エンタテイメント・エナジトピア

2005/04/24(日)04:18

「自殺されちゃった僕」を読んだ。

本(27)

著者の吉永嘉明氏は、ライターである。 5年の間に親しい人を3人亡くされている。 98年に友人のねこぢる氏、01年にライターの先輩である青山正明氏、 そして03年に妻の巽早紀氏。 全員、自殺である。 その3人との関わりと、残された者としての感情を綴ったものだ。 ねこぢるの死はリアルタイムで知っていたが、青山氏、巽氏については本書にてその死を知った。 私は別に、この3人と知り合いではない。 読書という趣味嗜好の中と、ネット古本屋という仕事の中で、作品や名前をほんの少し、 知っているだけだ。 ねこぢるのコミックを初めて読んだのは、雑誌「ガロ」だった。 プリティな絵柄とイノセンスな残虐性を持つ内容で、ものすごく気になってしまった。 しかも一読したときは、何がこうひっかかってくるのか、自分でも理解できなかった。 絵柄と内容のギャップに面白みを感じただけではなくって、もっと別な強烈な磁力。 気がつけば、単行本全部とTシャツまで購入していた。 周りの友達に「すごいマンガがあるんだよ~」などとお勧めしてみたが、 あまり賛同を得られるには至らなかった。 古本屋を始めたときには、あまり値段はつかないとわかっていたけれど、 ついつい、揃えて置いてしまったものだ。 青山氏は、「危ない薬」でブレイクする前に出した「サバト」という雑誌で その名前を初めて知った。 80年代後半に出されたこの雑誌は、いわゆる鬼畜系・悪趣味系のハシリだったと思う。 あまりに突出した感じがして、顔を全く上げれずに本屋のレジに持っていった記憶がある。 ドラッグも鬼畜系もいまいち興味が持てないので、追いかけることはなかったが、 なんとなく、気になる名前としてインプットされていた。 巽氏は、私が委託販売を請け負っているステュディオ・パラボリカで、編集をされていた。 「2-:+(トゥマイナス)」という雑誌の第2号ドラッグ特集のみに携わったようである。 黄色いビニールの表紙カバーもかっこいいし、グラビアに使われている写真も素敵な本である。 貝殻や万華鏡のアップ写真、全体から溢れるサイケデリック感がすばらしい。 正直、本文はさらりと流し、ビジュアルばかり何度も何度も見ていた。 そういう中身を作りこんでいたのが、巽氏だったようだ。 まさか亡くなっているとは、想像だにしていなかった。 さて、「自殺されちゃった僕」だが、はっきり言って、文章そのものは、いいとは思えない。 これを読んで自殺しようとする人が思いとどまる、ということもちょっと考えにくい。 「残されてしまったボク」という、センチメンタルさが、ちょっと痛い。 ただこれは、著者本人が気持ちの整理をする意味もあって書かれたものだから、 仕方ないと言える。 しかし、登場した3人の持っていた背景の方は、よく書き込まれていると思う。 依存、現実逃避、高すぎるプライド、排他主義、繊細すぎる感受性。 自殺した原因なんかは、どうせわからないし、どうでもいい。 それよりも。散りばめられたキーワードである。 これは、生きにくさの象徴であるような気がしてならない。 著者は、鶴見済氏のベストセラー「完全自殺マニュアル」を引き合いに、 「『まわりが悲しむから生きなさい』などといった言葉は、『犬も歩けば棒に当たる』 ほどの重さしか持っていない」という風に割り切れない、と言う。 理屈ではなく感情で否定すると。 私には経験がないのでなんとも言い難い。 どちらかというと、もう死んじまいたい、と思うことの方が私には多い。 ただ、先に挙げた「生きにくさの象徴」は、当の本人がそれをある種の「ウリ」にしている ところがあるように思う。 一つの切り口でしか、物事を見る事ができない自分を顧みていない結果、 そこに固執してしまうのかもしれない。 生きにくさは自分の選択なのだと、この本を読んでしみじみ思う。 自殺されちゃった僕 ぢるぢる旅行記(総集編) ( 著者: ねこぢる | 出版社: 青林堂 ) 雑誌「2-:+(トゥマイナス) 第2号 ドラッグ特集」

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