2006/02/10(金)13:17
『砂の女』 安部公房/著
*世界20数カ国語に翻訳された名作*
「砂の女」改版2003年03月/文庫276p
◇内容◇背表紙より
砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考え付く限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男をひきとめる女。穴の上から男の逃亡を眺める部落の人々。ドキュメント手法、サスペンス溢れる展開のなかに人間存在の象徴的姿を追求した書き下ろし長編。
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いっや~、凄いものがあります。
想像できますか?砂丘の穴の中に今にもつぶれそうな家があり、日中の暑い日はほとんど寝て、
夜涼しいうちに砂かきにせいを出す。そうしなければ、砂の重みで家がつぶれてしまう。
そんな部落に迷い込み、一晩家に泊まらせてもらった家に監禁状態ですよ!
しかも、海の近くの砂は水分を含み服を着て寝ると、汗で砂かぶれを起こす。
家も、いつ朽ち果ててもおかしくないほどぶよぶよしている。畳からはダニが出てくる。
そんな環境の悪いところに。。。
女は男手が必要なので、引き止めておきたい。
水や食糧は、配給でたまに上からもらうだけ。自由に穴の外へはでられないのだ。
普段と変わらない日常から、いきなりそのような状態になったらどうだろう。
ジメッとした感触と、砂が口にはいってるようなざらざら感。明るいのか暗いのかもわからない。
先生をしていた男は、現実を何度も思い返す。つまらない職場・”あいつ”と呼んでいた妻、
いわば現実から逃げるようにして昆虫採集に没頭していたのだ。
現実の世界を思うと、悪い思い出しか浮かばない。。。
何度も脱出を試み、新聞を要求していた男は、だんだんと砂の家の生活になじんでいく。
毎日砂をかき出すのも充実した仕事と感じ、新聞のこともすっかり忘れてしまう。
必要なものは配給でもらえるし、なかなか悪くないのではないのか。。。
溜水装置を偶然にも作った男は、脱出できる環境になっても、
「脱出はいつでもできる。それよりもを溜水装置を話すには部落の人間以上の聞き手はいまい」
と、今の生活に楽しみを見出している。
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<総評>寓話とも取れる一風変わったサスペンスに★★★★・
いきなり、困難な状況に陥った時の人間の心理状態がよくかかれている。
そして、そこから逃れられない時、人はその生活に順応していくのだろう。。
失踪者は7年経過すると民法第三十条によって死亡の認定をうけるらしい。
読み始めてすぐに「誰にも本当の理由がわからないまま7年経ち」とでてくるので、
結局逃げ出す事は出来ないのは読んでいて明白である。
できたら、そこも伏せていただけたら逃げれるのか!?逃げられないのか!?という楽しみも持ちながら
読むこともできただろうに、それだけが残念でならなかった。
初版は1962年。
英語・チェコ語・フィンランド語・デンマーク語等二十数カ国語に翻訳された名作。オススメです。