エピタフ 幻の島、ユルリの光跡 | 岡田 敦, 星野智之(これは良本でした)
・この本を読むことになったきっかけは2つ、まず「颶風の王/河崎秋子著」読み返したこと、そしてこの夏に趣味の野鳥観察目的で根室落石港からクルーズ船に乗って訪れたユルリ島が小説のモチーフになっているということに気づいたこと。まさかあのユルリ島に置き去りにされた「アオ」の子孫の馬たちが野生化してまだ生きていたとは、そして遠くない将来に絶滅していく運命にあるとは・・・と知ったからだった。さすがに図書館本に蔵書はなくネットで注文したのだ。エピタフ 幻の島、ユルリの光跡 [ 岡田 敦 ]価格:2,970円(税込、送料無料) (2024/11/17時点)楽天で購入2024/10/3読了・調べてみるとユルリ島はエトピリカの国内最後の繁殖地で、希少鳥類に指定されているチシマウガラスも繁殖していて自然保護のため立ち入り禁止になっているということだった。許可を得て日本最東端根室沖にあるその無人島に通い詰めた写真家岡田敦さんが書いたのがこの本。インタビュー記事とエッセイのある写真集というよりも記録集だろうか。掲載されているたくさんの写真は写実的でかつ哀愁を感じさせられる。2023年度JRA賞馬事文化賞受賞作。・戦前から根室は道産子の産地としてたくさんの牧場があり軍馬や農耕馬を育てていたので馬が豊富だった。戦後、新たに昆布漁を始めた猟師達にはすでに陸地に昆布の干場がなく、干場を求めてユルリ島に渡った。その漁師たちが荷の運搬のために馬を島に渡らせてその馬たちが活躍した時期があった。ところが1970年以降、動力の自動化や干場の確保などの事情でユルリ島に昆布干し場の必要がなくなりそして馬たちも仕事を失った。ところがそのときには、馬を陸地に戻すことが難しくなっていて置き去りにされ野生化して世代を受けつぎながら生き続けていた。しかし人間の都合で牡馬を間引きをしてこの先は消滅していく運命にあるという。・当時を知る人たちを訪ねるインタビュードキュメント、島に渡ってコンブ漁をしていた人たちや馬を育てていた馬牧場の人たち、高齢で最後の語り部になった人たちの貴重な話が聞かれる。〇「冬の馬は本当にたくましいぞ。黙々と生きるからな、あの雪の中でもよ。人間が教えなくても、ちゃんと生き方を知ってるんだ。・・・なんも人間が手をかけなくても、ちゃんと生きていられるんだ」(最後の島民泰三さん)〇僕が近づくと、馬が寄ってきて・・・「やっぱり人が懐かしんでない? いまはね、こうして馬も楽をしてるけどね、ワシら島にいたときには使われたんだよ・・・」(最初の馬主ヨネさん)・人と馬の微妙な距離感、実際には当時の馬ではなくて次の世代なのではと思うが受けつがれているのかもしれない〇【追記】2018年、そんな馬たちによって紡がれてきた島の歴史が途絶えてしまうことを危惧した市民の手により、ユルリ島の草原には新たに3頭の仔馬が放たれることになった。・3頭の仔馬が雄なのか雌なのかでも話が変わってくるけど、本当にそれでいいのか、誰かが責任もって管理できるのか?(しなくていいのかもしれないけど)。嬉しい情報だけどちょっとばかり心配だったりする。