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久しぶりの名古屋である。
訳もわからず同伴している彼女はおばさんの母親友達である。周囲を構わず、いつものようにいつもの話題を延々と、いや、たまに「ねぇ、そう思わない?」と同意を求め、確認しながらしゃべり続けている。 「今月終わりまでやってる『人体の不思議展』ってのがあるんだわさ。アンタも来る?」と何気なく誘ったら、意外に簡単にのってきたので、内心心配しているおばさんであった。 …彼女、卒倒しちゃうんじゃないかなぁ… …やっぱ、もっと詳しく教えといた方が良かったかな… 会場に入る。 彼女は「わぁ~、よく出来てるじゃんかぁ~」と奇声を上げながら狂喜して、並ぶ列の隙間に入り込みシゲシゲと見ている。 「あかんて。触ったらあかんて、書いてある。」おばさんは彼女の背中に小声で教える。 ムフフフ…振り返った彼女は、鼻の下に力が入るような変な笑い方をしている。 「おチンチン、あるよ。男が多いね、なんでだろ。」 …なんでだろ、と言われても困るんだけど。 以下、彼女のコーナーごとの感想である。 「うひゃ~、まつげまで付けたる。仕事が細かいね~。」 「やっぱ、タバコは体に良くないねぇ~、肺真っ黒。」 「この血管ってどぉやって色付けんのかねぇ…」 「あひゃひゃひゃ…陰毛はえとる。ここまでやらんでもいいじゃんねぇ。」 「これで、子供に性教育したらよぉわかるじゃんかねぇ。」 …まぁ、この際、このままでいいか。 と、おばさんも、彼女のこの後の事など思いやりもせず、展示に夢中になる。 「あ…」と声を上げる。彼女もおばさんも。 その視線の先には胎児が月齢ごとに並んでいる。 二人ともケースに張り付いて見る。見つめる。観察する。無言で。 最初、驚異と興味だけの視線が次第に母親の眼差しに変わった時、顔を上げる。すると彼女もおばさんを見つめていた。 「4ヶ月でもうホントに赤ちゃんなんだね…。」彼女は寂しそうに呟く。 「産婦人科じゃぁ、4ヶ月・5ヶ月って言っても、エコーで見るだけだもん、モノクロでさっぱりわからんのにねぇ。実感が無いよねぇ。」おばさんもとりあえず答えるが、その後に付け加える言葉が見当たらない。 彼女は特別返答もせず、またじっとそのケースを見入っている。彼女は結婚後に流産や中絶を経験していた。 医学生も来ているし、オリンピック選手も来ているらしい。スケッチブックで写生している若者もいた。 老若男女、美しくても・そうでなくても、天才でも・そうでなくても、みな、同じ人間。 展示された人間もそれを見ている人間も、様々な生き様があり、そして死に様があるだろう。 「人体の不思議展」 次回は 東京会場 が開催らしい。 見て良かった、と思う。その理由はまだ表現出来ないけれど。 もし行かれる事があるならば、場内に、「献体申請書」というのが紹介されている。その文面を読んで頂きたい。白紙の申請書ではあるけれど、生存中の本人が書き込む姿を想像した時、その文面には、単に事務的な手続きだけではないとおばさんは感じる。献体する本人の生存中の状況や情況が、哀しいドラマに見えるのは、おばさんの勝手な想像だろうか? 会場を出て、人込みから抜ける。 同伴の彼女に何気なく問い掛ける。 「『献体』って知っとる?」 …ケ・ン・タ・イ…??? たぶん彼女の頭の中はいつもの話題の「倦怠期」が浮かんでいる事だろう。 「ほら、昔はさぁ、ホルマリン漬けの標本ってあったじゃんか。今は違って、あ~ゆうふうな標本が有効なんだって。半永久的に保存できるって、ホームページに書いてあった。」 へ? …じゃ、今見て来たのって、みんな、本物、な、の…ぉ? その後、珍しく、彼女がランチを残した気分もわからないでもない。といって、おばさんと彼女の友情にヒビが入ることもないだろう。 たぶん…。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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