第4章―リコリスの約束1「・・・・・私には、ラクスという人間が理解できないからだ」 それなりにコーディネーターの中でも立場があり、ラクスからも信頼されていた。 「シン・アスカ、君には彼女がどう見える」 変えたのはラクスのおかげだが、父の理想を継ぐ、戦争を嫌う勇敢な女性、大した女性。でも、彼女の代表の道は楽ではない。 「冗談じゃない」 スタートがキラとの抱擁。それを見ていたものは、彼を軍に入れること、ラクスの傍にいることを嫌がった。 「正気か、貴方は、この国を混乱させる気か」 「そうです、それの代表の人気を下げる可能性も」 「あいつが俺の甥を」 「戦果はすごいだろうよ、だがもうあいつのせいで死んだ者の気持ちは遺族の気持ちは」 議会の代表は当然の反応をした。 「それでは、貴方達はどうするつもりです」 「キラ・ヤマトはオ―ブの人間、カガリ代表に委ねるべき」 「そうだ、ラクス様はあのものとはあくまで個人だけの関係でとどめるべきだ」 「彼自身ももうそういうことを強要されるのは嫌なはず」 「アスタールも貴方に協力する、昔の友を頼るのは止めるべきだ」 その言葉がレンの心にカチンと来た。 「ちょっと、レン」 「いいかげんにしないか」 将隆はいささか、MSについて、疑問を持つ。 世界はもっとハッピーにすべきだ。 一見お気楽なようで、まあ性格も能天気だがその背景にはオ―ブではなく、大西洋連邦、自分の祖国もあると思う。堅苦しくて息苦しくて、ついでに悲劇のモードが付きまとう。 ナチュラルが多く存在する世界は、まあ、変化がない。 量産型の赤いザク、地球連合さんのMSを平和の式典でもある会場の地下に・・。決起させるため、父は本気で言っているのだろうか。 これは連合に対する反乱ではないか? 空に浮かんだ虚ろな三日月に捕われたのは誰? 「・…ああ、いやな月だ」 地球連合の駐屯軍から買収したストライクガンダムを亜熱帯やアジアを本拠地としたナチュラルのレジスタンス「暁の刃」は買い取り、現在故郷を取り戻すべく戦っている。キラ達が立ち上げた地球統合、通称平和の騎士に降伏を望まれたこともある。だが世界は地球連合やザフト、そのトップでできているわけではない。 停戦、自分の家族を殺したものと愛し合え? 彼らは守ると言いながら、その実、所属する国の民の気持ちを後回しにした。オ―ブショック、ミレイの母は目の前で父をうしない、友達はコーディネーターに殺された。生まれるはずの妹はスでのこの世になく、爆発とMSを映像で見ただけで母は今でも悪夢にうなされる。 祖国はミレイ達の家族を命だけは助けた。だが多分オ―ブが今後危機にさらされても自分は助けにいかない。 「シン!」 ぱぁっ、と可愛らしい表情で妹分のルティカがMSのコクピットから顔を出した。 「ルナ姉さまも」 「ただいま、ルティカ」 アウルはその日、荒れ果てた山中の小さな集落にいた。険しい岩山に囲まれた都市のいさかいとは無縁の辺境の村。ドイツの黒い森にも程近いその場所ではリコリスの花が咲き誇っていた。 「ただいま、母さん、ステラ」 オレンジ色の花が置かれた石の墓。ここでファントムペインということを知り、自分は地球連合に体を人生を奪われたのだ。わずか四年前が昨日のことのように思い出される。紅の使徒、赤い衣の狩人に、また人生を否定されたのだ。 「言わないでくださいね、先輩」 「ナイト・・・」 「これは地球統合組織と僕の一騎打ち何です」 「でも出撃して勝てるわけがない」 レンは心配そうな声をあげる。 「お願いします」 「まったく自分と向き合うのは難しいな」 「全くね」 「まじめで頑固なところがいいところだよ」 地球連合の女性士官の話である。 「なぜ、皆と同じでいちゃいけない」 ブルーコスモスの少女はザフトに叫ぶ。 人は己以外といることで測る。 だが――。 皮肉か、矛盾するものか、他者といることが。理解し合えないものがいる。 違っていていい、あの子はあの子、俺は俺。 焦りと不安。 希望と絶望。 同時に手に入れば、何の不安もない。常に穏やかだ。 「お前さえいなければ」 「くそっ」 「よくわからないんです、そういうの」 ラクスがえ、と顔を上げる。 「私はずっと紛争の中で生きてきたので」 自分はファントムペインで、コーディネーターは敵で。戦争が終われば活躍する場はない。 「貴方達はなぜ、母国にこだわるんです?」 「ティーアったら、また無茶をして」 「うるさいわね、いい~けがの手当てしてよ」 「はいはい」 「少しは考えてから行動しろよな、大尉の部隊が救援に来なかったら死んでたぞ」 「う・・」 「本国のおふくろさんに笑われるぞ」 |