翻訳日記

2006/02/22(水)10:39

ママ友との出版プロジェクト実現

児童書(7)

 私と友人が児童書『秘密のドルーン』翻訳出版の実現にこぎつけるまでの経緯を、今日は書いてみたいと思います。  子供の弁当つくりや送迎に追われ、本業の仕事も忙しい中、プロジェクトを実現できたのは、友人と一緒に楽しみながら努力してきた結果なのです。  私とこの本の原書との出会いは、2年前。息子の幼稚園を通じて親しくなった友人を通してでした。私にとっては子供だけでなく仕事の話もできる貴重な友人です。  その友人がある日、一冊の本を私に差し出したのです。  「ねえ、こういうのは翻訳しないの?」  The Secrets of Droonというファンタジー児童書、日本では未訳。  実はこの頃の私は、大事な翻訳の仕事が先方の都合でキャンセルになり、かなり落ち込んでいました。フリーで仕事をしていると、こういうことで先行きにすごく不安を覚えるんです。友人はそんな私を元気づけようと、面白そうな英語の原書を彼女なりに探してくれたようでした。いい友人です。  とはいえ、お堅いビジネス書専門でファンタジーなど訳したことのない私。  とりあえず、家に本を持ち帰って読んでみました。  ところが、意外とおもしろい。「子どもを夢中にさせる魅力がある」と直感し、自分たちの子どもにもぜひ日本語訳を読ませたいという気になりました。  「この本、いけるよ。訳したい」  「よし、翻訳して出版しよう」  この友人、べつに出版社を経営しているわけではありません、念のため。ただ、面白そうなことを追及する行動力と情報力のある人なのです。  とはいえ、二人ともこの時点で、この企画が実現すると本気で信じていたわけではありません。むしろ、プロセス自体を楽しみながら、やれるところまでやろう、という感じでした。  さて、こうして出版企画などもちろん未経験の私たちが、幼子を抱えながら翻訳出版実現を目指すことになったわけですが、いきなり翻訳権の確認というハードルがありました。  洋書の翻訳権は、版権エージェンシーが版元から獲得し、国内の出版社に取り次ぐ仕組み。ドルーンの翻訳権も既にどこかのエージェンシーから出版社の手に渡り、訳者も決まっているかもしれません。ところが、個人にはその手の権利情報を教えてくれないのです。  こうなったら、著者に個人的に尋ねるしかない。  といっても、自宅の連絡先もわかりませんから、著者トニー(前々回日記参照)の公式サイトのファンメールの宛先に、一か八かでメールを送りました。  「とてもよい作品だと思います。日本の子どもにもぜひ読ませたい。翻訳権は空いていますか?」  翌朝、著者アボット氏からまさかの返信。「日本での翻訳権は空いています。がんばって、ぜひ訳して下さい」  私たちにとって、夢が現実味を帯びた瞬間でした。  とはいえ、今度はこの本を出してくれる出版社を探さなければ。二人で手分けして、情報を集め、知り合いを頼り、出版社探しをしました。  そんななか、何度か仕事をしたことのあるダイヤモンド社が「面白そうですね、話を聞かせてください」と言って下さったのです。まさか、ビジネス書で有名な同社から反応が得られるとは・・・意外な喜びでした。  季節はまだ肌寒い早春。子供が風邪で熱など出さないようにと祈りながら、友人と二人、育児や本業の仕事の合間に、出版社へのプレゼン準備をしました。  公園や息子達のサッカースクールのベンチで、企画の打ち合わせ、なんてことも。  こうして迎えたプレゼン当日。  この本の魅力を(今思えば必死で)訴えました。結果は・・・  「検討するので時間がほしい」とのこと。編集長やら取締役会の了解がもらえないと、出版社も動けない。プレゼンにこぎつけても、まだまだ先方の社内にハードルはあったのです。  そして1ヶ月後。「社内でゴーサインが出ました。やりましょう」との返事。こうして、友人と私のプロジェクト『秘密のドルーン』翻訳出版の実現が決まったのでした。 友人と一緒にプロセスを楽しむ姿勢だったからこそ、最後まで強気でハードルを越えられたのだと思います。「ただの仕事」と思っていたら、ここまではできませんでした。  昨年12月、ようやく形になった『秘密のドルーン』。本屋の店頭で見かけるたびに、いまだに感動を覚えます。訳書は何冊かあるのですが、一番思い出深い一冊です。よろしければ、手にとって見てくださいね。   秘密のドルーン(1&2) 楽天ブログランキング

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