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青春満開 気障太郎

高く舞う言葉


高く舞う言葉
~ただ側にいるだけで~




もう、会えないと思っていた。
だからこそ、再会に驚いたのか。
だからこそ、喜んだのか。
どちらなのか解らない自分がいた。

会いたいから見間違えたのかとも思った。
けれど、見間違う訳がないと言う自信があった。
偶然の再会に戸惑いながらも、単純な心は喜んでいた。

そこには、あの時と変わらぬあの人がいた。


「あ……クラ、トス…?」
ロイドは漸くそれだけを口にすると、思わず背負った荷物を落としながら視界の隅に過ぎった相手を視線が勝手に追っていた。驚きに目を丸くしながら相手がこちらを向くのを待つ。
「…久しいな、ロイド。」
そして、名を呼ばれた相手が振り返るのをじっと見つめる。
名前の主は、あの時に見ていたものと変わらない表情で、そこに立っていた。
「……ロイド?」
ロイドの反応がないことを訝しげに思ったのかクラトスが首を傾げて問い掛けた。
「あっ、クラトスっ!…やっぱり、クラトスだ…?」
取り落とした荷物も気にせずに駆け寄ると勢い余ってそのまま抱き付きながら、ロイドはクラトスの顔をまじまじと眺める。
変わらない筈なのに、何故だが違和感があったからだ。
ひとしきり見つめてから首を捻るロイドを諫める様に、抱き付いた手を優しく叩きながらクラトスが口を開く。
「…見ない内に、随分と大きくなったものだな、ロイド。」
低く響く声に堪らない懐かしさと安堵感を覚えながら、叩かれた手にやっとここが道端である事を思い出すとロイドは照れ笑いをしながら体を離した。
「あ、悪い。へへ…結構背も伸びたし、剣の腕だって上がったんだぜ?クラトスにだってもう追いつくかも知んないな。クラトスは変わんないみたいだけど……え、変わんない…?」
後ろ頭を掻いて照れ混じりで何気なく言った言葉に、自分でもしっくりと来ないできょとんとしながら考え込む。

茶がかった赤色の髪の毛。

自分と同じ鳶色の瞳。

燕尾のシルエット。

そのどれもが、自分の前を去ったあの時と変わらなかった。
「えーっと…クラトス、もうあれから…三年、経ったんだよな?」
そう、今ロイドは二十歳を迎えた青年になっていたのだ。かつての少年であった時の真っ直ぐな瞳や面差しはそのままだったが、明らかに成長を遂げていた。
それなのに変わらないクラトスを見れば困惑もする。
その表情を見てクラトスは苦笑を混じらせながらヒントを出す様に言った。
「…変わりがなくて驚いたのか?私が…天使だということを忘れた訳ではあるまい。」
「…あ……そっか。…クラトスは、天使だから…そのまま、なのか。」
クラトスの言う事に漸く合点がいったというように頷くと、自分を改めて納得させる様に呟いた。
そう、自分が多少の年月を経て変わった位では、クラトスが変わる事はないのだと。
ぼんやりとそんな事を頭の中で纏めていると、クラトスが沈黙を破る。
「積もる話もあるのだろうが…まずは、荷を拾ってくるといい。ここで話すのはなんだからな…宿にでも行くか?」
「あ、うん。そうだな、せっかく会ったのにこんなとこじゃなんだし…今日はさ、俺もここ泊まろうと思ってたんだ。」
思考を限界まで働かせながらも、クラトスに指差された荷物を振り返れば焦って取りに戻る。
「…ん?…ロイド。」
「なんだよ、クラトス?なんかあったか?」
その時に何故か、無意識の内にクラトスの手を握っていたことには自分でも気付かないまま、不思議そうにするクラトスに首を傾げて。
「えっと、宿は…。」荷物を肩にかけながらきょろきょろと辺りを見渡し始めたロイドの手を引いて、クラトスは無言のままに歩き出した。
「…あれ。俺、いつ手繋いだんだろ。」
ロイドが今更のことを驚いた様に呟くと、クラトスは相変わらず低くぼそりと返す。
「今さっきだ。荷物を拾う時に私まで引っ張って行っただろう…覚えていないのか?」
「え?…そう、だっけ。なんだか思い出せねぇんだけど。」
繋がれた手の平を眺めながらぱちぱちと瞼を閉開していると、不意にクラトスが指の力を抜いた。ロイドは慌ててぎゅっと握り直す。
「…離したいのならば離せばいいのではないか?」
「なっ、そんなことねぇよ!…このままでいい。っつーか、その…このままがいい。」
離すものかと握った手を見やるとクラトスは苦笑とも微笑ともつかない笑みを浮かべた。
そして、一つ頷くとそのまま歩き始める。
すたすたと先を行くクラトスに歩調を合わせるのも随分と楽になっていた。クラトスが歩くのが遅くなった訳ではない、単に成長したロイドと比べ三年前とは歩幅の差が変わっていたからだ。

何でもない会話をしながら相手にクラトスについて行くと、すぐに宿屋に着いた。
そこで離されると思っていた手の平の温もりは、受け付けを過ぎて鍵を受け取ったその後も継続していた。
宿の一室に入ると、そこが一人部屋であることに気付いてロイドは首を傾げる。受け付けの間中手の温もりを気にしていたせいでやり取りを聞いていなかったのだ。
「あれ…ベッド、一つしかないぞ?」
「ここはお前の部屋だ。」
そう言ってから気が散ったロイドの手を漸く離して備え付けの椅子に腰掛ける。
「あ、じゃあ…クラトスと別の部屋なのか?シングルしか空いてなかったとかか。」
「…いや、私は泊まるつもりがないからな。」
「え…泊まんないって、すぐどっか行かなきゃいけないのかよ?こんな、久しぶりに会ったのに…。」
離された手を眺めながらベッドに腰掛けるとがくりと肩を落として相手を見つめる。
「…一応、これでも野暮用があってここに来たのだからな。」
「用事って、すぐしないといけない事なのか?なぁ、一晩位…駄目か?…沢山、話したい事とかあるし…一緒に居られると、嬉しいんだけどな。」
「急ぐ用事と言う訳ではないが…。」
「だったらいいよな!決まりっ、今日は一緒にここ泊まろうぜ?な?」
ロイドが寂しげに言うと情にほだされたのかクラトスが口ごもる。それを見逃さずに畳み掛けるとクラトスの了承を待つ様にじっと見つめた。
「……駄目か?」
「…わかった、今日くらいのんびりしても問題はないだろう。」
「やった!それじゃあさ、ここ二人で寝るか?ちょっと狭いけど…まぁ、なんとかなるよな。」
現金にパッと表情を明るくさせるとぽんぽんと布団を叩いて半ば決定だと言わんばかりの口調で言って。
「流石に狭くはないか?お前も大きくなったのだしな…私が寝なければいいだけの話だ。」
「そんなの駄目だっつーの!大丈夫だって、二人くらい寝れるだろ、くっつけばさ。」
「…いくらくっついたとしても、窮屈だと思うのだがな。」
「ほら、そう言うなら試してみればいいだろ?まだ寝るには早いけどさ。入んなかったら今から部屋変えればいいんだし。」
「…そう言う問題でもない気がするんだが…。」
「なんだよ、クラトスは一緒に寝るのがやなのか?」
ロイドとの攻防を続けていると、結局押しの強さに負けて椅子から腰を上げた。狭い狭くないはともかく、嫌だと思う訳がないのだ。
「よーし、じゃあ俺こっちな。」
「いや、私が通路側に居た方がいつでも対応出来る。お前は壁側に…。」
「いいんだよ、俺だって前とは違うんだぜ?ちゃんとクラトスのこと守ってやれるっつてば。」
ロイドの言葉に思わず頬を綻ばせると、クラトスは陣取られた外側を割けて仕方なく壁側に寝そべる。
「うわ、狭いな…前はこんなじゃなかった気がすんだけどな。」
「…それだけ、お前が大きくなったのだろう?まだ成長期なのだからな。」
ぎりぎりまで壁際に身体を持っていきながら横を向くとロイドと目が合って何気なく笑いかける。
「じゃあ、もっとくっつこうぜ?寝れないことはないみたいだけどさ。」
クラトスの了承も待たずにロイドも横を向くと抱き付いて距離を縮める。
「…へへ、これなら平気そうだな。なんか、今日寒いからこの方が温かくていいし。」
「……そう、だな。」
ロイドに頬擦りまでされると流石に驚きながらも表には出さないままクラトスも背中に腕を回して抱き締める。
「…クラトス、久しぶりだな。」
「それは先程も聞いたばかりだが。」
「違うよ、そうじゃなくてさ…こうやって、ぎゅってすんのが久しぶりだって言ってんだよ。」
「ああ…それは、そうだな。」
以前にも似た様な状況があったことを思い出したのか、クラトスは微笑を湛えたままで頷いてみせた。
「なぁ、クラトス…三年ってさ、長いんだな。」
「…私にとっては、時間と言うものは問題でもないのだがな。お前よりも、ずっとずっと長い月日を送ってきたのだから、概念が違うのかも知れん。」
ロイドの頭を撫でてやりながら既に人間としての生ではないのだと改めて実感する様に言った。しかし、クラトスの言葉はまだ続く。
「だが…お前の成長を見ると、長いものだと感じるな。」
「いきなりこんなに背とか伸びててびっくりしたか?」
「…ああ、少しはな。」
ロイドは自分の成長ぶりを楽しげに話すと、抱き付いていた位置を少しだけ低くしてクラトスの胸に額を当てた。
「俺はさ…長かったよ、クラトスに会えないのは…長かった。」
「…そうか。」
「だから、だからさ…これからは…。」意気込んで口にしようとするも、ロイドの言葉は半ばで止まってしまう。
言っていいものなのか、言って叶うものなのかが解らないからだ。
「これから、か…まだ一人で旅をするのか?」
クラトスが問い掛けるのに複雑そうな表情を浮かべながらロイドは顔を上げる。
「なんつーか、もうそろそろ…一人旅は寂しい、かな。」
「ならば、誰か誘えば良かっただろう。お前になら、ついて行くと言う者も居たのではないか?」
「…うん、まぁ、そうなんだけどさ。でも、俺は…。」
間近に見える鳶色の瞳を見据えて、ロイドは決心を決めた。
「俺が一緒に旅して欲しかったのは、クラトスだからさ。…だから、誰も誘えなかった。クラトスじゃなきゃ、嫌だったからさ。」
「っ…そう、だったのか。」
不意を衝かれたクラトスは一瞬目を見張るも、すぐに冷静な表情に戻る。
「でも、クラトスにはやることがあんだろ?だから、誘えなくてさ…それなのに、ずっと後悔してたんだ。」
「…私を誘わずに居た事に、か?」
「…うん。一人が寂しいとかじゃなくて、クラトスが居ないのが寂しかったからな。だからさ、今日…改めて言うよ。」
ロイドはにっと笑うとクラトスを見つめたままで言った。
「俺と一緒に行かないか?今はさ、エクスフィア回収すんのに色々情報集めたりしてんだけど。やっぱり…クラトスと一緒がいいんだよ。」
真剣なその表情にクラトスが少しだけ迷った様に視線を反らした。本来ならば、己の使命を果たすのが最優先であることを理解しながら、心のどこかでずっと気になっていたのだ。だからこそ、今日はここへと来てしまった。顔を合わせる為ではなく、様子を見る為だけに。
「…クラトス、駄目か?…駄目でも、仕方ないけどさ。仕方ないけど…出来るなら、俺は一緒に居たいから。」
「少し…。」
「…ん?なんだ?」
クラトスの唇から小さく漏れた言葉に耳を澄ませながら問い掛ける。
「…少しくらいの時間なら、割けなくはない。私にとっては…時間など、余る程にあるのだからな。」
「ほ、本当か?本当にいいんだな?…あーっ。もっと早く言うんだった…。」
満面の笑みのロイドを見ると、優しげな微笑みを浮かべてからクラトスは腕の中の温もりを抱き締めた。

この笑顔を側で見て居られる少しの時間くらい。
どうか、見逃してほしい。
少しで構わないから、見逃してほしい。
それ以上は望んだりはしないから。

ただ、側にいるだけで。



―・―・―・―・―・―・―・―
言い訳みたいな後書きだったり。

久々のロイクラですが、ロイクラな気配よりもクラロイではないかと思われるやも知れませんな(苦笑
これは見るからに解って頂けるとは思いますが、ED後捏造編です。
しかも三年後というおまけつき。この世界で成人が二十歳だとは限りませんが(苦笑
ロイドは一人でエクスフィア回収の旅をしている設定で、どうやって知ったのかクラトスが偶然を装ってやってきた訳です。
パパンは心配だったのでしょうね…(遠い目
だるだるなお話展開ですが、ほのぼの路線ならたまにはこんなのも許してやって下さいませよ。

2007/2/20


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