テーマ:社交ダンス(9131)
カテゴリ:下町人情物語
4歳から住んでいた東京下町の家は、似たような住宅が隙間なく立ち並ぶ新興住宅地でした。
同世代の子供が多く、遊び相手には不自由しません。 路地をはさんだお向かいの家には、同じ年のゆきちゃんと2つ年上のひでみちゃんが住んでいました。 ゆきちゃんはよく大きな声で『怪物くん』のテーマ曲を歌っていたんです。 藤子不二雄Aさんが亡くなったというニュースを聞いて、突然ゆきちゃんのことを思い出しました。 ![]() 小学校低学年だったときに、ハンサムで有名だったゆきちゃんのお父さんが亡くなりました。 確か脳溢血だったと思います。まだ42歳の若さでした。 ご近所中が集まってお通夜の料理を作ったり、葬儀の手伝いをした覚えがあります。 ![]() 子供達は、なかなか神妙にじっとしていられないんですね。 近所のお母さんたちが持ち寄ったお通夜の料理をつまんだりふざけたりして叱られてました。 悲しい事柄というより、たくさんの人が集まるお祭りみたいな感覚です。 ![]() お葬式が終わって数日経った雨の日曜日のことでした。 外からこもったような笑い声が聞こえて窓から顔を出すと、ゆきちゃんが一人、玄関の軒下にうつむいて座っていたんです。 笑い袋のボタンを何度も押しては数秒間続く電子的な笑い声を聞き、それが雨の音に混じって妙に物悲しく響いていました。 ![]() 子供心にその姿がかわいそうだなあと思ったんですよ。 ゆきちゃんは笑っていませんでした。 もともと色白な男の子だったんですが、余計に白く見えたのを覚えています。 慰めの言葉など思いつかないので咄嗟に『怪物くん』のうたを歌いました。 オレは怪物くんだ 怪物ランドの王子だぞ オレの指先一本で、一本で 大怪獣もでんぐり返るぞ 1、2の3、4で たたんでのした ドカバカボンドカバカボカボン ドカバカボンドカバカボカボン ゆきちゃんは顔を上げて私を見つけると、ちょっと笑って家に入ってしまいました。 怪物くんというと、今でもその時のことを思い出します。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2022/04/08 07:34:47 PM
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