未来の仕事(1)
●今回は『未来の仕事』(ジェイムズ・ロバートソン著:小池和子翻訳)を紹介する。本の帯には次のような簡潔な紹介が載っている。雇用から<自身の仕事へ>--雇用が主要な仕事の形態ではなくなる脱産業時代の仕事と暮らしを展望して、パラダイム・シフトを迫る予言と提言有給・無給の自身の仕事、自己雇用、保障基本所得、SHE未来、コミュニティ・ビジネス、非公式経済、マネー機能の縮小、仕事と遊びの重複etc.●この訳本は、小沢修司さんの『福祉社会と社会保障改革:ベーシック・インカム構想の新地平』が出版(2002年10月)される14年も前(1988年2月)に出版されていたのだが、この当時、日本の研究者達はベーシック・インカムには関心を示さなかったようだ。●NHKが1999年に放映した「エンデの遺言」及びNHK出版の『エンデの遺言:根源からお金を問うこと』(2000年2月に出版)が地域通貨・エコマネーブームを引き起こしたことと比べると全くと言ってよいほど無視されていたようだ。NHKというマスメディアの放映の影響と思うが、今はそのブームも去った。社会保障制度の行き詰まりの中で、むしろベーシック・インカムの方が話題になっている。●以下に翻訳されているジェイムズ・ロバートソンの著書(原著)を出版年次順に掲載しておく。「未来の仕事」以外は、既にこのブログで紹介済みである。■1985年未来の仕事ジェイムズ・ロバートソン■1998年21世紀の経済システム展望ジェイムズ・ロバートソン市民所得(BI)・地域貨幣・資源・金融システムの総合構想解説ブログ:経済の改革:千年紀の挑戦(1)■2000年新しい貨幣の創造ジョセフ・フーバー/ジェイムズ・ロバートソン市民のための金融改革銀行の信用創造機能を無くし、政府が通貨発行権を取り戻せば、環境、社会的公正、経済成長の3つを同時に達成できる解説ブログ:銀行通貨と政府通貨●『未来の仕事』の内容は書名のとおり未来の仕事や雇用に関する叙述が大部分を占めているが、このブログでは、所得や財源に重心を移して書くことにする。●未来社会の姿として「ありうべき3つの未来」があるとしている。通常のビジネス<仕事>完全雇用が回復できるし、雇用が仕事の支配的形態のままだろう。その他の活動(たとえば家事、家族の世話、ヴォランタリーな仕事)はひきつづき低いステイタスにあるだろう。若者のための教育と、成人のための仕事と、老人のための引退のあいだには、依然としてシャープな区別があるだろう。<金銭所得>有給の仕事がひきつづき、第一の収入源である。社会は、この基準にはずれる人びとに基本所得を支給しつづけるが、そうした人が「労働年齢」にあれば、やはり例外者の烙印を押すだろう。HE(Hyper-Expansionist:過剰拡大主義の)<仕事>完全雇用は回復されないだろう。必要な仕事はすべて、オートメイション、そのほかの資本集約的テクノロジー、スペシャリストのノウハウに支えられた、専門職とエクスパートという有能なエリートによっておこなわれるだろう。その他のひとは働かない。彼等は働く少数者によって供されるモノとサーヴィス--余暇、情報、教育サーヴィスを含む--を、ただ消費するだけである。社会が働くものと徒食者とに分かれるだろう。<金銭所得>有能な労働者エリートが、高い報酬をうけるだろう。このシナリオの提出者達は、まだその他の各人がどんなチャンスで収入をうけとるかを示していない。全生産の国有化後の配当からだろうか? それとも下僕みたいな職種からの賃金としてだろうか?SHE(Sane,Humane,Ecological:正気で、人道的で、エコロジカルな)<仕事>完全雇用は回復されないだろう。有給雇用以外にも、多くの価値ある活動形態があるように、仕事が再定義されるだろう。有給と無給の仕事が、たとえば男と女のあいだで、もっと平等に分かち合われる。パートタイム雇用が普通になるだろう。人びとの境遇と好みに応じて、種々の働き方のパターンが可能になる。世帯と近隣が、職場、生産センターとして認知されるようになる。若者も老人も、価値ある仕事の役割をもつだろう。仕事と余暇が重なり合っているだろう。<金銭所得>社会がすべての人に権利として基本所得を支払い、ひとは自分の時間を有給と無給の活動にどう配分するかを選べるようになるだろう。それに上積みする所得を稼ぐので、このエクストラ所得を必要としない人びとは、それを税金として自動的に返却することになるだろう。雇用は、産業社会と産業時代が仕事を組織した方法である。それ以外の社会や、歴史のそれ以外の時期においては、仕事がそういうしかたで組織されたことはない。HE及びSHE未来観は、どちらもこうした想定(通常のビジネスが想定している)は時代遅れだと信じている。彼等はどちらも、これからの10年ないし15年に見込まれる高水準の失業が、完全雇用が過去のことになってしまうであろう新しい仕事秩序への、移行をマークするだろうと信じている。彼等はどちらも、そのときにはもはやおおかたのひとにとって、その金銭所得を、職からの賃金またはサラリーのかたちでうけとるのがノーマルでなくなっており、国家からの定期給付をふくめて別の方法で金銭所得をうけとるのが、正常な状態とみなされるようになるだろうと予見する。彼らはどちらも、これが無条件の生計所得ないし<保障基本所得>(GBI)の形式において、現行の個人給付システムの拡大と、その個人税システムの統合をみちびくににちがいないと信じている。すべての市民が、そのときには、国家から充分な非課税基本所得をうけとり、またもしそのひとがそうしたいと思うなら、これにプラスする課税所得を上積みする自由を認められているだろう。●ロバートソンは、当然、「通常のビジネス」の未来はありえないという見方であり、「HE未来観」については批判的である。