民訴1
【第 1 問】小 問 11 Bの訴えの適法性 Bが、平成22年4月30日、Aを被告として提起した、本件契約にもとづくBのAに対する債務が存在しないことの確認を求める訴え(本件訴訟)は、いわゆる債務不存在確認訴訟である。そこで、このような訴えが適法として認められるか。(1) 確認の利益 確認訴訟は、執行力をもたない点で紛争の実効的解決に役立たない場合が多く、また、対象が無限定に拡大しやすいため、無益な紛争を防止するため確認の利益が必要である。確認の利益は、裁判によってその事項を被告との間でいま確認することが、現に存する原告の権利または法律的地位の不安を除去するのに有効適切である場合に認められる。その判断は、1 手段選択の適否、2 確認の対象選択の適否、3 即時確定の利益の観点から検討すべきである。(2) 本件では、債務者Bから弁済による債務の消滅を主張するには、債務不存在の確認が手段として適切であり、消極的確認を求めるものではあるが給付訴訟の反対形相として対象選択の適切さも認められる。また、Bがその返済期日にAに本件契約上の債務を弁済したかどうかが争いとなっており、即時確定の利益も認められる。 よって、本件訴えは、確認の利益が認められ、適法である。2 Aの別訴の適法性 Aが、平成22年5月20日、別訴として、Bを被告として提起した、本件契約に基づき200万円の支払を求める訴え(本件別訴)は適法か。(1) 重複訴訟の禁止 本件別訴は、それに先立って、本件訴訟が提起されているので、重複訴訟の禁止(142条)にふれないか。「事件」の意義が問題となる。 142条の趣旨は、被告の応訴の煩、重複審理による訴訟不経済、判断の矛盾が生じるおそれを回避することにある。したがって、「事件」とは、当事者・審判対象の同一性によって判断される。ここで、審判対象とは、訴訟物たる権利・法律関係を意味する。(2) 本件では、ABの原告と被告が入れ替わるだけで、当事者は同一である。また、同一の契約にもとづく債務が訴訟物であり、訴訟物も同一である。 よって、本件別訴は、重複訴訟の禁止(142条)にふれ、不適法である。 ここで、給付請求訴訟である別訴には、執行力ある給付判決を受けるという独自の意義があるが、後述のように、反訴によって目的を達しうるので、不都合はない。小 問 2(1)1 Aの反訴の適法性 Aが、平成22年5月20日、反訴として、Bを被告として提起した、本件契約に基づき200万円の支払を求める訴え(本件反訴)は適法か。(1) 反訴の適法性 本件反訴の訴訟物は、「本訴」(146条1項)である本件訴訟と同一であるから、「本訴の目的である請求と関連する請求を目的とする場合」にあたる。また、「口頭弁論の終結」まえである。さらに、本件反訴の提起により「著しく訴訟手続を遅滞させる」(同条項2号)事情もない。(2) 反訴は、本訴と同一の裁判所で同一の手続で審理されるから、応訴の煩・訴訟不経済等のおそれもなく、重複訴訟の禁止(142条)にふれない。 よって、本件反訴は、146条1項によって認められ、適法である。2 Bの本訴の適法性 本件訴訟が、訴え提起時においては適法であったとしても、Aの反訴が提起されると、反訴たる給付請求訴訟のなかで訴訟物の存否が判断されることになるので、債務不存在確認の訴えという手段で争う必要がなくなる。 したがって、本件訴訟は、確認の利益を欠き、不適法となる。小 問 2(2)1 Aの反訴の取下げの効力(1) 訴えの取下げは、相手方が本案について口頭弁論等をした後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない(261条2項本文)。これは、口頭弁論等をした後は、相手方(被告)に請求棄却判決を得る利益が生じていることに配慮したものである。ただし、本訴の取下げがあった場合における反訴の取下げについては、この限りではない(同条項但書)。その趣旨は、反訴は本訴に誘発されたものにすぎないから、本訴が取り下げられた以上、反訴被告(本訴原告)の争う意思は失われたものとして、反訴取下げにその同意を不要とする点にある。(2) 本件では、本件反訴被告Bが、弁済の抗弁による請求棄却を求める旨、本案につき弁論をした後であるが、Bの本訴取下げ後、Aは本件反訴の取下げを陳述したものである。そうすると、この場合は、261条2項但書の場合にあたり、反訴の取下げに被告Bの同意は不要である。 したがって、Bの異議にかかわらず、Aの反訴の取下げは有効である。 (3) ここで、反訴で被告が争う場合にも261条2項但書を適用することは、その趣旨に反するとも思える。とりわけ、本件では、取り下げなければ本訴が不適法却下される場合であるから、なおさらである。 しかし、Bは、再訴が可能である。再訴された場合を考えれば訴訟不経済とも思えるが、反訴で被告が争う場合につき異なる取り扱いをすべき立法の手当てを欠くのだから、やむをえない。 以 上