん・・・。
健三 目が見えん・・・。
琴美 おじいちゃん!
健三 すまん・・・。
琴美 眼鏡、何処?
健三 眼鏡・・・何処かな?
琴美 お母さん!おじいちゃんの眼鏡知らない?


玲子 琴美の朝食の準備をしながら


玲子 テレビの上じゃない?
琴美 テレビ?


琴美 居間へと向かう


琴美 あった!おじいちゃん、最近忘れっぽくない?


琴美 ダイニングへ戻ってくる

琴美 戻ってきながら


琴美 おじいちゃん、お母さんがいなくなったら生きて行けないんじゃないの?何処に何を置いたかすら忘れてたら・・・。
健三 ああ、生きていけないな。間違いなく。
琴美 ちょっとは否定しようよ。


琴美 健三に眼鏡を渡す


健三 否定できないものは、しょうがない。
琴美 もう・・・ほら、見てみて。


健三 眼鏡をかけ携帯を見る

 

健三 どれどれ・・・これは!?
琴美 これって、浮気の証拠じゃない?


玲子 琴美の朝食を持ってくる
玲子 皿を並べながら


玲子 誰からだったの?
琴美 それがねえ・・・。
玲子 何よ。
琴美 実は・・・。
健三 いや!
琴美 何?
健三 違う。これは違う。
琴美 何で?
健三 これは営業メールだ。
琴美 営業メール?
健三 ああ。飲み屋のお姉ちゃんがまた来てねの意味を込めていながら、あなたは特別よって雰囲気を出す為のアイテムだ。
琴美 でも、それが、営業メールだって何で分かるの?
玲子 だってお義父さん、常連ですものね。
健三 ・・・。
琴美 そうなの!?
健三 だって暇なんだよ・・・それに早い時間だと安いし・・・。
琴美 ・・・でも、お父さんって飲め無くない?
玲子 飲めないのにそんなトコ行って何してるんでしょうねえ・・・。
健三 あそこは、ほら、飲むだけじゃなくて会話する楽しみもあるし・・・。
玲子 ま、いいんですけどね。


健三、琴美 黙り込む

玲子 雰囲気を変える様に


玲子 琴美、今日は?
琴美 午後から授業。
玲子 そう。お義父さんは?
健三 ん~・・・。
玲子 どうされたんすか?
健三 ん~・・・何かあった気が・・・。
玲子 忘れちゃったんですか?
健三 ん~・・・。
琴美 おじいちゃんさあ・・・。
健三 何だ?
琴美 1回病院で見てもらった方がいいんじゃないの?
健三 何処をだ?


琴美 自分の頭を指差す


健三 俺はボケちゃいないぞ!
琴美 そうだとは思うけど、一応、念の為に・・・ね?
健三 嫌だよ。
琴美 なんでもないなら、それでいいじゃない。嫌だよ?私、おじいちゃんの下の世話なんて。
健三 どうせ、おまえはやらないだろ?
琴美 ん~そうだけど・・・お母さんだって、そうでしょ?
玲子 う~ん、そうねぇ・・・。
琴美 ほら!
玲子 そう言えば、あの屋根のあれって・・・。
琴美 屋根のあれ?
玲子 そう、屋根に付いてる・・・あれ。
健三 雨樋か?
玲子 あ~そうです、そうです。どうなりました?
健三 どうって?
玲子 修理なさってたじゃないですか?
健三 あ・・・
琴美 何?
健三 忘れてた・・・。
琴美 決定!!
健三 違うって、しばらくは大丈夫なんだよ、応急処置はしたんだから。ずっとは無理だって言うだけで。
琴美 はいはい。言い訳はいいから。
健三 でもなあ・・・。
琴美 もし、そうだったとしても、今は薬で進行を遅らせたりできるしさ。
健三 そうなんだ・・・。
琴美 深く考えるコトないって。お母さんと散歩がてら病院に立ち寄ってくればいいのよ。
健三 まあ・・・。
琴美 お母さんも、ね?
玲子 じゃあ、そうしますか?
健三 ・・・分かった。

その日の夜9時
健三、琴美 ダイニングのテーブルに座っている
重苦しい空気が漂っている
琴美 その空気を変えるように


琴美 おじいちゃん、お茶飲む?
健三 あ?・・・ああ。
琴美 うん。じゃあ、煎れるね。


琴美 お茶を入れながら


琴美 おじいちゃんは別に悪くないよ。
健三 ああ・・・でもな・・・。
琴美 きっと、大丈夫だよ。
健三 ・・・そうだと良いが・・・。


琴美 お茶を健三に差し出す


琴美 大丈夫だって!
健三 ああ・・・でも、もっと俺が気をつけてればって思うと・・・。
琴美 同じだよ。
健三 ・・・。
琴美 いつかこんな日が来るんじゃないかな?って何となく考えてたし・・・。
健三 そうなのか?
琴美 うん。だって普通じゃなかったもん、特に最近は。
健三 そうか?
琴美 そうだよ。
健三 ・・・全く、分からなかった・・・。
琴美 忘れっぽくなってたし、それに何処か、上の空って言うか・・・。
健三 それは、ただのおっちょこちょいかと・・・。
琴美 でも、今までは無かったじゃない?
健三 確かにな・・・。やっぱり、もっと俺が気を付けていれば・・・。
琴美 だから、しょうが無かったんだって!それにくよくよしたってどうしようも無いじゃない。これから、どうするか考えないと。
健三 そうなんだけどな・・・。


再び、二人を重苦しい空気が襲う

玄関の戸が開く気配がする


琴美 あ!
健三 帰ってきた?


二人立ち上がる
健夫が入ってくる


健夫 た、ただいま・・・。
琴美 なんだ、お父さんか・・・。
健三 (ため息)
健夫 なんだよ。俺、何かしたか?
琴美 ・・・もういいよ。
健夫 だから、何だって!
琴美 いいって言ってるでしょ!
健夫 なんで怒ってるんだよ・・・。親父、なんかあったのか?
健三 (ため息)
健夫 もう・・・何なんだよ!
琴美 今日は、何で遅かったの?
健夫 仕事だよ。
琴美 どうだか・・・。
健夫 何で、そんなに突っかかるんだよ!朝、寝坊したから、残業してきたんだよ!


琴美 健夫の携帯を取り出す


琴美 このメグミって誰?
健夫 何、勝手に俺の携帯見てるんだよ!
琴美 忘れてくのが悪いんでしょ?いいから、誰なの?この人は?
健夫 それは飲み屋の女の子だよ!
琴美 何で、飲めもしないのにそんなトコに行ってるの?
健夫 付き合いってモンがあるだろうよ!なんで、お前にそんなコト言わなきゃならないんだよ!
琴美 付き合いで使う程度のお店の女の子から、なんでこうも毎日のようにメールが来るんですか?!
健夫 いつも最後はその店なんだからしょうがないだろ?だから、なんで、こんなコトお前に言い訳しなきゃならないんだよ!
琴美 じゃあ、誰にだったら言わなきゃならないの?
健夫 は?
琴美 その、言わなきゃならない人にちゃんと説明はしてあるの?
健夫 ・・・
琴美 そんなコトしてるから・・・
健夫 何だよ・・・。


黙っていた健三 座りながら


健三 玲子さんがいなくなった・・・。

健夫 健三の方を向き直り


健夫 いなくなった・・・?どういうコトだ!
琴美 おじいちゃんと病院に行った帰りに、いなくなっちゃったのよ!
健夫 何で・・・。
琴美 お父さんが悪いんだよ!
健夫 何で、俺が・・・。
琴美 お母さんのコト大事にしないからだよ!毎晩毎晩、遅く帰ってきて、何してるのかと思えば、飲みに行って女の子と楽しく遊んでたんでしょ!
健夫 ・・・
健三 俺が悪いんだよ、俺が・・・もっとしっかりしてれば・・・。
琴美 おじいちゃんは、悪くないって言ってるでしょ!
健三 だが・・・。
健夫 何だよ、それ・・・大事にするってなんだ?
琴美 何?
健夫 早く帰ってくるのが、大事にするってコトなのか?部下の悩みも聞かないで、家で愚痴ばっかり言ってるのが、大事にするってことなのか?


琴美 健夫を見つめたまま、黙り込む


健夫 俺は、そんなのもうたくさんなんだ・・・。親父は帰ってくれば仕事や会社の不満ばかり、お袋は親父の悪口ばかり・・・だから、家では仕事のコトは持ち込まない様に、飲めない酒まで飲みに行って・・・それが、いけなかったって言うのか!?
健三 健夫・・・。
琴美 ・・・お母さんは・・・お母さんは、そんなお父さんの気持ち分かってたの?
健夫 ・・・多分。
琴美 多分って何よ。なんで、話さないの?
健夫 何を話す?俺はこんなに頑張ってるんだ。お前達のために、こんな嫌なこともやってるんだって言うのか?
琴美 ・・・それは・・・。
健三 いや、玲子さんは分かってたと思うよ。
健夫 ・・・親父に何が分かるっていうんだよ。
健三 身体が言うこと聞かなくなった母さんの面倒を看てくれて、最期まで看取ってくれた・・・。あれは間違いなく健夫のコトを愛していたからだよ。そうじゃなければ、あんなこと出来ない・・・。確かに俺と母さんは愛し合ってはいなかった・・・ただ、世間体が悪いとか、別れたからって何をするってこともない・・・だから、ただ一緒にいただけだ。・・・だから、俺は母さんの面倒をみれなかった・・・。
琴美 じゃあ、なんで、お母さんは帰ってこないの?
健三 それは・・・。
琴美 遅いんだよ、いなくなってから、いくら思ってるコト言ったって、もう遅いんだよ!


3人黙り込む

玄関のインターホンが鳴る


琴美 誰?こんな時間に。


健夫がインターホンを取る


健夫 はい・・・え?警察?・・・はい、ちょっと待って下さい。
琴美 警察?お母さんに何かあったの!?
健夫 ちょっとここにいろ。


健夫 玄関に向かう
しばらく経って健夫 玲子を連れて戻ってくる


琴美 お母さん・・・お母さん!


琴美 玲子に抱きつく
健夫 しばらくそれを見ていたが、琴美を落ち着かせて


健夫 疲れたろ?寝るか?


玲子 うなづく


健夫 ちょっと寝かせてくる
健三 ああ、それがいいな。
琴美・・・うん。


健夫 玲子を連れて部屋を出る
健三、琴美 テーブルに着く
健三 お茶を一口飲む


琴美 お茶、冷めちゃったでしょ?
健三 ああ、そうだな・・・。
琴美 煎れ直すよ。
健三 いや・・・大丈夫だ。
琴美 そう・・・。


琴美 浮かせた腰を再びおろす


琴美 でも、良かった。なんにせよ、お母さんが帰ってきて。
健三 そうだな・・・。
琴美 でも、お母さん何処に行ってたんだろうね?
健三 そうだな、こんな時間まで・・・。
琴美 しかも、警察って・・・。
健三 ああ・・・。

何故か重い空気が二人を覆う
琴美は雰囲気を変える様に


琴美 補導される歳でもないしね。


健三 その変えてくれた雰囲気を壊さないように


健三 いや、分からんぞ。高校生くらいに見えたのかもしれん。
琴美 まさか!それ無理あるよ。
健三 ほらでも、暗いし。
琴美 暗いからってさあ・・・。
健三 まあ、そうだな。


再び、重い空気が二人を覆う
健夫 部屋に入ってくる
それを見て、琴美 立ち上がり


琴美 お父さん!
健夫 ・・・。
健三 れ、玲子さんは?
健夫 ・・・ああ、寝たよ。


3人口を開けぬまま、固まっている
琴美 重く口を開く


琴美 お母さんって・・・?
健夫 ・・・。
琴美 なんで、警察の人が?


健夫 深く息を吸い込み口を開こうとするが、口が開かない


琴美 お父さん・・・?


健夫 ようやく口を開く


健夫 前に・・・何処かで聞いたことがある・・・いや、映画で観たのか?
琴美 何を?
健夫 ・・・
健三 健夫!
健夫 あいつ・・・病院からココまで帰る間に・・・迷ったらしいんだ。
琴美 え?
健三 ここまでの帰り道が、分からなくなったんだ

次の日の夕方 16時
琴美、健三 居間で本を読んでいる


健三 今は、薬もあるんだろ?
琴美 うん、でも色々原因があって、それによっては有効な薬が無い場合もあるんだって・・・。
健三 そうなのか・・・。
琴美 ・・・ほらでも、まだ決まった訳じゃないし・・。
健三 ああ・・・。
琴美 そうよ、決まった訳じゃないんだから。


玄関が開く気配がする


琴美 あ、帰ってきた。


琴美 玄関に走る


琴美 おかえり。で、どうだったの?ねぇ?


健夫、玲子 入ってくる
それに付いて琴美 入ってくる

健夫 ああ・・・。
玲子 ただいま。
健三 ・・・お、おかえり・・・。
玲子 あれ?琴美、学校は?
琴美 休んだよ。
玲子 バイトは?
琴美 休んだ。
玲子 そう。・・・お茶でも飲みますか?今、煎れますね。
健夫 ああ、そうだな。


健夫 居間に行き、座る
琴美 それを追って居間に向かう


琴美 お父さん?
健夫 うん。まあ、座れ。


琴美 座る


琴美 で?
健夫 ・・・若年痴呆だ。
健三 やっぱり、そうだったのか・・・。
琴美 でも、今は薬があるんでしょ?
健三 まあな、早期なら回復する可能性もあるそうだが・・・。
琴美 違うの?
健夫 ああ・・・。


玲子 うろうろしている
それを健夫 気付いて


健夫 どうした?
玲子 お茶葉がねぇ・・・
健夫 無いのか?
玲子 ええ。


健夫 台所に向かう

健夫 茶箪笥を開ける


健夫 ほら、あったぞ。
玲子 あら、そんなトコに?
健夫 ああ。今日は病院に行ったりして疲れたろ?ちょっと休むか?
玲子 ええ。
健夫 じゃあ、行こうか。


健夫 健三、琴美の方を向き


健夫 ちょっと寝かせてくる。


健夫、玲子 寝室に向かう


琴美 これからどうなっちゃうんだろ・・・。
健三 そうだな・・・。
琴美 なんで?なんでこんなコトになっちゃったんだろ?
健三 ・・・仕方ないさ・・・。
琴美 仕方ない?そんな風に思えないよ。だって昨日までは、別にいつも通りだったじゃない!
健三 いつも通りに見えていても、いつも通りじゃなかったんだよ・・・。いや、いつも通りだと思いこんでいたんだな・・・。今日とは違う明日なんて、疑いもしなかったんだ・・・。
琴美 うん・・・。


2人ため息をつく


琴美 どうするの?お父さんは、あんなだから頼りにならないし・・・今はまだ良いとしても・・・。
健三 そうだな・・・。介護施設とか・・・か・・・。
琴美 施設・・・。


健夫 戻ってくる


琴美 おとうさん。
健夫 ああ、大丈夫だ。
琴美 これから、どうするの?
健夫 ああ、そうだな・・・。
琴美 やっぱり、施設・・・?
健夫 いや、施設は難しいらしい。
琴美 え?
健夫 若いと力が強いだろ?結構病気が進んでくると、徘徊とかが出てくるらしいんだが、それを止められないんだそうだ・・・ま、女だからな、看てくれるトコも探せばあると思うけど・・・。
健三 しかし、まさかな・・・玲子さんが・・・。
健夫 まあな。
琴美 ・・・お父さんさあ・・・。
健夫 あ?
琴美 さっきから、なんか軽いっていうか、実感がない感じがするんだけど・・。
健夫 まあ、そうかもな。あいつはいつでも元気で、いつでもそこにいるのが普通だって思ってたからな。


そう言って健夫 台所の方を見る

健夫 立ち上がり、台所へ向かう


健夫 晩飯どうする?
琴美 そんなこと言ってる場合じゃないでしょ?
健夫 今日、どうするかじゃなくて、これからどうするか?を考えるんだから、飯くらい食わないと。それに、お前等も何も食べて無いんだろ?朝から。
琴美 ・・・まあ。
健夫 親父だって、腹減ったろ?
健三 ああ・・・。
健夫 よーし、じゃあ何か作るか!
琴美 お父さん、作れるの?
健夫 いや。
琴美 駄目じゃん。
健夫 じゃあ、琴美は作れるのか?
琴美 いや、全然。


琴美 首を振る


健夫 一応、お前も女なんだからさあ、作れないとまずいだろ。
琴美 だって、作るチャンス無かったし・・・。
健夫 じゃあ、協力して作るか。
健三 ・・・俺は、何をすれば?
健夫 親父は俺以上に何も出来ないだろ?座ってテレビでも見てろよ。
健三 俺だけ仲間はずれか!
健夫 うるさいなあ。これから嫌でも何かしてもらうコトになるんだから、今日くらいはゆっくりしてろよ。
健三 あ、ああ・・・。


健三 渋々納得する
健夫 琴美に向かい


健夫 冷蔵庫に何がある?


琴美 冷蔵庫を開け食材を出し、健夫と共に料理を作り始める
出来上がった料理をテーブルに並べる


琴美 おじいちゃん、出来たよ!
健三 おお、そうかそうか。
琴美 お待たせ。
健夫 じゃあ、ちょっと呼んでくるわ。
琴美 うん。


健夫 部屋を出て行く
健三 テーブルにつく
琴美 ご飯をよそう

健夫、玲子 部屋に入ってくる


玲子 あら、今日は誰がご飯作ったの?
健夫 俺と琴美で作ったんだ。
玲子 珍しいわね。
琴美 さ、食べよ!
健三 ああ、食べよう。腹減った。
健夫 さ、座って。
玲子 ええ。


全員 テーブルにつく


健夫 じゃあ、いただきます。
3人 いただきます!


全員 食事を始める が、全員手が止まる


健夫 うん・・・。
琴美 まあ・・・。
健三 いや・・・。
玲子 まずいわね。


健夫、琴美 うなだれる


健三 ま、まあ食えるさ、食える。
玲子 いえ、まずいわね。
健夫 ・・・そうだな、まずい。
玲子 私が、作りますよ。
琴美 大丈夫?お母さん。
玲子 何?大丈夫って?
琴美 あ・・それは・・・。
玲子 じゃあ、もうちょっと待っててくださいね。


玲子 立ち上がり台所へ向かう
琴美 それを見て


琴美 大丈夫なの?
健夫 まあ、大丈夫だろ。
琴美 本当?
健夫 昨日まで全く心配してなかったのに、今日になって急に心配し始めるってのもおかしいだろ?
琴美 まあ、それはそうなんだけど・・・。


心配そうに台所をみつめる3人


琴美 で、どうするか決めたの?
健夫 ・・・まあ、会社は辞める方向になるだろうな。
琴美 お父さんが、看れるの?
健夫 当たり前だろ?でもまあ急に辞めますって言って辞められるモンでもないから・・・。しばらくは大丈夫だと思うけど、とりあえず一人にならないように親父が看てくれれば・・・と思うんだけど。
健三 俺が?
健夫 そのくらい出来るだろ?
健三 まあ・・・。
琴美 私は?
健夫 お前は、学校があるじゃないか。
琴美 大丈夫だよ、毎日じゃないし。
健夫 じゃあ、家事でも分担するか・・・って言っても何が出来るんだ?
琴美 それは・・・。
健夫 それは、俺もか・・・。
琴美 とりあえず、二人で料理の勉強だね。
健夫 ああ。いい花嫁修業だな。
琴美 うるさい。
健夫 あ、結婚するなら婿とれよ。一人娘なんだから。
琴美 結婚なんてまだまだ先だよ。
健夫 ま、それならいいが。
健三 で、俺は・・・。
健夫 親父はいいよ。ちょっと今までより気を遣ってくれるくらいで。
健三 でも、それじゃあ・・・。
健夫 だったら・・・。
健三 ああ。
健夫 呆けるなよ。
健三 え?
健夫 絶対に。俺達は親父の世話までは出来ないからな。
琴美 そうだね、出来ない。
健三 そんな・・・。それは自分ではどうすることも・・・。
健夫 気合いだ。
琴美 気合いだ。
健三 二人して・・・。


玲子 冷蔵庫を開けてビンを取り出して見ている


玲子 ねえ!これって何?
健夫 ん?


健夫 台所へ向かいビンを手に取る


健夫 うわ、これ賞味期限過ぎてるじゃねえか!
琴美 あ、それ!
健夫 何だよ。
健三 そいつは!
健夫 だから何だって!
二人 へそくり!
玲子 あら、頭いいわね。こんなトコにへそくり隠しておくなんて。

 




健三 ダイニングに掃除機をかけている
琴美 居間で洗濯物をたたんでいる
健夫、玲子 居間から続く縁側に座っている


琴美 おじいちゃん、いつまで同じトコ掃除機かけてるの?
健三 いやね、このゴミがなかなか取れなくて・・・。
琴美 あのさあ、だったら手で取ればいいんじゃないの?
健三 あ!そうか!頭良いな!
琴美 もう・・・。


健三 掃除機を止めて手でゴミを拾おうとする


健三 ん~コレ、手でも取れないぞ。
琴美 え~そんな馬鹿な・・・。


琴美 ダイニングへ向かい、そのゴミを確認する


琴美 おじいちゃん。
健三 何だ?
琴美 これ、ゴミじゃなくてシミ。
健三 何だと!道理で取れないわけだ・・・。
琴美 これから掃除機かける時は眼鏡をして下さい。
健三 いや、見あたらないんだよ・・・。
琴美 テレビの上は?
健三 無い。
琴美 朝、新聞読んでたでしょ?その後、どうしたの?
健三 それが分かったら無いなんて言わん。
琴美 あ!
健三 何だ?
琴美 トイレ。
健三 え?
琴美 トイレ見てきてよ。
健三 何で?
琴美 私の勘ではトイレにある。
健三 そんな馬鹿な・・・。


健三 トイレに向かう
健夫 玲子に話しかける


健夫 玲子。
玲子 ん?
健夫 良い天気だな。


玲子 ほほえむ


健夫 玲子。
玲子 ん?
健夫 ・・・愛してる。
玲子 わたしも。


玲子 ほほえむ。
その様子を琴美見ている


健三 あった、あった。
琴美 もう!トイレで新聞読むのやめてって言ってるでしょ?
健三 途中でやめてトイレに行ったら、気持ち悪いだろ?
琴美 もう・・・。


琴美 健夫、玲子の方を向く


琴美 ねえ、みんなで買い物行かない?
健三 買い物?
琴美 うん。天気もいいし、散歩がてら。
健夫 ・・・そうだな。な?


健夫 玲子に問いかける


玲子 うん。


玲子 ほほえむ





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