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勿忘草~戯曲集~

勿忘草~戯曲集~

the sight of MAMORU

  守  ぼーっとしている
  
  
圭介  おーい!
守   ・・・
圭介  おい!聞いてるのか?
守   ん?ああ・・・。
圭介  仕事、うまく行ってないのか?
守   ・・・いや、そう言う訳じゃないんだが・・・
圭介  らしくねえよ。言いにくいのは分かるけどさあ・・・。
守   ・・・ああ、そうだな。・・・俺が悪かった。
圭介  いいよ、別に。で、どうしたんだよ。
守   うん・・・いや順調だったんだよ。本当に。あれから色々あったけど本当に順調だった。最初はさ、普通に出版社に勤めて上がってきた原稿チェックして直してみたいなことばっかりで自分で書くことなんてぜんぜん出来なかったんだけど、だんだんと記事も任せてもらえるようになってきて、まあ、記事ったってどこそこのラーメンは旨いとか、今お勧めのデートスポットは・・・みたいなのばかりだったけど、俺の書いた記事見て読んだ人から感想が届いたりしたんだぞ。発行部数も少ない、こう言っちゃなんだけどしょぼい雑誌だよ。それなのにさ。
圭介  凄いじゃないかよ。
守   でも・・・
圭介  ・・・・
守   でもな・・・
圭介  どうしたんだよ。
守   実は・・・
圭介  どした?


  守 何度か口を開こうとするが挫折し、何度目かの挑戦の後
  
  
守   ・・・・・・・・会社が・・・潰れた。
圭介  え?


  守 たたみかけるように早口で
  
  
守   いや~、ほら俺って宵越しの銭は持たない主義じゃん?貯金とかも全く無くてさ。まあ、保険は下りてるんだけど、俺、基本給は安かったもんだから全然成り立たなくて・・・。
圭介  そっか・・・で?
守   え、いや・・あの・・・・・しばらくですね、俺をここに・・・
圭介  ああ、いいよ。別に。
守   ええ!まだ最後まで言ってないのに!
圭介  家賃払えないんだろ?いいよ、別に。落ち着くまでいれば。
守   ・・・ありがとう。
圭介  いいって別に。幸い彼女がいるってわけでもないし。
守   いないの?
圭介  いないって。
守   ああ、それだけが心配だったんだよ。
圭介  それだけなのか?他にもあるだろうがよ。俺が4畳半のアパートに住んでたらとか・・
守   え?あ、ああ、それなら大丈夫。俺、場所取らないから。
圭介  実は俺も家がないとか・・・
守   心強い味方だ。
圭介  101匹のワンちゃんと暮らしてるとか・・・
守   それなら尚更、俺1人増えたところでどうってコトないだろ?
圭介  ま、そうだな。
守   ああ、そうだ。
圭介  守さあ、それならそうと早く言えよ!なんかもっと別のこと想像しちゃったじゃねえかよ!
守   別のことってなんだ?
圭介  例えば、借金があるから金を貸してくれとかさあ。
守   借金のほうが良くないか?
圭介  いや~貸せる額ならいいけど、俺だって貯金ないし・・。それか、実は病気でもう長くは生きられないとかさあ。


  守 ちょっと動揺し、ぎこちなく笑う
  
  
守   そ、そんな馬鹿な。
圭介  そうなんだけどさあ。確かに守は殺しても死なないと思うけども、そういう想像を一杯しちゃったってコトだよ!
守   悪かった。


  守 雰囲気を変えるように明るく
  
  
守   ・・・で、どのくらい彼女いないんだ?
圭介  いいじゃねえかよ。別に。
守   いいじゃねえかよ、教えてくれたって。
圭介  うるさいなあ、ずっとだよ。
守   だから、ずっとがどのくらいかを聞いてるんだよ。
圭介  ずっとはずっとだよ!これ以上聞くなら出て行ってもらう。
守   もう聞かない!興味ない!全くない!
圭介  ならいいが・・ま、今日はとことん飲もう!
守   俺はいいけど圭介、明日仕事じゃないのか?
圭介  俺?俺は今フリーだから。明日は午後から打ち合わせがあるだけで、あとは特に何もない・・・いや、ないわけではないけど、急ぎじゃない。
守   フリー!?なんだ!その悠々自適な響きは!
圭介  いや、そんな良いもんじゃないよ。仕事無いときは全くないし・・・80%以上が運だね。
守   そんなもんか?
圭介  ああ、俺は小説を書く時間が欲しいから、フリーをやってる様なもんだから。
守   やっぱり書くのか?
圭介  まあ、夢ですから。
守   夢か・・・いいな。
圭介  なんだよ、守だってあるんだろ?


  守 急に真面目な顔になり
  
  
守   そうだな・・・いや、特にないかな。普通に生きていければ。・・・・爺さんまで。
圭介  爺さんか・・・。そりゃ夢が叶ったのか分かるまで相当かかるな。


  守 ちょっと笑って
  
  
守   ・・・だな。


  暗転
 
  
  【挿入歌:truth of silence】


  第11場  真実

  
  部屋で守のノートを読んでいる二人
  圭介 ノートをめくる手が震えている

圭介  なんだよこれ・・・。
美咲  ・・・
圭介  なんなんだよ・・・これ・・・。
美咲  ・・・
圭介  守から何か聞いてないか?


  美咲 首を振って
  
  
美咲  ・・・何も。
圭介  そうか・・・。
美咲  電話してみたら?

  
  圭介 慌てて携帯を取り出しながら
  
  
圭介  そうだな・・・


  携帯で電話をかける圭介
  

圭介  ・・・・駄目だ。圏外。
美咲  そう・・・。
圭介  何処に行っちまったんだよ!
美咲  心当たりは無いの?
圭介  ・・・守とは10年振りだったんだ・・・会うの。
美咲  え?でも幼馴染だったんでしょ?
圭介  そうなんだけど、大学の卒業式の日にちょっと喧嘩して・・・。
美咲  それからずっと?
圭介  うん。でも会ったり話したりはなかったけど、引越の時や正月とかは手紙が来たし、お互い実家も知ってるから、何処で何をやってるかって事は分かってたんだけど・・・。
美咲  別に変わったところは無かったの?
圭介  変わったところ?
美咲  そうよ、10年も会いにくかったのに急に来たんでしょ?
圭介  変わったところか・・・変わったところって言えば、全部かな。
美咲  全部?
圭介  ああ。
美咲  どういうこと?
圭介  確かに様子がおかしいとは思ったけど、実際会うのは10年ぶりだし、10年も会わなければ雰囲気だってちょっとは変わるだろ?
美咲  そうかもしれないけど、それにしたって!
圭介  守は会社が潰れたからだって言ってた。そうとしか言ってないし、だから俺もそれを信じた。あいつが何も言いたくないのに俺が聞く必要はないだろ?
美咲  言い難くって言わないって事だってあるじゃない!
圭介  そうだったとしても、守が言わないことを言わせるようなことはしたくない。
美咲  冷たいよ・・・。だってもっと早く分かっていればさ・・・。
圭介  そうかもな・・・・。

  
  圭介 悔しさを叩きつけるようにテーブルを叩く
  圭介の携帯が鳴る
  

圭介  守だ。・・もしもし!
守   あ、圭介?電話くれた?
圭介  したよ!お前、今何処にいるんだよ!
守   あ~悪ぃ。ちょっと旅に行ってくる。
圭介  旅!?何処にだよ!
守   いや、別に決めてはいないんだけどさ。気分転換に。
圭介  いつ帰って来るんだよ!
守   あても無い旅だぞ。そんな緻密な旅行計画は建ててないから知らん!
圭介  知らんって・・・。
守   あ、あと、ノート忘れてったんだけど、まさか・・・読んでないだろうなあ?
圭介  読んだよ!
守   読んだの!?
圭介  読んだよ!
守   何で!
圭介  テーブルに読んでくださいと言わんばかりに置いてあったら読むだろ!普通!!
守   ごもっとも。
圭介  ああ。
守   全部か?
圭介  え?
守   全部読んだのか?
圭介  いや。
守   どのくらい読んだ?
圭介  まだ最初の方だけだけど・・・。


  守 少し淋しげに
  
  
守   そっか・・・読んだか・・・・。
圭介  何で言ってくれなかったんだよ。
守   いや、言ったろ?
圭介  いつ?
守   え?言ってなかったっけ?
圭介  言ってないよ。会社が潰れたとは聞いたけど。
守   あ~それは言ったわ、けど言ってなかったっけ?小説書きたいって。
圭介  小説?
守   そう。
圭介  どれが?
守   酷いな、確かにつたない文章ではあるだろうけども、そんな・・・。
圭介  これ、小説なのか?
守   それ以外に何があるんだ?
圭介  嘘なのか?
守   何を言ってるんだ?ちゃんと目の前に原稿あるんだろ?目に見えてるもの捕まえて嘘って、どんなジョークだよ。
圭介  違うよ、中身だよ!
守   中身?
圭介  だから、この小説に書いてある内容はフィクションなのか?って聞いてるんだよ!
守   ほら、俺って脳の中で妄想を繰り広げるの得意じゃん?
圭介  ああ。
守   だからノンフィクションは無理。
圭介  そっか・・・・。
守   ああ、まあそういうわけで、しばらく旅に出るから心配されるな。じゃあ!また連絡するよ。
圭介  ああ・・・。


  電話切れる
  美咲 恐る恐る
  

美咲  嘘だったの?

  
  2人 ほっとしたように
  
  
圭介  ・・・らしいな。なんだよ、信じちゃったじゃねえかよ!
美咲  本当に。
圭介  大体、ノンフィクションは書けないなんて言って、実際にあったことが多すぎるんだよ。そりゃ信じるだろ?って!
美咲  そうよねえ。
圭介  大体、源五郎とか実際あった店なのにまんま名前使ってるし。
美咲  それより、登場人物の名前が私たちと同じになってるもん。
圭介  使用料をとってやる。
美咲  本当よね。ところで守さんってフィクションは得意なの?
圭介  いや、得意って言うか、大体きっかけはなんか実際にあったことなんだけど、そこから膨らまして行くうちに現実とは遠くかけ離れたものになって行っちゃって、お互いに元の話ってなんだっけ?って考えなけれゃ思い出せなくなることもしばしば。だからフィクションが得意って言うより書けないんじゃないかなあ、ノンフィクションが、多分。


  美咲 少し首をかしげながら
  
  
美咲  そうなんだ・・・。
圭介  どうしたの?
美咲  ん?なんでもない。
圭介  何?
美咲  何でもないって。
圭介  気になるよ。
美咲  大した事じゃないから。
圭介  じゃあ余計に教えてよ。
美咲  ・・・・ホントに大したことじゃないんだけど・・・これあんまり現実から離れてないなあって・・・。


  ぱらぱらとページをめくる美咲


美咲  ちょうど今日で終わってるし。


  守 携帯で電話をかけている


守   あ、母さん?俺。・・・・いや、別に・・・・そっちはどう?・・・・そう、父さんは?・・・・・・そっか、そりゃ良かった・・・・・あ、そうなんだ。でさ、俺、今からそっち帰るから。・・・・・別に・・・・・違うよ・・・・母さん・・・・・ごめん・・・・・。


  【挿入歌:哀歌】


  暗転


  第12場  哀歌


  圭介が一人、日記を手に立っている
  圭介 日記を開き、静かに読み始める
  

圭介  3月7日 会社の健康診断の再々検査結果を聞きに病院へと行く。まったく健康そのものの体を捕まえて何を言っているのかと思っていたが、神妙な顔の医者を前に何も言えなくなった。自分では結構歳をとったと思っていたが、一般的にはまだまだ若いらしい。病状の進行が予想以上に早いのだそうだ。


  圭介 ページをめくる
  

    3月8日 とりあえず何もする気力が無い。実家に帰ろうと思う。
    
  
  圭介 ページをめくる
  

    3月9日 強引の極地だ。いやはや理由も言わずによくも辞められたものだ。引き止める言葉も全く聴かなかったのだから当然といえば当然なのだが。しかし、半日で今まで必死で築きあげたものの殆んどが無くなった。こんなものなのかと虚しくなった。今までやってきたことはこんな簡単に無くなってしまうものだったのか。
    
    
  圭介 ページをめくる
  

    3月10日 荷造りも終わりとりあえず駅へと向う。思えば実家に帰るのも久しぶりだ。3年?4年?そのくらい帰っていないなんて事をぼんやり考えていたら、見慣れぬアパートの前。住所を見ると見知った住所。アイツの家だ。いつもいつも言いにくいことをズバズバ言って、言ってる傍から忘れていく特技の持ち主だ。アイツは人知れずアイツの言葉に俺が胸を痛めていたことを知らないんだ、きっと。だが、間違ったことは言ってなかったように・・・思う。きっと、多分。


  守 静かに後ろに立っている
  圭介 振り返らない


圭介  思うってなんだよ、思うって!!
守   思ったんだよ、多分そうだったろうなあ・・・って!
圭介  多分って、間違ってないじゃないかよ!
守   あのな、思うってでも表現できたことに対し素直に評価して欲しいものだな。
圭介  どれだけ子供なんだよ。
守   大人になったから表現できてるんだろ?
圭介  どれだけ子供だったんだよ!
守   言い直すなよ。
圭介  過去形ならいいんだろ?
守   過去にはそれほど意味はないんだよ。なんてったって2度と変わることはないんだから。
圭介  なんだよ、いつもはそういう細かいところ気にするくせに。
守   今までの俺とは違うのだよ、圭介君。
圭介  何が違うっていうんだよ。
守   そうだな・・・いうなればネオかな?
圭介  なんだよネオって。
守   新しいって・・・
圭介  意味を聞いてるんじゃないよ。
守   そんなことよりなあ。
圭介  なんだよ。
守   何を勝手に読んでるんだよ!
圭介  読んでくださいとばかりに置いてあったら誰でも読むだろうがよ!
守   誰でもは読みません。ドイツ人のハインリッヒさんは日本語が分かりません。
圭介  それは読まないんじゃなくて読めないんだろ?
守   プライバシーの侵害だ!
圭介  だから読んで欲しくなければ隠しておけ!金庫に鍵掛けて閉まっておけ!
守   信用してるからだろ?
圭介  都合の良いときだけ信用とか言うな。
守   そんなことないぞ。いつもいつも信用してる。
圭介  気持ち悪い。
守   酷い!!
圭介  で?
守   あ?
圭介  だから、どうなんだよ?
守   何が?
圭介  実際、どうなんだよ!?
守   だから何が?
圭介  日記だよ!
守   小説だろ?
圭介  日記だよ・・・。どれだけの付き合いだと思ってるんだよ・・・。
守   10年以上か・・・。


  美咲 圭介の隣に立っている
  美咲 圭介から日記をもらい読み始める
  

美咲  5月10日 圭介の家に来てもう2ヶ月。驚くほど何もなく平和だ。そんな平和さをぶち壊すかのような爆弾が降ってきた。偶然って怖い。まさかこのタイミングで、このシチュエーションで彼女に会うとは・・・。でもなあ、圭介には言えない。絶対言えない。


  美咲  ぺージをめくる


    5月15日 あ~どうしよう。絶対にばれずに乗り切るだけの演技力が自分には無い。というか圭介に嘘をつき続けられるのだろうか、本当に。いつかばれるぐらいならさっさと打ち明けたほうが楽な気がしてきた。
    
  
  美咲 ページをめくる
  

    5月22日 女って分からん!!爆弾は悪魔だった。
    
  
  美咲 日記を勢いよく閉じる


  美咲  誰が悪魔よ。


  守 美咲を指差す
  美咲 振り返らない


美咲  こんな可愛い娘、捕まえて悪魔だなんてよく言えるわね。
守   本当に可愛い娘は自分のこと可愛いとは言わない。
美咲  言います。
守   言いません。
美咲  言います。現に私が言ってるじゃない!
守   だからそれが間違いだって、ちょっと回りくどく言ったろ?
美咲  回りくどく言われても鈍感なので分かりません!
守   別に分かってもらおうとわ思いません。
美咲  あ~そうですか!
守   え~そうです!
美咲  ・・・ごめんね。
守   何が?
美咲  何か色々気を遣ってもらったのに、ぶち壊しちゃって。
守   ・・・きもい
美咲  何が!?
守   お前も読んじゃうんだもんなあ・・・。
美咲  そりゃ置いてあったら読むわよ!
守   日記だぞ!
美咲  日記だからよ!
守   なんだ、それ?
美咲  人の携帯とかって無性にみたいじゃない?
守   見たいのと実際に見るのとは大違いだろ?
美咲  私は自分の欲望に正直なのです。
守   大体、人は分かり合えないからこそ、友達も作るし、結婚もするんだ。
美咲  意味分からない。
守   だからな、人間の本質なんてものは他人には完璧には理解できないし、又、自分のことを理解してもらうのは不可能なの。
美咲  で?
守   何が?
美咲  だから何が言いたいの?
守   でも人間は1人では生きていけないんだよ。理解は出来ない、本当は理解してもらおうとすら思っていないのかもしれない。でも、誰かに理解しているよって言ってもらいたいんだ。
美咲  だから?
守   もう察しが悪いなあ。会話は想像力だよ!常に相手が何を言いたいかを考えながら聞けよ!いっつもどうせぼぉーっと聞いてるんだろ?
美咲  ちゃんと考えてるけど分からないんです!ごめんなさいね、馬鹿で。
守   開き直った!つまりな、日記は読んじゃいけないの!ていうか自分のを読まれたら嫌だろ!自分がやられて嫌なことは自分もやらない!
美咲  しょうがないでしょ?読んじゃったんだから。・・・で、どうなの?
守   何が?
美咲  本当にもう治らないの?
守   嫌だなあ。小説だって、それ。
美咲  でもフィクションって言うのには本当にあったことが多すぎるでしょ?
守   リアリティを上げるためのテクニックだよ。それに日記なんてものは他人には絶対に読まれたくないの。そんなものおきっぱなしにしていく訳ないだろ?

圭介  じゃあそれでもいい。ただもし、守がこの状況に立たされたとして、その時もここに書かれてるように、何も言ってはくれないのか?
守   ・・・言わないだろうなあ。
圭介  何で?


  守 うつむいたまま
  
  
守   ・・・かっこ悪いじゃん。何か死ぬのを怖がってるみたいで。
圭介  ・・・何がかっこ悪いんだよ!
守   俺さ、結構よくやったと思うんだよね、今まで。何の目標もなかった大学時代では考えられないくらいに。だからさ、明日死ぬって言われても、別に後悔はないんだ。
圭介  ・・・小説は?
守   ん?
圭介  まだ出してないんだろ?
守   それはそうだな。
圭介  じゃあまだ全然じゃねえかよ。


  守 少しほほえみ
  
  
守   全然か・・・そうだ、全然だな。
圭介  ・・・言えよ。
守   ん?
圭介  言わなきゃ何もできないじゃねえかよ!
守   ・・・十分だよ・・・。


  美咲 恐る恐る日記を開く


美咲  7月8日  このままこの時間がいつまでも続くのならば、それはすごく幸せなことだと思う。ただそれは叶うべくもないことなのだが。やはり、実家に帰ることにする。両親には申し訳ないが、このまま、ここで最後を迎えるわけにも行かない。人は何故こんなにも悲しくこんなにも辛いのに、誰も彼も歩くことを止めないのだろう。この向こうはそんなにも恐れるべき場所なのだろうか?


  シーン 回想
  

守   だってそうだろ?たかが名前呼ばれたくらいで舞い上がって彼女が帰ったことも気づかないのも俺のせいなら、たかが名前呼ばれたくらいで呆けて彼女の名前を聞けなかったのも俺のせいだって言うんだろ!?
圭介  たかがって言うな!俺にとっては一大事だ!
守   あ~嫌だ嫌だ。女に免疫がない奴は!
圭介  何だ!免疫って!じゃあ女はウィルスですか?ワクチンがないと感染するんですか?そういうお前はアナフィラキシーショックで死んでしまえ!
守   もういいよ、分かったよ。


  シーン終了


美咲   7月12日  時に人は哀しみを歩き気づく、遅かりしことを。夢の中を夢のようだと時を過ごし、赴こうとせずにただ待つのみで。ただ哀しくも気付かないのは、それが当たり前のように過ぎ行くからか。後悔の念すら抱かず、先の世に何か変化を与えることもなく、ただ当たり前に、ただ確実に。その恐ろしくも着実な流れの中、人は歩む。止まらぬ時の中をただ歩む。

この淀みない淀みの中、私も歩く。私も歩き、私は何を得るのだろう?何を見、何を信じ、そして何を与えるのだろう?そんな答えすら見つけられぬまま、今に至り、ここにいる。

目を閉じ、ただ耳を澄まし、今言えることは・・・

     
圭介  俺、俺・・・・何も・・何もしてやれなかったじゃねえかよ!
美咲  私だって、全然何も・・・たくさん色んなもの貰ったっていうのに!!
守   ・・・・
圭介  それどころか、ちょっと邪魔だなとか思ったりさあ。美咲との仲、疑ったりさあ!俺、俺!
守   そんなモンだよ。
圭介  そんなモンってなんだよ!
守   大丈夫だよ。
圭介  だから何が大丈夫なんだよ!
守   おまえがおまえのまま、ここにいてくれたコトがさ。
圭介  だけどさ・・・それだけでさ・・・。
守   ・・・悪かったな、急に。


守   ありがとう


【挿入歌:哀歌】


  守 消える


圭介  守!!


  美咲 泣き崩れる
  
  
美咲  ありがとうを言わなきゃいけないのはさあ・・・・ありがとうを言わなきゃいけないのはさあ!


  圭介 ノートを閉じる
  
  
圭介  ありがとう。


  圭介 天を仰ぎ目を閉じる


暗転


Fin

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