032492 ランダム
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ラスト クリスマス

「ラスト クリスマス」


なんの前触れもなく、君からいきなり「逢いたい」と一言メールが来た。

急いで何箇所かに電話をかけ、ようやく新宿スターホテルに予約を入れる。
さすがにクリスマスはどこも混んでいたから、狭い部屋しか取れなかった。
そして翌日の昼下がり、君と待ち合せそのままホテルに向かう。

窓から射し込む日差しの所為か、狭い部屋を開けると冬の太陽の馨りがした。
真っ白なカーテン、ノリの効いた清潔なリネン・・・それはまるで異国のホテルの様だった。

空調を上げてシーツに包まり、浅い眠りの中でまどろみ続ける。
街の喧騒から完全に隔離された、二人だけの閉鎖的な世界。
この狭い空間の中で、君がそこにいるという事実。
閉ざされた空間での時間の流れは、永遠にも思える穏やかな質量を持っていた。

ふと逢魔時に外を見下ろすと、ネオンの燈らない真っ暗な街が広がっている。
こんな新宿を、私は今まで見たことがない。
「やはりここは、誰も知らない異国の地なんじゃないかな」
その思いは同時に、目に見えない何かに向かっての強い願いでもあった。
「もう、永久にこのまま戻れなくなってしまえばいいのに・・・」

枕の下に置いた腕時計を見ると、ここに来てまだ3時間しか経っていない。
めったに逢えない彼との時間は、それこそ何にも替えがたい価値がある。
「あと何時間こうして一緒にいられるのだろう」
「こんなに長く感じた時間を、あと何倍過ごしていいんだろう」
傍から見ればホントに些細な事だけど、私にとっては信じられない程幸せ過ぎて、贅沢をしてしまって申し訳ないような、そんな気持ちでいっぱいだった。

目を閉じると、あの昼下がりの太陽の馨りを思い出す。


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