『シャコンヌ』
この曲ほど荘厳にして繊細なものはあるだろうか…ここに描き出される悲哀と不可避的な苦しみは、彼らを物語るようだ.僕はこの曲を彼に聴かせてあげたかった。神話の世界の絶壁から滑落してしまったかのような人生を歩んだ彼はその滑落の瞬間に悟ったはずだ….失ったもののかけがえのなさに!.そして踏み外してしまった梯子の板にしがみつこうとする足先の旋回が虚しく空を切るのだ.その光景を地上に居ながら僕は見せつけられる...何度繰り返せば済むのだ…君は何度同じような過ちをする何度生まれ変われば気が済むのだ.その度に追い求め呼びかけようとする刹那君は落ちるのだいつも.そのようにして落ちてゆく君の体からスルッと抜け出る淡く白く光る妖精のようなものを僕は見逃さない.羽ばたいてゆこうとする姿は悲しそうに君の亡骸を見つめている.その亡骸に君を愛していた者たちが花を添えようとする.君の魂は、それすらも手にすることができない...旅立ちの時が来てしまったのだ...Eili .....Chaconne, Partita No. 2 BWV 1004.