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ruka126053のブログ

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第二章

第二章―愛おしき漆黒

Is quidem nihili est qui nihil amat.
何も愛さない者は何の価値もない。

             1
「やめろ」
「天魔おちに価値なんてない」
やめろ、刻印なんてつけるな。
カイザーは暴れるが救いなどない。

気高く誇り高く、生きたい。
善なる人々。正しき秩序、正しい方法。
異なる価値観があり、信念があり、アラッドやパーンのような立場からすれば神を信じるなんて愚の骨頂。
「間違いならば、正すべきでしょう」
二ケの肖像、宗主。マリー・アンジェ。
デヴィッドもテオドール、アイリスも正しくあろうとした。エリックもだ。


正義や法は誰もが守るものだ。ピンチである。パンドラは多くのものが誤解するが、彼らは獣ではない。挟み撃ちにされた、どこでばれたのだ。
「剣を向ける相手を間違えるな」
「お嬢様」
そばつきのメイドがサタンたちを連れて飛び込んでくる。光の鋭い一閃。建物の中からブレイクエッグがペルソナを放ってきた。不意打ちだ。弱い攻撃魔法だが、すきをつければいい、そう踏んだのだろう。
「誇りさえ失ったか」
彼女は剣士であり、魔術師だ。四つのエレメントを操れる。
≪煌龍剣・・・・ッ≫
「ぎいああああああああああああああああああああああああ」
異なる精霊の力と剣を合わせ、リーダーのテレジアは一撃でA級のブレイクエッグをおあの世に送った。ソウルが消えて、死んだのだ。ゴッドナイトのすぐそばの地位の後継者、シンフォルーツァにあるのだが少女に憂鬱という言葉が消えたことはない。
「すごい・・・・」
「すさまじいな」
だが、正直にいえばアリ―シャはまるでもう一人の自分のように、セットで扱われる。年も一つ下。行動も一緒であることを求められる。
「君はエンペラーのクラエス卿をm目指しているんだって?」
「はい」
よくいうことを聞く優等生、品行方正。普段の生活からまじめであり、庶民にも優しい。ディートリッヒとテレジアは正義の体現者でもあった。

テレジアやリーゼロッテ、ディートリッヒの活躍は王宮にも届く。けれど少年が気の合う友人であり騎士でもある仲間といる時、笑顔であることは少ない。一人だけ隣国で、何より助ける対象は自分たちだけではない。
地位とは、弱いものを守るためのもの。特別であることは誰かの権利や自由、主義を認めること。
退屈など、庶民からすれば知っていそうだが、フレッドは感じたことがない。常に嵐の中にいるようなもの。
「ローゼンバルツァーの彼らをやめさせたと」
別に意識することはないが、守る相手を自分は、自分たちは履き違えていないか。アテナの剣の崩壊、そのあと、争いが続いている。非道を怒り、それでも、フレッドはあの日以来、優等生で仲間思いの仮面をかぶりつつ、友人たちとの間の自分の中のその感情と戦っていた。
「彼らはレオンハルト様の命令を聞いていただけなのにな」
軍と騎士団は国を守る存在だが、方法の違いから衝突することもある。とはいえ、完全に仲が悪いかといえば、そうではない。
「どうだか、それもあの穏健派ぶる姑息なあの男の作戦ではないか」
「そもそも、ヴォルフリート様を儀式で魔術師の席にいれようと、化け物をだ」
脳裏に、魔女の姿が浮かぶ。憎しみさえ制御できないものが夢をかなえられるわけがない、学園の皆は無事だろうか。
「控えなさいな、もうこれでローゼンバルツァーも終わりなのですよ」
彼らはほぼ、高位の貴族や実力で選ばれたもの。良くも悪くもそういう考えが当たり前だ。普段は優しい、友達思いだ。二つは今、特権階級の横暴、という問題に揺れている。
「それにしてもだ、誰があの厳重な屋敷にテロリストを入れた」
「まさか、あの方がこんな非道を行うとは」
エレオノ―ル様か・・・・。一度だけお会いしたが、真に理想を叶えるとはああいう高貴な人をいう、偏見と闘い、帝国とたたかい、本当に高貴であり、頭を下げる相手は生まれでも血筋ではない。自分のリスクも問わず、助けるために何もかも差し出せる。もちろん、死んだ人間は過去だ。だが昨日、たった昨日まで。ともかく、彼女たちのような死者に報いるためには、泣くのは後回しだ。
「アテナの剣の騒ぎと彼らとのつながりは?」
フレッドの切り返しに仲間は驚くがすぐに対応する。全身鎧の人形、歴代国王の像、シャンデリア。壁にもぜいたくの限りがあるが、それを重みに感じるのは少年の生まじめさだろう。
「全くのでたらめですよ」
尖った耳、美しい容姿のエルフの騎士は清涼な水のように透き通る声で答えた。
「我々エルフも、彼らがなぜテロリストに力を貸すか、野蛮な鬼属ならわかりますが」
「あら、彼らにこんな細やかなことができるでしょうか」
くすり、と笑う。フレッドに向けられる女性的な視線。事実背中に羽根がなければ、人間の女性と思うだろう。
「アンジェロの王よ、どういう」
そして、壁には絵画が飾られている。
「エルフ達は欲張りものが多いですね」
そして、いつものようにいいあいするが、仲が悪いのではない。愛する帝国のため、互いの意見を譲らないだけだ。
エルフ・・・。
フレッドは金髪の整った髪を指先でいじる。エメラルドグリーンかかった涼やかな瞳。血筋というのはどこまでもフレッドに付きまとう。だが同時に力がなければ、何も守れない。


≪トラぺーツ・スパーダ・・・・ッ≫
ズダァぁァァァン。皆の崇拝を受けると同時に、大精霊とリンクするイングリッドの剣技が、ヴォルフリートの前で炸裂する。その光はまさに神話の一場面、家屋が揺れ、大地が揺れ、衝撃波とともにウォーロック数体を蹴散らす。
「ひるむな、ヴォルフリート」
精霊たちの声がヴォルフリートの頭の中で鳴り響く。ナイトメア――サタンの力が発動する。
≪メガスレスト・・・・ッ≫
ヴォルフリートの持つ杖剣から魔法陣が浮かび、第4級魔法が発動し、イングリッドの必殺技と重なり合い、敵を駆逐する。

―あの、アテナの剣がマジで壊れてんだな。
「しかし、まぁ」
ディーターは、二人の取り巻きを連れて、ヴォルフリートのほうに向かい、到着まで三日持たせたヴォルフリートのエネルギー切れの情けない姿をみた。
「ディーター」
「セレア、いいね、その表情」
「やめてよ、他をあたって」
「いいじゃん」

白銀の瞳に、雪色の瞳ははるか下の帝国を飛行艇からみる。移動天空艦ビルガメス。空中に浮かぶ、庭園。いうならば、ご機嫌取りだ。
年のころは14。着ているものは司祭のような、奇妙な服だ。
「サフィーロ様はいつもつまらなさそうですね」
翼を背中に付けた、宗教画に出てくる天使のような姿の、美しい女性が三人。華麗、清廉、小悪魔的。三人ともそれぞれの美しさを持つ。
「ダイヤ」
彼の視線の先に奇跡の聖女ダイヤの姿がある。年のころは13歳。

目を覚ました時、カイザーは、額縁やアンティークもの、絶対的な沈黙と孤独の中、ひんやりとした闇、さまざまな時代の椅子や化粧台、女の子の人形、歯車が浮いている不可不思議な世界にいた。カイザーは現実主義であり、すぐにそこが自分の夢の世界であることに気付いた。
奇妙な生物が通り過ぎていく。
「ここは・・・・」
「ここは、貴方の忘れられたページ、現実の記憶が再現された世界」
背後からいきなり、少女の声が聞け、あわてて、振り向く。
「君は、誰なんだ?」
三つ編みに黄色を基調とした女の子らしいロリータな衣装。
「名前も人格も誰かがあなたに与えたもの」
「おい、質問に答えて」
「目を覚まして、貴方を待ってる・・・」

「起きろ」
目をあけると、フォルクマ―ルがつまらなさそうにヴォルフリートを見ていた。
「・・・・頼む、家に帰してくれ」
「朝食は用意してある、着替えたらついてこい」
一方的だ、なんて無礼な。
「後で後悔するぞ」
だが、その言葉にフォルクマ―ルは馬鹿を見るような、見下した目で見る。
「な、なんだ」
「お花畑の中にいればそんなものか」

ガス灯に光がともる。
空では灰色の不吉な雲が広がり、まるで一種の美しい彫刻のような街並み、白亜の建物が闇に包まれていく。
庶民からはまるで第一区は、全てが同じ建物、屋敷というより、同じきらびやかで華美すぎる建物、宮殿があるように見える。
ヴァルベルグラオ家の屋敷もそんなものの一つだった。
ギルベルト・フォン・ローゼンバルツァー、ダヴェーリャから呼び出された少年で、分家筋のハトコ、ヴォルフリート、かっての名前はカイザーの当主候補としてのライバルである。
フォルクマ―ルとともに三人でローゼンバルツァーの当主の地位を争うことになる。
「・・・俺がヴォルフリートだと?」
あの異端審問官は訴えてやると奮起していたが、城から出て、言ったのはヴァルベルグラオ家の城の一つである。
「そうですけど」
「どうしましたの?お兄様」
・・・冗談にしてはきつい。だが当の本人は昨日までもそうだというように。
「警察の方は無礼だな」
親戚の一人だろう、ウェーブヘアの少年やエルネストが、ユリウスを連れて屋敷の中に入ってくる。惨劇から数日もたたないうちに、怪我をして入院、彼らはそう思っている。
「ヴォルフリート、何を呆けている、ノアさんが連絡が来ないと怒っていたぞ」
「エルネスト・フォン・ヴァルベルグラオ・・」
「?寝ぼけているのか、ともかく、事件のことで騒がれている、騒ぎを起こすな」
「ごめんね、気がたっているんだ」
冷たい氷細工のような、鋭い眼光と整った顔立ちだが以外に優しいのか、紫の瞳がヴォルフリートを覗き込んでいた。ポンとほほ笑まれても。
「アリスのところに行くのだろう」
「うわっ」
いきなり金髪の美少年、騎士なのか剣を腰に差している。
「・・・三日ぶりで、それはないだろ」



2
失ったものを取り戻すにはどうすればいいのだろう。
それにとらわれた人間がいる。彼がまさにそう。カイザーはまさに気高き精神、貴族のいい部分を体現した人物だ。危険を顧みず、他者のために動く。何というか、あれだ。ここにいるのは間違いでは?
実をいうと、悪で破壊神に見られがちなアンネローゼもそう。オンとオフをわかっている。故に鬼の涙か、彼女の流す涙は美しいが、ヴォルフリートにはカイザーほど心動かされない。
「泣くな」
「でも・・・」

ー五年前、晴天、5月だった。
武の道しか知らないヴリルは、ソールの片田舎の出身だ。けんかっ早く兄貴分、少々せっかちだ。ヴリルはその日は、師範から銃の稽古をうけていた。といっても、マナを使ったものだが。正直、生意気で頭がいいヴォルフリートとは、あの金の髪の見た目天使な少年はまっすぐで妙に義理堅く、生真面目で武術、剣術、東の生まれのヴリルには苦手だ。アル時たちは今日、屋敷で友人たちと戯れている。
「あと少し・・・」
「くそっ」
空の属性、≪大気≫≪勝利≫≪絆≫をもつ、ヴリルは帝国軍の軍人の息子だ。といってもあったことはないし、エルネストや子息の遊び相手として気づけばここで暮らしていた。
「ヴリル、大変だ」
「何だよ、新入りは今日屋敷での留守を」


「ふん、逃げたか」
エオフは、ピジョンクラウンはその程度の器だと気づいていた。
エレナは壁際から、シュヴァルツウルフの幹部をみる。
ライアー、お前はどうする気だ。



・・・・アロイスが死んだ。
「フィネ様。それは真実ですか」
「・・・・・はい」
開かれた空色の、大好きな彼女と同じ瞳。けれどヴリルはレオンハルトの金の瞳をこの世で見ることも、いつも嫌みを言ういやな女のドロテアの赤い瞳をもう見ることはないのだ。何度かアロイスとは、剣で勝負した。無口でクールで、自分と似たところも多い北の大女帝の国の出身のあの青年と街に繰り出すこともない。彼とアリスにひそかな嫉妬を抱くことも。
あの日に似ている。多くの人間が死んだ。


いつも、いつもアルヴィン・スパロウは大事なものを守れない。
自分なんかを息子に持ったせいで、故郷を追われ、最後の最後までソールでの革命に巻き込まれた、不幸な母。マナはアルヴィンが神様に選ばれた祝福だという。そんなのは嘘だ。

「あ・・あぁ・・・」
流れていく流血。崩れ去る聡明だった母。
アルヴィン・スピラル。

魔術師の男の手元の光の魔法。妹がパンドラの兵士に手をかけられ。

目を見開き、周囲を見渡すと、クルーエルエッグが作り上げた荒野、地獄が広がっていた。

「・・・・あいつ、犯罪者をかばったんだってよ」
周囲の村人がアルヴィンをみる。ブレイヴというより、剣士や冒険者が似合いそうな細身のいくらか筋肉がついた、張り詰めた雰囲気の体だ。今年で16歳。目がやや鋭く、少年らしさと幼さを残した紺色の髪の少年だ。
「お前は問題があるが、パンドラをみるとすぐかっとなる」
「それ自体はいい、だがお前はブレイヴにふさわしくない」
対する男も似たような鎧と法衣、軍服のようなそれらがうまく混ざった服を着ている。
「俺は間違えていない」
人ごみの中で、セレアはその少年をみる。異界研究の第一人者、迷宮マニアの冒険者の親を持つセレアはポニーテールが元気な印象を与える戦士であり、剣士であり、斧使いだ。おせっかいでそそっかしく、いつも仲間に突っ込みを入れる明るく、苦労症の小柄な少女。
「ブレイヴはお前自身を現す飾りじゃない」


中にいるものたちは、唐突な日常の終わりをすぐに理解していた。
エデンは起動式魔術や爆弾か、瞬時に破壊され、被害にあったのは善良な臣民、戦闘経験もないものたち。
こんな屑たちを手に掛ける気も彼らは起きない、だが、助けることもしない。落下物に押しつぶされ、罪もないのに死ぬ自分たちを嘆く。


イエロー・ローズとは、名前だけ聞けば美しいバラの一種の名前だ。かって、恒久的な帝国を憎むイシュタルが最初に帝国軍の送り込んだ精鋭の魔術師ぞろいの軍隊である。けれど、その臣民を守るはずのものが帝国軍にペルソナを、獣が獲物を狙うとも違う、背筋に冷たいものを感じ取りながら、その紋章が肩に描かれた軍服を身にまとい、明らかな敵意をもって、フレーヌに襲いかかっている。
戦闘が目的でもなく、彼らの多くは家屋を襲い、盗賊ごとく、破壊活動をする。サイトといわれる彼らの村からは、奴らは無辜の民を襲撃し、近隣の町や村で火が放たれ、銃弾を窓に放っている。
像を破壊し、教会を襲撃し、レミエルをパラスティアを行動の前に破壊し。パンドラといわれる種族は人間と同じ数だけいる。それも多数が兵士であり戦士であり。
ズダダダァン。
家の中から椅子やソファーが出てきて、ブレイクエッグが斧を持って破壊していく。家の中の全てを。
「安全のために今少し御隠れください」

「愚かだな、バーバラス、貴様の言葉一つで解決とは」
「・・・・なぜ、無関係のものを巻き込む」
「この国の人間が善良だと本気で思えるなら、お前はどこまでも間抜けだよ」


「臣民の皆様には清浄な時が来るまで家から出ないでください」
サーカス団を襲撃したのか、巨大な檻が置かれ、村の有力者や貴族が入れられている。
「お前ら、誰に銃を」
「安心してください、貴方達は僕達が必ずお守りするので」
「投降してください、ブレイヴの少女よ」
「無意味な殺人は望んでいません」
だが攻撃の一手はますます強くなる。
≪アクア・リュッシュ・フェノメーン・・・・ッ≫
最後の最後に出しシエラの技に、フレーヌは目を奪われる。
「消えなさい、全て」

それをかこつけて、爆発事件も起こっている。窓の外から彼らの破壊活動を恐怖する若い女性がいた。
「なんてことを」
「やはり、パンドラはモンスターか」
臣民の多くは長期的な平和で銃など手に取ることがない。軍や警察も戦闘経験は戦闘集団の彼らに比べれば、ないに等しい。騎士団はあるが、こんなことは想定していない。彼らの大多数は帝都に侵入し、テロ、破壊、少数が悪魔族のもとに向かい、帝国臣民に比べ、パンドラはその三倍はいる。アテナの剣の紋章は、兜に赤い宝石に剣だ。帝都近くにあたり、第一急犯罪者として、フォース・ナイツが一人の少女を搬送させていた。少女は種族はパンドラ。
「これは驚いた・・・」
「エース級の魔法士のパンドラか」
ナイトハルトは、ウロボロスのつきそいで飛行船に乗り込んでいた。
けれど、そんな時、エデンが破壊されたと情報が入る。周囲は闇に支配されていた。
「アテナの剣といっても完全に味方じゃない」
「しかし・・・」
だが軍人はナイトハルトの問いに答えない。
「君は任務を遂行することだけ考えればいい」
その時、飛行船が急に機体五と揺れ、ナイトハルト達の体がまっさかさまになる。自動ドアが開き、長い髪の盛装した少女が廊下に躍り出てくる。
「逃げたぞ、捕まえろ」
そうして、タナトスの戦艦でまた移動させられる。
ヒュウウウ―・・・。
「おい、逃げたぞ」
「探せ」
飛行船の外で、青紫の長い髪の少女は綺麗なロリータ風のドレスに身を包みながら、赤いビロードの靴に全神経と精神を預けていた。
もう、あの魔術師の元には戻りたくない。
少女の人生は、にげることと追われることの繰り返しだ。巫女として生まれ、アテナの剣に売られ、一座ににげ伸び、裏切られ、タナトスで身をひそめ、仲間は殺され、姉代わりの人は行方不明で。
闇の中で目が光る。金色がかかった灰紫の瞳が。
帰る場所などない。ただ、生きたい。
人間なんて大嫌い、平気で裏切り。
「あっ」
足元を滑らせて、夜の闇に落ちる。

3
こんなところで、死んでたまるか。

マリー・アンジェ。この世で一番大事な最愛の妹。あのスピリットが、俺の大事な宝を。
場所はスラム。少年は、帝国に父に呼び出され、自分の国に戻ることになった。
「タナトスはいつから暗殺者になったんだ?」
特魔の衣装を着ているが、正体はわかっていた。
「敗者は死ぬ、それだけだ」
冷たい死の宣告――。
≪踊れ、死の椋鳥よ―≫
紫の闇、閃光、爆発音が少年に迫る。

クルーエルエッグの断末魔が鳴り響き、異界からひび割れのような音が鳴り響き、地面が揺れる。
ゴォォォォ。ズ五オおおおおおおおおおおン。
何かが引きずられる、まるで地獄に迷い出た魔物を元に戻しに来たような。いちずで繊細で慈悲深く、誰に対しても親切で勇敢。女性に優しい。ペルソナは高位の実力ではあり、暴力や平和を乱す者への圧政者。
「パンドラハンターの狩りの後か」
アルトゥルでさえ、ツヴァイトークの村で起きた事件の現場のその惨状に吐き気を覚えた。ヘルムートがちっ、と舌打ちする。
「ルーティ、勝手に動くなよ」
チームの誰かがシスター服の可憐な少女を呼びとめた。
「ええと、少しお花を摘みたいな・・・・」
「君は仲間思いだろう、なら、わかるよな」
優しいが、読まれているな。


それは消える寸前の、まるで今の自分を表しているようにアルフレート・フォン・クラウドは額から血を流し、背後から迫る軍事国家、イシュタルの巨大な悪魔属の軍勢に杖剣は無残な姿になっていた。
パーティーの途中で屋敷から抜け出し、襲われる人々を助けようとして、このざまか。王宮騎士や主な帝国軍は唐突な混乱、戦闘状態に対応している。だがすべてがパンドラとの戦いに特化しているわけではない。・・・戻ってくるわけがない。
オルフェウスは、ワイバァン隊は。
迫るチェス兵。ガウェインのパンドラ兵。だが、最後まで俺は帝国と姉さん、大事なもののために。

「まあ、行くよね、オルフェウスは」

「≪紅蓮の閃剣よ≫
・・・・ラフォール様にアードルフ。
オルフェウスが仲間とともに8発の攻撃魔法を放つ。
その光を、黒い上着に黒いズボン、20歳ほどの青年が見ていた。
アーロンは逃げ出した天魔落ちの少女を、亡くした妹のことと同じように思えた。クルーエルエッグの実験の時に不慮の事故で死んだ容姿端麗なくせに中身は自分にそっくりな双子のような妹のことを。
「何でかばう」
追ってきた少年剣士がアーロンに厳しい目で見ながら、短剣を両手に持ち、そう言っていた。
「どうもこうも、いくらモテないからって、女の子を追いかけまわすのは気持ち良くないだろ」
「そいつは女神教会から、ホーリージュエルを盗み出した罪人だ」
「へぇぇ?」
二人の間に緊張感、火花のようなものが飛び散る。

「狂人が・・・・・」
まるで紙屑のように、男は突如として現れた若い女、それも飛びきりの美しい女に嫌悪感丸出しの声を上げる。
「どうやって、あの警備もうや精鋭のパーティーを」
カイザーは茫然としていた。
「いや、お前には無意味か」
倉庫街のような場所だ、無人であるし、配置した手下は彼女には無意味なのだ。
「だが、ただではやられない」
男が実戦向きの魔法を女に放つ。
「おい・・・」
「立場をわきまえなさい、坊や」

瞳の中には見事な真紅の魔法陣を思わせる蝙蝠が翼を広げたような魔王と契約したような術式が浮かんでいた。
「この力は何というんだ」
フィズは目を細める。
「-円卓の騎士の鎖、神々の理を破壊する力、ダモクレスの枝の一部」
「お前とヴォルフリートの唯一剣、全能の王の剣」

ーーグラン・インウィデーレ。
「魔眼だと、伝説の英雄の姉の贈り物か何かか」
「いいや、お前の中に十二のいくつかの力をヴォルフリートともに封印している武器」
「意味がわからないが、使い続ければ破滅するのか」

帝都の中央に魔女が出現する。
結界が壊れたのだ。
「解呪か」
ゴォォォォ。小鳥たちが、ブレアの使い魔だろう、その光の鳥がブレアのもとに飛んでくる。
「あ、ありがとう」
ルナティックドレス所属の少女が、ブレアの意外な力に少し驚いた表情を浮かべる。
「大したことないよ」

キングナイトが一番の最前線に投入され、ブレイヴがパンドラに立ち向かう。ルーティは彼らの見事な連携、ペルソナ、経験力、帝国軍とは違う本物の戦闘力に立ち向かわないといけなかった。
彼らは蹂躙すらしている気がない。
ーーまさか、私たちは弱いの?
多くが作戦ともいえない、感情的な何かで数人単位で守る自分たちに牙をむく。上官はそう見ていた。
味方するパンドラたち、エリザベートたちも戦っているが、意外な戦力、ブレイクエッグの奇襲、追い込みによって、こちらの戦力が分断され、情報もふさがれている。
≪ボヌール・マリーツァ≫
リリの魔力を高める白魔術、神への祈りによる聖なる力が発動する。
法術師の力が一気に高鳴る。

ジョイアの加護を受けているアヴィスにおいて、彼らに向けられる理不尽などいちいち取り上げる問題ではない。
フレッドの得意技の一つが、元プラチナローズに放たれる。
パンドラハンターは多くのパンドラを狩り、その性質や習性、ペルソナの量を知っておいた上で、狩る。同時にマギアナイト、帝国や宮殿に降りかかる災厄から守る騎士であるため、エストカラスの名は強い。
二節の呪文が効果を発揮する。
≪光の禁呪・去れ≫
ーぺルグランデ・ブレードッ。
ズゴォォォォ・・・・ン。
光の曲線が天空から降り注ぎ、熱線が膨大な威力とともに容赦なく降り注ぐ。

天魔落ちの命はこのたびの大規模なテロは軽く扱われた。
だまし討ち、騎士団たちは彼らを前に出し、後ろから塔仕込みの実戦魔術や剣術、そして、多くの天魔落ち、人の姿の悪魔の死体が転がっていた。
「自分は・・・」
「わかってくれ、フレッド、アースエンジェルス共はそういう道が最善なんだよ」
フィランはその若い少年の騎士が苦しんでいることに気づいていた。
「どうした」
前の魔術師や騎士、大臣についていく。


「待ってよ、オルグ、アリスリーゼ」
あはは、うふふ。花びらが飛び散り、小さいカイザーは頬を紅潮させて、穏やかな日差しの中、追いかけている。ああ、小さいころの夢だ。
「お兄様♪」
「マリアベル♪」
遠くの方で騎士達が自分を見ている。



帝国の夜は、貴族や国の用人達が住まう第一区には何の心配もない。きっとこれが最後になると、8歳ほどの少年達と見上げていた。五年前、ここを訪れた時、美しい場所だと思った。
実際、臣民はだれもが幸福そうに暮らしている。寄り添い合う恋人達、家路に変える男性、夜の闇がまるで何もかも包み込むような。
街の全てを見通せる高台で、灯る灯りを見る。
ズガァァァン。
「た、助けてくれ」
階段を上り、男が飛び込んでくる。
「お兄さん・・・」
セレスティアが袖を引っ張る。自分に似合わない純白の盛装。現れる巨大な魔獣。
「俺がやっつけてやる」
ラファエルが自分の前にたつ。
「無駄だよ」






予定調和など実はこの世にない。永遠の絆なんてない。アトラスミュールとエデン、アテナの剣を覆う壁が嘆きの門が壊される。
フューデは驚いたようにその光景を見た。正当で善良足る臣民、永遠の楽園、ラグナロクが起きるまでの人類の希望の場所が激しい揺れとともに、耳を覆いたくなるような悲鳴が鳴り響いた。自国として、夜の9時前。軍の機密とはいえ、エデンだけは帝国の誰もが見やすい場所に置かれていた。警戒音が鳴り響く。一番壁が壊れ、中のものと遭遇することになったのは辺境の都市の人間だった。国王でさえ今日の全臣民の正確な人数なんて把握していない。だが出てきたのはエデンの人間ではなく、悪魔属の戦士だった。
「パンドラ?」
「何で、壁の中に」
「・・・中に戻るんだ、君達に許可なくここに入る資格は」
夜とはいえ、人は大勢いる。誰もがありえない目の前の光景に驚いたが、良き隣人であることは分かっていた。ゆえに、彼らに警戒心すら持っていない。エデンの中は散乱し、あちこちで割れたものや吹き飛んだ光景が広がっている。
≪テンぺスター・ソ―ロ≫
「え?」




ズガぁぁぁぁン・・ドォン。

「そんな・・・」
血で倒れるエデンの衛兵。中からの爆発、笑顔で精鋭のエースのパンドラ兵。魔獣園(ファントム)で遊びに来ていた上流階級や市民階級の恋人達。全ての体がその巨大な光によって蹂躙され、消えていく。街のあちこちにいるチェス兵は機械のように立っていたが、かすかに銃を持つ指を震えさせた。
中の白衣の男性や女性、看護婦や医者は。
ビービー。
「よし駆除した」
「行くぞ」
男達は走り出す。









漆黒の闇が、見えないバリアが魔獣を跳ね返す。
「す、すごい・・・」
「お兄さん、魔法使い?」
ヴォルヘルムが憧れのまなざしを向ける。
「君達はこれからどうする?」
別にどうでもいい。ただカイザーとは今後も関わらないと。派手に転がる魔獣。
「ねえ、あれ・・・」
さすがに少年も目を大きく見開かせた。警報が鳴り響く。
「遅すぎだよ」
驚いたのは一瞬で、ラファエルは少年が何をさしてそういったのか、わからなかった。
03. 君の居場所は其処ではない


2
フィリップやセアドア、ラインホルトはジュラルドと友好を重ねながらも違和感を感じる。ディーターやキルクスとも遊んでいるようだが。
「ふん」
微笑まれるが、相手にする気は起きない。
「・・・・・え、意外ですね」
オスカーは、あまり争いに関与しないらしい。
「この子は昔から変わり者が好きなのよ」
「姉さん、やめてください」
「皆で遊ぶ賭けごとは割と好きなんだ、といっても、だれが勝つか、誰とくっつくか、だけどね」

オルグはアーディアディトの意外な行動に思わず、次の行動をとるのを遅れに取った。エミリアも驚いたように足を止めた。
「大丈夫、いたくない?」

火花が散る。
四つのエレメントのトップたちだ。
ソールの最南端、帝国は基本的に緑や山が多く、元々の帝国の人間、後から移住してきたどこかの貴族や外れ者の集まり、ジョーヴェベル。帝都からはるか遠い600キロ先の外と切り離された谷あいの村。ハルトヴィヒにとってはそこが一つの王国のようだった。
ドラゴンを信仰し、森とともに生きる。だが、現在そこはオナシス家の領地になっている。
「誰かの下につくのはなんか変なんだよ」
魔術師が嫌うため、村では錬金術師をよく出迎えていた。
「また、そんなこと言って」

壁の先、外が思えている。そう嵐はいつも外からやってくる。村の主権は今、ハルトの叔父が治めている。修行のためというが、自分があっさり、現実を選んだことを悔いているのだろう。
侵略されすぎていないのは村に真実魅力がないからだ。あるとすれば紋章霊石。その原料があるくらい。
ハルトヴィヒは族長の息子だ、その地位を奪ったおじが憎いといえばそうだが、父は力がなかった。何百年かに生まれる魔術師の才能があるもの、自分を遠ざけること、疎んじることでしかできなかった。光のエレメント。
「ついに来たか」

「お前はこれからどうする」
シュヴァルツパラソルがグラン・インウィデーレで無残に炎で死に絶えた時、フィズの予言通り、クラウド家の騎士が現れた。
「カイザー様、ご無事で」
「つまりはあいつは」
「ああ、マーガレットのもとにいるだろう」

「わかっていないわね」
シエラが、シュヴァルツウルフを単身で城に忍び込んだ時である。
「私はあなたたちを倒す、それが決定よ」



「甘い」
マルスの目の幹部の一人が、逃げ惑う臣民を目に、魔術武装の一つ、≪ロンペレ・ラスター・ファント―ム≫を解き放つ。定めた標的に一斉に邪精霊の餌食、意志のない人形として、命令が止まるまで戦い続けるものである。
≪踊りつくせ・死の踊り子よ≫
「にげろぉぉ」


シュヴァルツパラソルの精鋭たちが、少年達を囲む。
「主の命令だ」
「これは正義である」
「天界へ召されよ」
向けられる対パンドラ用のアサシン魔法、ソウルさえ残らない。見慣れた顔達はすでに過去だと受け入れている。
「そう」
腰もとの銃をとる。通信機でカイザーはすでに帝国に到着している。なら、ここで死ぬのは無策だろう。
「五年前、やはりあの方に従わず、お前だけは討伐すべきだった」
杖剣が喉元めがけて向けられる。
「けがれたものは炎で焼かれるのだ」

正しき道とは己の意志を貫き、それでいて弱者に手を差し伸べる人がいく道よ。
夢の中で鎧を着た金髪の少女が聖剣を持ちながらそう言った。
「・・・・私は、誰なんですか」
少女は金色の髪を崩し、髪を垂らしている。緑色の眼でむくな少女のように見ている。
「落ち着いて、君は事故に会って記憶を失ったんだ」
「私がですか?」
自分の名前は?ここはずいぶん大きいが、なぜか不安感がない。
―最初から何もかもなせていなかったのか。
なぜか目が覚める舞えひどく自分に失望していた。大切な誰かを助けられなかったような。
「私を覚えている?」
ヘレナがベッドに近寄る。金髪の綺麗な少女が部屋のすみで哀しい顔だ。誰か大事な人を亡くしたんだろうか。
「貴方は・・・・」
ズキンと頭が痛む。なぜだろう、頭が痛い。手も足も包帯で。
「ごめんなさい、思い出せないわ、貴方は友達?」
「マリアベル・・・」
扉が入る。金髪の背の高い男だ。
「ディートリンデ、調子はどうだ」
「・・・・・あ、お父さん」
よかった。なんだ、ここは自分の家なのか。少女はほっ、となでおろした。

―――――現在、帝国。
銀の十字架が校章のアルバ・ハイリヒ学園。
一年中、神への賛歌の声が聞こえてくる、冬の魔法使いが学園のどこかに訪れている、緑が多く、宮殿のような白い校舎。
時刻は昼休みの前だろうか。
クラウスは何事か、ざわめく生徒達の後ろでその光景を覗き込む。明るく行動派のエイルが不機嫌そうに眉をひそめている。
「いいかげんにしてよ」
エイルがその少年の前に出る。見ればアースエンジェルスの制服だ。原因は帝国を恨む魔術組織か革命組織の魔法だろう。
「エイル・・・」
金髪にオッドアイ、顔立ちでエレオノ―ルの息子と気付く。
「貴方が何の目的か知らないけど、関係のない先輩を困らせないで」
「俺がわからないのか」
哀しいのは分かる。現実をまだ受け入れられないのも。でも彼の不幸な出自もノア達の元にいたことも自分には関係がない。魔法のせいでおかしいだとしても。ローゼンバルツァーは王様でもない。
「貴方の行動が皆を困惑させているの、他にすべきことが貴方にあるでしょう」
周囲を見回す。戸惑うものもいるが、多くが甘えるな、出ていけと視線でいう。
「俺は・・・」
手を掴まれたアリシアが泣きそうだ。

それは荒涼とした山岳地帯、草木さえあまりに生えず、生き物を育ている場所には不適格だ。木々の間を、寂れた風が吹きかう。
なにも干渉をしないこと―、それこそが、黒装束の男に首輪をはめられた豪奢な金髪の少年の村の人間が貫いたことだ。ユリウスの祖父は、屈辱と怒りで拳を震えさせ、彼の親族は唇をゆがめている。
ユリウスの視界の先には、一輌の馬車だ。黒塗りの上級な馬車だ。
上級のドレスに身を包んだ女性の後に、漆黒のドレスを着る青紫の長い髪の少女がいる。漆黒の剣を支える実力者に戦闘員として売られるのだ。この村の巫女だった少女だ。
ドォォ・・・・ン。
先日の嵐が聞いていたのか、山の道はあれ、馬車は下に落下し、少女以外、死滅していた。いや、吸血鬼の下僕のグールに襲われたのだ。だが幸福の頂点、平凡な村の生活の少女に、唐突な自由などすぐにわかるはずもない。
ヤマをいくつか超え、少女の足ではもう村までの確かな道もない。かといって、もう帰りを迎える人もいない。


≪ピエント・シャルジュフレッシュ・・・・ッ≫
それは光の熱線、形のない鋭い風のやだ。威力は購うこともできずに敵をかく乱、殺すことにある。風の上級精霊を宿しながら、瞬時に呪文を唱え、起動させる。
「ま・・・ぁぁっ」
ヴィントは目的を遂行するのみ。

「アーデルハイト様ぁぁ」
キリシュ・ファレーズルーズが勢いよく、アーデルハイトに抱きついてくる。
「また、貴方なの」
「まあまあ」

どうして、こんなことになったのか。頭がガンガンとする。
「お前は誰だ?」
ア―ガンスもルイもシャルルも始めてみると言ったように自分を見ている。それが自分はもういらないといわれているようで、昨日までつい最近まで自分はここで普通に過ごしていたのに。
「出て行けよ」
「え・・・」
生徒の一人なのだろう。周囲も隣の友人だろう生徒に話しかけ、一斉にカイザーを見る。
「変な奴、帰れよ」
「そうだ、そうだ」
気付けば、カイザーが所属していた部活の部員まで加わっていた。
「俺達の学園から出て行けよ」

それが突然すべて奪われるなんて、こんなことが現実にあってたまるか。理不尽だ、不条理だ。だが、あの惨劇の夜から、すべては始まった。
いきなり、頭を誰かに殴りつけられた。
「何をするっ」
だが目を開けた瞬間、こちらを睨むフォルクマ―ルが自分を見下ろしていた。
「帰るぞ、送ってやる」
「はぁ?クラウド家にか」
わざとらしく、フォルクマ―ルは聞こえるようにため息をついた。
「寝ぼけているのか、お前の家はヴァルベルグラオ家だろう」



「ふざけているといわれても、困るが」
「何なんだ、これは…、誰のたくらみだ」
フォルクマ―ルは平然としている。
「お前はカイザー・クラウドではない、最初からな」
「何を」
かっとなるがフォルクマ―ルは話を進める。
「お前は16年前、マルスの目によって、ヴァルベルグラオから突然いなくなった。姉のアリスと一緒にな」
「はぁ?」
「そして、クラウド家に引き取られ、後継者として育てられた、あそこには正当な男子の後継者がいないからな」
「馬鹿な、すぐシーザー叔父さんにでも聞けば」
扉がその時開く。
「フォルクマ―ル、バルツァー家の葬式に・・・、どうしたの?」
「アーディアディト・・・」
その存在は知っていた。貴族令嬢でウタヒメ、可憐で優しく、エレオノ―ルの自慢の娘。
「ヴォルフリート、ディートリッヒから聞いたけど、貴方様子がおかしいんですって」
「あ、おれは・・・」
「本当に変よ、貴方らしくもない」
フォルクマ―ルがアリスの額を小突く。
「天魔落ちだと知らされたばかり何だ、なあ、ヴォルフリート」
「え・・・あ・・・」

「よう新入り」
天魔落ちの戦隊―アースエンジェルスに行かされたカイザーは中古の軍服を渡され、シャワーを浴び、練兵場に来るよういわれた。
「俺は兵士なんてならない」
野蛮、いかにも好戦的で、現れた少年はあからさまに上流階級、育ちがいいとは言えない人間だ。
「・・・これがすべて天魔落ちなのか?」
乾いた風が通り、あたりの空気がひりひりする。だが、張り詰めた空気は一瞬だ。
「ああ、そうだ」
挑発というつもりはないが、気が短そうな連中だ。筋肉もありがっしりしていて。
「俺は気に入らねえな、大体お貴族様何だろ」
「そんな小さいのに、ウォーロックを殺せるのか」
ボスなのだろうか、だが誰も教えてくれない、不親切な。だが、年上の少年は。
「貴族ならキツネ狩りくらいはしたことあるだろう」
「俺はパンドラや天魔落ちじゃない、すぐに家から使いが来る」
はぁぁぁぁと呆れた声と不満そうな声、嘲笑じみた声が一斉に向けられる。
「ああ、そういう」
「なるほど」


3
「カイザー」
ゴットヴァルトが驚いたように自分のもとに来た。
「・・・・貴方、何者なの」
中途半端にあいつを覚えているものがいる。
「悪い、疲れているんだ」
前の家で、学生をしていて、アテナの剣の騒ぎで呼び出されて。死ねとばかりにアテナの剣と一緒に戦わせておいて。
「隣の人、だれ?」
「ああ、彼女は俺の」
親戚のだれかがフィズの恰好を見て、自分を下に見る視線を向ける。

「アマ―リエ夫人はいいので」
「・・・・あの人が決めたことなので」
ちらりとカイザーをみる。
「ああ、私はカイザー様付きの魔術師ですわ、人間ですからご安心を」
ドウドウ家のものと知り合いとか。
「そうですか、カイザー、苦労掛けましたね」
視線を感じる。シーザー・クラウド。あの男の弟か。

「ゴットヴァルト、お前はどういう経緯でここに?」
事情はわからないが観察という感じだろう、エレナが手を握ってニコニコしている。
「ええと、人違い?」
「お前は相変わらず、妙な運を持つな」
マリアベルやフリーでリ―ケは敵をみるように見るが当然だろう。
「カイザー」
「・・・・オルフェウスさんですか」
「すまなかったな、正式の子ではないからと今までよそにおいて」
「父上のご意思ですから」
「すぐ打ち解けるのは無理だろうが、何かあれば俺を頼れ、ここがお前の家だからな、お前も」
「え?あ、はい」
「今日は疲れているだろうし、明日ここに来るまでのことやお前の趣味でもいい、何か話そう」
偉く親切な・・・。
「いいんですか、俺はヴォルフリートの」
「終わったことだ」

おそらく、あいつに自分の弟か何か、そういう感情があるのだろう。ゴットヴァルトをだれかと思っている。
マリー・アンジェ。
俺が必ずお前を・・・。
アリシアがいきなり、カイザーに抱きついてきた。
「なんですか」
「イヤ転校初日からあちこちフラグを立てるカイザー君にはお姉さんがいいかなって」
「俺はそんなつもりはありませんよ」
エレンはむっとなる。
「ほら、試合が始まったよ」
「ああ」
エレンがカイザーの隣に座る。ふふんといたずらめいた笑みをアリシアは浮かべなぜか腕をからめてきた。
「ふ、ふけつですわ」
グリシーヌがなぜかショックを受けていた。
試合会場で、シエラに勝負の結果に満足しないヘスティアが魔法剣を放つ。
「あなた、どうして・・・」
「勝負はついた」
表情は変わらないが、シエラは驚いた表情をしていた。
「だって、そいつが」

「血筋だけの魔術師に何の価値がある」
はぁぁ、とため息をつく。
「君はまだそんなことを言っているのか」
魔術の刻印が額に浮かぶ。
≪散れ≫
術式が発動したわけではない。ワァァァという声が上がる。
「貴方はカイザー・クラウドじゃないわ」
それが感謝の言葉の代わりのようだ。
「いいや、俺が本物だ」
観客席の男子生徒や女子生徒は驚いた表情をする。


アンダーグラウンド、決して国家の目標がそうであろうと、どこでもこんな吹き溜まりのような場所はある。
それゆえかウォーロックの被害が多く、がれきも多く、誰もが表情が暗い。
「くそ、紋章霊石切れか」
ポケットから懐中時計を取り出す。どこかに店がないか。
「おい、お前、どこのものだ、妙な格好しているな」
ぞろぞろとごろつきがやってくる。
「綺麗なガキだな、何だ親に捨てられたか」
「消えろ」
胸ぐらが掴まれる。
「なんだと、このがき」
「ぶっ殺す」
だが、アテナの剣から、壁の割れ目から次々にパンドラが現れる。
「ウソだろ?」
「逃げるぞ」
自分に気付いたのだろう、ノワール・ローズのチェス兵が一気に囲む。
「やはり切り捨てられたか」
「死んでくれ」
さて、ここで戦闘をするか、逃げるか、そう考えた時、
≪リコフォス・サントル・・・・ッ≫
天上から一気に一筋の赤い柱が一気に降り注ぎ、少年は瞬時によけて、その絶大な天使の力に圧倒的なマナに、標的を複数殺せる魔術に少年は家の屋根の上に着地して、その光景を目撃する。焼け野原ではないがソウルやペルソナすら残さないのはすさまじい。
「やりすぎでしょ」
女性の声が鳴り響く。赤い髪の女性が、軍人とともに反対方向の建物の屋上に到着する。
「もう、大丈夫です」
暗器を持った凛とした雰囲気の小柄な女性が、翼竜を腕章にした少年達を連れて、少年の後ろに立つ。
「全ての帝国の敵は俺が討つ」
軍靴の音が鳴り響き、一人の若い男が魔法陣を収縮していく。
「連絡してすぐ活躍するのはいいけどさ、天魔落ちをとらえるのが最優先だよ」
「え、ええ」
黒い髪が爆風の残りで揺らめく。鬼のような鋭い眼光、黒衣の軍服。
これは関わってはいけないやつだ。
「じゃ、僕はこれで」
建物の一部が壊れ、地面に転がった。
「いてて」
やだ、格好悪い・・。
「何だ、ここの住人か?顔を見せろ」
「あ、すみません」
痛みを感じつつ、体を起こし、顔を向けると。
「アルバートッ」
いきなり、顔を掴まれた。
「お前、生きていたのか?」
「ちょっと年下に暴力は」
女性軍人の声も無視して、リーダーらしい男は。
「は、はぁ?いやぼくバルトですが」
「どこにいた、お前の連れは、妹は、なんだってこんなところにいるんだ」
怒涛の勢いで聞かれているが、僕はその軍人を突き飛ばした。
「アルバート、どうした」
「い、いや、僕、バルトです、人違いです」
何だ、こいつ・・・。
「人違いだと、これもお前の何かの計画の一部か?」
「計画?イヤ、僕はただの一般市民で」
面倒そうなので立ち去ろうとすると、軍人の一人が父の形見のハンカチを拾い上げていた。
「これ、君の?」
「はい、拾ってくれてありがとう」
「そいつを本部に連れてこい」
すると手下なのか、周りもはぁと首を傾けている。



「オルフェウス、それは・・・」
玄関には、親戚の青年が血で汚れた少年を胸に抱いていた。
「・・・ゴットヴァルト、16年前誘拐された・・・、頼む力を貸してくれ」
「え、ええ」
使用人が少年を運ぶ。アマ―リエは指示しながら、少年を見る。

「お兄様が意識を戻されたって」
「ああ、おれもさっき聞かされて」
シーザーの後をマリアベルがついていく。
「ん?ああ、この家のお嬢様か」
扉をあけると、見慣れないダークブラウンの髪の華奢な体の少年がいた。あどけない表情、この世の汚いことなど、残酷さを知らない、幼すぎる、見慣れた顔にオッドアイ。
「え?」
マリアベルはその少年と目があった。シーザーも顔を上げる。
「君は誰だ?」
「おっちゃんこそ誰?」
碧の右目と青い左目。オッドアイだ。
・・・・・・・・・・・・・・・誰?
ゴットヴァルトも同じことを思っていた。話では侯爵家の流れの子爵の子息が僕であり、それで僕が誘拐されていたとか、あの家とあの人に。
「頬を引っ張りますか?」
「・・・・まあ、孤児で姉さんとは血がつながってないけど、それ女の子じゃない?ほら、僕にそんな高貴な人の血が流れているように見えます」
おい、目をそらすな、医者も看護婦も。
「当主様に会えばわかります」
目の前の少女は大きく口を開いて、信じられないという目で見ていた。
「・・・・・あ、おはようございます、今何時ですか」
「な、な・・・・」
だが少女はショックと困惑を隠せない。ここがカイザーの実家、それで僕の実家だが、なぜだろう、こんな奇跡いらない。パンドラハンターの超名門で、父親が軍の超エリート、知ってはいたが、たぶん陰の組織とかがあり、間違って数に入れられたんじゃ。で、あの女の子が僕の異母妹か、お姉さん?
うん、たぶん誰かの策略だな。ほら、双子のお兄さんか、影武者がいたとか。
「すみません驚かせて、僕もさっき目が覚めて、状況がよく把握できないのですが」
挨拶は人間関係の基本だ。あの軍人は、このバカでかい貴族の屋敷に連れ込み、おいていった。奥にいるのがクラウド夫人か、イヤ突然の自分以外の女の子供が現れたことにショックなのはわかるが、そんな睨まなくても、というかあれは純粋な疑いの目だな。戯れにしても、庶民の女を相手にしない名門貴族らしい。何にしても見てないで、早く下がらせてほしい。
「お前は・・・・」
少女はなおも衝撃が覚めない。
「初めまして、お初に見えます、僕の名前は・・・」
すると、背後からメイドたちが来る。
「お嬢様、少し」
ラッシュか、駆け込んだ来ていた家の関係者と医者達は診察を始めた。
「口をあけて」
「あ、あの、僕怪我治っているから」
「いいから」
そのあとも、熱だの、体温、体に異常ないか調べられ、持っていたものは懐中時計と本以外奪われた。特にハンカチはこの家の貴族さま達に奪われ、どこかへ消えてしまった。
「・・・・そんなに高いんか、あれ」
父親の形見だから返してもらえるといいが。
「な、な・・・」
マリアベルは下がっていく。

メイドに機械をはずされ、少年はため息ついた。
「誰よ、お前はーーーーっ」

「ゴットヴァルト様・・・」
警察やらも着て、さすがは軍関係者の家かまだ数人、アテナの剣やら町の中の混乱で、騎士達も屋敷の中にいる。貴族に騎士がつくということは王宮と関係している、カイザーの時もそうだが、実に面倒そうである。
本をめくると、女性が扉の近くでたっていた。
「何か?」
眼鏡にお団子頭、漆黒のドレス。文句でもあるのだろうか。
「家庭教師のマーキュリーです、私もあのものに騙されていたとは・・・」
イヤ、そんな複雑な家の事情なんて知らされたくないんですけど。
「どうも・・・」
「天魔落ちなんかだったなんて・・・」
手のひら返し早いな、と握手しながら思った。
「大変ですね・・・」

チクたく、チクタク。時計の針が進む。
「僕、当の本人なのに何で蚊帳の外なんだろう」
この家の当主か、真横の眼鏡のファンキーな優男風の長髪ロン毛のおっさんの趣味か、美幼女がきた。
「・・・・フリーデリ―ケです」
8歳くらい?ふるゆわウェーブの髪留め娘はエメラルドグリーンの普通目でやや垂れ目でひらひらのごてごてを着ていた。
「エレナです」
10歳くらい?ピンクのリボンでお嬢様ヘアロングはピンクと赤のコルセットドレスをきていた。
「貴方の異母妹ですよ、仲良くしてくださいね」
おい家庭教師涙ぐむなよ。
「はぁ?武器と弱点、得意技と必殺技教えてくれます?」
「可哀想に、赤の女王(レッド・レジ―ナ)に野蛮な思想を植え付けられて」
演劇部なのというくらいに眼鏡はなく。エレナが前に出る。
「お前、お兄様なの、強盗に盗まれてダンサーであばずれで強欲な恥知らずの庶民に捨てられた」
「おう、僕も初めて知ったわ」
吸血鬼だろう、すごい昔に死んだ。
「お母様に捨てられて可哀想」
多分行ったのは、まあ意地悪な親戚だろうな。
「でも私たちのお兄様はカイザーだけなの、泥棒ッ」
「駄目ですよ、お嬢様、彼は赤の女王(レッド・レジ―ナ)にてひどく扱われて深く傷ついているんです、それでなくても・・・・」
プライバシーどこにいったんだろう。薄幸の悲劇の少年にされていた。
「でもエレナのお兄様は」
人間ドラマが濃い。ただし観客か傍観者を希望です。
「諦めなさい、あれは天魔落ち、私たちをだましていたんです」
暇なので、何となく、木彫りから女の子の髪飾りをつくっていたら、エラそうな人間が来た。どこかで見た褐色の肌の金髪の青年だ。
扉が開く。
「きーきーうるせえな」
。マリアベルははっとなった。何かと自分たちの面倒を見てくれて、なおかつ恋人をパンドラに殺されたオルフェウスなら自分の味方になってくれるんじゃないか。
わずかな希望が、マリアベルの胸に浮かんだ。
「オルフェウスお兄様」
帝国を苦しめたアクスト一派を根絶させたオルフェウスなら、きっと。
「ああ、昨日の」
マリアベルはオルフェウスの元に駆け寄り、声を上げる。
「オルフェウスにいさま、お願い、この偽物を追い出して」
教えて、カイザーもんっ。ふざけた場合ではなく、女神が現れた。
きらきらした目でマリアベルを見る。
「偽物?」
オルフェウスがゴットヴァルトに視線を向ける。
「―いいや、今まで、あいつのほうが、ヴォルフリートの方がクラウドの息子を気取っていたんだ」
「は?」
もう一度見るが表情は変わらない。
「どこかで頭でもうったんですか?」
「俺は正常だ」
「・・・・・冗談ですよね、オルフェウスにい様ったら人が悪い」
マリアベルはから笑いを浮かべるが。
「悪いな、マリア」
「そんな・・・」


雷鳴が鳴り響いていて。、雨が降り注ぐ。時間がたち、月が空に上がるとき、騎士達が呼ばれて、ゴットヴァルトのいる部屋に入ってきた。ヴィンセントははっ、となる。闇に消えそうなゴットヴァルトの背中がか細く見えて。何の感情も宿らない瞳は遠くを見ていた。
「貴様何者だ?」
騎士の一人が思わず腰の剣を握った。
邪悪なペルソナが騎士達を包む。
ヴィンセントとバーバラスは肩を寄せ合い、剣を構える。
「カイザー・・・、様?」
「ばかな・・」
少年の騎士が思わず声を上げる。ざわざわと他の騎士もお互いの顔を見る。ベルンホルトと同じ色の髪、オッドアイ。
「貴方達はここの騎士なんだね」

何のおふざけなのか、とアルフレートは双子と思うばかりの小さな少年を凝視した。頭がクラリ、とするのは気のせいじゃない。
「偽物・・・、これは何のゲームなんだ、馬鹿な」
「馬鹿な」
二人を紹介された時、拒否の言葉が親戚たちから一気に流れた。
「ありえん」
「何かの間違いだ」
だがカイザーは悪魔的にゆうがにほほ笑むだけだ。
不思議なもので人間、自分が困難な立場にならないとわからないものらしい。どこか憂いを込めた端整な顔立ちトくせ毛がちな黒髪。
「あら、王国の秘書官である私の言葉が信じられないのかしら」
ドウドゥ女男爵はにやりと猫のように笑った。
月色の右目と赤い左目。金髪のカイザーよりも背が少し高く、これ以上ないくらいに整っている。隣には灰色の髪のルーカスがいる。少年の護衛者であり、執事らしい。眼鏡で鋭い目の黒衣の男は反対のイスに座るダークブラウンの髪の執事だとか。
彼らは、子爵代理の秘書の前にいた。
「異議を申し立てる・・・っ」
ざわっ、と親戚たちも動揺の色を示す。数時間前、数日前に引き取られた少年の正体を知らされる。
「これは、ベルンホルト様、現当主が認めたこと」
会場には、黒髪の少年が入ってくる。
「それは虚偽だ」
オーディンやルベンティ―ナが弟の様子を見て、アルフレートの妹ディートリンデはあら、と顔をあげている。
「それはひどいな、殺人事件があった家から命からがら、俺達はにげてきたのに」
いやらしいようで、高貴な笑みだ。憎らしいほど、不遜な父によく似ていた。
「―僕の名をかたる偽物をやっと家から追い出せたのに喜んでくれないのかい、親友だろ?」
「俺はお前など知らんっ」
背中で気配がした。バーバラスが振り向くと、漆黒のドレスに身を包んだメイド姿の朱色の長い髪の少女がいた。年は17歳くらいか。
「初めまして、バーバラス卿、今日より坊っちゃんたちの世話、監督役を務めるルイズ・レンズですわ、以後お見知りおきを」
「なん・・・だと・・・」
「一緒に住むなんてありえませんわ」
可愛い声だ。アマ―リエのそばでエレナが叫ぶ。敵意のまなざしだ。
「貴方達はおとうさまを角わした悪魔の化身ですわ、出て行って」
「止めようよ、エレナ」
フリーデリ―ケは綺麗な金細工の髪飾りに触れながら、エレナを止める。ゴットヴァルトの部屋に来ていたしまいか、とカイザーは視線を向ける。
「だって、その人もですが、隣のそれはパンドラよっ」
バーバラスや騎士達がゴットヴァルトを見る。
「パンドラ?」
ク―ファが驚いた顔をする。
「私たちを殺しまわる気か、エデンの怪物が」
ガブリエ―レが壁にある宝剣を手に取り、エルヴィーラが銃を取り出す。
「私達のカイザーを奪う気か」
「汚らわしい賊が」
素早い動きだ。さやから取り出し、一気に二人の豪奢な美女がドレスを翻し、ゴットヴァルトに迫る。
その前をクロードが止める。
「お二人ともお控えください」
「使用人が主人に命令する気か」
「ドけっ、そいつは私達の敵だぞ」
クロードは二人の後ろに向かう。
「ご冗談はやめてください、エドワード」
扉が開く。猟銃だ。手慣れた動作で偽リップの指が動こうとしている。隣には庭師に車いすをひかれた侯爵がいる。
「はっはっはっ、ジョークだよ、ジョーク」
優男だ。女王の国の人間で今は帝国の人間。エルヴィーラはエドワードを見ると下がる。深いグリーンの瞳は柔らかいがどこか凄味がある。
「―カイザー。ゴットヴァルト、皆への挨拶はすんだか」
「ええ、皆歓迎してくれました」
さっきから嘘ばかりだ、とついバーバラスはにらんだが、挑戦的な視線をカイザーはバーバラスに向けるだけだ。
「そうか、ならばいい」
「では、行こうかゴットヴァルト」
信じられないとバーバラスは他の騎士達に肩を支えられながら、たっていた。親戚たちもアルフレートも茫然としていた。
「・・・カイザー」
ガブリエ―レがひざから力をなくし崩れ落ちる。
「ガブリエ―レ・・・」
マリウスやアウグストが尊大なエルヴィーラが壁にうなだれるのを見る。アウグストは壁を叩いた。
                     4。
ズガァァァン。
「・・・・・・・・・・・・え」
「おい・・・」
「ああ・・・・・」
ドンくささとか、それ以上に天魔落ちの少年も間抜けな表情にならざるを得ない。ナイトメアとマーリン・コアで飛行状態を持続させながら、地面に落下するヴォルフリートを見た。
「これ、笑うところ?」


「おいおい、ヴォルフリートなにふざけてんだよ」
「事件のせいで狩り方まで忘れたの」
痛みが走るが、天魔落ちとのあの部隊の兵士の少年達は作戦に意識を戻す。ディーターが腕を引っ張った。
「アビス・アークは使えるか?」
「お前は」

アテナの剣が破壊された、と帝都では今シルヴァクロイツの本部隊が大忙しで、臣民は避難しているらしい。
ズダァァァァン。
「・・・よく、懲りないな」
ッァバァイバスラ―家のお抱えの従僕見習い、ヘルメスはハルトヴィヒ・ルーフォス・クルヴィに対して、そういう。
「日課だからな」
年齢は十五。濡れガラスのような黒髪に、黒い瞳の少年だ。白い騎士服の戦闘衣。
「どうせ、偵察任務とか事務作業ばっかりじゃん」
そこへ、アウレリアヴィーナ、白銀にも見える薄い青のようなストレートロングヘアの少女がトラックに乗ってやってくる。蒼の戦闘衣だが、軍服だ。日常的に鳴り響く散弾銃。彼女はハルトの先輩であり、かっての太陽王の国方面遊撃騎士団の直属の部下でもある。時刻は昼間の一歩前。
「そんなこと言ってはいけません、これも立派な国から与えられた任務です」
軽く敬礼して、十五歳の少女が、ハルトに頭を下げつつ、マリ―ベルを連れてトラックから落ちる。
「もう、最悪、朝から砂まみれで、いるのはむさくるしい男たちばかりだし」
「それも今日で終わりだ」
ふっ、とハルトはほほ笑む。
「まあ、敵側もそろそろ、資源つきそうだし」
「あまり好きじゃないんだけどな、いやだろ、相手の弱点ついていくのは」
すると、無口なぴょこん、と猫耳のような飾りの黒髪のサイドテールの小柄な少女がハルトをにらむ。
「点数稼ぎ」
助手席では、騎士団の大人、赤い髪のハイドがくっくっと笑っている。
「皆のってください、いくっすよ」
蛇のような目のくすんだ金髪のピンパーマ、リチャードがメンバーに声をかける。オナシス家の元お抱え騎士だったらしいが、詳しい素性はハルトも知らない。
・・・アテナの剣の脱走兵が武装組織に。
走り出すトラックの中、荷台でアウレリアヴィーナと向かい合いながら、思考する。
「また考えすぎていないですか」
「・・・あ、いや」
どうやら、アウレリアに心配させたらしい。彼女は順調な出世コース、一流の魔術師で青の賢者の出身者だ。おまけに、水の魔女の直系だ。
「君はこの任務が終われば、本国らしいな」
マリ―ベルがひじ打ちする。
「馬鹿っ」
ハルト達は基本、パリを拠点に動いている。マリ―ベルは表向き歌手として、ハルトは図書館の人間だ。騎士団に入り、この騎士団からの付き合いだが、桃色に見える長い髪と青い瞳の少女はわがままで女王気質で、ハルトにはどうにも付き合いずらい。
「なんだ」
「空気読みなさいよ」
それは、個人的なことか、アウレリアがいせいであることか?
「ほんと、お前顔だけ無駄にいいな」
ヘルメスはハイドと顔を合わせながらあきれ顔だ。意味はわかるけど、別にお互い好きなわけではない。
「確かに、無駄イケメン」
「エフェルまで言うのか」
「・・・この先に、本体、リーゼロッテ副長がいる第一部隊とアテナの剣の戦争地域があるのね」
その時、連絡が入る。
《馬鹿な、オーウェンが姫様の元を?≫
≪とにかく応援を≫
いや、会話が飛び込んでくる。爆発音。ハルトの顔に緊張が走る。
≪本国に戻るなんて≫

気の毒そうな野蛮人が表情を青くしながら、劣等生だと言わんばかりにカイザーをみる。
「まあ、鍛錬すれば」
「うん・・・」
自分と同じだと思われたくないのだろう、そそくさと去っていく。
「なんて部屋だ」
あまりに素人で、使えない、貴族ということで世話役にと部隊の最年少の少年が天魔落ちの宿舎まで案内し、一番端の部屋にカイザーを案内した。
「どこか変ですか?一応、上官達とは同じフロアでそれなりに広いですけど」
気遣って、これ?だって、こんなかび臭く狭い部屋はベッドと箪笥、小さい机以外ないではないか。
「そ、そうか、じゃあ服を着替えさせてくれ」
「は?」
少年は何言っているんだという目で見た。
「え、だから汗臭いし・・・魔物の血で気持ち悪いぞ」
「じゃあ自分で着替えればいいでしょう、シャワーは入口の横でトイレも同じです」「冗談だろ、普通は」
「荷物はここで、学園とここでしばらく暮らすことになるので、そのつもりで」
それだけ言って、少年は立ち去っていく。


地図もなく、適当に歩くと迷宮のようだ。カイザーは寝るそうだ。さすが、軍人か貴族の大貴族。壁には絵や旗。廊下には壺や美術品。床は高級な敷物、なぜかライオンの置物がある。しかし似たような光景でここの人達飽きないのか、何か博物館にいる気分だ。それはそうと、使用人がいちいち会釈してくる。さぞ冷たい目か陰口かな、ホラ貴族とか差別意識の塊だし、僕はどう見ても田舎者の庶民に見えるんだろうし。携帯用の銃だけじゃ心配だな。
「どうぞ」
道をメイドが開ける。え、僕、ライバルの子だよな、悪人の嫌な女とかの。
「あ、ありがとう」
足を踏まれることも蔑みの目もなく・・・・この家の使用人、頭がおかしい?
貴族といえば、まあ。
「・・・・あの、馬見ていいかな」
さすがに怒るだろ、前もそれで怒られたし。そう、近くの男の使用人を見ると。
「少しお時間をいただいていいですか、専門のものを呼んできますので」
「お着替えはこちらで」
「お飲み物はいかがします?」
改めて、ヴォルフリートを尊敬する。ハイソだ、ブルジョアだ、マジでこんな会話をするのか。


ガチャン。
ギギギ・・・ガシャァァァン。
馬車の窓から、クラウド家の別荘、ルイス宮。
「・・・お前は言葉に気を使え」
「すまん、本心はともかく、跡継ぎ候補として鍛えるッて言われました」
ぎぎぎ・・・がたぁぁん。
「おかえりなさいませ」
「お待ちしていました」
優雅なアーチの巨大な門を超えて、二列に並べられた男性と女性の農民風の彫像を超え、奥の奥の壮麗な小宮殿のような、いわゆる姉さんが好きな王子様がすむ白い城、三角屋根の屋敷が見えた。迷宮をイメージした庭園、噴水、バラ園、東屋、厩舎、温室、赤い屋根の蔦が絡まった小さな家がある。
馬車を降りると、色男と元軍人の爺さんが黒服でいた。
「御館様、執事長です」
「執事見習いです」
フランス式庭園風の庭園の四方にギリシャ彫刻のような置物がある。
脳裏に昨晩のマリアベルの言葉が思い浮かぶ。
「ふんっ、お前達には屋敷で一番狭いあの屋敷がお似合いよ」
扉が開き、シャンデリアや膨大すぎるダンスホールほどの表玄関。
「どうした」
「・・・・・・・・狭いって、どういう意味だっけ?」
後で本当にマリアベルが僕にこの屋敷をくれたことを知らされた。ああ、だから御館様。16の子供に豪邸を、気前がいいのか、彼らには犬小屋感覚なのか。
執事にある書類を渡された。・・・・うわぁ、僕アマ―リエ様に嫌われてるわ。
とりあえず、僕はその神に至る預言書、その紙を見ないことにした。吸血鬼より帝国より今の現実が怖い。僕を陥落して戦場にけり落とす方がまだわかりやすい。
うん、王子様やら貴族の上品な子息は僕の役じゃない。はやく本物に来てもらおう。


アルバ学園。校門の扉は銀せいでバラを模したデザインが施されていた。通学は当然、高級車や馬車。
以前からそうだったように。風紀委員のシエラが相棒のフェルディナントともに生徒たちを取り仕切る。
生徒たちの視線の先には、アリシアに案内される少年たちがいた。女子たちがほぉ、と声を漏らす。
「運命だね、まさか、弓矢―アーチェリーのクラスの持つ私が、クラウドの王子様を案内する役目を担うなんて」
「僕もまさか噂のフェリクス生徒会長がこんな美人だと思いませんでしたよ」
確かに煌びやかだ。二人立つだけで絵になる。
「あっはは、褒め言葉と受け取っておくよ、今日は君達のためにイベントも起こすつもりだ」
「ずいぶん、警備が厳重ですね、何か事件でも」
「ああ、先日、私の知り合いだというローゼンバルツァーの王子様がきてね」
アリシアは困ったような表情をした。
「君の弟が孤児でパンドラだというんだよ、自分の家を奪ったとか」
「・・・・あぁ、あの事件の家の御子息か」
カイザーは悲しそうに眉を動かす。
「ゴットヴァルト、君には知らせるべきではなかったかな」
手のひらをなでまわす。
「―いや、僕が孤児なのは事実ですから」
「辛いことを思い出させたね、すまない」


魔女とは、吸血鬼の次に古い人類の敵だ。姿かたちは人間に似ているが、イシュタルではその存在に悩まされていた。
性質として執念深く、冷酷で、自分勝手。出現場所も不明、ソウルを食べ、結界の中で過ごし、手下を使い、人々を悪の道に走らせる。
「私に、異端審問の手伝いをしろと」
「アーラム村か・・・」
その控室では、不満そうなマリアベルの姿がある。
純白の衣装、貴族的な洗練されたデザインの二ケの儀式の衣装にゴットヴァルトは護衛の騎士にリーンハルトとら―スを背後に控えさせ、困惑していた。
「は、はは」
いかにも王子様な衣装である。
じゃあ、カイザーは?




「それにほら、洗礼のギとか言われても」
いや、アテナの剣で魔術師の家にだけ、マナの才能がある家だけ、そんな大人になる儀式をしてると聞かされていた。
ガタンと扉が開く。

ヴィクターは、つけいる隙がないか考えた。自分のカードになるか、敵になるか。いつもは女好きで自己中な少年、喧嘩好きと素行が悪いがこればかりは生まれが悪い。なにせ、身近に緋色の方舟の塔を短期卒業し、活躍する少女、アリシアというライバルがいるのだ。
「おっ」
カイザーの手のひらから広大な膨大な力が流れる。
「これは」
「ありえん・・・」
黒髪が風で揺れる。観客の貴族たちも口を大きくして。アリシアが口元を小さく緩める。表情から見れば恋をする少女のようにうっとりした表情だ。
「次に君を」
「ああ、形だけだ」
司祭たちは気遣うようにいう。
「・・・まあ、いいけど」
出来るわけがない、シエラは唇をきつく締め、ことの成行きを見守った。
ゴットヴァルトが天聖球に触れる。
すると、光と炎、邪悪なペルソナがガラスの球に現れ、呪力を、あふれ出たマナとペルソナが光の線を起こし、緑色の膨大な光となった。
「アリシア?」
ヴィクターが顔を上げる。
「・・・・消えましたけど」
「え、ああ。まあ、ともかくこれで君も一応魔術師の一員だ、がんばれ」
何だ、とってつけた感。調べてないだろ。
拍手が鳴り響いた。
「これは・・・」
ハートオブクイーンだ。
「素晴らしいわ、これはわが帝国にとって最大のギフトとなるでしょう、ほら皆様も未来の大物魔術師に拍手を」


「・・・・学園に行く気ではないのはわかるけど」
「すまない」
テオドールは、まじめすぎるのもよくないなと思う。
「君の性格じゃ気楽には無理だろうけど、今日は今日のこと考えようよ」
その時、わぁぁぁという声が上がる。
「誰だ?」
「ああ、君は数日、学校に来ていなかったな」
「いい気なものだな」
三本の槍のような紋章、盾のような紋章、スリ―スピアの戦闘技化科の紋章。取り巻きを連れた戦士タイプの男子生徒が近づいてくる。
「誰だ、お前は」
「前の学校じゃ知らないが、ここでは顔と勉強だけじゃやっていけねえんだよ」
一人の女子生徒が前に出る。
「校内の私闘は禁止されているはずよ」
「うるせえっ」
攻撃魔法を放つ。精霊使いか。
「君たちッ」
フレッドが騒ぎが大きくなる気配を感じたのだろう、ツイ前に出て止めようとするが。

「まだ、やるか」
「お前、何者だよ」
周囲も騒ぐのをやめた。
「三つ同時にエレメントを持つなんて」
「どうして・・・」
少女はカイザーの膨大なマナに思わず泣くのもやめたようだった。突っかかってきた不良生徒は大きく口を開いている。
「まだ、やるか・・・」
エイルも驚いたように見ている。
「はぁ」
ゴットヴァルトは大きくため息をついた。
何で目立つまねをするのか。
「覚えてろっ」

「・・・・・君はあれほどの力と技量があるなら、事を小さくすることもできたんじゃないか」
「まさか、あれで精いっぱいだ」
まあまあとテオドールが前に出る。
「誰も被害がなかった、それでいいだろ」
「・・・教室に戻る、授業の用意もあるからな」
キッとカイザーをにらむ。
「ここでは個々のルールや掟がある、君も早く覚えることだ」
「ああ、そうするよ」

パヴォーネ学園の女子の制服。アークナイツ部の生徒らしい。マリアベルは不敵な、傲慢不遜な、どこか少年のような雰囲気のプラチナブロンドの少女をちらりと見る。
「エルフリーデ様はお強いですものね」



人間が持つ魔法を、マナ。
パンドラが持つ魔法を、ペルソナ。
そして、天魔落ちが持つ魔法をナイトメアと呼ぶ。

あるいは、アスル、アビス・アークと。
黒狼と呼ばれる武力蜂起、その始まりの地はブッシュノウムやレーヴェが治める町のひとつだった。そもそもだ、帝国は国王を頂点としながら、民主主義も取り入れた多様性の国家だ。独自の民族や言語、文化、それらをすべて一つにするには大変だ。だからこそ、ローゼンバルツァー、オナシス、ッぁバァイバスラ―、フェリクス、レーヴェなど主だった英雄の末裔たちでもある彼らを中心に貴族が重要な国のポストにいるわけだが。じゃあ、その体制を全ての民衆が受け入れているかというと、そうでもないことは搾取する側、守護する側も自覚していた。
パンドラは利用し、天魔落ちは監視し、他の魔物は討伐すればいいが武器を持たない臣民をうたう以上、止める権利も彼らに発生する。結局は今の秩序を理解しない主義者や革命家はどこでも存在する。懐柔策や貧民層を救う穏健派もいるが、根本の問題を理解しない彼らは軍や騎士団を応援する形をとる。パンドラをとらえ、再編し、彼らを戦わせる。




「ミノタウロスが逃げたぞ」
白フクロウの騎士団が街を警戒、通常の巡回中にそれは起こった。
人々は悲鳴を上げ、建物や周囲のものを壊すそれに対抗するのはアルベルトの一撃である。


「・・・ああ」
セシルはカイザーを生徒会室で見て、ずっと女三人だけの姉妹にカイザーたちが来たことを確認した。
「また、先生に面倒事頼まれたんだって」
「シャーロット、あんたが何でここに」
アロガンスがじい、とみる。
「な、なによ、ヴィクトリアの追っかけしなくていいの」
頬を染め、怒ったような口調でそういう。
「この学園のトラブルを解決するもの好き、まとめ役はいないからな」
カイザーはその言葉に小さな不安という潮騒が来たことを感じた。
「あんた、上に立つのが好きなら、やれば?」
「してもいいが俺に得がある時だな」
うわ、という声が出る。
「ねえ、カイザー、マリアベルやアルフレート、何かあるの」
「何がだ」

「つまり、お前は腑抜けか」
シュテファンの実弟か。
「まあ、いい」
マインハートが、カイザー、アレクシスの横に立つ。
「イフリート隊より先に撃つぞ」
「僕はもう間違えるわけにいかないんだ」
フレッドが仲間とともにミノタウロスに果敢に剣で挑む。
「作戦通りだ、あいつらが引きつけているうちに操っている奴を片づけるぞ」
エレンが茫然と地面に尻もちをつきながら、カイザーの意外な選択に目を奪われていた。
「おぼえてろ」
「もう忘れたよ」

「ぐわあああああああああああ」
「何だ、こいつ、生きて」
バーバラスの横を抜けて、そのまま、ミノタウロスは古書店や雑貨店が密集するエリアに暴走状態のまま、ちょうど橋のところでダークブラウンの髪の少年のいる方角に。
「フレッド」
「ああ」

ミノタウロスのまた下、その体を斜めに一閃、ミノタウロスは声を上げることもなく、はるか上空へ向けて打ち上げられた。高く、高く、落下していき。
「覚悟を」

フレッドはその時、ゴットヴァルトを見た。
凝視されて、光り輝く者のように、自分を見ている。フレッドははっとなり。
「君は無事なようだな」
ミノタウロスは粉々に全身の骨が砕け、切られ、死ぬだけだった。だが、その小さなせの学生を最後に見た後、手をわずかな力であげて。
差し出される手。
「けがは?巻き込んだこともあるし、僕が医療班まで案内するよ」
「あ、結構です」
「・・・ぅ。おおおおおお・・おぅ・・・ん」
おびえた表情で自分を見下ろす人間に、何かの意思をくみ取ったのか、静かに目を閉じた。
「すいません、突然のモンスターに頭が付いていかなくて」
「さっき、使ったのは風の魔法だね、それにその制服…、その顔、カイザーの」


「・・・・あんた、馬鹿なの」
アリスがおろおろする。
桃色のウェーブヘアをツインテール状にしたパールの頭飾りが特徴の、薄ピンクの口紅をつけた14歳の少女。
「なんだと」
ヴァイツェンも負けてはいない。
「私達、天魔落ちが人間達と同列の席に座るはずがないじゃない」



問題の一日目は、昼休みに起こった。
赤いリボンと少女らしさを十分含んだ赤紫のツインテールに紫の大きな瞳、貴族の気位のよさが十分出ている。レガリア・フォン・オズボーン。第一区に住む伯爵家の次女だ。アーク隊で、聖騎士をしている。
「貴方は校則やルールが何のためにあると思っていますの」
「そうよ」
「そうよ」
「まあ、いいじゃない」
クラスのなだめ役の女子生徒が眼鏡の女子の委員長とともに近寄ってきた。意地悪そうに大人びた少女たちがにやにやとほほ笑んでいる。
「よくありませんわ、秩序を破るものには罰を、当たり前でしょう」
「まあまあ、いいじゃん、ここは私らみたいな庶民にも学びの機会をって、トゥ―アの聖母様も推進しているんですし」
何より好きなのはゴシップ、お騒がせ好きな緑色のウェーブヘアにオレンジの瞳のアクラシエルを守護天使に持つ新聞部のルッジートととび色の短髪と褐色の肌のファーシーが近寄ってきた。
ルッジートは、イーグル隊所属で、敵の基地を居場所を探し、味方を支えるのが仕事だ。彼女自身も優秀な法術士でもある。ファーシーは魔術師の塔の出身で、一年後魔女部隊に入ることが決まっている。
「管理される下賎のものは黙っていなさい」
、緩い校風か、帝国の教育のたまものか、レガリアのいうことをとがめる者はいない。
「新しい香水、使っていますの?」

高等部一年の有力者の少女ヘスティア、男子に恐れられる副会長エヴェリ―ナ、女子に嫌われるが男子への影響力は一番の女子トワイライト。
神のいたずらか、ともかく悲劇は起きるものだ。
漆黒の剣の諜報員として、銀の十字架が経営する名門の私立校に在籍するジョンはその転校生を最初、よくいるお坊ちゃん、奥手そうだと思っていた。
「眠い・・・」
だが、大学の教室を思わせるクラスで眠りに入っていると、二時間目は体育の授業を行っていたアイアンヴァルドのクラスの女子とプールの授業を受けていたシヴァルのクラスの女子生徒が廊下から悲鳴を上げた。
えてして転校生というのは、注目されるものだ。第一印象がすべて決めてしまうとか。

「え?」
アリ―シャはいきなり扉が開いたのでもう生徒は残っていないと思ったのに更衣室の入り口を見ると、半裸の少女たちの前に、それもそれなりに見栄えのいい美少女ばかりで、男子には永遠のユートピアなわけだが。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
レガリアもトワイライトもヘスティアもなにが起きたか理解できず。両者、無言で硬直。聡明な少年はすぐにはめられたことに気づき、さっきもさっきのことがある、きわめて紳士的というか、冷静さを試し、後から考えれば何で冷静になったのか。
「・・・ええと」
「すまない、男子更衣室と女子更衣室を間違えて覚えていた・・・・うっかりしていた」
どんどん、興味や好意が氷点下に、凍りついていく。
「気分を悪くしてごめん、俺はでていくぞ」
なるべく少女の成長途中の裸を見ないよう、そのさっきに満ちた世界から出ようとした。
「・・・こ」
だが、もう遅い。最高潮のいわゆる明るい学園ライフは消えて、少女達は目の前の男を敵と認識した。
「「「このスケベ変態野郎」」」」
その日、天使達が一気に地獄の悪魔、学園のヒーローとなる少年に対する空前絶後、凄惨な校内暴力事件が発生した。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
基地内でも白けた、別の生き物見る目で天魔落ちの少年が、上官に訓練を受けるヴォルフリート、かっての名をカイザーをみる。
「どうする・・・」
「やべえな」
「関わりたくねえ」
ヒュウウウ・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・なぜだ。

アースエンジェル・・。


「テオドールじゃないか」
「今日は遅いんだな」
第3区の一つカリダメノス。村出身だろうか、帝都のしゃれた食べ物はどうにも口に合わない。そんな自分が騎士様か。
・・・・・いいや、僕は後悔していない。
アテナの剣の崩壊後、夜間での外出は難しいがフォースナイツのテオドールはある程度は許されている。

食堂でも針のむしろだったので、アーディアディトのいる劇場に向かう。
「まあ、気にすることないよ」
「うん誤解は解けるって」
ジョシュアやエドガーが気遣う笑顔でヴォルフリートに言う。
「ああ・・・」

「え・・・・」
マルティがマジックガールのような衣装を着替えているシーンを三人は遭遇する。
「ち、ちがう・・・」
「い」
アリスがマリ―ベルとともにやってくる。
「いやああああああ」

「ボヤボヤ歩くな」
「女性になんてことするんだ」
だが男は去っていく。
「気に住んなよ、テオドール」
「あいつはおびえているんだよ」
親しい町の住民が笑顔でテオドールに近づいてくる。

パシーンという音が鳴り響いた。
リリーシャは生意気でおてんばで、見た目だけ見ればどこにでもいる、背伸びした子供でしかない。ぐしゃぁぁぁぁん。
「油断大敵だぞ、アルヴィン」
「うるせ」
近接線、銃撃戦、単純な魔術戦ならアルヴィンも相当だが10歳かそこらのはずの少女は完成された戦闘マシーン、どこにあんな力があるのか。体つきも言動も。
後方や援護を担当するが、一人だけでも十分並みのブレイヴなら倒せるだろう。





                7
ミントは円状の大型の武器を振り回しながら、崖の近くではぐれぱんどらと戦っていた。精霊達がすべて教えてくれる。
戦士が、大きい斧を立て、背後からオ―ガを狙う。
武術の経験がある村の何人かが仲間に入る。
「もう、数多すぎ」
「なんなんだよ、これ」

「うん、知っているよ」
同じ学校の生徒だった。
「カイザー君、でも・・・私にあいつらに脅されてて、他のみんなも」
子爵家の少女で、隣のクラス。一般の生徒でベルベット・ハイウォールという。アレクシスにあこがれていたが、カイザーのクラブでの活躍を知り、ファンだったという。
「だからみんな、知らないふりするしかなくて・・ごめん」
「そうか、クラウド家が動かないのも」
「・・・」
ベルベットが視線を知らす。あれはテロ事件で、多くの何者か、ここまで大げさなこととなると、マナやナイトメアも認めざるを得ない、ゴットヴァルトやその兄も関与している可能性もあるが、今は目の前の彼女の友人の救出だ。
「行こう、俺が助けるから」
「うん、ありがとう、さすがカイザー君だね」


アルヴィンは追われていた。
「しつけぇぇ」
街中をリリーシャとともに。学校の制服のまま。
「何で、エミリア何か助けたのだ、お兄様っ」
エミリアとは、リリーシャに顔なじみの魔術師である。強いマナを持ち、それなりの実力者なわけだが。それはともかく、アルヴィンはム―デ家の島を荒らしたと追手に追われている。
アルヴィンは、いい奴なのである。困っている人を放っておけない。乱暴でけんかっ早い、短気で、ただ神がそうさせるのかいつも貧乏くじを引く。トラブルメーカーと銀の十字架には思われていた。今回も前の事件で世話になったエミリアを助けに行き、その罪を押し付けられたわけだが。



「にいさま・・・」
リリーシャは行き止まりとなっている場所で隣のアルヴィンに涙目を浮かべてきた。どこかでコウモリの戦闘が行われているらしい。
「弾も尽きたみたいだな」
三人組がにやりと笑い、じりじりと二人を追い詰める。
「さて、お友達の代わりにどこに行きたい」
「どうしてくれるか」
「埋めてやるか」
三人ともかなりの武術の使い手で、それなりに頭も切れる。リリーシャとともにここを抜けられるか。
「そんなに怖い顔するなよ、命まではとらないって」
「・・・どういうことだ?」
「かなりの銃の腕に、戦闘経験もマナも悪くない、なぁ、俺達の仲間にならないか」
「・・・・」
銃口は構えたままだ。
「預言のことは宗教家だ、知ってるだろ」
「預言?」
その時、ルーティがいきなり男の腹にいきなりタックルしてきた。
「うりゃあああああ」
「あ、あぁ・・・・」
アルトゥルが悲鳴のような微妙な声を上げる。
「悪魔の誘いに乗る戦司祭などいないわ、この下劣が」
「何だ、こいつ・・・」
だが、男二人はその銃を見て、少女の正体に気付き、
「今日は撤収だ」
「覚えてやがれっ」
それだけ言うと、ハチの巣から逃げるように走り去って行った。
「何よ、人を悪魔みたいに」
「・・・日ごろの行動を思い出そうよ」
コウモリのルーランが駆け込んでくる。
「ルーティ」
「行くわよ、アルトゥル」
アルヴィンに頭を下げると、アルトゥルは苦笑しながら去っていく。
「台風みたいなやつ・・・」
「今日はさんざんだったな」
「あぁ」
とぼとぼとアルヴィンは歩く。目の前に人が通り過ぎていく。まだ、コウモリがオルフェウス達の戦闘を、パンドラを狩っているらしい。
「・・・・?」
あれはあの子爵家の?
「兄様?」
が、ワ―ウルフがいきなり、アルヴィンを地面に引き倒し、廃墟墓地に流れ込む。
ずでででで、ずだぁぁぁん。
地面が気列を作り、穴ができて、下に落ちる。ぐらっとなり、
「うそだろぉぉぉ」
「お兄様ぁぁ」
リリーシャの声がむなしく鳴り響いた。

ぱらぱら、と雨が、あるいは砂の欠片がアルヴィンの頭上で落ちていく。
「いててて・・・」
周囲を見渡すと、暗い通路のような場所だった。冷たい水路があり。
起き上がり、上を見ると月が見える。
結構な深さで、地上まではかなりの距離がある。
ペルソナの気配を探るが、ワ―ウルフはいないようだ。
「とりあえず、出口を探すか」

9
自分の敵勢力とはいえ、イシュタルに言った遠縁の女性が暗殺された、その子供の兄妹が消息不明とは。フォボス・・・イカロスの剣、そもそもあんぜんなくになどあるのだろうか。こんなときに帝国に留学させるか、もう兄上が皇帝となるのだから軍も姉うえ達も嫌がらせする必要はないのに。
「・・・異界か」
学園の名前は、パヴォーネ学園。前は軍学校だった、だからこれが初めての年相応のことだ。戦争中の国に留学とは。
「イシュタルのガウェインか」
あるいはブルー・メシアは自分と対する人間か。写真で送られて、映像で、確かに可愛い女性だ。だが悪い噂も聞く。

「ひでぇ・・・」
「さすがにパンドラに同情するわ」
空からシエラが降り立ち、ソウル事消え去るパンドラにブレイヴたちは言う。

「・・・ここが、その悪い奴の家か」
いわゆる貧民街、帝国の方が聞かないエリアだ。
「私は怖いから、こんなの卑怯かもしれないけど」
震えている。
「女の子に無茶はさせないさ」
そして、ベルベットをそこに置き、何かあったらと通信機を渡し、カイザーは現場に入る。

「あ、目が覚めた?」
そこでベルクウェインは、青髪のお団子頭の美女が自分をお膝の上に頭に寝かせていることに気付いた。場所は銀河歌劇団のテントの中だ。化粧をしてないので、いくらか幼い表情に見える。
「お前、同い年だったのか、ジョゼフィ―ヌ」
ばっばっ、と慌てて、謎の美少女ジョぜフィーヌから離れる。魔女のような三角帽子を持つ、黄金のウェーブヘアの美女とペアを組む。
「失礼ね、気絶したから解放したのに」
む、とみる。ミリルとかいう、凄腕の錬金術師で黒魔術師はにこにこほわほわほほ笑んでいる。


「・・・昔の野外コンサート会場か」
どこからか、光が漏れ、スポットライトのようだ。
「ずいぶん保存状態がいいな」
時が止まったような。
「僕のために、・・・大変だな」
石畳の舞台の上で吸血鬼の手下が小さい少年の首を絞めていた。黒い軍服の少年は角にコウモリの翼をもつ使い魔に今殺されかけていた。
「おいっ、ウソだろ」
「こんな遠くまで、わざわざね」
アルヴィンは円系の客席をかけぬけて、少年の元に向かう。
「死ねええええ」
「やめろぉ」
アルヴィンはたぐいまれな運動神経と跳躍力で、使い魔の背後に迫り、短剣を数本もち、殺人を止めようとする。

「ああ、ありがとう・・・でも」
「何だ?」
解放された女子生徒、女性は急に表情を変える。少女が短刀をカイザーの首元につきつける。
「貴方って、本当馬鹿」
別の部屋から盗賊らしい青年達が入ってきて、カイザーから金品やあらゆるものを奪い取り、蹴って殴る。
「止めろ、やめてくれ」
バシャぁぁン。ドタンッ。
「しけてんな、まあ、これくらいでしてやるか」
「貧乏な奴」
雨の中、金髪の少年は 放り出される。冒険者と下卑じみた笑みを浮かべる子爵家の次女によって。
「ベルベット、何のつもりだ」
手が弾かれる。
「気安くしないで、サイコ野郎のくせに」
演技ではない。純粋に恐怖している。軽蔑している。
「貴方、本当におかしい、薄気味悪い」
「あはは、馬鹿だ、馬鹿だと聞いていたがマジ世間知らずだな」
「ねえ、こいつお花畑でしょ?」
女性を襲った犯人が現れる。
「侯爵家だか知らないがお前はただの跡継ぎを生むための駒なんだよ」
「正義の味方気取り、天魔落ち程度が・・・」

「村や里、多くをお前らの気分で壊したんだからこの程度で逆恨みするなよ」
「信じたのに・・・」
あはは、と貴族の少女が笑う。
「人間もどきが何様のつもり?」

「・・・助かった、だが勇敢じゃないね」
吸血鬼の手下はすでに息絶えている。
「ずいぶんだな、見慣れないけど新入りか?」
そうだとしても奇妙だ。漆黒の軍服にローブをつけ、明るい茶色とオッドアイ、ユーリヒューマン?。背格好や雰囲気にしても軍人や戦士よりは貴族の子息か庶民の少年の方が似合っている。コウモリがこんな子供を?
「僕はゴットヴァルト・クラウド、君は戦司祭なのかな」
「ああ」
「じゃあ、仲間と連絡したいけど、通信機か何か貸してくれないか」


銃撃戦と闇魔法同士の戦闘か。
「お前、情報戦のエキスパートだろ、何か持ってないか」
敵も味方も関係なくか。後ろで震えていたからさすがにショックなんだろう。
「自分達以外に情報を与えるのは、隊の決まりで禁止されてんいるんだ」
「まずは自分達の安全の確保だろう」

「君は格闘家なのか、テミス派かなんか」
「チゲえよ、これはクレインで習っただけで」
だが、次の瞬間、ゴットヴァルトは銃で目の前の敵を数人、射殺する。
「お前・・・」
「行こう、アルヴィン」
俺の名前を・・・。
「覚えていたのか」
攻撃を受けた。
「なっ」

「これ以上、仲間を殺させない」
見惚れてしまった。エルフ独特の耳に美しい顔、細身の鍛えられた体。精霊がアルヴィンに襲いかかり、少女はゴットヴァルトにとび蹴りする。
「お前・・・」
ハーフエルフの少女戦士にアルヴィンは表情を変える。
≪ブレ―シ―ス・ジュ―リ・ジャンプ≫
少女の体が跳躍し、弓矢がアルヴィンに雪崩のように鋭く突き刺さる。
シュウウウ。
地面の表面がえぐられた。
≪フレイ・ペールディ≫
「待ってくれ、俺はお前に危害を加える気はない」
「誰にも浄化するという使命を邪魔させません」


殺す剣と守る剣。何というかお行儀がいい剣だ。
ギィィン、ズダァァァァン。
だが、こんな駒一つに時間をかけては、作戦に支障が出てしまう。見捨てるか。アルヴィン・スパロウはお荷物だ。
「・・・」
恐らく、別の立場の人間だろう。殺す剣だ。自分と違い、本場で大勢の人間を殺してきた暗殺剣。少女の鼻先まで接近し、その瞬間、ペルソナを発動させる。
【エクリッシ・メテオリ―テ】
ドンッ。
「お前、女の子になんてことを」
だが黒狼の数人がアルヴィンを襲う。口笛を吹き、仲間を呼ぶ。
吹き飛んだ少女の体が点々と転び、壁に叩きつけられる、睨むが、ゴットヴァルトは次の行動に移る。相手が剣士だからと、こっちが合わせる理由もない。
【空間壊しと領界の書き換え・・・壊れた卵】
通信機で少女にその情報が入る。ブレイクエッグ。弱小モンスター、スパイ、消耗品である前線のクラッシャー。狂った卵【クルーエルエッグ】よりは扱いが楽だ。
失敗作、それゆえに暗殺者、あらゆる任務で使いやすい。パンドラで誰よりも軽く扱われる存在。そのためか、彼らは誰よりも命の危険にさらされるせいか、生きようとする力や欲望、学ぶことへの欲求が強い。強いものに媚び、当然だ。誰だって、壊れていくペルソナや人格、魔獣への道が近いとはいえ、死にたくない。これは人間には玩具のついでにつくったモンスターだから以外だったらしい。
「その技、ブルー・レジ―ナの剣術を模倣したんですね」
ハイエナのようなものだ。人としての形態を捨てても彼らは生きようとする。盗み、真似をして、自分の魔法や戦闘能力に溶け込ませてしまう。剣が少女に降りかかる。とはいえ、そういう姿はパンドラすべてに言えること。
「貴方にはプライドがないんですか、彼らは貴方を信頼なんてしていないのに」
「犯罪者は殺すのみだ」
ゴットヴァルトは少女の視界をふさぎ、呪文を唱える。
「いくぞ」
「ああ」
闇属性のペルソナ。彼は力が使うたび、ペルソナが消耗するタイプのようだ。戦闘スタイルにこだわりも誇りもないので一定性がない。
「くっ、どこです」
影が見える。
「そこか」
だが目が光を目の前の景色を戻した時、見惚れてしまった。心も体も。そのモンスターまがい、失敗作の低級モンスター、人の皮をかぶった、人間の姿の少年に。
それはまるで、一種の芸術のようだった。
ハーフエルフの少女は剣を交えながら、ダークブラウンの髪の少年を見る。少しも躊躇がない。
引こうとしない。
ただ、黒狼を討伐する。
叩きのめす、堂々とした剣。
少年は手を挙げ、部下に突入を命令し、敵を撃滅していく。ただの少年ができることではない。

春先に咲く淡い色の花のような、陽だまりのような柔らかい笑みが浮かぶ。
ソフトブラウンの長い髪が揺れて、少女は尖った耳を立てて、剣姫足る技を繰り出し、かつての仲間や師をその剣のつゆに変える。
決着をつけた。


膝を折り、剣巫女の象徴である聖剣エドゥーフヘレヴを地面に置き、胸の前で手を置き、ほほ笑みかける。
「-今日でエルフの司祭の娘ディヴェレッドリーゼ・ティファリァリューディーア・デーヴァ・フェー・イーリスヴァーッァはその罪より死にました」
「私を貴方の騎士となること、生涯魂と命をかけることを認めてください」
「貴方に永遠の栄光と勝利を、忠誠をささげることをここに誓います」
「ここで死んだ方がヴァルハラに近いと思うよ?」
「あなたがいる地上こそが私の天国、現世です、ご主人様」



















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