紫微宮

紫微宮

自作小説 桃源記

第一章            吟時計

二人の出会い









静かに、大地を包むように雨が降っていた。誰もそんな事にはめもくれず、
日々繰り返される日常に追われていた・・・。





そんなある日、宇美はいつものように図書館にいた。



宇美の家系は代々大祓師だった。大祓師とは、大祓詞という詞を使い、物の
怪の類をあやつり、なおかつ祓う力がある一族である。

そして彼女はその五百十六代目だが、本人には全く自覚が無かった。もちろん、皆知る由も無い。


その為、呪術などの本をほとんど読み尽くしてしまい、何処かいい古本
屋はないものかと、調べていたのだ。

ぱらぱらと呪術関係の資料をめくっていると、後ろから友達の稜子が声をかけてきた。




           
「宇美、何してるの?」

「あっ稜子今ね、古本屋いいとこあるか調べてるの。」


「分かった!またオカルト関係の本でしょ?私、いいところ知ってるよ。」

「だからこれはオカルトとは違うんだってば。」


「わかった分かった。」


「で、話の続きだけど虚空天っていう古本屋なんだ。すっごい古くからあるとこみたいでさ、明日学校が終わってから一緒に行かない?」


「行く行く。」







次の日、宇美と稜子は学校が終わってから正門で待ち合わせをした。


「あっ、ごめん宇美待った?」

「待ったわよ。」



少し不機嫌そうに宇美は目をそらしながら答えた。



「ごめんって。」

「わかった、じゃあ行こう。」







古本屋は学校からそう遠くない場所にあった。




外見は洋風で言われないと一見わからなそうな所だった。しかし、稜子によると明治頃の書店はみんなこんなものだったらしい。



ともかく、二人は書店の中に入った。きぃ、とドアを開けると中は小さかった。本はずらりと並んでいるが、それほど多くなかった。



客も誰一人としていない。しん、と静まりかえった本棚の奥には、優しそうなおじいさんが一人、ぽつんと座っていた。






『なんか嫌な気配がする・・・』





と宇美は思ったが、そんなことを稜子に言うわけがなかった。たとえ言ったとしても絶対に信じようとはしないだろう。


嫌な気配を感じつつ、宇美は急いで目当ての本を探し始めた。

すると稜子が奥から走ってきて





「これなんてどう?」




と、一冊の本を差し出した。





その本を受け取った瞬間、閃光が走った。






すさまじい勢いで雨雲がたれこめ、大雨と強風の嵐になった。宇美は受け取った手が焼けるように熱くなっていくのを感じた。



思わず閉じていた目をゆっくりと開くと、目の前にさっきまではいなかった一人の麗人が立ってこちらを見据えていた。













「あ、あなたは誰?」

と聞くと


「わたくしは瀬織津比痲(せおりつひめ)と申します。故あってこの本に封じられておりました。ですが、あなた様のおかげで五千年の封印から解き放たれました。」




「あ、あなたが瀬織津比痲?あの神漏妓神漏之命(かむろぎかむろのみこと)に封印されたとされる・・」





そこまで言って宇美は口をつぐんでしまった。だが、宇美は心の中でその続きを言った。






『祟り神』。






二人のいきさつを横でじっと見ていた稜子は口をはさんできた。




「ねえ、どういうこと?この人誰?一体どうなってるの?」

稜子はパニックを起こしていた。パニックになる稜子を必死でなだめていると、瀬織津比痲が口を開いた。



「もしや、あなた様は東王公 伏軌様(とうおうこう ふつき)ではありませんか?そうでなければこの封印解けるはずがありません。ですが、もしあなた様が東王公 伏軌様であったなら、わたくしは封印を解かれたあなた様に、使いとして従わなければなりません。」




とそれだけ言って口を閉ざした。







宇美はまだ考えていたがこれだけは言った



「確かに私は東王公 伏軌の七十一代目ですが、今はその名は使ってはいません。私の名は扶桑(ふそう) 宇美です。」


と宇美が言うと瀬織津比痲がひざまずいてこう言った







「我が主は扶桑 宇美様です。」









                 第二章に続く


© Rakuten Group, Inc.