ラスト クリスマス「ラスト クリスマス」なんの前触れもなく、君からいきなり「逢いたい」と一言メールが来た。 急いで何箇所かに電話をかけ、ようやく新宿スターホテルに予約を入れる。 さすがにクリスマスはどこも混んでいたから、狭い部屋しか取れなかった。 そして翌日の昼下がり、君と待ち合せそのままホテルに向かう。 窓から射し込む日差しの所為か、狭い部屋を開けると冬の太陽の馨りがした。 真っ白なカーテン、ノリの効いた清潔なリネン・・・それはまるで異国のホテルの様だった。 空調を上げてシーツに包まり、浅い眠りの中でまどろみ続ける。 街の喧騒から完全に隔離された、二人だけの閉鎖的な世界。 この狭い空間の中で、君がそこにいるという事実。 閉ざされた空間での時間の流れは、永遠にも思える穏やかな質量を持っていた。 ふと逢魔時に外を見下ろすと、ネオンの燈らない真っ暗な街が広がっている。 こんな新宿を、私は今まで見たことがない。 「やはりここは、誰も知らない異国の地なんじゃないかな」 その思いは同時に、目に見えない何かに向かっての強い願いでもあった。 「もう、永久にこのまま戻れなくなってしまえばいいのに・・・」 枕の下に置いた腕時計を見ると、ここに来てまだ3時間しか経っていない。 めったに逢えない彼との時間は、それこそ何にも替えがたい価値がある。 「あと何時間こうして一緒にいられるのだろう」 「こんなに長く感じた時間を、あと何倍過ごしていいんだろう」 傍から見ればホントに些細な事だけど、私にとっては信じられない程幸せ過ぎて、贅沢をしてしまって申し訳ないような、そんな気持ちでいっぱいだった。 目を閉じると、あの昼下がりの太陽の馨りを思い出す。 |