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おばさんが作った死語ブログ。人生いろいろに語ります。

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February 13, 2003
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カテゴリ:カテゴリ未分類
 「思い出」というのはいつの頃を過ぎたらそう呼ぶのだろう。「記憶」というのはどれくらい経てば「思い出」に変わっていくのだろうか。「過去」の事を「思い出す」度、おばさんはその「記憶」のあまりの鮮明さに怖れながら苛まれながら、あるいは自嘲しながら薄笑いを浮かべながら、その場面場面を懺悔したりいとおしく思ったりするのだ・・・・。

 その日の朝はいつもと違っていた。住み込み先の部屋からいつも通り店に顔を出した。厨房には見習い板さんだけが開店前の支度に慌てふためいていた。
 「みんなどうしたん?」
 見習い板さんは鬱陶しそうにチラッとこちらを見て何も答えずに背を向けた。・・・ふん、相変わらず無愛想ね、あの子。アタシより年下の癖に・・・。たぶん口を尖らせていただろう私に女将が後ろから小声でささやいた。
 「昨日、和歌奴(仮名)さんトコの店で一悶着あったらしいヨ」
へぇ~・・・・和歌奴さん・・・か。和歌奴さんはこの辺りでもやり手の芸子さんで、高卒後、OLを半年くらいやってはみたが結局この世界に憧れて飛び込んだらしい。芸達者で、器量は良くないが、若さもあったせいか、常連の座敷では大概お呼びがかかっていた。私の任された店にもよく顔を出していたので知らない顔でもない。ある時期、頻繁に和歌奴さんが店に通って来た。こりゃなんかあるなとは思っていたが、ある閉店前の晩、現れて板長に「ちょっと相談ごとがあるんだけど・・・」。鼻の下伸ばした板長は「えぇでぇ。ほな今から行こか。」と身支度整える。キョトンとする私を尻目に「あと頼むでぇ」と店からさっさと出て行ってしまった。またかいな・・・と言わんばかりの溜息をつく二番手の板さんは私に苦笑いをする。まぁ仕方ない、板長の言うことだからね。暖簾をしまい、フロアを掃きながら、少し浮き足加減の板長の後姿を思い出していると焼き手の板さんが二番手の板さんに話し掛ける。「和歌奴さん、店出したいらしいからその相談ちゃいますかぁ?おやっさん、誰か世話するんでしょうかねぇ。」うん、と頷くだけの二番手の板さんだったので、その話はそれで終わってしまった。手を止めて聞いていた私に二番手の板さんは「こら、はよ片付けんか。大人の話を盗み聞きしたらあかんで。」とやたら子供扱いする。その時もやはりわたしは口を尖らせていたんだろう。そりゃそうかもしれない。その頃私はまだ18で、化粧の仕方も着こなしも野暮極まりなく、まさに田舎者まるだしだったから。そんなネンネが店を任されて、関西の一流の料亭ばかりで修行し、花街の垢抜けたオンナばかりを見てきた板前さん達と一緒に仕事をしていること自体が因果といえばそうだったかもしれない。
ともあれ、女将の言った「一悶着」が一体何なのか、どんな意味なのか想像もつかない。
 
 開店前10分前頃に気を揉む女将に「いやぁ~、なんとか間に合ったなぁ。焦った、焦った。」とやけに明るく微笑んで店のカウンターに入ってきた板長。「一悶着」がかなり悪い状況であることはその板長の態度が示していた。仏頂面が当たり前の板長がこんなに明るくしかも女将に愛想笑いまでするのは、給料日と仕事が終わった後に飲みに行く時くらいだ。気味の悪さまで感じながら、女将を始め厨房で働く皿洗いのおばちゃんが、いや、お座敷の仲居さん達までもが板長が「一悶着」の報告するのを待っていた。私は固い表情のままの他の板さんたちとカウンターの方に出なくてはならない。もう開店の時間だ。私は仕方なくカウンターに出て行った。

 その日の昼も随分と忙しかった。向いのうどん屋が定休日の日は必ず混み合う。あっという間に3時間が終わり、暖簾を入れて昼休憩の時間になる。あと出前を一件済ませてから私の休憩時間は始まる。出前の分が出来上がるまでやることもなく、醤油瓶の位置を整えたり、茶殻を捨てに行ったりして待っていた。
 そこへ板長がブラブラとやってくる。またパチンコかな・・・。女将に体裁が悪い時はいつも店の出入り口から出掛ける。そんな事を考えながら見て見ぬ振りをしていると、「おまえも気ぃ付けや。悪い男に引っかかったらあかんでぇ。」と話し掛けて来た。何のことかわからず、怪訝な顔をする私に板長は「坂下(仮名)の奴、和歌奴寝取る事しやがって。かなんわ、まったく・・・」と手で頭をバリバリかく。・・・寝取る?・・・たぶん私はそう言ったと思う。この私の言葉がきっかけで、板長は一気に昨夜の「一悶着」の説明を始めた。


 





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Last updated  February 15, 2003 12:28:50 AM
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