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つまずく石も縁の端くれ

つまずく石も縁の端くれ

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2006年11月24日
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カテゴリ:アート
秋のビッグイベントの展覧会の影で、あまり話題にのぼること
のない展覧会ですが、これは近代美術館ならではの見応えのあ
る素晴らしいものでした。

そもそも日本画とは何か?洋画とは何か?というテーマにそっ
て、展示は進んでいきます。知っている画家もいるし、はじめ
て名前を聞く画家もおり、突然、息を飲むような素晴らしい作
品に出会います。

油絵の具を手にした近代の画家たちは、油彩で屏風に描く。油
彩で日本画的な画題の作品を描く。日本画材で西洋画のように
写実的に描く。西洋画材と日本画材を併用する。同じ画家が日
本画と洋画を描き分けるなど、いわゆる「日本画と洋画」のジ
ャンルを越えた多彩な表現をしていたことに気づかされます。

仁王捉鬼図

狩野芳崖の「仁王捉鬼図」は、にぎやかな色彩が楽しい日本画
です。仁王が鬼の首を捕らえて締め付けています。鬼は手足を
突っ張り、目玉が飛び出しそうです。鬼のピンクのステテコに
青いふんどし。背景にもピンク、黄色、青、緑などカラフルに
彩られています。

道真天拝山.jpg

小林永濯という画家のボストン美術館所蔵の3作品に目を奪わ
れました。狩野派に学んだ日本画家です。今回の展覧会のチラ
シにもなっている「道真天拝山祈祷の図」。小さなチラシで見た
ときは、何が描かれているのかよく分からなかったのですが、
カラフルな色使いと誇張された人物の表現に惹きつけられまし
た。

これは、大宰府に流された菅原道真が天拝山の上で雷に打たれ
天神となった場面を描いたものでした。風に飛ばされる衣冠束
帯。雷に打たれた衝撃で、爪先立ちのえびぞりになってしまう
ひげ面の道真。どこかの雑誌に載っている劇画のような絵です。
これが明治9年ごろ描かれたものだとは信じられません。斬新
さに驚かされます。

「七福神図」は、近景に袋を担ぐ大黒天と真っ赤な衣装の子ど
も、遠く後ろに宝船に乗る神々を描いているのですが、遠近法
や影の使い方など、写実的な手法は伝統的な日本画と大きく異
なっています。

「天瓊(てんけい)を以って滄海(そうかい)を探るの図」。イ
ザナギ・イザナミの二神が、天瓊=矛で、混沌とした海をかき
混ぜると、そこから滴り落ちたものが島となったという国生み
神話の絵。リアルな表現は日本画とは思えません。

鬼ヶ島.jpg

浅井忠が描いた日本画もはじめて見ました。「琵琶法師」は、ベ
タな琳派的な日本画。「鬼ヶ島」の桃太郎や鬼たちの掛け軸も楽
しいです。

小林古径の唯一の油絵「静物」。黒い鉢の中のりんご。やはり日
本画に見える。逆に速水御舟の「鍋島の皿に柘榴」は、影が描
かれていて、写実的な洋画のように見える。大正期の日本画家
たちが洋画のリアリズムを取り入れようとした様子がよく分か
ります。

野遊び.JPG

和田英作の「野遊び」。藤の花の下、楽器を持って歩く3人の天
平美人。緑の木々と紫色の藤の花。女性たちの衣装の精緻な紋
様は油絵の具でよくぞここまで細かく描いたと感動的です。本
日の一押しがこの作品。

魚籃観音.JPG

下村観山の「魚籃観音」は、朱い衣の官能的な身体の上に真っ
白なモナリザの顔が乗っています。ちょっと怖いです。

松竹梅.JPG

洋画家が描いた屏風絵に小出楢重の作品がありました。先週、
遊行さんのブログで、小出がこんな屏風を描いているのをはじ
めて知って、見たいものだと思っていた矢先だったので、とて
も嬉しい偶然でした。遊行さんいわく、めでたさがポップに「ち
ゅどーん」とはじけたような屏風です。松竹梅がグルグルと回
っています。日本画の画題なのですが、油彩で描かれていたの
ですね。芦屋市立美術博物館で遊行さんが見た屏風の方が
鶴まで描かれていておめでたい絵でしたが。

塩原錦秋.JPG

となりの斎藤与里の「塩原錦秋」も今の季節にはぴったり。茜
色に染まった山々。その構図はまったく南画と同じです。右下
に小さく描かれた人物も、南画によくありますね。山水画がカ
ラフルになって、幻想的な雰囲気に浸れます。

他にも紹介したい作品が多いのですが、またの機会にしたいと
思います。展示構成も分かりやすくて、非常によかったです。(前
回の反省があったのかもしれません)
地味ですが、絶対に見る価値のある展覧会だと思います。





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最終更新日  2006年11月25日 11時15分13秒
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めでたさの対極の菅公   遊行七恵 さん
チラシの菅公ってコワイですよね。
タタリの大将ですから。
「野遊び」好きです。この下絵を見ましたがきれいでした。天平を描く作品って大好きです。
「魚籃観音」は端っこの犬が変に哲学的な顔で「なんじゃこりゃー」で忘れられない作品です。
京都に来るのを待ってます~ (2006年11月25日 22時43分22秒)

揺れる近代   いづつや さん
展覧会のネーミングが開幕前から気になってました。展示作品のなかに芳崖の“仁王捉鬼図”が入っていたので跳び上がって喜びました。小林の古事記の絵もいいですね。

東近美所蔵作品はだいたい見ているのですが、洋画と日本画のはざまという視点で並べられると、またあらたな発見がありますね。予想以上のいい展覧会なので、満足度は高いです。 (2006年11月26日 10時49分54秒)

遊行七恵さん   一村雨 さん
なるほど、図録で確認しましたが
ホント、哲学的な犬。
周りのインド人たちも同様ですね。 (2006年11月27日 07時35分31秒)

いづつやさん   一村雨 さん
芳崖の“仁王捉鬼図”
こんなにすばらしい絵があること
知りませんでした。慈母観音は芸大でたまに
見ることができますが、仁王はなかなか
出展されないのですね。
いい絵にめぐり合えて嬉しいです。 (2006年11月27日 07時37分53秒)

Re:揺らぐ近代~日本画と洋画のはざまに~ 東京国立近代美術館(11/24)   なかのたろう さん
ご無沙汰しております。

たまたま同じ日に同じ展覧会に行ってましたので、TB貼らせていただきました。

本当にいい企画で展示替えもあるようなので、また後期に行きたいと思っています。 (2006年11月30日 00時34分06秒)

なかのたろうさん   一村雨 さん
本当に見応えのある展覧会でしたね。 (2006年11月30日 04時26分40秒)

こんばんは   Tak さん
浅井忠にはやられました。。。
「鬼が島」
ポストモダン!! (2006年12月07日 17時35分23秒)

Takさん   一村雨 さん
浅井忠が日本画を描いていたこと自体
知りませんでしたので、はじめて観ることが
出来て嬉しかったです。 (2006年12月08日 11時38分10秒)

日本絵画   とら さん
新しい切り口の企画でとても勉強になりましたが、「日本絵画」の中に「日本画」という聖域が存在しているわが国美術界の体質についての踏み込みが足りないので隔靴掻痒の感もありました。 (2006年12月08日 22時59分08秒)

とらさん   一村雨 さん
結局のところ「日本画」はそのまま、残ったのですね。
伝統が残ったのがよかった反面、とらさんのおっしゃる
美術界の体質が生まれるきっかけともなってしまった
のですね。
「揺らぐ近代」というタイトル、そのままだと思います。
(2006年12月10日 07時24分45秒)

こんばんは。   はろるど さん
こんばんは。良い展覧会でしたよね。
見せ方が上手いと作品が本当に引き立ちます。
また岸田劉生を多く拝見出来たのも嬉しいところでした。
ここの常設などで眺める程度でしたので…。

>小林古径の唯一の油絵「静物」。黒い鉢の中のりんご。やはり日
本画に見える。逆に速水御舟の「鍋島の皿に柘榴」は、影が描
かれていて、写実的な洋画

こういうのは面白いですよね。
どっちも味わい深くて、何やらジャンルの垣根などどうでも良くなってしまいましたが…。

制度的な問題はあるにしろ、日本画も洋画も、
ともに良いものだけが見続けられていくのかと思います。 (2006年12月29日 22時15分43秒)

はじめまして。こんにちは。   Caillou さん
韓国で日本の美術の授業を受けている学生のCaillouともうします。いま浅井忠について調査している中ですが、日本語の実力が不足して内容をよく理解したと確信が持てなくて、初対面だけど質問します。第三の絵が浅井忠の作品ですか..? (2013年12月22日 03時03分06秒)


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