2006/11/29(水)05:44
大野雄二 「愛のバラード」
晩秋になると聴きたくなる曲がある。季節によって聴きたくなる曲があるから不思議なものだ・・・いや、人のメンタルにはある種の法則があるのかもしれない・・・。
いまさら説明するまでもないと思うが、「愛のバラード」について簡単に説明。1976年角川映画第1弾として公開された『犬神家の一族』。この曲はその主題曲として世に提示され、映画は大ヒットし、大野雄二の音楽も鮮烈なインパクトを持って人々の脳裏に刻み込まれることとなった。名曲ぞろいの金田一関連音楽の中でも、この曲を一番好きな曲として挙げる人が多い。来月、監督・市川崑、金田一・石坂浩二でリメイク版が公開されるが、「愛のバラード」も使用されているという。まぁ、とにかく美しい名曲であり、金田一ファンにとっては譲れない曲ということだ。
■ アレンジいろいろ
その「愛のバラード」だが、手元には4つのアレンジがある。
1.オリジナルフルバージョン版
76年角川映画 『犬神家の一族』オリジナル・サウンドトラック収録
2.金子由香利ボーカル版
『横溝正史MMの世界~金田一耕助の冒険(特別版)』 収録
3.東宝レコードカヴァー版
『悪魔の調べ』収録
4.上妻宏光の三味線をフューチャーした大野雄二セルフカバー版
『Yuji Ohno, You&Explosion Band -Made In Y.O.-』収録
が、なんだかんだ言ってもやはり 1.オリジナルフルバージョン版 が一番いいと思う。同じメロディーなのに他とどう違うのか・・・・圧倒的にゴージャスでドラマティックなアレンジにその理由があると思うのだが、ルパン三世のBGMでおなじみの大野雄二サウンドが凝縮されたオリジナル版について、もう少し踏み込んで分析してみよう。
■ オリジナルフルバージョン版分析
「愛のバラード」のメロディーは大雑把にAメロ(Aパート)とBメロ(Bパート)に分けられる。オリジナルフルバージョン版の全体構成はこんな感じだ。
前奏 → ブリッヂ → A(1) → A(2) → B(1) → A(3) →
間奏 → B(2) → A(4) → 後奏
バックでざわついている音が何なのかちょっと分析できないが、オーボエの主旋律ではじまる前奏はいきなり大野節炸裂といった感じだ。ブリッヂではストリングスのみとなり、左と右のダブルでストリングス(バイオリン)が急展開する。ブログ友のぐれたさんが”唯一無二の美しさでもって胸に迫り来る前奏”と絶賛しているように、この前奏、俺も超カッチョイイと思う。
ストリングス急展開が終わるとピアノ・ギター・ハープがアルペジオを奏で始め、ダルシマの主旋律で、おなじみのAメロが始る。76年の映画では前奏をすっ飛ばし、いきなりダルシマの主旋律から入っている。
Aメロ(1)とAメロ(2)の合間にフルートの必殺技(ピロピロピロピロ~)が登場してくる。Bパートに入る前にも必殺技(ピロピロピロピロ~)が登場し、曲の節目節目を演出する。
Bパートは映画では「出演者」→「石坂浩二」と出てくるところだ。主旋律はストリングスにバトンタッチされ、一気にドラマテッィクな曲調となる。その主旋律の合間に入ってくるホルンとフルートの絡みが、もう絶品。最大の聴きどころだと思う。
間奏のオーボエのバック、左側の奥で鳴っている音・・・まるでジェフ・ベックのギターが鳴いているような・・・・その音がたまらなくいい。後奏も必殺技(ピロピロピロピロ~)連発で大野節炸裂といった感じだ。
■ 他版との決定的違い
オリジナル版を分析したあとに東宝レコード版や上妻三味線版を聴き直してみると、もの足りないものが何なのかわかってくる。・・・・東宝レコード版や上妻版では、Bパートでのホルンの主張が決定的に欠けているのだ。
東宝レコード版ではホルンが一番目立つのところで鳴らされていないし、上妻版ではその箇所で三味線が主旋律に加わり、ホルンはその裏に隠れてしまう。三味線がその箇所で、オリジナル版のホルンと同じメロディーを弾いていたなら、三味線とストリングスが絡みあって、もしかしたら印象が違ってきていたかもしれない・・・。
とまぁ、異なるアレンジを聴き比べてもおもしろいと思うのだが、やはり聴きどころ満載のオリジナルフルバージョン版がベストであり、2006年の現在においても、色あせることなく最高に素晴らしいサウンドだと思う。来月のリメイク版公開で、再び「愛のバラード」が注目されることになるのではないだろうか。
・・・家の近くには、用水路沿いに延々とつづく桜並木があり、春にはその下を車で走り抜け、秋には紅葉の下を走り抜ける。「愛のバラード」を流しながら染まりきった木々と沿道の落ち葉の中を走り抜ける時、この曲の美しさを一番に実感する。
<関連リンク>
●ぐれたさんブログ 「犬神家の一族」の音楽by大野雄二
●大野雄二 Official Web site
●2006年版 『犬神家の一族』/予告編で「愛のバラード」
<自ブログ>
●関連記事一覧:金田一耕助についてうんちく 映画&音楽