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日替わりコメント写真集

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「じゅぽんのつぶやき」『十一話』

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第十一話

前回までのあらすじ

「じゅぽん」という、小狸がつぶやく、一家と「樹囁庵」の物語。

「じゅぽん」は親父さんたちと一緒に、「じっちゃん」を「クリノキサコ」まで、迎えに行くその日の明け方。ばっちゃんは、夢を見て、「じっちゃんが私を呼んでいる」といって、一緒に行くと言い出した。お袋と妹は、そんなばっちゃんを引き止めるために、留守番をすることになった。
担いで帰るために、担架も用意して「桂ケ森」を出発した。
 一方、「クリノキサコ」のじっちゃんは、一晩中まんじりとすることもなく、若い頃を思い出していた。深い霧に覆われて、東の空が明るくなってきたころ、近くで、ばっちゃんの呼ぶ声が聞こえ、その声の方に、近づいていったのである。しかし、ばっちゃんの姿は、どこにも見あたらなかった。「樹囁庵」の出入り口の鉄蓋の下でうずくまっているところを、「樹囁庵」の庵主に見つけられた。

第十一話

 
 「樹囁庵」の庵主は、この狸をどうしたものか、どうにかして、救ってやらなければと、考えた。
庵主は、早速、近所に住む、Mさんを訪ねて、事の次第を打ち明けた、Mさんは、町の役場にお勤めで、しかも、担当が、環境整備課であり、丁度良かった。
 がしかし、「その狸、生きているんでしょ?生きている動物は、ここら辺りは、鳥獣保護区ですから、捕まえることは、できないんですよ」との返事がかえってきた。
 
救助や保護するためにでも、捕獲することは、許されないというのである。理屈のような気もしないではないが、兎に角、捕まえると言う行為そのものが、禁止されているというので、可哀相ではあるが傍観するしか方法が無いようなことになったようです。

 一方、「クリノキサコ」のじっちゃんは、その鉄板の下で、助けのくるのを待てばよかったのですが、お腹が減ったので、動いたのがいけなかったようです。
 少し下に行けば犬を飼っているお家がある。そこに行けば、食べ残しに授かることが出来ると思い、痛い足を引きずりながら、ゆっくりと降りて行ったようです。ところが、じっちゃんは、急に目の前が朦朧としてきて、意識が遠のいていく、最後の気力を振り絞り、ばっちゃんの名前をよんだようです。でも、声にはならなかったようでした。
心の中で「ばっちゃん、ありがとうなー」「先にいくでのー」と言い残し、安らかに眠っていったようでした。
事切れた、じっちゃんは、今度は、役場のひとたちがきて、動物の死骸として、片付けて行ったようでした。
そして、口々に「この狸、車に跳ねられ取るわい」「かわいそうにのー」と同情する言葉が投げかけられたといいます。中には「この足じゃ、長生きもできまいのー」と、哀れむ言葉も囁かれたようでした。
そんな、じっちゃんの最期を教えてくれたのは、「クリノキサコ」に、一人で住んでいる、風変わりな古老の狸でした。
 
「わしは、「サブロウ」を良く知っていた、わしが「サブロウ」を見つけたときは、もうぐったりとしていてのー。なにやら うわごとをいっていたようにも思うが、そこへ、役場の人たちが、来てしもうたのじゃよ」木陰からそっと見ていたそうである。
 「でも、「サブロウ」の死顔は、安らかなものじゃった。幸せそうに笑っていたようじゃよ」
そういい残して、古老は、黙って一礼して、その場を離れていった。じっちゃんの救出は無駄だった、おやじは、しばらく誰とも口を利かず、叢にしゃがみこんでいた。
 空には、近くの烏たちが、十羽あまり、ダミ声を出しながら、乱舞していた。

 「樹囁庵」のご夫妻が、心配そうな顔をして、落ち葉を集めて、焚き火をしていました。その煙が、風にたなびきながら、じっちゃんのいる天国の方に、昇っていくようでした。救出の手の者も、じっーと黙ったまま、その煙の行方に見とれていました。

                                       [完]

end





最後まで、ご覧頂き有り難うございました。「洒落」のつもりで書いたものです。



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