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テーマ:お勧めの本(7214)
カテゴリ:社会派小説
・1963年、東京オリンピック前年の「よしのぶちゃん誘拐事件」をモチーフとしたクライムノベル?というかヒューマンドラマ。暗くて重い!(しかもぶ厚い)けど面白くて一日で一気読みだった。新型コロナで自宅にこもる土日。こんな重い小説に熱中して1日過ごすのも幸せなのだろう。映画もいいがやっぱ紙の本だなと思う。どっちにしてもどうせ忘れてしまうのだが、映画と紙の小説とでは長期記憶としてずっと残るイメージの量や質が違うように思う。
・著者の奥田さんとワシはちょうど同い年、「よしのぶちゃん誘拐事件」という事件があったことは鮮明に覚えている。何だか暗いイメージがあるもののどんな事件だったのか詳細は全く覚えていない。東京オリンピックも覚えてはいるが、もうかなり記憶は怪しい。
・犯人である宇野寛治、事件を追う若い刑事の落合正雄、山谷ドヤ旅館の娘である町井キミ子、それぞれ3人の視点から物語が語られる。 ・礼文島の漁師、宇野寛治は幼い頃に継父から当たり屋をやらされた後遺症で脳に障害を持ち「莫迦」と呼ばれていた。空き巣で前科一犯があり、地元にいられなくなって空き巣をしながら憧れの東京へ出ていく。東京で空き巣に入った家で事件に巻き込まれて強盗殺人事件の容疑者になってしまう。 ・強盗殺人事件を追う警視庁捜査一課の下っ端刑事の落合は、縦割り組織の意地の張り合いなどに翻弄されながらも事件の真相に迫っていくが、そこで誘拐事件が勃発する。 ・町井キミ子は、母親が女将を務める山谷のドヤにある旅館を手伝っている。ヤクザだった父親が死んでから家族で日本に帰化した在日朝鮮人。利発で地域からの信望が厚いだけでなく、学生運動の「連合」や地回りの刑事ともうまく付き合っている。弟は弱小な組に所属するチンピラで、人の好さから宇野寛治とも関係している。 〇「大場さんにはわからねえよ。悪さっていうのは繋がっているんだ。おれが盗みを働くのは、おれだけのせいじゃねえ。おれを作ったのは、オガやオドだべ」 「おれは、何で自分が生きているのか、今までわからなかった。誰からも相手にされねえし、やりてえこともねえし、何でこの世にいるのかわからなかった」 「・・・じゃあ、やりてえことがひとつ見つかって、何かほっとした」 「生まれてこなかった方がいい人間もいる。おれがそうだべ」 ・宇野寛治を救う物語だったのか?しかし彼は、誘拐した子供を、付き合っていた女性を殺した。やりたいこととは父親を殺すことだったが未然に止められた。 ・時代背景としてオリンピックだけでなく、電話の普及、電話が普及したことによって誘拐事件も普及したらしい。また自動車の普及によって自由な移動が可能になった。とくにTVの普及も大きな変化をもたらしたようだ。誘拐事件を報道することで被害者が危険にさらされないように「報道協定」というのができたのもこの頃らしい。報道やワイドショーでの被害者のプライバシーや人権問題はまだあまり考慮されてない時代だった。 ・あえてその時代を選んでの作品だと思う。そしてその目論見は成功しているなとも思った。人間描写というか心理描写も深い。今更ながら奥田英朗さんはやはり只者ではないなと再認識したのだった。
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Last updated
2020.04.12 17:56:52
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