つまずく石も縁の端くれ

2007/01/06(土)08:03

武士の一分

映画(91)

山田洋二監督の藤沢周平時代劇三部作の最後を飾る作品。 海坂藩のお毒見役三村新之丞は、ある日、貝の毒にあたり、 失明してしまう。妻の加世は、藩の実力者島田藤弥に、夫の 身の振り方を依頼するが、その代わりに身体をもてあそばれ てしまう。新之丞は加世を離縁し、「武士の一分」を守るため 島田と果し合いに打って出る。 そんな物語が、ところどころ、ホッとするような軽い笑いのシ ーンを織り込みながら、淡々と進んでいく。予定調和するスト ーリーで、特に奇をてらったところもないが、さすがに山田洋 二監督。どんどん映画の世界に引き込まれてしまった。 新之丞と加世夫妻の愛情よりも、家来の徳平との主従関係の描 き方が素晴らしかった。馬鹿にしながらも、徳平を頼る新之丞。 また徳平の主人夫婦への愛情。これがいちばんの見どころでは ないか。 この徳平を演じた笹野高史、うまい役者だなぁと思ったのだが、 なんとオンシアター自由劇場出身とのこと。では当時、上海バ ンスキングでの演技をリアルタイムで見ていたのだ。 敵役の番頭島田を演じる坂東三津五郎、さすがにすばらしい活 舌、その声に聞きほれる。木村の発声との差を痛切に感じた。 格の違いを見せつけられた。 まぁ、木村の演技も、特に色眼鏡で見る必要もなく自然であっ たとは思う。特に剣を振るシーンは、しっかりと腰が据わって、 美しい姿だった。 今までのニ作品は、封建社会のもと、個人と組織の軋轢に苦悩し ていく人間の姿を描いたものだったが、今回は、復讐というよ り身近に感じる感情が主題となっていて、さほどの重厚さは感 じなかった。 同じ状況なら、特に武士でなくても、農民でも町人でも、誰で も「一分」を通す人はいるだろう。その意味では、毒見の責任 を取らされて、一族が見守る中、切腹した小林稔侍の方が、ま だ「武士の一分」を通したのではないかと思う。

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