「じゅポンのつぶやき」『一話』「大人の童話」「じゅぽんのつぶやき」![]() ![]() 第一話 はじめに 以前、「樹ッチャン」なるものの短文を公開したところ、大変な反響でした。文学的センスの全くない私の文章を熱心に読んでいただいたことに深く感謝いたしております。 そこで、今回から、吾が「樹囁庵」に、出没してくる、もう一つの動物一家の末息子の「じゅぽん」君に、ご登場いただくことになりました。 「じゅぽん」(家内の命名)君とは、名の通り、「狸」であります。決して、太宰治調には、いかないでしょうが、つぶやかせてご覧に供します。 第一話 ボク、「じゅぽん」と言います。伊予の国、久万の「桂ケ森」を住まいとして、じっちんとばっちゃん、親父とお袋、それに妹の五人というか、五匹というのが、正しいのかな? で住んでいました。 なぜ、住んでいましたと、過去形にしたかというのには、訳があります。 おいおい、お話していきますが、実を言うと、じっちゃんは、もうこの世には、いないんですよ。 「樹囁庵」の奥さんには、よくご馳走をいただきましたねー。 じっちゃんもまだ元気な頃のことです。 親父は、案外と冒険好きで、新しいお家が建つと、すぐにそこの様子が知りたくて,夜のくるのを待って、そそくさと遠出して、その結果を家族の前で、誇らしげに語って聞かせるのでした。 五年くらい前でした、親父が、二晩か三晩、遠出から帰ってきて、「おい、明日の晩は皆で、クリノキサコへ出かけるぞ」というのでした。 クリノキサコとは、今、「樹囁庵」が建っている付近の昔の呼び名です。 ボクにもその意味は分からないのですが、じっちゃんは、「あそこには、栗の木が沢山生えて おったんじゃよ」といって思い出しては、にこにことしていました。(注、「さこ」とは、広辞苑によると、[谷・迫]谷の行きづまり、または谷。せこ。とあります。) そして、ばっちゃんにおなじことを聞いたら、顔を赤らめながら、「まあ、おじいさんったら、いいえの、あの人と初めて出会ったのが、あそこのクリノキサコだったんよ」と話してくれました。 お袋さんは「どうしたの?急にクリノキサコへ出かけるなんて、何かあったんですか?」と親父に聞いてましたね。 親父は、「まあ、何でもええがー。明日になったら分かるわい」と気を持たすような返事でした。 「でも、皆でと言っても、じっちゃんのあの足では、遠出は無理なんじゃないの」と、じっちゃんと親父の顔をかわるがわる見つめて心配そうに聞いていましたね。 「うん、そじゃが、わしの言う通りにせい」とその晩は、そのまま寝てしまいました。 じっちゃんは、ボクが生まれたその年に、事故に遭って右足を折ってしまい、今も自由が利かない足を引きずっていて、遠出などできる体ではありませんでした。 その事故とは、親父から聞いた話ですが、ボクが生まれるというので、奮発して、何かいいものでもと、思い、ついつい遠出してしまったようで、気が付くと自動車の往来の激しい国道に出てしまっていたそうです。と次の瞬間、車のライトが目に入り、体かすくんでしまったのだそうです。 車はじっちゃんの右足を跳ねて、通りすぎて行ったといいます。 その晩はいつまで経っても、帰ってこないじっちゃんを親父とばっちゃん、叔父などが、心当たりの場所を、、一晩中捜しまわったのだそうですよ。 でも、その晩は、とうとう見つからなかったようでした。 二日後の夜中に、じっちゃんは、へとへとになりながら、ようやくたどり着いたと言うことを聞きました。 全身から血を流して、家の前に倒れていたといいます。 で、この続きは、第二話でつぶやくことにいたします。 ![]() |