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テーマ:お勧めの本(7689)
カテゴリ:現代文学一般
・どうにも変なタイトルの本がある。「死んだ山田と教室」。ぱっと見、なんだそれ?と声に出しそうになる。山田が死ぬ?教室?それでいて本屋大賞の候補になったっていうじゃないか。そりゃちょっと読んでみっか、と思うのが人情ってもんだ。
・読んでみたら、これがまた、アホみたいにバカバカしい。いや、バカバカしいってのは褒め言葉だ。何しろ、冒頭から死んだ山田が教室のスピーカーに憑依して、クラスメートとワーワーやってる。下ネタだの悪ふざけだの、あんたほんとに死んでるのか、ってくらい元気いっぱいの幽霊である。
・正直に言うと、最初のうちは「こりゃ合わねえかも」と思った。こっちはまあまあ年も食ってるし、青春のドタバタには付き合いきれんぞ、と思った。でも、ページをめくる手がなんとなく止まらない。気がついたら、山田の声と、それに応じるクラスメートたちのやり取りが妙に面白くて、なんだか懐かしい気分になってきた。 ・そうだよなあ、と思った。オレも高校生だった。もう50年も前のことになる。制服はあったけど自由があって、男女共学で、スカートの短い女子をチラチラ見ては叱られ、授業中にくだらない手紙を回してはバレて怒られ、放課後に無意味に河原を歩いたりした。とにかく、無駄なことばっかりやってた。けど、その無駄が、なんだかとても大事なものだった気がする。 ・最近の高校生は酒もタバコもやらんのだろう。真面目でえらい。でも、会話のテンションとか、くだらなさ加減とか、ああ、そうそう、こういう感じだったよなあって思わずニヤニヤしてしまう。 ・んで、話はだんだん進むにつれて、ちょっとだけシリアスになっていく。生きてる連中は当然、未来に進んでいく。進学とか、恋愛とか、別れとか、いろんなことが起きる。でも、山田は変わらない。スピーカーの中にいて、ずっと同じ教室にいる。これが、なんとも切ない。 ・時間が経てば、どんな仲間も変わっていく。みんな、なんとなく離れていく。オレも昔のクラスメートと会うことは、もうほとんどない。山田のように、過去に取り残されて、それでも「みんなといたい」と願う気持ちは、すごくわかる。あの時間にだけ流れていた、特別な空気ってのがあるんだよな。 ・でもまあ、最後の展開は、ちょっと驚いた。というか、「なんじゃこりゃ!」って叫びたくなるくらいのカオス。物語の終わらせ方としてはどうなんだ、と言いたくなる気持ちもあるけど、それでも妙に嫌いになれない。 ・この作品は、たぶん、思春期っていう季節の中の、一瞬の永遠を描いてるんだと思う。すごくバカで、下らなくて、でも忘れられない時間。オレにとっては、それが妙に懐かしくて、ありがたかった。 ・星いくつかって? そうだな、終盤のドタバタを含めても、オレ的には星4つ。山田、よく頑張った。お前、いい幽霊だったよ。
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Last updated
2025.04.13 17:00:52
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