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秋月

 
 
 
            秋 月(あきづき)

秋月2

勝手にインプレッション

どうでもいいが、最初エンゾーは、「シュウゲツ」だと思い込んでいた。そっちの方がカッコイイのにと、今でも思っている。
知る人ぞ知る世界最小のカメラメーカー「安原製作所」が世に放った、マニアックなカメラの第二弾、それがこの「秋月」である。第一弾である「安原一式」といい、安原氏は和風な名前がお好きである。京セラの名機・SAMURAIで写真に目覚めたエンゾーが、ジャパネスクなネーミングに大喜びなのは言うまでもない。

さて、安原一式の開発状況をネットで公開することでセンセーショナルなデビューを果たした安原製作所であったが、その後は苦難の連続であった。あろうことか、光学OEMの大御所・コシナがフォクトレンダーブランドを復活させ、BESSAシリーズという、安原氏にとっては悪夢でしかない、安価で高性能なメイドインジャパンのレンジファインダー軍団を次々と世に送り出したのだ。さらに悪いことに、そのコンセプトはかなり好意的に世のカメラマニアに受け入れられてしまった。結果的に機先を制された形になった一式が、セールス的に影響を蒙ったことは想像に難くない。

以来、一方的にコシナを敵視し始めた安原氏は、自社HP上でコシナを激しく糾弾しつつ、一式の時には行っていたホームページ上での開発状況の公開を止め、密かに「次の一手」を考えた。そうして研鑚のすえベールを脱いだ「安原二式」は、まさにコロンブスの卵と言うべき超ニッチな仕様をまとっていた。


安原二式改め「秋月」の特異な点は、次に挙げる特徴の一部ではなくすべてを備えているところだ。

○手動巻き上げ
○手動巻き戻し
○ストロボ内蔵
○自動露出(AE)
○マニュアルフォーカスのレンジファインダー

ノスタルジックな外観とは裏腹に、一つ一つの仕様が理にかなっており、今までありそうでなかった「ネオ・クラシック」とでも呼ぶべき存在に仕上がっている。HP上でコンセプトが発表された時、「こんなカメラが欲しかった!」と思ったエンゾーは、2002年11月1日の予約開始と同時に、勢い込んで予約を入れた。アナウンスによれば、明けて2003年の春には、配送が始まるはずであった。

しかし実はこのころ、安原氏には予期せぬ事態が降りかかっていた。安原製作所は、量産拠点を中国に置いていたが、(ある意味よくある)開発現場のありえないような職務怠慢で、開発が完全に足踏みしてしまったのだ。
その後も、ようやく開発再開かと思いきや、量産直前になってレンズを一からやり直すなどの方針転換があり、結局エンゾーのもとに「配送開始」のメールが届いたのは、予約から実に11ヶ月が経過した、2003年10月のことであった。正直これは待たされ過ぎで、予約を解消したユーザーも数多く、これが結果的には安原製作所の寿命を縮める引き金になった。

比較表
(ベータ版と量産機の比較。デザインやレンズの変更が行われた事が分かる。
 ちなみに、フィルター径は35.5mm。フィルターを探すのに苦労する)

秋月を使ってみて最初に気付くのは、今までいかに、普通のカメラで撮影する時、周りに気を遣っていたかという事。騒々しいAF機のシャッター音や巻き上げ音に、思わず周囲を憚った経験は、写真好きなら一度ならずもあるはずだ。そういったデリケートなシチュエーションに、静かなカメラ秋月は好適である。手動による巻き上げ・巻き戻しが静かなのは当たり前だが、シャッター音も極限まで小さい。実際、極めて静粛なことで知られるライカM7にも匹敵するほどである。

安原製作所の次男坊は、やや大柄で重かった安原一式と比較して、明らかに小さく軽くなった。このコンパクトさが、携行することへのストレスを大幅に減らしている。また、AE機ゆえにテンポ良く撮影できるのが嬉しい。
また内蔵ストロボを使用した撮影の場合、被写体までの距離に対応して発光量を自動調整するフラッシュマチックの出来が良いので、細かいことを気にしなくとも、大抵の場合は適正露出になる。

レンズの描写は、カリカリの解像感はないが、程よい柔らかさを持っている。ピントの芯がしっかり感じられる、クラシカルな太目の描写がどこか懐かしい。色乗りはこってりしていて、開放ではホヤホヤだが、絞ればコントラストがぐんと上がる。
作例はこちら。

一式と秋月
(一式より、二回りほど小さい。手に持つと、心地よい重量感がある)

ただ、やはり不満がないわけではない。
7万円を越す高価なコンパクトカメラであることを考えると、今ひとつ以上質感が足りない。特に、巻き上げレバーや感度設定ダイヤルの外観及び操作感の「おもちゃのようなチープさ」は、本体がずっしりと重みがあって良い感じなだけに、詰めの甘さが悔やまれる。
また、ファインダーは暗い上にシアン系の色づきが顕著で、世界が青く見える。この辺りはどうしてもBESSAと比べてしまうところで、コストパフォーマンスの悪さを感じる。(大量生産品のBESSAと、わずか100台足らずで生産終了した秋月を比較する方が間違っているとも言えるが)

実際の写りの面では、逆光シーンにおいて、フレームのすぐ外に光源がある場合、派手なフレアが出る。安原一式の内面反射のように予測不可能な出方はしないので、癖を掴めば回避できるレベルではあるが。単焦点のレンジファインダー用レンズとしては樽型の歪曲が少し気になる。
また、電池の持ちがかなり悪い。電源ボタンを切っていても、いつの間にか電圧がフラットになっている事がままあった。

コンセプト自体が唯一無二で素晴らしいだけに、詰めの甘さが悔やまれる「名機になり損ねた」カメラであり、銀塩最後の仇花でもあった。


【2005.10.25追記】
結局手放してしまった。直接的な原因は、使い勝手がいまひとつだったことと、やはりライカがメインになってしまったことだろう。頻繁に現れるフレアは、生理的に受け付けなかった・・・。安心感がないと、いかに性能の良い機材でも使う気が起きない。また、金額に見合わないチープさも、最後まで受け入れきれなかった。




長所

○「巻き上げ・巻き戻しが手動で、ストロボを内蔵しているコンパクトAE機」。この唯一無二の個性こそが
 存在意義のすべて。ちなみに、ストロボは強制発光と不発光がメカニカルに選べる。
○シャッター音が非常に小さい。静粛さを要求される場面にめっぽう強い。
○バックライト付き液晶表示は、暗いところでも見えて便利で、見た目もとても美しい。
○なんと、レンジファインダーなのに60cmまで寄れてしまう!使って分かる便利なところだ。


短所

●価格なりの質感がない。箱を開けたときに、正直がっかりする。
●フィルム感度設定ダイヤルのクリックが弱いので、不用意に動くことがある。
●レリーズボタンの押し込みが深すぎる。電磁レリーズだが、電池の持ちがかなり悪い。
●逆光では、フレアが出やすい。

超個人的オススメ度(10点満点)


偏愛度(10点満点)
☆☆☆ 

*安原製作所亡き後、なんとフェニックスが一万円以上安い価格で再販売を始めてしまったΣ( ̄□ ̄;)。
さすが中国、著作権もへったくれもない。なんでもアリである。
 
 



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