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カテゴリ:ミステリー小説
『なれのはて』という小説を読んだ。これがまた、なんとも暗く、重く、どろどろしていて、読んだ後になんとなく胃のあたりがもやもやするような話だった。いや、別に「読後感が爽やかでない小説はダメだ」と言うつもりはない。むしろ、人間の業とか過去の罪とか、そういうどうしようもないものを描く小説は嫌いじゃない。
物語の中心にいるのは、無名の画家の作品に関する謎であり、問題を起こしてテレビ局の報道部から左遷された元報道記者である主人公と、その周りにいる人たちだ。報道の世界の厳しさ、業界の理不尽さみたいなものがビリビリ伝わってきて、「ああ、こういうことってあるよなあ」と思わされる。登場人物たちはそれぞれに事情を抱えていて、みんなちょっとずつ壊れている。そこにまた現実味があって、妙にリアルなのだ。 それにしても、読んでいる間ずっと「これはなかなか骨太な作家だな」と思っていたのだが、読み終わってから娘に「加藤シゲアキってアイドルだよ」と言われてのけぞった。何だって? こんな話を書く人間が、歌って踊るアイドルだというのか? それはちょっとイメージが結びつかないではないか。 正直なところ、アイドルが書いた小説と聞くと、もっと軽くて爽やかな話を想像してしまう。「芸能界の裏側」とか「光と影」みたいなテーマはあるかもしれないが、こんなに深くて暗くて、人間のどうしようもなさを突きつけるような話は想定外だった。 しかし、ここで問題がひとつ浮上する。アイドルが書いたと知らずに読んだときは、「なかなかやるな」と純粋に思っていたのに、「アイドルが書いた」と知った途端に、「アイドルなのにここまで書けるのか!」という余計な評価ポイントが加わってしまうのだ。無意識のうちに過大評価してしまっている可能性もある。もし、この小説が無名の新人作家のデビュー作だったら、同じように感心しただろうか? それとも「まあまあ読めるな」くらいの感想だったのか? どうにも判断が難しい。 これはまるで、美術館で見た無名の画家の作品を「すごい!」と思ったあとで、それが実は有名俳優の趣味の絵だったと知り、「え、そんなにうまいの?」と驚いてしまうのと同じ現象ではないか。作品そのものを評価しているつもりが、作者の経歴が入り込んでくることで、どうしてもフィルターがかかってしまう。 とはいえ、そんな先入観を抜きにしても、この小説がしっかりと練られたストーリーを持ち、登場人物たちにリアルな深みがあることは確かだ。加藤シゲアキという作家は、アイドルの肩書きに甘えることなく、本気で小説を書いているのだろう。 次回作を読むときは、もう「アイドル作家だから」なんていう驚きはない。純粋に一人の作家として、彼の作品をどう評価するのか。それが自分の中で試されることになりそうだ。
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Last updated
2025.03.25 21:03:53
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