久しぶりに、SF短編集を読みました。
私の好きなタイムトラベルもので、しかも大好きな作家、ジャック・フィニィ、ロバート・F・ヤングの未読作品も載っていたので早速購入。
時の娘
どの作品も「時間を旅する」人たちの物語で、それぞれの作家によってどうやって時間軸を超えるのか、どんなふうにお話が展開するのかなど個性が光ります。
以下、かなりネタバレですので未読で読んでみたい方はご注意くださいね。
一作目、ウィリアム.M.リーの「チャリティのことづて」はとてもキュートな10代の男の子と女の子の初恋物語。
なのですが・・・二人は出会って恋するわけではありません。
女の子は18世紀のアメリカ開拓地に住んでいて、男の子のほうは現代(といっても物語の書かれたのは1960年代ですが)に生きる少年。
二人は時間軸を超えた同じ場所で、奇しくも同じように重い熱病にかかります。
熱にうなされて寝ている間、二人は不思議なうわごとをつぶやきます。
二人には、それぞれの相手の見ている世界が見え始め、やがて快方に向かううち、お互いに心の声で会話まで出来るようになります。
18世紀ののどかな暮らしをチャリティと一緒に味わうピーター。
そして飛行機やチョコレートエクレアにびっくり仰天、未来の世界を楽しむチャリティ。
ところが恐ろしいことが起きます。
実直なピューリタン(清教徒)たちの暮らす開拓地の村で、他人には理解できない不思議な未来のことを語る少女は「魔女」の疑いをかけられ、裁判にかけられることに・・・。
チャリティが危機にさらされていることを知ったピーターは、必死で260年前に生きていた少女のことを救おうと奔走しますが…。
最後のほろ苦くも可愛い結末がとっても素敵です。
このお話は、テレビシリーズの「トワイライトゾーン」でドラマ化もされているそうです。
見てみたいな―。
その他にもドライなのからスウィートなのまでタイムトラベルストーリーがいろいろです。
私が大好きなジャック・フィニィの「台詞(せりふ)指導」もフィニィ好きなら「なるほど」と納得しちゃうようなお話。
映画の制作スタッフと俳優たちが、映画の撮影のために取り寄せた1920年代のバスに、自分たちも当時の衣装や小物を付けて乗り込んだ。
警察のトラブルを避けるため夜中にNYの街を走りだしたバス。
街のみんなは驚いて変な顔をするだろう・・・そう思っていたのに、何食わぬ顔で横を通り過ぎる古めかしいいでたちの老婦人。
やがてごく当たり前の表情で、昔の服を着た人たちがバスに乗車してきた。
そして、恋を知らないため悲しい恋の台詞が上手くいえず困っていた新人女優の席の隣に乗り合わせた美青年は彼女に…。
どうやらバスは時代を通り抜けてしまったようですが?
新人女優は、その夜に苦い恋を知ることに。
その他にも特に、日本でも根強いファンを持つロバート・F・ヤングの「時が新しかったころ」にはやられました
ヤングさんは「たんぽぽ娘」という短編で、日本では(むしろ北米より)大変人気のある作家さんです。この「たんぽぽ娘」というのは、そうですねー筒井康隆さんの「時をかける少女」の男女の立場が逆になったハッピーエンド版と言いますか…そんな感じのロマンティックな名作です。
最初は「ジュラシックパーク」と「タイムトラベル」もののアクション映画風だったのですが、最後はさすが、ヤングさんらしいロマンティックな終わり方です。
紀元2156年の地球から北米古生物学協会のミッション(その時代にふさわしくない異物を撤去する)によって白亜紀(恐竜たちが闊歩する時代)に恐竜そっくりの形をしたタイムマシーンに乗ってやってきたハワード・カーペンターは、二人の大きな青い目をした子供…11歳の女の子と9歳の男の子の姉弟を助けることに。
どうしてこんな時代にこんな子供が?
その子供たちは当時科学文明の発達していた火星(グレート・マーズ)から誘拐され、逃げてきたのだという。女の子は数学の天才で男の子は機械工学の天才。
当時の火星では親は子供を手放し、研究所が子供たちを教育し、15歳になると「感情除去」され、感情のない大人になるのだという。
恐竜たちが闊歩する白亜紀で、未来から来た男は二人の子供を誘拐犯から守りながら不思議なキャンプをすることになります。
インディアンやアメリカの歴史の話を目を丸くして聞いたり、マシュマロやホットドッグに大喜びする子供たち。
カーペンターは、ふと自分が職場の同僚、自分の時間旅行をバックアップしてくれている二人のうち一人、美人のミス・サンズに片思いをしていることを女の子のほう、マーシーに打ち明けていました。自分とはほとんど目を合わさず、必要最低限のことしか話さない、美しいチーフアシスタントのエレイン・サンズのことを。
「彼女みたいに美しい人が、おれみたいなしがない時間旅ガラスを好きになるはずがないんだ」としょげるカーペンターを、妙に大人びたマーシーは励ますのでした。
マーシーを「カボチャちゃん」とからかうように呼ぶカーペンター。
彼は恐竜型のタイムマシーンのコックピットに子供たちと並んで座り、まるで動物園への遠足に子供たちを連れてきている優しい父親みたいな気分になってしまうのでした。
「時間旅がらす」稼業の彼と、英才教育を受け、愛情を知らない環境で育った子供たちが心を通わせ、子供たちが無邪気にはしゃぐようになっていく様子が短編なのに秀逸です。
ところが子供たちを誘拐した三人が現れ、カーペンターは子供たちを救おうと身を挺して戦い、なんとタイムマシーンが壊れてしまいました。
子供たちには無事に火星から当局の迎えが来ましたが、彼らは自分の時代にも戻れなくなったカーペンターを火星に一緒に連れ帰ることを拒否、子供たちは泣き叫んで彼との別れを惜しむのですが、カーペンターはたった一人壊れたマシーンとともに白亜紀の恐竜の世界に取り残されてしまいました…。
「二人とも幸せにな。やつらに感情を奪われないといいんだが。きみらの心は、きみらが持ってる最良のものの一つだからな」とつぶやくカーペンター。
あららら、どうなるの?
この後はほんとのネタバレなので反転しますが。(結末を知りたい人だけどうぞ。でも読むご予定のひとにはお勧めしませんよーこの結末は何も知らずに読んで味わっていただきたいです)
そんなカーペンターを、彼の世界の仕事仲間、ミス・サンズとピーターが救いに来ます。
「虫の知らせがあった」というピーター。
疲れ果ててベッドに横になったカーペンターはミス・サンズの後ろ姿とその髪を見ていてふと、気が付きます。
彼は長い数式を彼女に問いかけ、それを瞬時に回答するミス・サンズ。
カーペンターはわかったのでした。
二人の寂しい子供がいた。一人は数学の、もう一人は機械の天才。
愛情を知らなかった子供たちは誘拐事件の時に、別の時代から来た男と出会った。
始めて人間的な愛情を向けてくれ、一緒に笑ってキャンプをして過ごした大切な大人のひと。
その人と離れ離れにされてしまったけれど、その人の危機を救わなくてはいけない、そして自分たちの「感情」も救わなくてはいけない、そう思いつめた天才の子供たちが、タイムマシーンを作って未来に逃げ出し、周到に未来の時代で地球人になり済まし、カーペンターと同じ職場に入り込むのは不可能ではないのでは?
そう、職場仲間のミス・サンズとピーターはあの姉弟だったのです、というオチでした。
最後の二行がハッピーエンド満開です。
書きすぎちゃったけどそんな話でした。
他にもマニアック路線、通好みからロマンティックものまでいろいろ揃っています。
映画「時をかける少女」や「ある日どこかで」などお好きな方にはお勧めの一冊かと思います。ただやっぱりこの手のお話は、説明文など読みなれていない人にはキツイかもしれないですね。
映画化かドラマ化されたらもっとたくさんの人に楽しんでもらえるんでしょうけどねー(でもちゃんと素敵に映画化してね)
時をかける少女改版
↓この映画は泣けます。私のベスト5に入ってます。テーマ曲もたまらなく美しいです
ある日どこかで(DVD) ◆20%OFF!