遊☆戯☆王 『記憶は鎖のように』 op『記憶は鎖のように』opening... 誰も知る良しのない、小さな物語。 ひとつ、またひとつ。 現れては完結し、また現れては完結する。 完結とは、終わりを示すものではない。 それが「結ぶ」という文字を冠している以上、 それはどこかへと続く永遠の物語。 続く、続く、続く。 それはきっと欠けることはなく、 どこまでも続いていく。 物語の登場人物の、思いを取り残してでも。 『パズル‐Puzzle‐』 欠片の足りない、未完成のパズル。 失われた欠片。二度と完成しないパズル。 でも。 その全てが見えないわけではない。 人は、それを埋めることの出来る存在だ。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 「おはよう」 朝の定番の一言。少女の一日はこの一言から始まる。 小鳥が囀るありきたりな朝。普通尽くしの一日は、少女を歓迎していた。 眠りから覚めた少女はゆっくりと伸びをする。 長めで、肩より少ししたまで伸びた茶色交じりのストレートな髪。 目一杯伸ばされている腕は、少女らしく細くしなやか。 「んしょ」 伸びを終えると、ベッドから足を床にしかれたカーペットへと下ろす。 寝巻きの上からでもわかる、少女の細い足。 全体的にスレンダーな少女だが、見た感じでいう雰囲気は元気溌剌としている。目覚めたばかりでも眠気が綺麗に飛んでいることからもそれが伺える。 「って、あれ?」 少女が視線を後ろへと向ける。 視線の先には、普段からそうだが今は一段と酷く寝癖の付いた頭がひとつ。 「スー、スー……」 よく皮肉を漏らす唇から、いまは小さく、可愛らしい寝息が聞こえている。 もちろん先ほどの挨拶を向けた相手だが、まだ眠り続けていたようだ。 「ありゃ。起きてなかったんだ」 挨拶したつもりが、相手が起きていなかった。ちょっとした恥ずかしさに肩を竦めつつ、起き上がり服を着替える準備を始める。今日はどんな服を着ようか、天気はどうなるんだろう、温かいだろうか、肌寒いだろうかと思考をめぐらせ10分ほど経った後、再びベッドへと視線を向ける。 「スー、スー……」 夢の住人はまだ静かに規則正しく寝息を立てている。同室にいるが、着替え始めてしまっても問題はないだろう。なぜ気にするのかといえば、それは少女が女であり柔らかな笑顔で寝ているのが少年だからである。男女という関係においては、当然である。 「んー、まぁ起きてきたり、起きてて寝た振りしてたとかだったらひっぱたけばいいんだし」 少女は随分と酷いことを言う。しかし、夢うつつの少年が知るよしもない。 というか、こんな場所で着替え始めるのを咎める権利が少年にはあるはずなのだが。 少女は自分の発言を特に気にしたりせず、意識を少年からはずす。 「天気、どうかな」 この時間ならラジオかテレビで天気予報が確認できなくもないが、少年が寝ている以上はそっとしておこうと静かにカーテンを開ける。こういったところで少年思いなのが、先ほどまでの言葉が冗談であることを示す。まぁ、実際に少年が起きようものなら少女として、当然鉄拳が飛ぶことになるのだろうが。 「うわ、綺麗に晴れてる」 少女なりの気遣いをしながら静かにカーテンを開ける。 カーテンを開けて視界に入った空は、文句のない晴天。申し訳程度に空にある雲は払いのけることが出来そうなほど虚弱。 眩しい光が差し込むだけで、部屋が温もりに包まれる。 「これなら薄着でも大丈夫かな」 そういって、少女はめちゃくちゃに広げられた洋服のなかからお気に入りのワンピースを取り出す。 白一色。小さなフリルは自己を主張せず、あくまで全体を可愛らしく見せるアクセント。それをしばらく眺める。 「汚れは、ない。染みも、ない。解れは許さない。うん、完璧」 数ある洋服の中でも特に大事にしているもののひとつ。少女はそれを赤子を抱くように優しく抱きしめる。 その後、少女はいそいそと着替えを始め、 「あ、そうそう」 と思い出したように声を出して、部屋の一角にある机へ向かい、引き出しからあるものを取り出す。 ワンピースと同じぐらい、お気に入りとしているペンダント。金色の細い鎖に、青いガラス玉がやはり金色の装飾によって止められたもの。 安物ではあったが、少女にとっては大切な宝物といえるものだった。 そして、もうひとつ別のものを取り出す。 それは先ほどのワンピースと対照的過ぎる、黒い皮製のベルト。所々に銀色の金具が機能として、または装飾として散りばめられている。 「デッキ確認ー」 誰に言うでもなく少女は呟くと、ベルトに備えられた直方体の箱のようなパーツからカード状の束を取り出す。黄土色と茶色が中心の黒い部分に吸い込まれていくような独特のカードデザイン。 「……モンスターカードよし、魔法カード……よし、罠よし」 少女はカードを一枚一枚めくりぶつぶつと何かを呟く。このカードについて詳しくなければ何のことやらわからない単語ばかりを訥々と呟いていく。 「この子が生贄要因、このカードがその補助、で召喚するのがこの子、決め手はこの子の特殊能力で……」 この子、と呼んで入るものの、少女が手にしているカードに描かれているものを見れば間違っても『子』などと呼べるような生物ではなかった。現世に存在するのならば、その名のとおりモンスターの類だろうものである。 「この子は強いんだよねー。この前も決め手になったし。当分は主戦力でいけるよね――って、いけないっ。こんなことしてる場合じゃないよ!」 カードに没頭していた自分に叱咤し、カードをかき集め再びひとつの束にする。 素早い動作で一まとめにすると、カードケースに仕舞おうとして、ふと手を止める。 「ええと、枚数確認……じゃなくて!」 のんびりとしている場合ではないというのにいつものようにしてしまう自分が恥ずかしくなり、誰に見られているわけでもないのに頬を若干紅く染める。 「えーと、えーと」 慌てた様子であたふたする少女。時間がないのか、自分がどうすればいいのか整理が付かないようだ。 「……ふぅ、これでよし」 やっと落ち着きを取り戻す少女。 カードを仕舞い、散らかしていた洋服も全部片付ける。自分の周りに何か遣り残したことがないか確認し、よし、と意気込んでから、 「ほら、起きなさい! 行くよ!」 と少年の頭をとんでもない勢いで遠慮容赦なく、一思いに平手打ちする。 「ふがぁっ!?」 突然の衝撃と痛みに耐えかね、少年が飛び起きると星が舞い、チカチカする視界に一人の少女が写った。 「痛ぇ、何するんだよあお……い?」 下着とキャミソールドレスだけを身に纏い、白い四肢を曝け出す少女が。 「あ」 情けない声を出す少女。 先ほど、寝巻きを脱ぎ捨てた後、ワンピースを身につけていなかったという自分の姿にようやく気づく。 「え、いやちょっと待て、それはお前の所為であって叩き起こされた俺に非はまったく――」 たたき起こされた挙句、すでに第二の危機が迫りつつあり怯える少年に、案の定少女の不条理な鉄拳が強襲した。 「ぐはぁっ!」 これはいくらなんでもあんまりだろうと、朝っぱらから思う少年だった。 |