僕は、たまにクラブに飲みにいきます。ちゃんとしたママのいるクラブのこともあるし、軽い乗りのキャバクラであったりもします。夜の仕事をしているオネエちゃんがたは、美容にも関心が高いのです。ただし、悲しいことに、その大半がお金がないというのも事実です。
美容外科のクリニックを始めたばかりの頃は、その事実をあまりよく知りもしないで、一生懸命にお店でオネエちゃんがたの悩みを無料で聞いてあげていました。ですから、僕が美容外科医とわかるや否や矢継ぎ早に考え付くかぎりの質問をしてきます。もちろん、オネエちゃんがたにとっては、話のきっかけがすぐに見つかり、しかも日頃から気にしていることですから、なんともなめらかに言葉が出てくることか。この要領でいつも他のお客さんとも会話ができたら、きっとお店のNo.1になってしまうのではないかと思うほどです。しかし、いくら彼女たちの話に付き合い、ある程度専門的な治療方法まで答えてあげたとしても、実際にクリニックを訪れるケースは少ないのが実情です。僕は、お酒が飲める方ではありませんので、こうしたクラブにいくのは、大部分気晴らしです。それと、これは間違っていたかもしれませんが、少しばかりの営業のつもりでした。
先日も “整形したい”という20歳のオネエちゃんが隣に付きました。そんな時、僕の頭の中では様々な情報が短時間の内に行き来します。“自分の正体を正直に話すほうがメリットがあるか”“前にもこんなケースがなかったか”“このオネエちゃんは会話の糸口を見つけたいだけじゃないか”などです。こんな時、僕が、自分は本当は美容外科医だということを初対面の相手に打ち明けるのは、5部5部といったところです。せっかく楽しく飲もうとしているのに、話題が1つのことに集中してしまうことを恐れるからでしょうか。それとも面倒くさいからでしょうか。その時の気分にもよりますが、どちらもあり得ます。
でも、今回は身分を明かしませんでした。根本的にこのオネエちゃんには、美容外科の手術を受けるお金の余裕がないとふんだからです。今までは、それでも後々のことも考えて、一生懸命に悩みを聞いてあげていたかも知れませんが、今では、どんなにお話しても無理ということがわかりました。美容外科は自由診療ですから、ある程度のお金がかかります。そのお金を作ろうとしない限り、いくらお話をしても無駄なのです。
でも、僕がクラブ通いをまったく止めないのは、おそらくパチンコのごとく、たまに大当たりがあるからなのでしょう。パチンコも忘れたころに大当たりがきます。オネエちゃんもいっしょで、思わない店に突如として、素敵な女性やすばらしい患者がいるものなのです。