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ruka126053のブログ

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第三話地上の星


自分を笑っていたのか?
アリスは。
自分を同情していたのか?
あいつは。

まっすぐで単純。それが俺だった。

「ひまわり畑行きたいな」
髪をそろえていく。
「ああ、スペイン」
「情熱の俺の故郷だ」
性格には父のだが。
アリスは初恋で素直になれない俺はからかうしかできない。
「いつか行こうぜ」
「いいわね」
「三人で?」
「いや、他の兄弟もだ」
笑い声があって、いつも同じメニュー、近所の誰かに怒られて、いたずらして。いつか金持ちになって、家族みんなで幸せに暮らしたい。強い男になりたい。
「でも、僕、吸血鬼だし」
「傘差せばいいだろ」


ある国に、たくさんの兄弟と優しい王様やお妃さまと幸せに暮らすお姫様がいました。固くて、とても冷たい、居心地のいい柩の中で、穴の中でお姫様は大好きな王様とお妃さまを悲しい事故で失い、そのしに悲しみ、深い悲しみに包まれて寝ていた。王子様の迎えを待っているでしょうか?
世界が不幸に満ちていることを悲しんでいるのでしょうか?

時計の中で狼が通り過ぎるのを待っているのでしょうか?

勇者様が悪魔を倒す日を待っているのでしょうか?


お姫様は大事な宝石を探しに海へ、山へ。王子様を探しに砂漠へ谷へ。けれど見つかりません。
けれど気づいていないのでしょうか。

本当の宝物は、大事なものは背中の後ろにあることを。

ドレスや華やかな宝石ではなく、甘い王子様の言葉ではなく。

本当の宝物は、呪いを受けた小さな弟王子だったことを。

本当にお姫様を食べようとした悪魔は、本物の悪魔だったのでしょうか?


悪魔は、お姫様と同じように泣いていなかったのでしょうか?残酷で卑怯なだけだったのでしょうか?
お姫さまは百年、宝石を探しました。
本当に落としたのか、自分が倒した悪魔が本物の悪だったのか、

愛を求めるのはお姫様の方だったのか、救いが必要だったのは、


疑問を浮かべるのにあと何年――?


二年前、アリス9歳。
彼らは比較的若い司祭とシスターで、孤児たちは親のように思っていた。
山で起きた落盤事故。
不幸な事故だった。
それを知らされたのは、手術を受けて帰ってきて三ヶ月後。夏に差し掛かるころだ。包帯まみれの顔からは平凡な顔が見える。
「・・・・・にしてるの」
午後の二時。その日は雨が降っていた。風も強い。金色の髪は絹糸のようで細い。長いまつげ似は涙の粒がたまっていて。
「私は世界で一人きり・・・だあれももう愛してくれないの」
青い瞳はサファイヤの宝石のようで綺麗で。
「姉さん・・・」
「世界は真っ暗なの…だから、もう見ないの」
深い悲しみが眠る彼女を包み込んでいて。
「世界は怖くて悲しいから、私は・・・」


「優しいものだけ見ていたい・・・・」
エプロンドレスの孤児院の服に身を包んだ少女は世界から拒絶されていた。


それはまるで、自分自身のように見えた。・・・・あんなにきれいなのに。
手を伸ばした。真っ白な雪のような、小さな手。
「・・・僕がいるよ」
言いなれないその言葉。
柵の外、違う世界の。一人で食べるパンはおいしくない。一人で歌う歌は冷たい。
「お願い、真っ暗だなんて言わないで・・・」
柩の上に登り、少女の手を握る。
お願い、もう一人にしないで、置いていかないで。
「ねえ・・・さん・・・」
もう…暗いところは寒いのはいやなんだ。
「あなたは・・・」
陽だまりのような彼女が、雪の中の柵の中のような世界にいることはない。
「ぼくが・・・いるよ、ぼくは、・・・・姉さんのおとうと・・・ヴォルフリートだよ、ねえさん、ひとりにしないで、ならないで」
暗い籠の中はいやなんだ。
その手に額を当てる。
許されるなら。
「家族は、ねえさんのおとうと、ぼくだから・・・もう」
ぼろぼろと涙をこぼす。
「怖いものは僕が全部、僕が壊してあげる、もう誰も姉さんを怖がらせないよ」
「・・・ヴォルフリート」
「僕を一人にしないで、ずっと一緒だよ」
その体を抱きしめる。アリスが恐る恐るその体を抱きしめる。





とん、とアリスは隣のもえるような髪のポニーテールの少女に肩をぶつけた。
「ぼーっとしてるんじゃないよ」
「お嬢様」
「ふん」
すると観客の村人が囁く。
「いやだわ、身分が高いからって、鉄道もある時代に」
「貴族ってなんだか怖い」
「何で王様や政治家っていつもふんぞりかえってるんだろう」
「僕、怖い」
何となく、むっとなる。自分が悪いのだ。アリスはどうも階級で人を決めつけるのは嫌いだ。面白くない。
「はぁ・・」
アリスの隣でヴォルフリートがため息をつく。
シャノンが別方向を見ている。この一週間よく見る行動だ。
隣にいる姉さんも不思議そうに見て。
「どうしたんだ」
視界の隅に上物のスーツを着た男性が通り過ぎていく。
「何、今の、気持ち悪い」
アリスは思わずそうつぶやいた。だがシャノンはきらきらしている。アリスは首を傾けた。
「もしかして、私、お姫様なのかも」
「は」
自分はおそらく間抜けな表情をしている。
「お姫様?」
「最近、今のおじさん、よく見るの、私実は分け合って捨てられた亡国のお姫様か、貴族の令嬢かもしれないわ、こっちを確かめるようによく見ているもの」
あはは、と口元が笑う。いけない、応援しないと。
アリスは心の中で拳を握る。
「ええ、そうなの」
アリスが驚く。
「姉さん、それシャノンの妄想だから」
思わず突っ込んだがアリスだって女の子だ。きらびやかな世界や甘い恋には今日ももある。きれいな服もお菓子も。
「何よ、ヴォルフリート!」
キ―ッとシャノンが怒る。
「シャノンの親は農夫だろう」
「駄目よ、ヴォルフリート」
もう、女の子の夢を壊すことを言って。
「違うわ、私は誘拐されて、捨てられたの、誘拐犯に!!」


指先に点灯虫が止まっている。
酷くのんびりした、時間。胸元の十字架。そばかすがある顔をさする。まだ胸に昨夜の院長の話が響いている。ここは湖近くの小さな町だ。蓄えも豊かさもない。小さな施設に教会がくっついていて、税は王族や貴族が持って行き、食べるものも着るものも少ない。搾りとられていく。
「お前、まだ、痛みが頭に残っているのか?」
グンターがヴォルフリートの顔を覗き込んでいる。眼鏡の痩せた少年だ。いつも力自慢のカイルの後をくっついている。
「エリクは?」
「え、あはは」
「また、喧嘩か」
ため息をついた。ったく、短気なんだから。
「また兄弟の誰かが村の子供に馬鹿にされたの?」
「いや、まあ」
ごまかすようにグンターが笑う。
「わざわざ怒らせる事を言わなければいいのに、姉さんも」
「疲れた・・・」
よれよれになって金髪の背が高い少年、ヴィンセントが寄れたシャツを着て、ヴォルフリート達のもとにやってきた。
「御苦労さま、またエリクの喧嘩の仲裁?僕も頼まれるから、君の気持ちわかるよ」
水を差し出すと、ああ、有難うとお礼を言われた。栗色の巻き毛とリボンの9歳くらいの少女がエプロンドレス姿で助けを求めるようにかけてきた。
「ヴォルフリート、たすけてくださーい」
「待ちなさい、このおてんば娘」
パン屋のおかみがカリーヌを追いかけてきた。カリーヌはあわててヴォルフリートの後ろに隠れる。
「カリーヌ、君はまたヴォルフリートを味方につけて」
「ヴォルフリートは私に優しいからいいでしょう」
べーっと舌を出す。
「ヴォルフリート!」
「仕方ないなぁ」
へらへらと笑う。
「本当に君は甘いんだから」
ヴィンセントが声を荒げる。


                       2
「自由を兄は叫んだだけ」
オフィーリアは、ハンガリーで帝国軍のマクシリミリアンに叫ぶ。
「お前の兄は恐れ多くも皇帝陛下に剣を向けた、十分な罪だ」
「違います、兄は私と母を助けるために」
卑怯にも助けるといいながら、仲間を軍は。


丘の上から村を湖を見るのはアリスは好きだ。
「また、ぼーっとしてる」
「変わった子よね」
村人の若い主婦がそうつぶやき、通り過ぎていく。
「アリス、行くぞ」
「エリク」
アリスは振り返り、迎えに来たエリクの元へ駆け寄る。

「また追いかけられたの」
「仕方ないな」
「ほら、こっちへ」
孤児院の中にヴォルフリートが入っていく。
「失礼、お嬢さん、君、あそこの孤児院の子かい?」
紺色に炎か、木のようなデザインのものに蛇のようなものがからみついている紋様。高級な素材の布だった。
「え、ええ」
シャノンはついシャン、としまう。もしかしたらもしかしたらなのだ。自信を持って、優雅に微笑む。
「それでは、こんなデザインの布切れを持った子が君の孤児院の中で子供たちの中でみたことないかな」
黒い帽子、黒いスーツ。怪しい。
「あれ、でも、そのハンカチ」
アリスははたとなった。
「何?」
ヴォルフリートは困ったようにアリスを見る。
「ねえ、ヴォルフリート、前ーー」
「はい、はい。私、見たかもしれません!!」
シャノンが興奮して、アリスを突き飛ばした。
「いたっ」
「あんたは教会の掃除あるでしょう、下がってていいわよ」
「シャノン、その人は誰です?」
アリスと変わるように、あわててシスターがやってきた。
「――?」
アリスは冷静なシスターらしからぬあわてぶりに首を傾けた。




パシャ、と視界の隅でカメラのようなものが光を放った。珍しい、ほかの町や村からできた人ごみの中、ヴォルフリートは姉達のもとに向かう。中には遠くから来た旅行者らしい、綺麗な服の親子連れもいた。退屈そうに少女があくびをしている。
「ヴォルフリート!」
目の前に可愛い笑顔でアリスが親しげにかけてくる。
「うわっ、びっくりした」
「何よ、顔を真っ赤にして・・・」
じーっとアリスが見る。か、可愛い。
いや、姉だ、家族だ、冷静になれ、自分。
「ええと、人が多くてあがってしまって」
くすりとシャノンが笑う。
「だらしないの」
「僕は繊細なの」
嫌な子だ、そんなに自分より賢いのを自慢したいのか。
「ふんふん♪」
「?機嫌いいね、姉さん、シャノン、いいことなんか会ったの?」
ヴォルフリートがアリスの肩に手を置いて、聞く。
「・・・・例の王子様よ」
「ああ、黒服の怪しいおじさんか」
また、妄想、自意識過剰か。
「仕方ないなぁ」
アリスもため息をつく。
「本当に探しているんだろうけど、シャノン、もしかしたらあのおじさんの勘違いかもよ、あなたの話じゃ、10歳か11歳の子供を探しているくらいしかわからないし」
バラが咲いた。うっとりした顔で。
「シャノンさん、僕とデートを」
「うちの娘に!!」
シャノンの美貌にひかれた男子達が、大人がヴォルフリートを突き飛ばして、
「どけよ、チビ」
「邪魔だ、ガキ!!」と馬鹿にした表情で言い放って。
「いてて、何するんだ」
「シャノンさーん」
もう聞いてはいなかった。
「大丈夫?ヴォルフリート」
アリスがヴォルフリートを優しく抱き抱えた。
「有難う、姉さん、もう。なんだよ」
「酷い人たちね」
僕のために姉さんはやっぱり、いい子だなぁ。
「ほう、君も」といって可愛いといってみた後。なぜかアリスはやさしくよけて、シャノンのもとに向かう。
「私の美しさは罪ね」
ああ、悦に入っている。
「う・・・」
姉は羨ましそうに
「シャノンって、ナルシストが入ってるよね」
といって、僕はたじろいだ。
「いつもながら、きつい」
「貴方、人見知りだしね」
そして、そのあと。
「自分の顔が好きなだけよ、アリスも黙ってれば凄く可愛いわよ」
「そうかなぁ、まあ、私も・・・って、違う、私はヴォルフリートのお姉さんなの!」
「姉さん、照れているのか、怒っているのかどっちかにして」
ぎゅううと抱きしめてくる。柔らかいにおいが感触が背中に。なぜだか罪を感じて、あわてて離れようとすると、アリスも気づいたのかますます抱きしめようとする。恥ずかしい、甘いにおい、というか、僕こんな可愛い姉さんに愛されるようなキャラではなく、ええと、なんだなりたいけども、本当は本当は化け物でへたれですし。自分は何言っているんだ。何か、方向転換、転換を。そうだ、シャノンだ。
シャノンもそんな、笑顔で見ないでぇ。
「玉の輿のるのがシャノンの夢だっけ?」
あわてて、もう、というアリスを息を乱しながら話して、シャノンに話しかける。全く姉さんは、もう。
「そうよv食事に困る、服だって数えるほどの暮らしなんて私に似合わないもの」
まあ、シャノン美人だし。・・その気になるのはわからなくはないが。
「何よ、ヴォルフリ―ト」
シャノンは思わずムッとした表情になった。
「いや、別に」
ごまかすように笑う。
「ヴォルフリートは繊細なのよ、そんなに強く言わないの」
「あんたっていうもそうよね、いつもアリスにかばわれても」
「だって、だって、喧嘩はだめだよ」
僕は喧嘩が嫌いだ、血も。路地裏で一人で見上げた記憶。空腹も。父さんさえ暴力に負けて死んだ。だから喧嘩は嫌いだ。
「!」
始まりの太鼓の音にアリスは表情をハッと変えた。
明るく軽快な音楽に、皆を笑わせ人間離れした技を見せるピエロ。
異国のものという証の褐色の肌の若い歌手が歌う悲恋の歌。
散らばるライト。
「うわぁぁ・・」
唱が好きなアリスにはそれらがすべて輝いてるように見えた。こうなったら、もう、アリスはその瞬間周りの声が聞こえなくなっていた。
はぁぁ~と、天を仰ぐようにシャノンは顔に手を置いた。

・・一回こうなると、アリスこっちの世界に戻らないんだよな。

泣いた後、また同じセリフをハンカチを差し出しながらそういった。
「・・ヴォルフリ―ト。高い身分の人間に近づける気品、容姿一つも持ってないからってやっかまないでよ」
根はいい子なんだけどなあ。
「何でシャノンはそんなに金持ちや貴族様にあこがれるのさ?」
素朴な疑問。
「じゃあ、あなたは偉くなりたくないの」
こっちもそうらしい。
「男なら馬鹿にした連中を見返したいでしょう?貴方、根は卑しくないもの」
「まあね」
「私、本当に偉くなりたいし、それに食べ物だけで人生が回るのがいやなのよ、少しでも夢を見たいじゃない、誰かを見下してみたいじゃない?」
シャノンが少し真剣な表情になった。
「私可愛いし、本当はあがめられるべきだもの」
「うーん、わからなくもないけど、生まれてこの方、金持ち連中は怖いし近寄りがたいし、僕の章には優雅とかいい暮らし会っていないし、できればそこそこ稼げて、可愛い奥さんに一軒家に命の危険がない、退屈な日常がいいなあ、貴族とか王族は絶対に僕だと本当に縁がないだろうし」
「本当にあんた、駄目なやつね」




                  3


「早く売ればいいのにな」
ものの価値がわからないヴォルフリートはペンダントをシャツの間から出しながら、見ていた。
「しかし、なんでこう無意味にごてごて、細かくしてあるんだろう」
どうせなら、ボールとかエリク達と遊ぶものがいいのに。
「カードの方がいいかな」
湖近くを、迷子になったという姉を追いかけて、ヴォルフリートは歩いていた。隣をアリスが歩けば。シャノンが歩けば、二人とも美少女だ、どうあっても目が行く、エリクやカールは力自慢で、ヴィンセントは村で一番頭がいい。カリーヌやマルガリータは愛嬌がいい。エマは計算が早い。
「いてっ」
何もないところでヴォルフリートはこけた。くすくすと村の主婦が笑っている。
「ばかだなぁ」
「また、のろまの馬鹿がこけてるぞ」
「本当にとろいなぁ」
軽く痛む頭を押さえながら、洗濯日和といった感じの、退屈なほどの緩やかな時間が流れる森林に囲まれた空間の中でダークブラウンの髪が揺れる。
ちゃり。
ペンダントが地面に引っ掛かっていたのでヴォルフリートはあわててひろいあげる。
「くそっ」
エリクと歩けば、ついていくのも遅い。これといって得意なものはない。人間何か得意なものはどんな馬鹿な人間でもあるものだが。
パタン。
後ろで物音がした。でも気にせず、
「姉さんを見つけなきゃ」
立ち上がろうとした時、イベントの帰りだろうか、旅行者らしい女性が連れの女性と共になぜか自分のもとにやってきた。香水の香り、絹だろうか、綺麗な服に身を包んで。
「お客さん、やめた方が、そいつ孤児ですぜ」
するとい印象的な瞳が男をとらえる。迫力に男は動けなくなるようだった。ヴォルフリートも肩を揺らした。
「貴方、大丈夫?」
・・・それこそ、僕に貴族や金持ちは遠い世界で、遠い何かで関わることない。年は18歳くらいだろうか。薄紫のまとめた髪、女神のようなほほ笑みは薔薇のように華やかで。
「あ・・・」
かぁぁとなる。急に土まみれの汚い自分が恥ずかしくて。手を出すのをためらっていると、白い手がともにいる女性の制止も聞かずに以外にも力強くつかんできて、耳元でささやかれる。
「-----、明日私と逃げましょう」
心臓がつかまれた感覚に襲われる。柔らかい少女の笑みからにっと、獲物を得た戦士のような、どこか俗吏とさせる笑みをうかべて。
「・・・・え」
顔をあげると、少女はヴォルフリートの顔を拭き、笑顔を向けて、足早二その場を去っていく。
「お嬢様っ」
まるで貴族の令嬢が来ているような高価なドレスに身を包んだ本物のドレスを着た少女。
「・・・・・・・何だ、今の人」
しかし、茫然としていたのは数分のことで興味がないことにはとことん興味がないヴォルフリートはすぐに金持ちの気まぐれかなと切り捨て、少女の美貌や優しさのことを忘れて、姉のことで頭をいっぱいにした。
なぜなら彼にとって、「特別」で「お姫様」で「世界」なのはアリスであり、現実の本物の権力や富、美人はあくまでその二番手であり、彼の好みはそういったものはたまに楽しむ程度であり、豪華なフルコースよりやすいぐみや雨、皆とする畑仕事、鬼ごっこだった。憧れはするけど、手近の小さな庶民性が彼にとってのセカイだった。


ドン、とシャノンにまっしぐらなカールに突き飛ばされた。
「待てよ、アーディアディト!」
「うるさいな、ついてこないでよ」
痛む頭を押さえながら、
「エリク~」
と恨みの声をあげる。
「やめなよ、はじかれたり、ひどい扱いを受けるのはいつものことだろう」
「ヴィンセント」
「やっぱり人間、心だといっても皆美しいものを優先するよね」
う、となる。
「僕ら、地味だしね」
「それはそうだけど」
「歩いてイド、扱いが酷いのは覚悟しないと」
笑いながら、ヴィンセントはいう。
「えー。それって、最初から負けを認めるってこと?」
「優等生の姉を持つと大変だよね」
「…まあ、姉さんだから」
また、何か問題起こさないといいんだけど。アリスを見ながら、ため息をつきながら、そばかすのある鼻をさすって、つぶやく。

「ヴォルフリート」


若いシスターがいきなり後ろに立つ。
「はい!」
「呼ばれた時は静かに」
「・・・はい」
めが迫力でヴォルフリートは肩をうなだれる。
・…怖い。
茶髪の涼やかな女性だ。ヴォルフリートは目が付けられているらしく何かと目の敵にされ、注意してくる。
「それじゃあ、ヴォルフリートは水汲みに」
「はい」
戻ってきたエリクが乱暴に扉を開けて、ちえっとつぶやいて、部屋に飛び込んでくる。きょろきょろとみると、ヴォルフリートの姿を見て笑顔を浮かべる。
「よう、ヴォルフリート、仕事ないんだろう、鬼ごっこしようぜ」
ぱぁっ、と表情が明るくなる。
「鬼ごっこ?うん、行こう行こう」
目をキラキラさせて、カイルのもとに向かう。
「ヴォルフリート」
シスターヒレイが強くヴォルフリートをいさめた。
「ヒスイ先生って、お前にだけきついよな」
「うん、なんでだろ」
「君何かしたか」
「ううん」

「水汲みに」
冷たく、ピシャリと。
「は、はいー!!」
肩をびくつかせた。


「ヴォルフリート、昨日の君の頼みだけど」
「院長先生・・・」
玄関で呼びとめられた。
「やっぱり無理だよ、君とアリス2人では」
「それは・・・」
院長先生がヴォルフリートの肩を持つ。
「誰もが辛い時代だ、それにわかるね」
「・・・」
「君とアリスは違いすぎる、・・・わかるだろう」
「僕は姉さんのそばにいたい・・・」
「大人になれば君もわかるよ、さとい君ならわかるはずだ」
「馬鹿だから分かりません」


・・・考え過ぎるのが悪い癖だな。
「はぁ・・・」
その時だ。
「えっ、何」
それが飛び込んできたのは。
浮浪者?
服が随分汚れ、随分移動していたのか少女とも少年ともとれる顔が、異国の顔が飛び込んできた。追い詰められた獣のようにギラギラした、不思議な色の瞳。
こんな緊張感を持った瞳をした人間は見たことがなかった。
「君は―」
いきなり、泥だらけの鋭い目つきの少年が飛び込んできて、ヴォルフリートは後左図って、草むらの中に倒れた。腹部に痛みを感じ、少年が乗りかかり、いきなり喉元にナイフを突き付けwられた。
「えっ、強盗!?」
っていうか。
漆黒の髪に東洋人!?
「君、旅一座の残りか?浮浪者?」
ナイフ、ナイフ!!
「危ない、ナイフ下げろよ!」
肩が見えた状態のシャツから見える、切り傷や銃で撃たれたような、やけどの後。以外にも力強い力を出す体は痩せていて手や足は細い。
そして僕はひさしかぶりに見る赤い液体、血が流れる左腕に一瞬目を奪われた。
「そのハムと芋をよこせ!!」
強盗だった。それも同い年くらいの。何でこんなド田舎に外国人がいるんだ?
「え、ええっ」
掃討少年は精神的に追い詰められているのか、叫ぶようにいう。
「さもなければお前を殺すぞ」
少年は真っ青になり、
「出す、出すから、ナイフ危ない!!」
「おい、お前、何して」
長身の男が馬を引いて、駆け込んでくる。
「なんだ、旅人か、母親はどうした」
男はエレクではなく、明らかに茶髪の少年を見て舌打ちした。
「俺は・・・」
「どこのがきか知らないが、そいつは悪魔つきの孤児だ、関わるなよ、呪われるぞ」
東洋人の少年が一度落ち付いて、僕をみる。
「こんな間抜け面が・・・」
あっという間に僕は逃げ出した。昨日といい今日といい、なんでついていないことが続くんだ。
「最悪だよっ」
こんな平和な村で強盗なんて。


                    4


「テレ―ジア様・・」
視界の隅で教育係と皇太后、父親が話していた。祖父の代から皇族に仕えてきた家柄だ。
エリアスはある日の公爵家の穏やかな日々を思い出す。そう、ルドルフと同等と行かなくても規律のような家の中で安らいだクラウド家の友人であり、両親とも親交のあったテレ―ジアとその娘アーデルハイト、妹のオリーヴィア親子と。天国のような光景。
カトリックで、信仰深い。
清廉でおしとやかで、誰にでも優しい。聖女のような女性。
いつもはかなげに、陽炎のように歌を歌っていた。
「おお、エリアスか、エルマーは息災か」
「はい、公爵様」
厳粛で他人にも自分にも規律を求める人であり、一方家族には甘い人。それがエリアすの知るバトラー公爵だった。漆喰の蝋燭立てのシャンデリア、落ち着いた色合いのソファーに囲まれた長方形のテーブル。広い窓辺には彼の前妻との間に生まれた息子2人がいる。テレ―ジアの趣味も反映されているのか、柔らかな色合いのソファーと椅子、小さなテーブルが置かれている。テーブルの上には愛娘のアーデルハイトの白いチェス盤がある。



「ふうん・・・辛いわね」
後ろにシャノンが立っていた。
「シャノン・・・」
うちの女子は後ろから声をかけるのが好きなんだろうか。
「私も狙っていたのに、やるわね」
わざとらしく、悔しそうな表情を浮かべた後、意地悪な笑みを浮かべる。
「あの二人、付き合っちゃうかもね」
にひひ、とヴォルフリートに向かって笑う。
「はぁ!?姉さんに彼氏なんて早い、早い」
「でもいつかはアリスも結婚するのよ」
むうと頬を膨らませる。
「姉さんはしない!」
「シスコン」

青い澄んだ青空、流れる雲、広い野原。
ピンク色の花の花飾りをヴォルフリートがつける。
「はい、姉さん」
「うん、よろしい」
よそ行きの青いワンピースを身にまとい、アリスは上機嫌だった。
「ヴォルフリートは私の弟なんだから何でも言うことを聞くこと」
「えーっ」


「・・・・・はぁ・・・・」
ベッドに赤い頬のヴォルフリートの姿がある。アリスのまぶたも赤く、昨日から寝ていないのがわかる。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「・・・・ねえさん・・・」
「私が遊びに行こうって言わなければ・・・・」
ぎゅっと小さな手を握る。
「いいんだよ、姉さん・・・・」
「ごめんなさい」


「すみません、テレ―ジア、娘のリーゼロッテをこちらで見なかったですか?」
ガラス張りのテラスで花を生けていたテレ―ジアに伯爵夫人、エルザが声をかける。大人しい印象のテレ―ジアとは対照的な活発な雰囲気の貴婦人だ。青や緑ばかり着るので、社交界では碧の貴婦人とも呼ばれ。イギリスにも付き合いがある女性だ。
「見ていないですが、どうかしたんですの」
「ええ、先ごろから姿が見えなくて」
「まあ・・」
きっとアイリスやパンジー、ハーブ、華美な花が咲く庭で娘と遊んでいるのだろう。娘はリーゼロッテと遊ぶのは大好きだから。
屋敷の前では噴水が降り注ぎ、芝生の上では小鳥がさえずりしていた。
「行きましょう、パーシー」
はっはっと白い犬がアーデルハイトの後をついていく。
「もう、待ってよ、アーデルハイト」
青い三角屋根に囲まれた、美しい白い屋敷は広大な敷地、数キロ目と―ルはある広大な庭園に囲まれていた。夕暮れ時になるとまた反対側での川の景色も美しい。幻想的だ。



                       5
                     
「エリク、見つけた~」
間違ったところに出たようだ。
「あれ、いない、なんだ、別のところ出たのか?」
きょろきょろと見渡してもエリクの姿はない。人の気配は感じたのに。
「・・・ここをどうやってきたんだ」
「ん?」
変な女の子みたいな恰好、淡い色の髪。
「大人に今日は湖に来るなと言われなかったのか?」
昨日と似た書類の冷たい瞳は野性的ではなく、よく磨かれたいし、いや冷たい氷のような、宝石のようだった。
「・・・」
そして恐ろしく整った顔。
これは・・・。
「え、ああ、その格好金持ちの子か、使用人はどうしたの?お父さんやお母さんは」

・・・・負けた。

「僕が聞いている」
きつい口調に怯えた表情になる。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
何、これ、何、この生き物。何か半端なく、雰囲気が高圧的で何かライオンみたいに怖いんだけど。なんだよ、これ。
これじゃ、僕、勝負にすらならない。
「立ち去れ、ここは関係者以外立ち入り禁止だ」
「で、でも、君の方が・・・」
「され」
びくり、と肩を震えさせる。

これがあれか、階級によるギャップという奴か。


上流階級、こええ。

「ごめんなさい!」
だからなぜ謝る。
「・・・僕のようなものが、あなたのような身分高い方と、すみません!」
「そんなのは関係ないから、いいからお前は」
「すみません!!」
ア、と声をあげる。すくんでいた少年が涙目で何かに気づく。
「葉っぱがついてる・・」
「な、なんなんだ、あの庶民・・・・」


金色トオレンジが混ざり合う世界で、アーデルハイトがピアノの鍵盤の上で寝ていた。
「・・・」
声をかけるのが遅れる。
「・・・ん、オリーヴィア?」
アーデルハイトが目を開ける。


衣裳部屋でリーゼロッテは後で怒られないかと思いながら、アーデルハイトの後をついていく。
「一度言い出したら聞かないんだから」
「それはリーゼロッテもでしょう、また県が強くなったんですってね」
「それはお母様が、電気が通るかもしれない時代に剣だなんて、エリアスのお兄様と同じ、騎士の家の子だからって」
「才能があるんだもの、仕方ないわ」
「本当は剣のけいこよりダンスを習いたいのにお母様が厳しいの、これからは女も外に出るべきだって」
「リーゼロッテのお母様は孤児院の運営もなさっているのよね」
「うん、だからあまり社交界には乗り気じゃないみたい」
「ついたわ」
古い衣装のためのタンスをアーデルハイトが開けて、ケースを取り出し、開く。
「こら、アーデルハイト、勝手に」
「大丈夫よ、お父様は私に甘いの」
「もう、・・・それは何?」
キョトンとした表情。くすりと笑う。
「貴方のへその緒はテレ―ジアおばさまが持っているのよね」
「これはね、私の双子の兄のものなの」
リーゼロッテが不思議そうに首を横にした。
「・・・・あのお兄様たち以外に、いたっけ?」
「ふふ」
「ばあやが教えてくれたのよ、私には死んでしまったけど、そっくりな双子のお兄様がいて、私と同じところにほくろがあるって」


                  6
ある日、公爵家に一人の少年が現れる。
「テレ―ジア様におあずかり物があるんだ」
「通してくれるかな」
「ええ、わかったわ」
ヘレネといたリーゼロッテはその少年を幼い騎士道精神で通した。
不幸は知らない間にやってくる。
けれど、侯爵家の幸福は長く続かなかった。

「抜け出して怒られない?」
「大丈夫だろう」
「でも、お兄様・・・」
柵の間でアーデルハイトは友人達とアに得外に行こうとしていた。


ドッかぁぁぁ…ン・・・!!


ギリシャ神話のアテナを思わせるデザインの紋章を持った謎の武装集団に、公爵の誕生パーティー会場が襲われたのだ。主義者の言葉に惑わされて、公爵の部下が一夜にして、屋敷を惨劇の舞台に変えた。
「・・・くっ」
「逆らうとどういうことになるか、わかっていただけたか」
「なぜだ」
炎と煙。財宝を奪い合う客達、争う使用人達。
「なぜ、親友であるお前が」
テレ―ジアの胸の中でアーデルハイトは怯えている。
「どうして・・・」
男は銃口を向けたまま、歯を噛む。
「主義者の言葉などに惑わされた、お前の使命は帝国と皇帝一家を守ることだろう」
「・・・・八年だ」
「?」
「八年、貴様が私の妻を狙われるとわかっていたばしゃに乗せて、むやみに国民を奪った八年は長かった」
公爵が目を開ける。
「国民の血税を貴様は自分の可愛さに」
「待て、誤解だ、それは部下が勝手に・・・」

「お前は、私から異能者だと娘を奪った、許しがたい・・・さあ、はけ、私の娘をどこに売った!!」

ゴォォォ。
「大丈夫、アーデルハイト」
「お願い、起きて」
「ん・・・」



憧れていた。守らないと、エマも、カールもヴィンセントも。
エリク・ペッターはその日、教会での惨劇を目撃し、わけもわからず山の中を走った。臆病だと知っていた。
俺は兄ちゃんだから。
そういったのに、殺されていくあいつらを置いてにげたのだ。


エリクが見つめる部屋の中で唐突に現実は姿を変えていく。
「さあ、みるんだ」
狩猟を生業にする男や靴やの男がエリクにその光景を見させる。
裏切り者が誰かをエリクに目撃させるために。
銀色の十字架が長身のその男性の胸元で輝いていた。
「こいつが異能者です」
「証拠に、ほら・・・!」
村の農民がアリスの胸元をつかむ。
「何を!?」
「だまれ!!」
囲んでいる男の一人が叫ぶ。
「ミルクウリのおじさん・・・・」
「昨夜、私の土地ウリのだんなが何者かに殺され、その前には湖で自殺事件があった」
まるで犯人を尋問するような、なぜ疑うようなまなざしを怖い目で自分をみるのだ。昨日まではいつも通り、挨拶してくれtのに。
「あんたたち孤児院にはこんな田舎の孤児院には不似合いの多額の金が毎月振り込まれていた、私たちには内緒で院長は受け取っていた」
20代くらいの女が、ヴォルフリートの頬を叩く。
「やっ!」
ぱしぃぃンという音が鳴り響き、助けを求めるようにアリスをみる。
「ヴォルフリート!」
「助けて、姉さん!!」
手を伸ばし、乱暴する大人からアリスに助けを求める。

「女に助けを求めるなんて、本当に情けない子だね、それにいつも迷惑かける愚図な子!」


また殴る。
「あんたをみるとイライラするんだよ、私の夫は国のために戦死したのに、あんたみたいな役立たずを養っているなんて!!」
「離して、なんで、私たち何もしていない、どうしてしまったの!?いつも、みんなあんなに親切じゃない!!」
冷たい目で村人に一斉に睨まれる、アリスはすくむ。
「あぁ?」
言葉が沈んでしまう。
「悪魔の子!ここは静かな村だったのに!」
「やめて!」
キッ、とにらまれる。
「黙れ、裏切り者!」
スーツケースのようなもののと、ドレス、金で飾られた胸飾りや懐中時計や時計。すべて、庶民には手に入らない特注品だ。
「・・・・これは」
「あんたの家のシスター長が隠し持っていたものだよ、あんたが12歳になったら開封される並びのつもりだったけど」
親子連れがアリスの胸元をみる。
「恐ろしい…それが悪魔のしるし・・・・・」
アリスが?
エリクはこれは普通のことではない、一方的な脅迫、うっぷん晴らしだ。アリスは違っていた。そのことは兄弟たちも感じていた。
疑惑のとげがエリクに刺さる。
「お母さん、あの赤い鳥、なあに?」
胸に何があるのか、とアリスは自分の胸をみると、小さな刻印のようなものがあった。
「これはー」
「他にも何か隠している可能性があるぞ、おい、アーディアディト」
髪を乱暴につかんで、悲鳴を上げるアリスの顔をあげる。
「やぁ・・・っ」
怖い、怖い。院長先生、シスター、助けて。
「院長たちは釣り上げた、ほかに隠しているものがないか、お前が案内しろ」
ナイフがアリスに向けられる。
「釣り上げ・・・、ひっ」
「お前が悪いんだ、この国が貧乏なのも」
暗いよどみがアリスに迫る。
「戦争で負けたのも」
沼の底のように忍び寄る。

エリクは恐怖した。
「あ・・・やめろ」
「みるんだ」
辞めてくれ。
「見たくない・・・」
「みるんだ」

「お前がいるから!!」


「姉さん!!」
身体中の血が引くのがわかる。ナイフを向けられたアリスも目撃したヴォルフリートも、突然の異常な現実に困惑と恐怖、混乱をするのを押さえられなかった。

「やめて、姉さんは悪くない!!」


大人達に取り押さえられていたヴォルフリートはじたばたと暴れ、逃げようとして、腕を引っ張り顔を突き出す。
いけない、このままだと弟まで。
「・・・・・何が望みなんですか?」
声が震えている、今すぐ逃げ出したい。
でも、エリクやヴォルフリート、家族を守らなきゃ。
だって私はお姉ちゃんなんだから。

「無力な子供になんの力もない私を力で脅して、何が望みなんですか」


「何?」
まっすぐな目を向ける。
「院長先生が裏でどんな悪いことをしていたかは知りません、おじさん達の不遇は私も知っています。でも、だからといって、なんでその刃を子供に向けるんですか!!」
「アリス!」
「ガキが聞いたような口を・・・っ」
かぁぁと顔が赤くなり。
「貴方達は卑怯です!!」
腕が振り下ろされそうになる。
「卑怯だ!!」
持っているのは剣で。



「・・・」

自分は多分、アリスを、アーディアディトを守りながら、ずっと彼女の蔭で守られながら生きていくのだと、思っていた。

主人公は姉なのだと。



でも世界はいつだって、僕の関係ないところであっけなく姿を変え、変わっていく。



わき役人生がこの瞬間、表舞台に移る。

祝福は姉のものだった。

ねたみは僕のものだった。
優秀な姉にあこがれる気持ちと、ねたむ気持ち


。きっと重かったに違いない、痛かったんだと思う。
だから僕は光輝く姉さんやエリクを、美しいものと距離をほどほどに取りながら、いつか優しさに返せるように強くなろうと、笑っていようと思った。


いつか姉さんが柩の中から出て、愛した人と生きられるように。



「・・・・姉さん?」
口元の牙、金色の瞳。波立つ金髪の長い髪。背筋がぞくりとなった。周りの村人も強い光に当てられたように動かない。さっきまで粋がっていた男は僕の足元で僕の足をつかんでいた。手元には、飾りものの剣。

姉さんの後ろに隠れていればいい、僕は無責任にこの時までずっと思っていた。
けれど、世界は僕の意思に関係なく、壊れた。

「何で・・・」
ヒュウウウと乾いた風が、幽霊のようにアリスが近づいてくる。頭の中で何かなる。

ありえない、ありえないよ。手を伸ばし、襲いかかろうとすると。混乱している。なんだ、この現実。
この時のヴォルフリートは自分が何者か、人がいとは知らなかった。異能者―魔術を使う種族であることも。
少し変わった人間だと。
物語の怪物のような姿の、姉が美しい姉が牙をむいている。汗が額から下へと落ちる。
「この、化け物が!!」
壁に背中が当たる。指が僕の首に触れた時、手の中に冷たい金属性の感触がした。


―××、大事なものは常にここがある。
脳裏に浮かぶ、傷がある顔の司祭の服を着た男性。


僕はわき役の駄目な弟で。パキン、と何かがヴォルフリートの中で壊れた。心臓の音がいつもよりやけに響く。何だ、目が熱い。
「こいつ、目が・・・」
「何だ!?」
日常は、決壊した。
―死にたくないっ。ギィィィ、と金属音に似た音がどこからか響く。何かがヴォルフリートの体の中から必死に出ていこうとする。身体中の血が逆流する。ここは狭い、狭いと。まるで根から枝がでていくように。オッドアイの瞳が、背中に広がる薄紫の暗闇と共に金色に染まっていく。
―力を求めよ。力を求めよ。
いやだ、いやだ。
「く・・・っ」
ヴォルフリートは必死に自分の体を抑え込む。いやだ、出てくるな。暴走する支配欲、血を求めるくらい愉悦、戦え、戦え。購え、獣に戻れ、戻れ。何かが心の中で叫ぶ。
「やめろ、やめて」
自分はそんなの求めていない。目を閉じ、暴走し、何かがヴォルフリートの理性や意識を奪おうとする。それもす様じい勢いで、狂気で思考を、それまでのヴォルフリートを破壊にかかる。
「ああああああああ!!」
アリスが牙をむき、ヴォルフリートに襲いかかろうとした時、中年の女が化け物と叫んで、包丁で姉の命を奪おうとする光景がヴォルフリートの視界に飛び込んでくる。女だけでではない。周りにいた村人が、血で酔った獣のように武器を持って、鮮血に染めようとする。これがいつも優しカツタ村人の姿か。歪んだ表情だ。だが、そんなことよりも、ヴォルフリートの思考を意識を支配したのは。

―家族が、殺される光景。
その瞬間フラッシュバックされる。父親が、炎の中で自分をかばって軍服を着た男たちに銃で殺される場面を。山間の村だった、親切な村人だった、たった一夜よっただけだった。それなのに、まるで獣のように理性もなく、村人も父親でさえも男たちは犯罪者の仮面をつけて、正義の名のもとに殺したのだ。



―そうだ、家族は僕が守らなきゃ。



カチリ。
その瞬間、何かがヴォルフリートの中でぴったりとはめ込んだ。呪いにも似た感情。誓い。
―たとえ、何を犠牲にしてもっっ。
「・・・・」
ヴォルフリートは目覚めた。金色の闇がヴォルフリートを覚醒させた。まるで違う意識が、赤い魔法陣の出現とともにヴォルフリートを支配した。


ズダァァァァン・・・・!!
「何だ、この光は!?」
「あの文様は一体―」
村人たちの体は次の瞬間、光のらせんに揺らめく光の蛇に包みこまれ、吹き飛ばされた。
「死ねばいいんだ・・・」
「はぁ?」
グラグラとランプの光が揺れる。
「家族を奪う奴はみんな死ねばいいんだぁあ」
ヒュウっと指先を掲げて、金色の瞳に時計の針のような刻印を浮かべながら、感情を爆発させる。漆黒の炎が浮かび、ヴォルフリートはその炎を一気に村人に放つ。
ゴォォォ!!
「うわああああああっ」
中央にいた男の掌を炎の槍が焼き尽くす。
「ひいいいい」
村人はあわてて逃げだす。
「ひるむな、どんなマジックか知らないがガキ一人だ」
「でも」
「皆で手を組めば、ガキ一人くらい、なんとでもなる!!」
リーダーらしき男に目くばせられ、村人たちは心ひとつにする。駆け込んでくるヴォルフリートを大勢の男たちが鍬や銃を持って襲い掛かる。
「悪魔の子が!!」
「お前ら死ねぇぇぇ」
二つの感情が激突する!!


ズガぁぁ・・・・ぁン!!

ドォン!!
建物内は激しく揺れた。


                     7



静寂がしばらく続き、アリスの目が開く。茫然となり、戦意喪失となっている大人達が目に飛び込んでくる。
「・・・・・?」
まるで静止画だ、雷でも打たれたように何かをアリスではなく、すぐ横を通り過ぎ凝視している。
何を見て―
アリスは恐る恐るふりむくと。

ありえない光景が飛び込んできた。


「な・・・」
目の前で見なれた、気弱そうなダークブラウンの髪が揺れる。


ズダァァァン!!
右腹を大きく、鋭い付きで信じられない速度で勢いで手慣れた手つきで突き飛ばす小さな日だまりの匂いの少年。その少年は気弱で、自分から表に外に出ない子でいつも後ろにいる頼りない弟で。




稲妻のように、目を光らせ、獰猛な獣のように、疾風のごとく、ヴォルフリートは男達に襲い掛かる。頼りない少年の見た目とは裏腹に、さっきまでの気弱な役立たずのお荷物ではなく、大人である自分達に牙を向ける獣だった。すぐに気づき、男達はヴォルフリートに向かって、銃弾を放つが、動きが遅く、子供という慎重さを生かして、一気に男達の足元に剣を突き刺し、切り込んだ。
「何だ、このガキ・・・っ」
「ただの孤児じゃないのか」
男達の動揺を気に留めることもなく、表情がただのヴォルフリートからまるで高貴な貴族、勇敢な戦士のそれの表情になる。前の男達の手足を切り込むと、残った男達の喉元を一気に狙い、県の塚に県を反対にして、突き刺した。

ドゴォォ・・・・!!

ドォォン・・・・・・!!


「何者だ・・・貴様は・・・」
「――黙れ、悪党にこたえる言葉はない」
すごく冷えた声。
剣が振り下ろされる。
「なぜなら、お前達は―」
冷たい眼光。握られる冷たい金属の長身。
「これから一方的に僕に制圧されるんだからな」
「ヴォルフリート・・・・」
信じられない、これは何?誰?目の前にいるのは。くるりと振り向く。思わず体を緊張させ、肩を震えると。
「大丈夫、僕が守るからね」
手が震えている。緊張しているのか。
「だから」

「ヴォルフリート・・・」
そのままアリスは意識を失った。

  
10歳かそこらの子供に大人達が完全に制圧された。



「・・・?」
目が覚めると、男達は血だまりで倒れていた。アリスも意識を失っていた。
時刻は3分ほど過ぎており、なぜか右目が痛んだ。身体中がバチバチしていた。
「・・・行こう、姉さん」
何が起こったんだ・・・確か、男達に銃を向けられて。
ズキン。
「・・・・」
感覚がおかしい。姉の身体を引きずりながら、歩き始める。今は孤児院に戻ってはいけない。いつもは鈍いはずの頭が今はこんなにもはっきりと廻っている。
・・・とりあえず、姉さんを安全な場所に。僕は孤児院に戻って、院長先生に今の状況を伝えよう。
でも、どこに・・・。
そうだ、あそこに・・。


                   
じりリリ・・・・。
目が覚めた時、警官に毛布をくるまれ、エレクは息が絶えた状態の男二人が銃を持ち、暴動が起きた現場の中にいた。村の中では警報が鳴り響いている。鉛のように心臓が重い。
「誰がサイレンを鳴らしたんだ」
「この子供か、流れ者のようで」
「違うだろう、それより、この混乱に乗じて、孤児院で家事があったそうだ」
「マジかよ」




ゴォォォ・・・・。
信じられない、炎に包まれた屋敷をアーデルハイトはリーゼロッテとともに見ていた。現実とはすぐに頭がついていかなかった。
「・…お母様・・・」
裾だらけの虚ろな表情の母。
「リーゼロッテ、これは」
「アーデルハイト、オリーヴィアが・・・・!!」
リーゼロッテがぎゅっとアーデルハイトを抱きしめる。
「まさか、いや、オリーヴィア・・・・!!」
じたばたと暴れ、屋敷の中へ向かおうとする。
「いけません、お嬢様、お兄様と妹様はもう」

                 8


火事でもえた孤児院後に戻ってみると、大きな音が鳴り響いた。泣き叫ぶエマと血だらけのグンター。地元の警察や消防の慌てふためく姿。見守る観衆たち。
「一体、何が・・・」
僕と姉さんが村人に脅されて、意識を失っている間、誰かに村人が襲われている間に。
何が起こったんだ。
「良かった、二人とも無事だったのね」
シスター達が駆け寄ってくる。2人の側まで見ると、力強く抱きしめてきた。
「ああ・・アーディア、・・・どうすれば・・・」
シスターヒスイが、ヴォルフリートの体を抱きしめてくる。悲しみと混乱でいつもの落ち着いた表情が崩れている。
姉さんを抱きしめるシスターメアリーも。一日の間にあまりに現実ではないことがお切りすぎて、頭がついていかない。
「なんて、恐ろしいことが・・・・」
悲しみがシスター達を支配していた。
「悪魔にでも魅入られたのかしら」
昨日までいつも通りだった。だれが、誰がこんなことを。
「怖かったわよね、ヴォルフリート、でも大丈夫よ」
手首をヴォルフリートの頭に回す。そのぬくもりが現実だといやでも伝えてくる。ざわりとした。
嫌な予感が襲う。
カリーヌ達の姿が見えない。まさか、まさか。
「何故、こんなひどいことを・・・・」
姉さんが混乱しながら、顔を上げると、赤々とした松明のような教会があった。はっとなる。
「院長先生や司祭様は!?エトムントやマルガリータ、カリーヌは!?」
涙で顔を濡らしながら、シスターが指を指す。
心臓が脈を打つ。
「まさか・・・・」
ゴォォォ・・・・。


「止めなさい、アリス!!」
「ヴィンセント!!」
ドクン。
「・・・!?」
教会の中では、縛り付けられた司祭と包丁や棒を持ったカイルやエトムント、ヴィンセント、カリーぬの顔が潰れた死体があり、炎の赤い世界が教会の中を支配していた。

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」
アリスの悲鳴が鳴り響いた。


「エリクは気が動転して、行方不明だし、どうすれば・・・」
アリスの手を握るヴォルフリート。茫然自失のアリス。あまりに恐ろしい現実が目の前に広がっている。
「・・・何なの、これは」
何なんだ、これは。
・・・・姉さん。
気づくといつも強い姉がまるで妹のようにじぶんにしがみついていた。
アリスはずっとずっとその晩、自分にしがみついていた。まるで悪夢をずっと見ているようだった。


オーストリアの宮廷。
アーデルハイトは、皇太后ゾフィーと皇帝陛下に遠縁の伯爵と共に、謁見を求めた。
「お願いです、皇太后さま、皇帝陛下、どうか、お兄様の命を奪ったものに死刑を、罰を与えてください、あのような計画的な犯罪は誰かが手をまわしているはずなんです!」
その後ろには様々な階級の者がいた。
だが、見下ろすゾフィーは冷たい。
「母上、アーデルハイトもああいっているし、今回は政治的な意味でも」
「いいえ、なりません」
「皇帝はこんな些細なことで手を動かしてはなりません、アーデルハイト、伯爵、今回のことは不幸な事故としてあきらめなさい」
「しかし、母は病院に!!」
「貴方の家は労働階級に肩入れし、それゆえにこのような手段に踏み切るものに隙を見せた、だからあなたの家族は死んだ」
「そんな、皇太后さま守ってくださらないのですか!」
「下がりなさい」

ズゥゥ・…………ン・・・。

「そ・・・・んな・・・・・」
「力がないものには価値はないのです」



「それにしても驚いたよ、坊主」
「・・・・・」
「山中でいきなりお前が倒れてきたときは」
「・・・・」
「隣の村では何やら大きな雷が落ちたというし、何か知っているか?」
ガタンがたんと荷車が揺れている。
「坊主名前は?」
「名前・・・」
ああ、そうだ、自分はエリクだった。
思想家の父に町の時計やの母と。孤児院では兄弟がいて。
「名前くらいあるだろう」
「・・・・オーダー」
「オーダー、それは名前ではなく店で注文するときのものだろう」
男は笑っている。
「でも俺の名前なんだ、オーダー、姓はないよ」
「そうか、まあ、この時代だ、大変だったんだな、坊主。それでオーダー、お前さんはどこに行くんだ?」
「南に、そこに親戚がいるんだ」
「そうかそうか」
男は笑いながら、エリクにミルクを渡した。
「のみな、旅をするなら腹を満たさないと」
「ありがとう、おじさん」
太陽が強い。射すようだ。
・・・・ひまわり畑。胸がちくんとする。
「・・・・あいつ、大丈夫かな」
それがどちらを指しているか、エリクには分からない。
自由の国。父さんや母さん、じいちゃんが眠る場所、帰る場所。
「暇なら、息子用に買った吸血鬼本でも読んでな、まあ文字が多いから退屈だろうが」
「・・・・・いいよ、俺文字なら少し読めるし」
「そうか」
そうだ、金を稼がないと。家族とほかの国に行くなら、着替える用の服だっている。知識もいる。



「・・・・・・・お前は何を言っているんだ」
背中を向け合いながら、高圧的にダークブラウンの髪の青年に差し掛かった少年がオーダーにこたえる。
「お前こそ、貴族に飼われて、考える脳なくしたんじゃないの」
困ったように19歳の少年はオーダーを見る。
「・・・・ようやく、証言者になると言い出すかと思えば」
はぁ、とため息をつく。
「偉そうだな、田んぼに突っ込んでたやつと思えないな」
「・・・それは、…古い話を持ち出すな」
こめかみを押さえている。
「僕にだっていろいろあったんだよ、オーダー、君性格悪くなってないか」
ああ、そうだよ、お前はやっぱりそっちが本当なんだ。
「俺はオーダーだからな」
少年が顔を上げる。
「ああ、こっちこっち」
「例のお前の優秀な兄貴?そっくりだな」
「そうだよ、説明は求めないでくれよ、僕の実家、ややこしいから」
「お前には似合わねえよ、ヴォルフリート」
貴族なんてさ。
「何か言ったか?」
「いや、なんでも」
エリクは楽しそうに笑った、ガキ大将のように。
「そう、アルバート様、こっちこっち」
エリクの近くに涼やかな目元の少年が駆け寄ってきた。
さわやかな初夏を感じさせた。
「やぁ、ゴットヴァルトー」


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