2008/10/07(火)14:42
60歳のヌード
昨日Yさんが念願だった60歳のヌードを撮影にいらした。
たぶん、何故その歳でヌードなのか,不思議に思う人も多いだろう。
Yさんは、けして派手ではなく、どちらかと言うと品が良い親しみやすい
中年のご夫人だった。そんな彼女が「こんな歳でも裸の写真を撮ってもらえますか?60歳になったら撮って頂きたいんです。」と2年程前にスタジオに相談にいらしていた。
6年前ご主人は子供3人を残し、定年まで1年というところで、亡くなった。
喪失のショックは大きく、毎日ご主人を思い出しては涙されていたのだろう。
ただ、好奇心おう盛なYさんは、ただへこんでいるだけではなかった。
裸の写真を撮る事も、自分を奮い立たせる契機にしたかったのかもしれない。
最近はドラムも習っているそうだ!
2年が経ち、いよいよ撮影となった時、Yさんは問わず語りに僕に言った.
「もうこんなおばあさんになって、だれも私の裸なんか見たいとは言わない
でしょう、、、。もちろん私の裸を見たのは今まで主人一人しかいません。」
「20代の時の裸も、50代の時の裸も、主人は知っています.でも、今は
誰も見てくれない,,,,,,」
Yさんは感極って涙を流し、メイクルームに化粧直しに入って行った。
僕達が大事な伴侶を亡くしたときの重さを想像する事は出来ても,それはたぶんステレオタイプな感情に陥りがちだが、この時僕がYさんから受けたシンパシーは、生身の人間の、ある意味美しい業のようなものを感じさせた。
そして出来上がったのがこの作品。夫婦、親子、喪失、希望、男、女、生、死、そんな人間の歴史というものが、一本の皺、すこしだけたるんだ乳房や、出産した三人の子供達の記憶を刻んだ妊娠線にいたるまで語っているような気がして、僕は久しぶりに鳥肌が立つ感覚を味わった。
Yさんが娘時代だった頃、杉山吉良氏が太田八重子さんという、健康で明るいモデルを使った、素晴らしいヌード写真集「賛歌」が出版された。彼女はそれを見て、私だって負けてないわ!と思ったそうだ、もちろん素人が裸の写真を撮るなどということを許さなかった時代、彼女はそれが実行出来なかった事を今も悔やんでいた。
そしてYさんの夢は60歳になって叶った。彼女はこれからも積極的に、明るく、幸せに満ちた人生を歩むに違いない。
プリントが終わり、僕はYさんに、ブログやHPに作品を載せても構わないかお訊ねすると、にっこり笑って、本人と解らなければ、どんな用途にもご自由にお使い下さいと言って下さった。
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