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テーマ:お勧めの本(7171)
カテゴリ:在宅医療や緩和ケアをテーマにした本
・藤岡さんの作品は「晴れたらいいね」に続いて5年ぶりの2作目。前作は、現代の看護師が終戦1年前のフィリピンで従軍看護師になってしまったという設定のタイムスリップものだったが、この作品は、進行胃がんで余命が限られていると知った33歳の笹本遼賀が主人公、生きていることの意味を考えさえる直球小説だった。とは言え重すぎず、かといって軽くもなくいい塩梅で、たくさんの患者さんを看取ってきた医師という立場にある者から見てもこんな気持ちで最期を迎えることができたら理想だなと思える話だった。
・著者は新聞社勤務の後に看護学校出て小説を書きながら看護師をしているという経歴、医師が書いた小説というのはあるが、看護師の立場から書いた小説と言うのはまた別な世界観なのかなと思わせる。もっと患者さんに近いみたいな感じ。 ・第1章は突然がんを宣告された遼賀本人の視点から、第2章は母親の視点から、第3章は大学病院で運命的偶然に出会った高校の同級生矢田泉看護師の視点から、第4章は弟恭平の視点から、そして最終章の締めはまた遼賀の視点から書かれている。そのなんだか微妙なそれぞれの視点の違いが物語を深くしているのではないかという気がする。 ・家族の他では矢田泉も重要な位置を占めていたが、主人公を信頼する元野球部で高校中退のバイト高那もいい味を出している登場人物だった。肘の故障で野球が続けられなくなったというのは恭平と同じ経歴、仕事もこなしながら努力して大学の2部に合格したが主人公の遼賀への感謝の気持ちが半端ない。 〇「今日桜を見ていて思ったんだ。貴重な時間を懸けて五分五分の治療をするんだったら、自分の好きな場所でそうしたいなって」 ・で帰ってきたのが岡山。実はワシ岡山生まれの岡山県人なので岡山弁がとっても懐かしくて魂に触れてくるのだった。 那岐山(なぎせん) ・小説には小道具というものがあるようだが、この小説では岡山県北部にある那岐山に重要な意味付けがあった。中学生時代に兄弟が冬山で遭難した山、遼賀の機転でビバークして助かった。その時にオレンジ色の登山シューズは遼賀のものだが弟の恭平と交換して自らは凍傷になって障害をのこした。そして癌の末期になって多くん人に支えられながら遼賀は最後は車いすに乗ってまでも那岐山の山頂に立つ。 〇いまやっとじいちゃんの気持ちが分かった 〇みんなにありがとうを伝えたい ・こんな気持ちで最期を迎えることが理想だなと心から思える作品だった。 ・オレンジとは、想いでの登山靴の色であると同時に、おばあちゃんの家のミカンのことでもあり、遼賀が店長をしていた店の装飾に植えていたミカンの木でもあったのだと思う。
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Last updated
2021.05.17 20:08:05
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