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Trial and error

音姫×義之SS 2つ目の願い

変というか、気に病んでいるというか。
しかしそれも当たり前だ。相変わらず自分は記念日とか、その手の類を覚えるのが苦手らしい。

この日から1年前、初音島から桜が消えた

正義の魔法使いがこの島を守るために。
誰からも気づかれることなく、讃えられることなく、幕を下ろした。
その感情を閉ざして、閉ざしたその先で喚き泣きながら。

かくいう自分はすっかり忘れていた。1年通して、桜の咲かないこの島で彼女を見てきた。
笑ったり、怒ったり、甘えたり、強がったり。
コロコロ変わる感情を見る、まさに幸せといえるその毎日が、そのことを頭の隅に
追いやって、そして逃げていた。

1年前に彼女に自分を消せといったのは誰だ?
彼女に消えない罪を着せたのは誰だ?
実に2ヶ月間、彼女の笑顔を奪ったのは誰だ?

「……ねぇ音姉」
「……」
「お願いがあるんだ」

罪は消えない。事実を変えることはできない。
後から聞いた皆に聞いた話だが、2月、3月の――俺が消えていた間の――音姉の様子は
まるで魂が抜けたようと聞いている。実際に公園で泣いていた姿を見たなんて話も
聞いたことがある。
そんな風になるまで自分のことを思っていてくれた恋人に、自分がどう思っているのか――

そんなこと、分からない鈍感がいたら教えてほしい。


「……俺から離れないでほしい」
「え?」
「これからずっと、俺の隣にいてほしい」
「お、弟君、それって……」
「俺は、ずっと音姉に笑っていてほしい。でもそれだけじゃ駄目なんだ」


桜を枯らす前に交わされた会話を思い出す。
俺がこの世界に戻ってから、俺はずっと音姉に振り回されっぱなしだった。
水族館にも行ったし、映画も見に行ったし、海も祭りも花火も。
そのどれもが彼女の提案で。
まさか2つ目のお願いがこうなるなんて、と心の中で苦笑しながら

「俺は音姉の笑っている顔を、誰よりも近いところで見ていたいんだ」

義之が言い終わり、静けさが辺りを支配する。
不思議と緊張はないのに、胸の辺りが熱い。
まるでプロポーズを自分がされたかのよう。
そういえば自分達は一心同体なんだったなと想っていると。

「……それはプロポーズなの?」
「そのつもり、だけど」
「そんなの、おかしいよ」

思ってもみなかった反応に、自分の鼓動が大きくなるのがはっきり理解できる。
月夜のせいか、静か過ぎるこの場所では、心音が彼女に聞こえてしまいそうで。

「私、言ったよ?離れないでって。そばにいてくれればずっと笑っていられるって」
「……」
「そして、私もずっと、弟君のそばで笑っていたい」
「それって…」


「う、うん……その…これからも、お願いします……」



小さくなっていきながら恥ずかしがる彼女の姿は白く染まった脳裏に焼きついて。
そしてそっと体を無意識に寄せていて。





1月も終わろうとする夜に、1つの願いを叶えた星が流れていった。


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