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ruka126053のブログ

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第八章

孤独を味わうことで、人は自分に厳しく、他人に優しくなれる。いずれにせよ、人格が磨かれる。
ニーチェ

第八章―騎士と怪物と剣と

希望、そんなもの、あると思わない。ヴォルフリートには感じた。彼は何者なのか。興味が尽きない。
≪光雷の魔神≫
ヴォルフリートの剣術が、漆黒の剣、イシュタル軍を圧倒的なナイトメアの力とともに襲う。
「君は」
イグナスは驚いた顔をする。

願えばかなうのか。それでも行動せざるを得ないと気がある。彼女は譲らない。
ローザリンデは変わらないのだから。
「お願いです、ローザリンデ様、私に救いを」
だが可憐な雰囲気の、ローザリンデがむけたのは。

幾重にも重ねられ、積み重なり、とうとう滅びの歌を奏でていた。城の中は爆発ととどろくような声で揺れていた。屋敷の主達はフォルトゥナ騎士団や帝国軍の指揮で安全な場所に逃げている。炎があちらこちらであふれていた。
「鬼だ・・・」
多くの反逆者、パンドラの屍を越え、闇と光、炎の最大級のマナを纏う姿は鬼神のよう。
「これで終わりだ」
「ひいいい」
≪戦神の加護≫を発動、目を血の色に染めながら、人間以上の魔力がオルフェウスの体から膨れ上がり、。アテナの剣の暴走を止めるための化け物たちの恐怖の象徴。
「ぐ、ぐはぁっ」
血まみれとなり、次々と倒れていく。パンドラ達が悲鳴を上げるがオルフェウスは冷たく見降ろすだけだ。
「容赦はしない」
トリックソウル、それこそがエルフリーデの短銃、魔術の術式、禁術、相棒の名前である。
「許してくれよ、俺はパンドラに脅されたんだ」
「犯罪者の妄言は聞かない」
引き金を引き、物理法則を捻じ曲げ、銃弾が放たれる。

その村はサタンによって、廃墟となっていた。エリックは、混沌の魔女の降臨を仲間とともに遭遇する。
「ひひひ」

「面倒ね、あんた」
セシルは失敗するライとイエローのショートボブの少女が、ヴァーヌスのゴッドフラワーの上で落ち込んでいるのを落ち込んだように見ていた。

「誰の許しを得て、フェイトドレスの少女よ、エルフの領域に入った」
多くの矢がマリアベルたちの周りにある。
「この無礼者、私達を誰の使いだと思って」

「馬鹿じゃねえの」
「何だと」
まさか同じ学校だったとは。優等生のヴォルフリートと、サボりまのルイス・キングスレーは、定番のように毎朝喧嘩していた。
「大体、悪評の悪さだったらおたくの方が上だろ」
うっ、となる。
「そ、そんなつもりはない」
・・・・ヴォルフリート。
「何か」
「いや」
まさか、もぐりこんだ先で出会えるとは。
「全くすごい騒ぎです」
「神父様も」

遠い日の誓約―・・・。
完璧主義の合理主義、すでに16歳で青い髪の長髪の少年は、オリジナル魔法を完成させていた。繊細で神経質、冷静で予想外のことには弱い。穏やかな春風のような笑顔の背が高い少年。すべてを預けたくなる相手、存在そのものが王。だがルードヴィッヒは完成されていた。年は自分と同じなのに。およそ、彼に手助けできる、対等な友人などアルベルトほど存在しないように見えた。
何よりも彼は優しい、傲慢で自分勝手に見える時もあるが、誰に対しても優しい。ラ―フォるはそれゆえに、彼を支えるものが必要だという。
でも自分ができることなど、あるだろうか。本当に守る人がこんな立派な少年で、それが自分なんかでいいのだろうか。
「お前の眼は弱い者、虐げられるもの、多くの民に向けられているんだな」
それが必要だという。
「僕はそんな・・・」
頭上から悪魔属の軍勢が剣や槍をもって、自分たちに襲いかかる。騎士団の誰かが叫ぶ。
「危ない」
フレッドはすぐ動く。
「光魔法?」
「何で、こんなガキに」
光の刃が敵をせん滅する。
「こんな力・・・」
ぐっ、と剣を抑える。エリックと抱いた夢、約束。
生きる目的になってやる、優しい親友だ。それでいいはずだ。それなのに。
「俺が与えてやる」
迫りくる敵。すぐに切り捨てるが、血がフレッドに注ぐ。これは正しいこと。みんなの笑顔を守るため。
・・・・・姉さま。
「フレッド、お前は白の騎士、俺がお前に生きる理由を見つけてやる」
ルードヴィッヒの美しい長い髪が風で揺れる。英雄譚の一場面のよう、フレッドは背があの頃より伸びて、県も武術もマナも。すべての幸福のために。
でも幸せとは誰かに与えてもらうものだっただろうか。
「ですが・・・」
誰かがなく世界、戦争する、愛し合わない狂った世界。
だから誰もが変えようとする。人の幸せを願わない世界はおかしいから。悪魔属の血でぬれた死体。彼が明日の空をみる日は来ない。
「俺達は友だろ、エリックだって今の世界はおかしいこと気づいている」

「・・・・・ありがとう」
その聖女はそういいながら、アルバートの前で。
「でもそんな幸せな世界は、いらないなぁ」
涙をこぼし、銃口を――。


「受け継いだか、万能の宝冠を」
吸血鬼の男は、テオドールにいう。
「あらゆる暴虐と隷属の敵・・・」

「・・・・・では、お兄様、クララはどうすべきだったのです」
拳を握っている。
「私はどう償えば・・・・」
正しさ、善、秩序、平和。自分とクララは似ている。ただ、方向性が違うだけで。
悪い奴に騙された、都合悪いことは見ない。15歳の少女だ。

「ですが、父上・・・・」
ヴィクトリアもだが、クララもなかなかのファザこんだ。当主の命令で、ゴットヴァルトの護衛に付けといわれた時、ヴィクトリアともども、抵抗した。カイザーに含むところはあるが、過去は過去。踏ん切りをつけないことは中途半端で甘えだ。騎士というよりは武士だ。クロウ派、それが、冷たい少女が人間らしく振舞うのを奇妙に思った。



「優しい子だよ」
「はぁ?」
高貴な家柄で金持ち、兄弟も美しくトップクラス、家庭の事情があり、成績優秀、眉目秀麗、スポーツ万能、ピアノやダンス、舞踏もでき、歌もうまい。武道の心得があり、格闘技にも通じている。正直完璧超人であり、才女ではあり、中等部や高等部、大学部と男子に人気が高いが、外国に婚約者がいる。いや完璧すぎて心までロボット化してねえか。まあ本人がナルシストなのは本人の努力でもなく、ただ単に親が美形だからだが。だが、ヴィクトリアも似たようだが、あれは努力だろう。
「俺には毒舌、ナチュラルに問題無用なんですが」
藍色の長いつややかな腰までの長い髪、切れ長の涼やかな紫の瞳灰色がかり、完璧に作りこまれた人形のような顔立ちは、すでに少女より女性だが、ヘレネに比べればまだ幾分か幼さやあどけなさがある。
「一途でまじめで、頭がいい子だ、ブレイヴとしては指揮官に置きたいタイプだ、だがシエラはそれゆえに同じものを他者に求める、周りと協調性を持つ姉とは違ってね」
「まあ、頑固者というか意思が強いですね、えぇ」
「だが、頂点を目指すことに夢中で、いずれ足をすくわれるよ」
ああ、それはわかる。
「だから、驚いたよ、君を弟子に、部員にしたのは」
「ああ、園芸部って、前に・・・」
「その話はだめだよ、ところで君は部活にはなじんだか」

オーウェンの騎士たちが、アルフレートは昼間とまるでがらりと姿が違うアルトメルデの夜、クラウドの騎士たち―ルヴァロアの人間が小競り合いをしているのを仲裁に入った。
「いい格好しい」
ジ―クヴァルト・オーウェン。その弟。ディートリッヒと同じく、聖剣の守護者であり、王侯に近い立場の少年騎士たちだ。
「場所をわきまえろ」

サイトに何度も抗議活動、テロとは言わないものの、アルフレートの友人でありイフリート隊所属のトリスタンは、「化け物を追い出せ」「清浄なる私達の国を戻せ」という張り出し、スプレーの数々に頭を悩ませていた。
「魔法で片付ければいいのに」
「なんでも、マナで頼るな」

何かの呪いに掛けられている。ローザリンデはヘレネとお互いの顔をみる。現在、ヴォルフリートは生徒指導の教師に呼びされている。
「やっぱり、事件で頭を打ったのかしら」
「僕もなやんでいます・・・」
本当に嫌ってはいない。だは今日、謝ってきたのだ。今まで失礼な態度だったと。
「ヘレネのこと好きだったのかしら」
「姉離れはいいけどさ」


別の魔女部隊、クラウド家の敵の一つ、パヴォーネ学園の生徒会長が、マリアベルの姿をみた途端、いやな笑顔を浮かべる。
「何よ」
「これで、貴方の天下も終わりですわね」
「それだけのためにご足労を?」
扇を広げる。
「今度のマギア・ウォー、貴方は辞退なさい」
「・・・・理由を聞いてもいいかしら」
「信念や道義に反した方々が私のライバルなんて外聞に悪いわ、それも壊れたガラクタしか生み出せない子爵様じゃね」
「・・・・私をいくら馬鹿にするのはいいけど、それは覚悟があって言っているのかしら」
「怖い怖い、まさかこんなか弱い小娘のわたくしが逆らえるわけがない、確かに魔術師はあらゆるものを利用し、優秀なものを求め、真理にたどりつこうとする、でもやってはいけないことがあること、貴方は十分味わっているでしょう」
「卑怯だわ・・・・」
「でもね、ここまでこのわたくしを悔しい思いをさせた貴方がそんなくだらないスキャンダルでつぶされるのはたまらないもの」
「その人間もどきを消してしまえばいいのよ」

・・・・だまし討ちはひきょう者がすること。
嫌いといえるし、彼女がいうことは正しい。だがマリアベルはゴッド・ライブラタワーでの修業時代、ためらわずにモルモットとして兄の仲間を使った。後悔なんてあるはずがない。
貴族の家でもしものために予備を用意するのは当然。気高く誇り高くあろうと、それも貴族であることだ。感情でいえば異母兄弟はやはり認めたくない。愛もなく、優秀な魔術師を。冷酷で、悪で、戦う帝国の剣。そうでなければ人間の敵。
おばあさま・・・・。
貴方は、お父様の秘密を知っていたのですか。マリアベルは別に両親が清廉潔白な人間と思わない。彼らはマリアベルや妹の両親の前に魔術師なのだ。武力派手実力主義の騎士で軍人、ベルンホルトは悪いうわさ、非道であると悪評だが、マリアベルは魔術の師匠でもある父を好きだった。支配者、娘として触れ合うことはないが、だから大好きな兄が天魔落ちだと知った時、カイザーが現れた時、やはり違ったと思った。
血が通わない冷血な動物と思われ、完璧な優等生と思われ、けれどそんな都合のいいものが人間にいるのか。
・・・・エレオノ―ル様の息子二人を、何かから貴方は助けようとしたのではないか。これはマリアベルの勝手な願望だ。
「俺の顔を見るたび、厳しい顔だな」
「三日ぶりですわね、カイザーお兄様」
「・・・」
これである。ルヴァロア公はどうも俺を家から追い出したいらしい。
現場主義とか、そういうことより彼女は統治者というほうが似合う。誇り高く、実力主義。美人ではある。明るい亜麻色のロングヘアにモデルのような体形。マギア・ウォーでは常に上位。俺とこうして、試合がらみして、ライバルだと認識されて、悪くはないが、妹ではあるのに。

空から敵を打つ。
ヴァイオレット・ローズはそれだけをギルドから命令されていた。主力戦力である隊長のユリウス、副隊長のユニコーン種のデュオ、女好きの結界士のサチュロス種のドライ、ヒドラ種のサンク、戦士タイプのサンクの親友、銃の使い手のセッテ、回復術士のけっと・シーのシュモネ。
指揮官は、ダニエル・プライド。
「戦う前から気張っていると持たないよ」
おいしいところは南方遊撃部隊と帝国軍を持っていく。
「うるせ」
アッシュ・ローズ、ブラウン・ローズの本部隊と共同だが、任務はこなすがプライベートでは協調性がない。
銀の十字架は当然だが自分達とともに戦う気がない。

。・・・また、偽物の紋章霊石か。
場所は、ソール遊撃部隊が守るソレイユ・クシャン・タウンの周りを囲む鬱蒼とした木々が重なり合う、不気味な場所だ。
「また徒労か」
エルフリーデは大きくため息をついた。
「まあ、次もあるって」
マッドはナイチンゲール孤児院での最年少での生き残りだ。
「まあ、もともと争いごとの絶えない地域だったし、ひどく貧乏でなにもない土地だった」
「でも一夜で孤児院の兄弟が・・・・」
その先はエルフリーデはさすがにためらった。ヴィジット家とナイチンゲール家が所有していた孤児院だ。
明るく世話焼きのロザリー、元気娘のキャロル、頭脳派のフィリップ、嫌みなランサ―とエヴェン、暗い少女ララ、お調子者のジョルジュ、食いしん坊のマーシュ、いたずら者のピーター、不良タイプのレイヴン、その他弟や妹、多くの家族が何者かに殺された。
「でも、まあ、その中で生き残った兄貴が金持ちの子やお医者様の子になったし、俺も覚えてないし、当事者の感覚ないんだよね」
そこへ、セアドアが少女たちを連れて通りかかる。
「よお、また、クラブ?」
「まあね、気楽な身分なもので」
へらへらとしている。

「・・・あんた、二ケの肖像の信者だったのか」
アーロンは面倒なことに巻き込まれそうだと目の前の盗賊と、褐色の肌と砂色をした少女がもつ、翼を広げたような少女の横顔と月桂樹の紋章入りのペンダント。
「はい・・・」
、純金の溶かし込んだような左目だけは、一般的な茶色の瞳の右目には合わない。
「オッドアイ・・、(ユーリヒューマン)か」
オッドアイは帝都や都会に近い場所ならある程度、温和で取られるが、辺境や田舎では偏見にさらされることも多い。虐められるわけではないが。
アーロンは博愛主義ではない。かといって、少女を下に見るほどでもない。
「あんまり表に歩くなよ」
「はい・・・」
少女はお礼を言うと去っていく。
「行くぞ」
パンドラの少女が後ろからついていく。フードで頭が隠しているが、すごい美人である。ロングヘアで、少女らしさと幼さもも残す。ただ愛らしい顔も大きな目も暗く淀んでいる。
復讐、アーロンが守護者(サテリット)にした少女と結ぶのは、その単語のみだ。
何があれば、ここまで世界を呪う顔になるのかね。

コラールはジュリアとともに、二ケの肖像に送られた。
どこかで悲鳴が上がった。
ルチアだ。何でも、高貴な生まれらしいが、聖女(プリエール)の力に目覚めた以降、カラード王国の王位継承者から送り込まれた正真正銘の姫君だ。長女だが、第3位王位継承者。
「やめてください」
ここが自分の王国だと思うのか、気高い王族の姫は当然だがよりよい関係のため、修道院に送られたり、女王になる可能性があれば民とともに学業を学ぶことも現在は義務付けられている。
「わたくしにそんな奴隷のような格好をしろというの」
戦闘など一度もい経験しない聖騎士の小隊。民衆の人気取り、お飾りで満足すればいい。けれど帝国軍もそれは同じ、指揮能力を得るための座学やそこそこの鍛錬。低くはないだろうが、西の生まれの自分からすれば攻められれば占領される。
異界へ直接この現実界とつながる儀式は、魔術師はもちろん王侯貴族でも認められず、認められた限られたものだ。

ルチアは要するにそういう重要な意味でも、資格がある王族の直系だが、王国内で幼少よりパンドラ絶滅を堂々といい、ブルー・メシアという化け物を殺せと過激な発言を言う、血筋と高いマナに甘えた少女だ。
「パメラッ」
当然だが、彼女についていく王国の護衛もメイドもいちいち癇癪を止める者はいない。責めて、フォースナイツのお飾りくらい、まともな性格なら。
「はい、姫様」

「罪人の処刑ですか」
「ええ、本来は団長がする仕事ではありませんが」
エルヴィーラはイリスが嫌いではない。
「・・・」
羽根ペンの先の紙。
「でも、この人、家族のためにレーヴェ家からお皿を盗んだだけでしょう」
イリスはというと、行動はだった。蝶よ花よと行き、孤独な幼少時代をすごすがいつか友達に囲まれる、優しい人に囲まれたのが世界を愛する要因だろう。それはアリ―シャも同じ、だがリヒトは今では信じられないが幼少時は控えめで体も弱かった。
テレジアは友人こそいたが、アーデルハイトのように朗らかに優しく他人と接することができない、他人の意見に左右され、だからいつも怖い人たちから苦手な人から逃げていた。
「法や掟は国家がよる標です、それを間違えたのなら罰は受けるものです」
貴族主義で実力主義、姉の友人でもあり、軍務も政務も確かに正しい。永久的な平和。でもそれを維持するために何も犠牲もなしに持続させていたのではない。
「でもこの方の一生を決めるんですよね。でしたら正しく吟味して、正しくよい方法で決めませんと」
「処刑は帝国政府が決めたことです、慈悲と同情は今はお控えを」
「でももし、半分くらいの罪でしたら私は無意味にこの方を死なすばかりか、ご家族のその後の人生までずっと辛い目を押し付けることになります」
「これは別に平民だから、他民族だからではありません、たとえ同じ貴族でも、今の秩序を守れないなら当然といえましょう」
「貧しいのは、彼らのせいではないのに」

アイリス団長の名は、エリックの耳にも届いていた。血まみれの白の姫君の罪をごまかすための天使のような少女。本来ならそんな責務につかない、貴族の姫。
だがそれが帝国だ。誰かを優しくして、皆仲良く。そういう思いは罪なのだろうか。
「目の前の戦闘に集中を」
「わかっているよ」
世界は嘲笑うがごとく、そういう理想を踏みつぶしに来る。正しい言葉はヴァガットに届かなかった。でもあきらめるものか。
エリックは友人を思い出す。受け入れてしまえばいい、だが運命に購うこと。幸福を願うこと。いわゆる悪を倒し、善であることを大事にする。体力馬鹿のたぐいだが、エリックは8人兄弟の末で、知恵もあった。
・・・・アンジェリカ・エストカラス。
エリックがモンスターと人間、悪い奴を倒すだけのやつで終わらないのは彼女がいたからだ。少し上の聡明で崇高な少女。
彼女が好きだった。同時に似ているフレッドも自慢の友達だった。彼らの親が気高き人であったことが、貴族も人間も同じ、迷える人であることを知った。
頑固者のフレッドは留学するまで、モンスターとともに暮らすなんてと言っていたが。「悪い奴から、不幸から皆を守りたいか」
「でもエリック、パンドラも皆助けて、君は正しいほうに」

                 2

「聞きまして、アーデルハイト様が在籍の学園で」
女性は身分や年齢問わず、噂話が好きだ。
「まあ、卑劣な」
久しぶりにクラスに行けば、元カイザーの、メシアさまの評価が下がっていた。
すると、女子生徒が憐れみの目を僕の顔を見ながら、気の毒そうにみてきた。
「権力は己の罪を隠すためのものじゃないのに」
カノンが包帯に頭に巻きつけ、叩かれた跡を見せながら、近付いてきた。
「大丈夫、誰も同じ顔だからって君を疑わないさ」
「ああ、そうですか」
後ろの美少女達が怖いけど、なんかまた増えているし。
「自分を大事にしないとね」
「・・・・貴方がいうと重みが違いますね」
「いつものことだから」
これが青春ラブコメか。二次元に限りますな、ええ。

「あいつ、冷たいな」
戦闘後、城に戻りながら窓の外を見る。
「手紙くらいよこせよ」
だがまじめ過ぎる、優しい純粋な親友はまた大切なものができたのだろう。
今の問題が終わったら、帝国に行くのもいいかもしれない。

「・・・・あの少女に行わせるのですか」
ウルリヒが、同じ隊の少女、立会人のフレッドとともにグラウンドを二つ作ったような敷地でうずくまる男を見ながら、そういった。
「君らはまだ子供だからわからないが、必要なことなんだ」
ウルリヒの仲間がフレッドの張りつめた顔をみる。
「何を青くしてんだよ、人が死ぬのは馴れてるだろ」
「あ、すまない」
いわゆる正しくあらんとするもの、ウルリヒはフレッドにそういう気持ちを持つ。臣民も誰もが彼のようなタイプは好きだ。ウルリヒはそうでありたいが、庶民と関わることは禁じられている。こういうものはまだ見習う立場の自分たちには早いが。
けれど、違うのではないか。目の前の罪人は悪いことをした。
「僕は少し席をはずすよ」
止めるものも馬鹿にするものもいない。
廊下に出れば、普通の光景だ。でも守る盾もない人たちは?

自分は世間知らずだ。それでもだ。ただ罪を犯したから、討伐する。
ヒュウウー・・・。
「僕は・・・」
自分にできること、ではどうすれば、武力に頼らないで正しくあるのか。
カイザーを突然失いつつ、彼の兄を追い出す意見が多い一族。正しければ、いいのか。彼らを責めるのは間違いだ、忘れたわけではないが、それでも、家族とい場所を得た彼らを何で責めるのか。
「ローザリンデ・・・」
視界の隅に彼女の姿がある。



ギィィィィィン。
イザべらの背後で、宵の天使といわれるアンジェロがパーティーの士気をあげる。
「信じられない」
「奇跡だ」
神と帝国の敵を全て駆逐する破壊者――支配者の剣、ボーント―アソード。それがイザべラの剣だ。
「どれくらい、帝国の敵の血を吸ってきた」
「黙れ、悪党がっ」
暴れまわる、魔女ヴィネッサを少女達は捉える。同日の深夜、場所はブラン・ナイツ団長の居城近くの城下町。
アルベルトの前で見慣れたはずの景色は一変していた。
何もかもが赤い。燃え盛る炎の色であり、流血の色であり、根こそぎ全てを染めつぶしていく滅びの色だった。
使用人などのおびただしい数の死体がそこにある。
「ふーっ」
「ふーっ」
ルードヴィッヒは仲間を連れて、サファイヤの間での血の惨劇を見る。清廉潔白で有名な一族だ。だがそれゆえに嫌うものも多くいた。だから、先代の当主だけは死に、無意味な血が一族以外で流れた。
相手に幻を見せ、足止めにする魔法、下級魔法の防御魔法だ。
≪ウィスパー・ミラーズ≫
さぁぁぁぁ・・・ドドォン。
「いてて、まるで暴れるくまだな」
第六部隊隊長≪シックス≫、最高戦司祭ロド。
「女の子に熊はないでしょう、さすがに」
イリヤは大きくため息をついた。
副隊長ピエール・イリヤ。
「綺麗な女だな、本当に魔女か?」
「女とみればそれですね、先輩」
がうっ、とヴィネッサが噛みつく。
「気でも狂っているのか」
「んー、幻覚でも見せられてるんじゃないですかね」
「それでこんなに建物壊して、人を襲うってか」
アーネスト、頭脳はアルバートル、後輩のマレーネ、お調子者のマッド。これがエルフリーデが所属する主なメンバーだ。ちなみに激闘で主に欠員が出るので、特にこれといって愛着がない。
「また、一番乗り?」
ヒュウウウウ―。
一つに第六部隊といっても補欠の戦士もいるので詳しい人数は知らないが今にも崩れそうな瓦礫の景色の中、走り回る少年戦司祭たちをしり目に、亡霊の声をエルフリーデの天敵、非合法な依頼や依頼人とのかかわりまで与えるウロボロスの鋭い眼光の亜麻色のストレートロングヘアの少女はマリアベルに似ていた。
「この愚図、あんたがのろまだから無意味な民間者の死人が出たわ」
胸もとのにげられないためのアニマの刻印はエルフリーデに軽蔑の感情を生む。
自分の欲望のために禁忌の禁術に手を出し、自分の家族も仲間も国も犠牲にした最悪の女・・・。帝国に寝返って、全てを裏切った自分のことしか考えない女。
「点数稼ぎのために、また見捨てたの?」
意地悪な笑みを浮かべる。
「暗黒剣・・・」
次の瞬間、敵はりりしい雰囲気の少女の剣の餌食となっていた。
「ひぎゃあああああああ」
《オーディンの剣》をもつ東の魔女の正当なる子孫、ライトグリーンのストレートヘアの目もとにほくろがあるエフォール・リギ―オ、異端審問官と精霊術士の両親を持つパンタシア・ウルぃバーツァ。
「ソウルを上昇させますわ」
パァァァァ。
「全ての悪に鉄槌を与えよ」
天魔落ちと帝国の市民の間に生まれ、トトの異界に落とされたアデレイド・フェイリス・フィリコスヴェヒター。正義の名のもとに恥知らずな真似を繰り返す、世界の守護者気取りの魔女よりも魔女にふさわしい少女達。
エルフリーデは軽蔑せずにいられない。

ー正しくないことは正すべきだ。
「お前」
忍び込んできた刺客。たとえいかな理由があろうと生きている限り望みはある。ルードヴィッヒにとって、大切なものとは。

「ほら、あれが・・・」
「ああ・・・」
周囲がざわめく。リヒトやヴィクターが夜の街に出た時、その騒ぎは起きていた。ずいぶんと荒れているが、ヴォルフリートだ。
「撤回しろ」
「何だよ、事実だろ」
はぁぁ、と心の中でため息をつきたくなる。

イフリート隊との連携なんて、いらないのに。
「・・・」
「・・・」
見た目だけは本当にいい。だが、コーデリアはヴィクターを下の人間として蔑んでみる。コーデリア、エイル、アリシア、ヴィクター。彼女だけ、髪の毛が朱色でウェーブヘア、小さい頃は養子ではないかとからかわれた。そのたびに手きつい罰を与えたものだが。
「奇遇だな」
「気安く声をかけないで、私は姉さまと同じ次期当主なんだから」
「アリシアに勝つつもりか?」
「本当にいやな女ね」
「ふんっ」
マリアベルとコーデリアは仲が悪い。それは彼女達の戦闘スタイルにも表れていた、プライド高い優等生と正義感、帝国への忠誠。マリアベルは女王とその臣下、まあ、主従関係をもとにした多くの仲間と連携をとり、確実に標的を撃つ。コーデリアは少数精鋭で敵の陣地乗り込み、いびり殺すことが主流だ。
「悪魔かよ」
「あんなガキに」
勝利の連勝は傲慢と根拠のない自信に変わりやすい。さらに悪いことに彼女は他のマナの魔術師から持ち上げられる光の属性、レーヴェと肩を並べる神に近い一族の直系だ。16歳ということは自分を無限に大きく感じるものだ。魔女部隊の少女達の嫉妬じみた視線も少女の類まれな外見を飾るものにすぎない。
「生意気なんだよな、自分が神とでも思っているんじゃないの」
彼女は男をひどい方法で振るので有名だ。マリアベルもそれは同様だが、彼女なりの敬意で人を見て振る。
「いつかお前、男に痛い目見させられるぞ」
「本命に嫌われても知らないからね」
まだ生き残りがいたのだろう。茂みの中から、戦士崩れの男達がコーデリアに襲いかかってくる。
「シャインブロンドッ」
コーデリアが攻撃魔法を杖剣から出す。
深夜に、緋色の杖の卒業式にコーデリアは南の秘境での反乱分子の鎮圧の任務を境に本国に戻ることになっていた。
「弱い男は嫌いよ」
「消えなさい」
その姿を言うなら、可憐。美の女神に愛され、同時に春の女神にも愛されたような、桃色のウェーブの髪をお嬢様らしくリボンで一部編んであり、紫の瞳は高貴さを出していた。
「貴方もウィッチハンターに入るのね」
「ええ・・」
マリアベル、ドロテア、コーデリアと性格も似買ったところがある少女は儀式を速く受け、一人前の魔術師として扱われている。
「アーデルハイト様直々の御指名でね」
コーデリアは自慢げにそういった。



ウルリヒの呪文。
「炎よ」
瞬間、あたりが漆黒の闇に代わる。
「すべての闇のものを蹴散らせ」
闇の中から鬼火、精霊がその姿を現す。
≪ファイヤー・タンペット≫


ヴォルフリートはクロ―ディアがいくつか持つアサナトの扉をあけるカギのありかを聞くことはできなかった。いたずら好きでフィネとともにヴォルフリートを本来することが多い彼女を。
そう、だれも彼女の真実の顔を知らない。
少女はヴァルベルグラオ家で、ドレスのすそを掴んで、うれしそうに駆けていく。
「ヘンリーお兄様」
扉を開けると、天魔落ちの少女とヴォルフリートとともにクロ―ディアの最愛の兄がいた。
彼自身にも謎がある、ある禁忌を冒し、背中に練成紋をイシュタルの錬金術師によって刻まれ、マギア・ウォーには参加できないのだ。
「何だ、絆の魔女、鎖の術士、お前にはアリスの警護を任せているはずだが」
「お兄様の依頼は叶えたのです、さぁ、可愛い妹を抱きしめて、思い切りご褒美を与えるのです」
手を伸ばし、さぁ来なさいと満面の笑みだ。
「俺にその顔を見せるな、屋敷に帰れ、忌々しい」
ぎりぎり、と頭をしめつける。
「おお、お兄様は照れ屋さんですものねぇ、ウフフ、これもお兄様の愛」
「誰が愛してるだ、貴様は俺の駒の一つにすぎない、立場をわきまえろ」
「そうですか、今日はそういう遊びなんですね、愛を感じます、ああ、美しいって摘みなのです」
タナトスの剣傾斜が入ってくる。彼女はその一員なのだ。
「すいません、フォルクマ―ル様、調律がうまくいかなくて」
「さっさと連れて行け」



ダークナイトによる反逆は帝国臣民を震撼させるに十分だった。国王に忠実な物静かな騎士は、ッァバァイバスラ―、ローゼンバルツァーとも親交のあるソーレナイトだった。
「愚かな、エルヴィーラともあろうものが叛逆者に脅されるとは」
「だが自体はそうも言ってられまい」
国王と議会は、帝国の顔であるキングナイトを出すわけにいかず、フォース・ナイツの騎士団団長イリスが挙手をする。
「私が止めて見せます」
ブラン・ナイツの騎士団団長は。
「イリス様が動くほどのことではありません」
「たかが家臣の叛逆、騎士団を動かしては帝国の威信に関わります」
ぐっ、とイリスは腕を抑える。

時臣はその光景をレミエルを通して目撃していた。周囲の観衆も驚いたように見ている。シュヴァルツウルフ、元ブレイヴとも関連があり、王宮の関係者としてすぐに動けない。けれど、目くらましなのだろう。ダークナイトにとっては。アウグストは面識があるが、あれは己と自分の関係者しか世界が見えていない。貴族の世界しか知らない男だ。自分の下に臣民は従うべき、そういう人間だ。ワイバァン隊の少年達が驚いたように見る。
「見よ、これこそ、パンドラがわが帝国に暴力の音を下ろそうとしている何よりの証拠である」
エルヴィーラは、レミエルを使い、国民に披露する。


「止めてもうやめて」
「・・・」
ランスはじっ、とアリスを見ている。
「命令ですか・・・」

アリシアの家は、アレクシスの家、レーヴェと古い付き合いがある。マギア・ウォー、創り手の魔女イヴァリ―ナを撃つこと。場所は第一区の南西ミルキーウェイ。碧があり、多少昔の建築物が残っているエリアだ。自由に育ったかといえば、その逆だ。長女ということでお姫様扱いというとそうではない。アリシア自身、王子様を待つようなそんなうぶな少女になる気は小さいころからなかった。かといって、美人で背も高く、女の子達の理想のお姉さまなんて自分は無理だと気づいていた。
「だから自分から行くのよ」

≪エールデ・ワルツ・・・・ッ≫
アレクシスの得意技の一つ、光の精霊(ウラ―ン)に生まれた時よりなじんだアレクシスは死の苦しみなど標的に与えはしない。瞬時にその聖剣で、騎士達との連携技で、一瞬にして巨大な光の閃光、絶対的な王者の剣を振る舞い、敵達は地面に倒れ込んだ。
ヴォルフリートの横にアレクシスがたてば。ローザリンデはふとそう思った。
「行こう、アードルフ」
「え、はい」
ラフォール隊は通り過ぎていく。ヘレネはぎりっ、と歯をかむ。彼女にとって、アレクシスはライバルだ。

思ったより、オグル属の武力は二シエラ達は押されていた。容赦なく撃ち込められる暗黒魔法の光の砲弾。
「ヘレネ様のトールの加護だ」
「おお」
情の厚い少女ではある。だからこそ、ヘレネの作戦には異を唱えた。仲間に慕われる少女でもあり、風向きは一気にヘレネに悪い方向に向かう。
「作戦上、問題はないはずよ」
冷たく突き放した言い方に聞こえたのだろう、リリは頭に血を上らせた。
「目的のために何でもしていいというわけではない」
思わず、手を挙げていた。このエルフの少女はこの後のヘレネが置かれる状況、それについての戦闘、連携をわかっていない。感情に流され、国王への忠義を貫くだろう。
「結果が得られれば、陛下も納得するはずよ」
「あなた・・・」
ああ、面倒だ。これだからみんなが好きな人間というのは醜悪だ。ここはお前のステージじゃねえんだよ。
「いい気なもんだよな」
それがダヴィデの言葉であることに、リリは顔をあげた。
イヤらしく笑う卑屈な笑顔、えらく芝居かかっている、周囲もリリの前に出る、悪いヘレネの前に出るダヴィデに顔をしかめた。
「貴方には関係ないでしょう」

「頬が赤い、・・・・空気読めよな」
イフリート隊の誰かだろう。肩を寄せ合い、ダヴィデを嘲笑する。
「ありがとう・・・」
ヘレネはそういうと、仲間の元に戻る。別にヘレネだから助けたのではない。いつだって、そう、誰かが助けてくれるご都合主義は現実にはない。人間は善人ぶっても、自分しか実は大事じゃない。
「ダヴィデ、カイのところに応援に行ってくれ」
「了解」






サーウォンの第3都市、ロザ―ンジュ。
ツヴァイトークよりもさらに、革命活動、争いが絶えない場所の中で唯一まともなな諸だ。
「宣誓を」
総隊長と銀の十字架(シルヴァ・クロイツ)、白の騎士団(ブラン・ナイツ)の責任者、魔術連合(メイジ・ブリット)がダークブラウンの髪の少年にワイバァン隊に入るための儀式を求める。
―正直、戦いなど嫌いだ。
「イエス・ユア・ロード」
拳を胸に当てる。ガラスの窓から光がこぼれおちてくる。
光の騎士団(フォース・ナイツ)の関係者まで列席している。コウモリの翼に似た鈍い色の竜と剣の紋章が総隊長の服にある。
「私、ゴットヴァルト・クラウドは、国王陛下と帝国、すべてに遍く国民の永久の平和と幸福のために心臓と剣をささげることを誓います、たとえこの身が滅ぶ時がこようとも最後の時まで戦い抜き、果てることをここに誓います」
「よろしい、これで君はわが隊の兵士だ」
そう言って、総隊長がうなずく。ぱちぱち、と拍手が起きる。











「止めなさい、誰か、この映像を止めるのです」
マリアベルは憤慨する。
「マリアベル、カイザー様だけは手出しはしないそうですから」
「貴方達・・・っ」
「仕方のないことです」

フェイトドレスの少女達は地獄というしかない凄惨としか言いようのない西方エリアの辺境の村が狂った卵―クルーエルエッグ―達によって、つぶされたことを知る。人の首でボール遊びし、楽しそうに笑う、角を生やしたハ虫類を思わせるコウモリの翼を生やしたパンドラはナイフを手に持ち、泣き叫ぶ幼子をナイフの的にし、逃げようとする者はオークがカマキリを火あぶりにするように笑いながら、闇の刃で引き裂きながら、炎の槍で貫く。抱き合うように教会や家屋で重なり合う親子もいたが、冷酷なパンドラが人間の頼みなど聞くはずもない。



「・・・・そうも理解できないのは度し難いな」
「どういう意味だ」
だがジ―クヴァルト・パヴォールは去っていく。ヴェンデリンは意味がわからないが、悪い奴には正しさの尊さがわからないのだと思った。
嫌いではあるが、自分と対等にぶつかりあえる相手、ジ―クヴァルトをそう見ていた。悔しい。



2
ルヴァロア家当主と分家筋当主、それにつらぬルルヴァロアであることを誇りに思う彼らはカイザーの名声があがると同時に憤慨を隠せずにいた。彼らはぐちぐち考えるおろかものではないのだ。
その席には、ヴィクトリアやヴィンセントがいなかった。エンヴリマのような裏切り者が出ただけでも忠義が疑われたのに、武力をもって。
「俺にいい考えがある」
アウグストがそういった。何より、マリウスがだめになればアウグストは正当な侯爵家の後継ぎだ。
ヴィンセントやウルリヒ程度ならごまかすこともできる。懐柔だって可能だ。
「そうだ、あの化け物に罰を」
「秩序を戻すのだ」

≪ファイロ・エクストリーム≫
フロイデが、村人を苦しめる魔獣に向かって、盾から炎の魔法を繰り出す。
魔獣は口から雷と風の攻撃魔法を放つ。
「フロイデ様、援護を」
「頼む」

月がダノンの全てを映し出していた。
狂気を示すものだという。今、目の前にシュヴァルツウルフのダノンの宿敵が、人類の敵が攻撃の一手を放とうとする。帝国の臣民の明日を守るのがワイバァン隊の役目。
「いくぞ」
「おお」

一対一、だがヘレネはリーゼロッテから負けを聞いたことはない。
「ひゃああああ」
空からディートリンデが子犬を抱きしめながら、堕ちてきた。
ずだぁぁぁん。
「いてて」
「大丈夫か、カイザー」
あ、ぴくぴくしている。

カイザー・クラウドに自分は勝てない。誰でも救えるヒーローはいない。自分はフェリクスやブレアのように正義の味方になれない。
「まさか、カイザーを追い詰めるとはな」
シスターが、騎士団とともに去るカイザーを見ながら、ダヴィデに言う。
「正直、敵に回すことになるぞ」
「俺は悪くないでしょ、大勢でヘレネを追い詰めてさ、そっちの方が悪だろ」


姿かたちが誓えど、ダイヤモンドにはなれない。かなり針のむしろだが戦闘は仲良しクラブではない。
「来たのね」
温室でバラの世話をしていた、そもそもいつも行く必要もないが、弟子である以上、師匠の買い物に行かされるのは世の常だ。
「まあな」
袋を渡すと、お礼も言わずに俺と離れた席に座る。エイルが何やら気遣う視線を向けるが、俺を俺として認識しているわけじゃない。文科系と運動系、大体仕切る奴がいるので、それに意見し、賛成なら手をあげる。生徒会は後でまとめたものをもらう。シエラが格好良く、学園の食わせ物に鋭い意見を言う。
格好良すぎるぜ、ほら、意地悪な女子生徒も勘違い遊び人男子もシエラの観客となる。あれで何でヘレネさんより下だと思うのか、二人は一つだけ年が違う。
「王様みたいだね」
ブレアが耳にそうつぶやく。
「ああ、市民を虐める的な、確かに」
「後でさ、二人で抜け出さない」
ああ、もう飽きてんのね、まあシエラの独壇場だし、ヒーローショーはあきるもんな。扉が開く。生徒達がシン、となる。
「遅いよ」
くすり、と三年の女子が笑う。
「仕方ないなぁ」
「悪いな」
いつものおふざけか、今日はインテリ優等生風味だが、ギャル系も自分が持てると思う馬鹿な男も彼に限っては、嘲笑もしない。
高貴なるものの属性なのかね、俺なら空いてても座らせてくれないし、何なら含み笑いなんだぜ。まあほとんどはダイヤモンドも石ころも理解できない連中だ。
「遅刻とはいい身分ね、みんなの迷惑とか考えられないの」
「なぜ、僕がろくに自分の意見も言わない連中のことを気遣うんだい」
そのやり方はシエラに似ている。悪目立ちだがそれは力がある奴だから許される。一瞬、他の部活の連中も顔を合わせるが。
「そうだね、予算のこともそうだけど、みんなで意見を言い合おう」
「私が話してたのよ」
「うん、でもそれだと祭で偏りでるから」
フレッドが三年男子とともに黒板に何かを書き、ゴットヴァルトは出し物について意見を言う。シエラの意見も通されたが、多数派により姉妹校と共同で何かすると決められた。
ちなみに文芸部は部員が一人で部長も一人なので、一人で全部するのだ。オタク系部活が協力するらしく、周りが何かしてくれるらしい。お姫様か。
「演劇部も応援するよ、ねっ、ねっ」
「必要ないぞ」
シエラが何やら悔しそうだが、痛いのもそれを通せば、認められる奴もいる。努力もせずに居場所を手に入れられる、俺も彼女もブレアもあそこまでやれば、ひねくれることもなかったのか。


「これでいい?」
はわわとアリスは声をあげそうになった。奥手なヴォルフリートは一ころだ。
「・・・え、あの」
だが、灰色のショートボブに活動的な雰囲気ながら、気品もどこか漂わせた女性は、ヴォルフリートに飲み物を渡す。
「ありがとうございます」
「うん、素直でよろしい」

本人は無意識だろう、とんでもなくきれいな少年の声で頭の悪い歌を歌い、どうも黒魔術を行う気らしく、アマ―リエはカラスやカエルの血ですでに気を失っている。裸足である。ヘレナは頬を青くしていた。法衣のつもりか、簡素な服装の上に置き、裸足で赤い塗料を地面に塗りたくっている、様々なカラフルな紋章霊石や魔宝石を配置して、どくろの目から蝋燭をさして、暗闇の中で炎が揺らめく。
「じゃあ、コック見習いA、呪文を詠唱しようか」
「お。おう」
金髪で緑の大きな瞳。貧しい民の服を着ている。頬が青い。夜の闇のような長い髪のメイド見習い、そばかすの庭師見習いは表情が真っ青だ。マナを持つ庶民の子、金髪の子供はまだ7歳、ゴットヴァルトの反対側を歩き、呪文を詠唱している。
「あ、あんた、子供に何させてるのよ」

一応、ここは公的な場所で、一般庶民から魔術や秘密組織の悪の手から守り、ノーマナとマナを持つ者の秩序、安寧を守るっ噛んで、魔術師ではあるが、臣民のための剣や盾である。ギルドやタナトス、帝国軍の中で革命家やテロリストの相手をする本部隊やイフリート隊とも協力し、超法規的措置もとることもある、暗殺者も活動家も許さない。では、非常識な人間が集まるかというとそう思われがちだが、発達直後から公は別として、特魔はパンドラも仲間に入れてきた。銀の十字架やほかの戦闘組織とは別に彼らに不公平なものはない。パンドライコール犯罪者か兵士というイメージをなくすことを志、が依然として犯罪者に利用され彼ら自身も選択肢が少ない。
それはそれとしてだ。
「君のところの金髪娘がまた市民に向けて発砲したと聞いたのだが」
二ケの肖像と銀の十字架は古くから仲が悪い。もともと女神教会から発足した同じ魔術的組織であり、人々の信仰の対象なのだが。
「あぁ、私は不幸です」
パンドラの多くはやはり戦闘能力やペルソナをいかしたものに行かされ、好戦的な種族とされたままだ。
「ミネルヴァ、あんたねぇ」
「ふん、いかれ野郎をむかついたから倒そうとしただけだ」
容姿だけ見れば、モデルでも行けそうだが、短いズボンから現れる太もも、改造された特魔の制服、凹凸のとれた見事な、女神のレベルの体つき。緑色の印象的な瞳。
あれで政治家の一人娘だ。隣にいる気弱そうな少女はいつも彼女のお世話をさせられている。
「あ、胃が痛い・・・」
特魔とタナトスの仲介役を任される眼鏡の少年は表情が青い。
「あははは、お前、体弱いな」
「・・・・筋肉」
ますます具合が悪そうだ。
「で、君はどうするんだ」
「上からも言われていますが、現状人数は増やせないでしょう」
「そうか、マリウスどのの胃痛が直せると思ったが」
自分のよく出、上にあげたことに一応罪悪感は感じているのだろうが、ヴィッターの剣もあるので明日はこの男はまた同じことをするのだろう。
「エルフリーデ、あんた、また」
「今回は私のせいじゃないわ、ルーティのせいよ」
「ああ、もう」
・・・・そもそも、特殊犯罪魔術一課、好きで所属したわけではない。魔法騎士同士、剣士同士、魔術師同士、どこを見ても欲望や争いがあり、カチューシャをつけた柔らかな短めの少女は普通の家に生れたらよかったと心から思う。
エルフリーデがまた、ヴィクトリアにかみついている。


狂気と夢の魔女は、シュトルツアードラ―家の宿敵である。
シュトルツアードラ―家はその先祖をなぞれば、ローゼンバルツァー、レーヴェとも肩を並べる名門の家である。それゆえにアーデルハイトの公爵家と一度はラインホルトとの婚姻も持ち上がったが、軍国(イシュタル)内の熾烈な権力争いの折、テロリストに当主が暗殺され、現在はアリシアと政略的な婚約者となっている。両者ともお互いの顔を写真で知っているが、家同士ということもあるし、大人びた性格とはいえ、まだ10代の少年と少女である。周囲に恋仲に自然にと応援はされてはいるが、完全に逆効果でお互い距離を持ってしまっている。従者として、9歳のときに侯爵家の使用人となったディートリットは、同じ学園の生徒として、戦闘技化科に所属している。
パヴォーネ学園の書記として、時折来るバルドォルは貧民出身のディートリットが気に入らず、いつも見下してくる。
「困った奴だな」
「まあ、さすがになれましたけど」
フォルトゥな騎士団の関係者なのだろう、ひそひそと内緒話をしている。
「やぁ、シュトルツの鷹君」
キレ者と噂の委員長が偉そうに踏ん張っているクラス内の第一グループにいるラインホルトに声をかけてきた。
「・・・・何だ?」
家名にあやかってだろう。
「いや、君、まだ部活に所属してないんだって?乗馬部とかどうだ」
「必要ないな、それに俺は他人と親睦する気はない」
「うーん、でも、一応、君なら友達も苦労しないだろうけど、少しだけでもさ、ほかの皆とも仲良くしようよ」


「ごきげんよう、今日もマリアベル様はお美しいですね」
「・・・・・」
一度見た後、挨拶もなく立ち上がり出て行った。
「あー、気に住んな、あいつはいつも不機嫌だから」
「ええ、でしょうね、しかし嫌み一つも言わないとは、何でしょう腹痛でしょうか」
「おまえはずれているな、それともマゾなのか?」
カイザーはアマ―リエとしゃべっている。大体挨拶をして学校のこととか話すが10分で終わり、僕は放置である。
「貴族のお姫様なんてああいうものでしょう、性格が高慢で偏屈で歪んでて、ほんっと、アマ―リエ様の息子じゃなくてよかったです」
「本当に記憶ないんだな」
「はぁ?」
「いい、それより、屋敷にいても暇だろ、外に行くぞ」
「いや外嫌いなので、書庫に行きますけど」

「アイリス様って、優しい方なのね」
「うーん、でも、なんかできすぎって感じ」
「マリ―ベルやアリスのほうが好きだな」
「ファインでしょ」
カフェテラスで皆と食べていると、エレンが来た。
「ねえ、ディートリンデ、カイザーを知らない?」
「いいえ、知らないわ、またどこかで本でも読んでいるんじゃないかしら」
エレンがため息をつく。
「謎の方ね」





水色と白のカチューシャに碇のような髪飾り、水兵のような白い軍服。顔立ちは少女そのもので体格も成長途上。
ヴァイオレット・ローズと作戦行動しながら、仲間はウソみたいに死んでいく。
「アルフレート、アトラスミュールの先には何があるのだろうな」
尊大な娘だが、いつも無理しているように見えた。マリアベルが親友、ライバルといえる存在。階級からいえば、ツヴァイトークの国境沿い、チャッシュ猫の盾を生みだす帝国の中の異国。
「何って、山や谷、後は隣国だと思うが」
聖女といわれる存在に、彼女の兄弟同然の王宮司祭がいる。二ケの肖像で育ち、今は神殿で民を支えている。

月桂樹をつけた銀の髪の少女がフリッツの姿を見ることはない。
まるで鳥かごだな。
「そうですか」
目を焼かれたのだ、声も魔法で失っている。
聖女コスモ・べッルルス。フリッツがまだ15歳で、別に兄のように跡継ぎでも、国に愛があるわけでもないのに、剣士であり魔術師の道を選んだのはマーリン・グローリアス、彼女があるからである。
「私の一存で彼の未来を決めるわけにいきませんものね」
「はっ」
自分の父が彼女の眼を・・・・。受け入れてくれると思えない。





女性の本性は一度や二度でわかるものではない。ウルリヒは鉱物のエレメントで自分達を守った踊り子の少女が軍服の上着を身にまとったこと、サファイヤエルも驚いたのか、目を大きく見開く。
暗殺者の名門の娘、リリーリャ。


太陽が傾き、帝都を漆黒の闇が覆い尽くす時、逃亡者を大通り、裏通り、コウモリの紋章が身体や軍服におおわれた集団が一列に並び、顔を隠し、乱れぬ足で追いかける。秘密を暴いたもの、協力者、かかわる、平穏を乱すもの、ワイバァン隊の利益にならぬもの、パンドラが地獄の番犬と呼ぶ彼らは白の女王と同様、恐怖を抱かせる存在。
最近は言ったのだろう、漆黒の髪の長い、仮面の少年はひどく細身だ。まとう服も漆黒で左手には武器が装備されている。眼光は鋭き剣のよう、黄金いろに輝く目、その顔立ちは北欧神話の地獄の女神の化身であるよう、ヘルの息子と呼ばれている。整った半分の顔はなぜだか中性的な顔にも見えた。横顔で見れば、少女のようにさえ見える。だがその半分は――。
逃亡者は吸血鬼。


「バーバラスは多くの戦場、それと人の尊厳を持たない死体を、敵の不幸を醜い策略を見てきた。
情け深い、優しい人間だ。
流血は流れている。何も世界中の人が平和でいてほしいというほどの人間ではない。自分の手が届く場所、大切な人達がいる場所、困っている人に手を差し伸べたい、たとえできる立場の軍や貴族、王侯が相手でも思いをぶつけたい。
罪人や冷酷な人間とも手が取り合える、主のベルンホルトも敵国のライバルともいつか。
その始まりは錬金術師、魔術師、貴族の醜い人間の側面とのかかわりがあるから、だが孤児院の友達は最後まで人間を信じていた。
優しい柔らかな声だ。
ダークブラウンの髪は軍帽の下で揺れる。
「何、頭おかしいんですか?」
騎士達をまるで妙な生き物のように見る。
「ゴットヴァルト」
「―敵を見逃す?意味分からないんですけど」
アルフレートの注意も彼にはきかない。クラウドの絆も思想も初めての彼には非効率に感じるのだろう。オルフェウスの意向もわかる。後の遺恨を残さないための必要悪。
彼としては正体が暴かれたからここが正念場、信頼を忠誠を勝ちえる必要もある。
「これは総隊長の意志でもあるんでしょう?貴方の我儘で町民を危険にさらす気なんですか?できるわけないですよね」
「武力で制すればいいものではない」
ふーっと息をつく。
「僕達はオルフェウス中尉の従士です、ならば徹底的に殲滅すべしは従うべき、貴方達もそれに従うべきだ」
メインはアルフレートたちだ、少年隊士たちもお互いの顔を見ている。今回武力として力を発揮せよ、そう命じられた。
「貴方に聞きたい、貴方は何のために何を守るため、戦うんだ?戦いは恨みを生む、今回のことで貴方を殺そうとするものも出るかもしれない」
「帝国と国王陛下、全ての臣民を守るためです、そのために殺すのが軍人の僕らの仕事です」
騎士の一人が剣を抜く。それも焔のマナを身にまとって。
「我らを愚弄する気かっ」
「貴様、斬られたいのか」
だが彼らの怒りを向けられても。
「―ご決断を、僕には貴方達に願うことしかできないのですから」
「行こう、ゴットヴァルト、時間の無駄だ」
コウモリの一人がいつの間にか背後に回る。
「・・・罪悪感はないのか、犯行勢力の主な勢力は君の仲間だったものだろう」
「むしろラッキーかな、彼らがへましてくれたおかげで僕は今日を生き延びられるから、敵を見逃すのは却下だ、殺してください」
ぞっとした。
パンドラというのは本当に・・・・。
「民は民だっ」
なぜだ、なぜそんな冷酷なことがいえる・・。
「だれに銃を向けているか、よくわかっているんですか?」
眉ひとつ動揺一つも見せない。
「バーバラス、もうよそう」
「お前・・・」
意外そうにゴットヴァルトが見る。ヴィンセントに目くばせされると、会釈し、アルフレートとともに、元の配置場所に戻る。
「彼らを助けよう」

「君たちもいい加減にしないか」
「お」
クラウド家での一幕だ。
「君たちの言動や行動は主に対する礼節を欠いている」
「いやいや、ならないって」


「僕が君のことなんてわかるわけないじゃないか」
「・・・どういう意味」
「君の痛みは君のものだろ、正しいとか間違いなんて関係ないよ、君が過去の辛いの持っていることは一つも悪いことじゃないよ」
「許していいものじゃないわ・・・」
「君がしたいことを見つければいいだけだよ」
「電波ね、本当にあなた気持悪いわ」
動乱は現在、南部の港町でも起きている。
こうした痛めつける仕事は、バーバラすは好きではない。彼の彼女も。
すべて、財産が奪われ、金貸しの家はめちゃくちゃだ。貧窮を極めた市民たちの誰かがしたのだろう。貴族の悪趣味をまねたのか、眩しすぎる光は彼の心に何も効果がなかったのか。
―4年前、青の女王の言葉で彼は改心した。街のだれもが本人さえも信じていた。悪と呼ばれる自白も必要悪だ。
正義感もそうだが、やはり、痛めつける行為は犯人だとしても耐えられるものではない。暇つぶしではないが、バーバラすは後輩を控えさせているヴィンセントに口を開いた。
今回のことばかりではない。
ヘレナに言われた。わが騎士は優しすぎると。
クラウド家の人間もヴィンセントを慕うものも多い。
「・・・・なぜ、ゴットヴァルトに肩入れする」
ヴィンセントを師と仰ぐ少女騎士もはっと顔を上げる。
「やっぱり怒っているのか」
いつも通りの爽やかだが、優しげなようでどこか距離を置く口調。聞かれることは想定していたのか、苦笑する。
「お前らしくもない」
そうかな、とヴィンセントは答えるが柔らかいまなざしは見慣れたものだ。
今回のことだけではない、ヘレナの言うとおりだ。ヴィンセントの性格や価値観からすれば好ましいと思うはずがない。ヴィンセントにゴットヴァルトが悪意がないのは分かる。優しいから、とヘレナは言った。だがこれまで自分と誰かは同じだった。誰かを特別かばうなど、自分のことをばかにされていてもだ。
「あの少年は俺たちからカイザー様を奪ったんだぞ」
肩がピクリと動く。だが視線をそらすことはない。いくらかと息を整えると、バーバラすは。
「お前は感情を見せるべきだ、憎むことは普通の人間のすることだ」
だが、答えはいつも目の前の友は期待通りのようで望むものは少ない。
「あいつを追い出すべきだ」
主人たちがきけば、自分は捕まるだろうか。だが間違っていない。
「バーバラす、あのお方・・・彼に罪はないよ、君は彼を誤解している」
そうすると、ヴィンセントは複雑な笑みを浮かべる。痛みを引きずるようなそんな笑みだ。
「あの方は責任が強く、そして優しい方だ、少なくとも僕はそう思っているよ」
「ヴィンセント、お前・・・」
彼は優しすぎる、聖人のよう、昔誰かが言った。アデルだったか。
「なぜ、何か証拠でもあるのか?」
仲間を討伐している、積極的に。罪を犯したから、その行為は正しい。だがバーバラスには不愉快だ。コウモリはそういう立場だが、拒む様子もなく、悩む様子も罪悪感も見せない。今、この時も笑いながら罪人のパンドラを殺している、だれにも取られまいと、オルフェウスの横で。アンジェとトラブルも起こした。兄を奪われたマリアベルをいたわる様子もない。優しいアマ―リエにも遠慮なしで、兄に甘え、好き勝手に動き、家庭教師の授業をさぼり、騎士達の主の自覚もない。クラウド家は臣民が安心手暮らせる国を守る騎士の家系だ。
あいつに当主になる資格などない。
「カイザー様の一件は彼は関与していない、むしろ彼もカイザー様と同じように巻き込まれた被害者なんだよ」
被害者?加害者の間違いだろう。
幾戦の戦いで悲劇に苦しんできたヴィンセントならすぐにわかる。
「なぜいい切れる、あいつに惑わされでもしたか」
頭を振る。
「ゴットヴァルト様はそんな真似しないさ」

2
――なぜだ、何で、パンドラなんかと。
クララは当主の決定に、表情は厳しいまま、冷静さを保ったが内心、冷や汗があった。優しく気弱な兄に比べ、まじめで正義感があり、優等生の妹。クララは人の言葉を話す、人の姿をしたそれに誰よりも拒絶感があった。
「カイザー様、手紙です」
「ああ、悪いな」

「アデレイド、レーヴェ卿から離れろ」
「・・・わかったわよ」
困ったようにレーヴェ卿は笑う。
「あはは、ありがとう」
くすくすという声が聞こえる。ルベンティ―ナのどこかいたずらめいた笑みを背中にライナーは感じていた。聡明、気高さを体現したような少女はすでに女性の雰囲気を漂わせていた。その背後にはウロボロスの第3席を預かる魔術師アルフレッドもいる。
ティ―ア・リーヴがつんつんとライナーの背中をつついている。
「ライナー様、どうか、国王陛下にこのたびの不届きものの始末を認めてもらえるよう、どうか、どうか」
マリー・アンジェの横にライナーの姿、ハートオブキングとクイーンの姿があった。
「緊急の用件とは、それか」
裁きの天使を守護に持つライナーは、タナトスと連携を持ち、異端審問官と協力し、世界の安寧を図るのが仕事だ。
「そうです、あってはならないことです」
「お前の故郷はスパイの容疑で取りつぶされたんだったな」
中央にはガブリエ―レの姿もある。エルヴィーラも緊張の様子で引き締めている。ネオ・ゴシック様式の華麗な建物では、パンドラハンターのエリアもある。
「ベルンホルト様が帝国の機密にかかわり、なおかつ魔術戦争のために平和的に魔術師の家とつながりがある実力者と数年関係を持っていたことは知っています」
「だが、あのパンドラは許容できないと」
「・・・・わたくし達はただ、アマ―リエ様や家族のきずなが壊されてしまうか心配で」
苛烈なガブリエ―レはひざを折り、肩を震えさせている。それは無理がない。たとえ23歳の若者といえど、ガブリエ―レとは立場が違う。
「・・・無礼を承知で聞きます、あれは本当に慈愛のアルバートなのですか、もはや、あれは・・」
「私はお前達もパンドラも区別しない」
「貴方は侯爵家の」
「家は捨てた、一度ウロボロスの当主になった時からな」
頭を下げる。
「・・・失礼を」

「私たち、親友よね」
場所はライトニング・ヴァリア。
かけていくブレイヴの少女。帝国だけではない。
「ええ、もちろん」

「コゼット、ロゼッタ・・・・」
「妖精のせいなんかじゃない」
ルーティはエルフリーデとともに黙り込む。



現在。イーグル隊を指揮するヴィジット中尉は、今日も東方遊撃部隊や戦司祭たちを指揮して、暴走した魔獣を狩る。彼がすむ屋敷は、第一区にある。
「ジェしかは元気だろうか」
「お前、最悪だな」
「キースリングか」
ふーっ、と小柄の金髪で緑がかった青い瞳の少年がうなり声をあげている。
「遠くに来ても女のことだけかよ」
「真面目だけでは生きてはいけないからね」
「いちいち、きざったらしい」
理由は知らないが、なぜか錬金術師の少年-レオナルト・キースリングに自分はライバル心を持たれている。ヴィジット家は貴族で錬金術師たちを支えている。
「君はどこの生まれだったかな」
次男アクセル、妹スフェラ。彼の不幸は兄弟がパンドラで天魔落ちだった点だろう。戦司祭のアルフという灰色の髪に青い瞳の友がいなければ。
「あぁ?帝都近くの村だけど、それが何だよ」
かみなりと炎のマナを持つ魔術師を生みだすことが多い大地。荒野の辺境の村。彼の母は、秘密を守り、炎に包まれて死んだ。レオナルトにアクセルとスフェラを残して。
「そろそろ墓参りの時期だと思ってね」
「任務に集中しろ」
―昔、二コルという弟がいた。
勿論、年中軍務だ、女遊びだと家に帰らない生活をしていた。家族は権力ゲームに夢中で自分は後を継げばいいと思っている。だからか、新たな養子の弟も関心がない。なかった。
・・・エレオノ―ル。
あれは純粋な初恋だった。美しく聡明で、完ぺきな女性だった。
だがどちらも失われた。
「何だよ、いきなり笑って」
「何でもないさ」
レオナルトは、居場所を求め、錬金術師となった。いつか、ドラゴンに奪われた妹の感情を取り戻し、自分の呪いを解くために、兄弟三人で暮らすために。
「?」
西と東で、ノア、オルフェウス、自分は目の前の戦闘に対応するのに夢中で、そのあとは少数民族の紛争も起きていた。勿論、世間は知らされていないが。
「行こう」
寡黙で自分によく似た軍人が近づいてくる。鬼族の少女ルクスを連れて。
「ミケロ、いけるか」
「問題ない、私の武器もな」
ルクスをじっと見る。12歳にしか見えないが、現在16歳。
「お前の理想に俺は刃を抜く」
兵士たちが銃を構え、ルクスも両手で剣を持つ。
「イエス、マスター」
ヴィジットはミケ猫を追いかけ隊というふざけたサークルに鳥を姓に持つ人間がいることに気づき、含みを含んだ笑みを浮かべる。バドォール伯爵の言っていた表向きは上流階級や知識者、パンドラ狩りの関係者がいることに気付いた。
パロット家、ドゥドゥ家、アークイラ家、バルヴァズ家、クレイン家、ラーク家、シュヴァーン家、オウル家、クロウ家などだ。
「全ての抹殺対象を滅ぼします」

―フレッド様は、素敵だ。
けれど、彼が家だとか、剣士としてのランクとかをひけらかすことはない。
「まさかアルベルト先輩には負けるよ」
私がミスしたとき、いつも優しくかばってくれた。私が仲間から疑われた時、一緒に犯人を探してくれた。年上、年下とか関係ない、皆の前でそう言ってくれた。学校でも同じこと、誰よりも正義に新区で、まじめで間違ったことが嫌いで、みんなを導いて、運動もできて、ものすごく頭がいい。私がすごいですねというと、はにかんだように困ったようにほほ笑んで。私にばかり優しいわけじゃないのは正直嫌だけど、でもみんなに向けるその優しさが好きだった。
でもお家族や父君の話は、自分の国のことはあまり言わない。立派な父で、そのあとを継ぐことは大変だと言ってくれた。先輩で騎士団の仲間で、ずっとずっと私達は仲間ですよね、みんなでパンドラを撃ちましょうと言って。ブローチをなくした私に変わりにとかってきてくれて。下町の皆にも誰にも愛されて。

「死に準じるか」
時臣の性格形成は、薄暗いものから始まる。
「それとも欲望に負け、己を血の海に落とすか」
だが、師範は時臣に竹刀を向ける。



フォルトゥナ騎士団、白フクロウの騎士団がアテナの剣の魔獣を狩り、その多くが引き揚げていく。
「リオン、君は・・・これが正しいと思えるのか」
「まだ怒ってんのか」
「君にじゃない、この戦闘は最初から正義なんてない」

「レッド・レクスを国王陛下の代わりにか」
白の騎士団団長はルードヴィッヒ、オナシス家とアルが反対する貴族、勢力は多い。
意外ではあるがパンドラはああ見えて、信仰心や忠義芯が強い。
「でも無理だと思うのよね」
「フィオナ、どういう意味だ」
「だって、誰もが違う方向を見て、違う価値観を持つのよ、反乱でさえ歴史から消えたことはない」
武力を使わずに、ことを収める。


「や、偶然だね」
「貴方は昨日の」
貴族の男は首を傾ける。
「話を続けてもいいでしょうか」

「言い返すわ、貴方は今も目つきが悪いわ」
「言い返す必要ないだろ」
「ふんっ」
ダヴィデはため息をつきたくなる。

愛想の悪い女。アクセルは出会いがしら、シエラに対して思った。
「ヴィンセント」
「エンヴリオ」
「それでは」


「やめて、やめてよ」
エリザベートは泣きたくないのに。同情も憐れみもいらないのに。
「もうやめて」
反対側の親子の裏切られたという視線。エミリアは目の前の悪魔族の魔獣がエリザベートの作った女神像、その周囲を破壊していくのを目にした。

エデンでは、多くの人間がいた。
「やぁ、レディー、僕が君の兄だよ」
「・・・・」
正確なもの、ネフィリアは魔女や魔王、神を信仰する何かを求めた。
何のために生きるのか。


相性の悪い相手は、ある。ソフィアは戦闘技化において、小等部、中等部と優等生だったわけではない。
「セレネ先輩・・・」
小さい店から、黒い長い髪の女性が出てくるが、一度セレネは見ただけ。

「聞いたか、あいつの家って兄弟が多くてあいつの名前覚えてないんだって」
「何かすごい家何だろ」
承認欲求、強い自我。


死のミカエルと異名通り、エミリアは微笑みながら、領主に近づくセアドアをリリとともにみていた。誰も領主を助けようとしない。
「約束を守れないものに生きる価値はない」
「やめ、やめろ・・・」

「・・・・僕はイリス様に騎士団団長らしくしてほしいだけさ」
「デヴィッドはなんでそう厳しいんだ」
「君は辺境で育ったんだろう」
「どういう意味だよ」
ディートリンデが友人とともに駆け寄ってくる。
「デヴィッド、あっちにおいしいマカロンがありますよ」


ヴィンセントは扉の前に立つ。
「いうべきか悩んだが、例の事件であいつは何を言ったと思う」
「ああ、レオンハルト様のいえの」
「あいつは弱いからだ、と無神経に笑ったんだ」
「・・・君は本人にしんだ人達のことを聞いたのか、どう思うのか」
「行っておくが、気遣ったんだ」
あの無神経さにはあきれた。

「ヴィクトリアちゃん、今日も最高です」
アンドレが特魔の中でヴィクトリアに抱きついた。
「ぎゃああああああああああ」
「・・・もう少し女の子らしい声を上げられないの」
「無理無理、男前女子で破壊姫だし」
実家では甘やかされるがここでは意外と扱いが優しくない。その原因は本人にあるが自分を顧みないのがヴィクトリアである。
可愛いが迷惑な少女という、あまりうれしくない評価が固定化されている。トラブルの種、不幸な怪物プリンセス。




追いかけてくる。追いかけてくる。セシルを多くの殺した魔女が。
・・・・エドゥアルト。フォルクマ―ル。
捕まえて、殺そうとするよ。
そこで、セシルは魔女の手下に銃弾を撃ち込む。
魔女やウォーロックの出現はランダムだ。
一人だけでは殺せない。


ヒュウウウ―。
ヴィッターは驚いたように、戦闘後の近くのカフェで優雅に座るレイア・フォン・トゥ手を見つける。
「お前の引っかけた女か」
「・・・・」
「ヴィッター?」

≪アルジル・ダード≫
ナイトハルトが粘土状の魔術結界の中から、アルベルトの前に現れた。
「面白い魔法だね」




発見された時、天魔落ちとして覚醒した生き残りの少女はそれまでの記憶を失っていた。ただ後悔と怒りが、その姿が家族を思い出させた。魔術師、アルトメルデ軍の陰で行われた非合法な実験場。生き残ったことへの罪悪感。その時、17歳。少女は11歳。
ナイチンゲール家はオーウェン家と古くから確執があり、決して温かい場所ではないが冷遇されてはいない。今から5,6年前。
フィリップは魔術師、鬼属のモルモットだった。


















「馬鹿な、アリスとの誓約を忘れたのですか」
「夢だったんだ、バルツァーもディアボロもあいつらと手を取り合うなど」
「全て殺すのだ、今スグ」

「当家の起こした事件の事は、アリス、ヴォルフリート、貴方も知っているでしょう」
「マーティン・クレイン殿」
「無意味な、ただ争い合うだけの、まあ、若い貴方達には関係のない話だ、青の聖剣の話でしたね」

「・・・・ゾフィー・・・」
「アルヴィン、君は僕に身も心も預けるがよい」
「私が君のすべてを肯定し、否定しよう」

3
「貴族というのは最悪だな」
「そんな人ばかりではないよ」
「なんでだ」
ダークエルフの剣士は微笑むだけだ。
「奴らは民衆を同等だと思っていない」

プラチナ・ローズ、女王の国(ライトニング・ヴァリニア)出身、スプリガン種といわれたメイ。
彼女は現在、多くの周辺の街を襲い、平穏を脅かしている。
ナンバー2、ピクシ―種、探索と情報収集が得意なユーニ。
戦士タイプのヘルハウンド種、フリオ。
剣士のワ―ウルフ種のセクスティーリス、弓使いのケンタウロス種のセブテンバー。シ―エルフ種ノのウェムベル。

ザファルートに聞く。メイド達は理知的な青年の過去に興味がある。
「そうですね、砂と夏に愛された国ですかね」
帝国からはい中の国、遥か彼方の東は未開地。
「女性達は民族衣装を着るのでしょう、あでやかな踊り子のような」
王政ではあるが、身分制は実は形だけだ。だがマナを持つのは女性が多い。不思議とそこには天魔落ちは少ない。
目を閉じれば城が近くの屋敷を思い出す。傲慢不遜な父を始めにたくさんの魔術師の女たち。似ていない親子、あっちも自分が苦手だ。友もいたが、階級関係なく付き合うものは母もあのこさえしなかった。
初恋のあの子は革命で死んだ。スパイだった。
「ザファルート様は祖国に帰りたいですか」
恋はいつも、欲望と鉄、銃声、不条理の気配がした。

「・・・アリシア様」
「フランシスか」
か細いまでのはかなげな声。フランシスか・クォーレチェスタ。

「少し、昔のことを思い出してね」
「エストさん・・・」
「俺達、相談に乗りますよ、愚痴だって」
はかなくエストは笑う。
「ありがとう、貴方達はいい人ね」

「・・・吸血鬼との契約・・・」
アルトゥルとルーティはその遺体に思わず目を伏せた。
「ウロボロスは白の王の駒ですから」
フランシーヌはルーティの横に立つ。

以外ではある。勝手ではあるが、ゴットヴァルトは運動が、格闘技が苦手そうなイメージがあった。悪いうわさ、真実も皆から聞いてはいた。暗殺者、完ぺきに実戦の剣だ。
動きが俊敏で、目元がのんびりしているが、一振り、剣筋に無駄がない。それに意外と頭が働くらしく、もうアルフレートの次の行動を予測している節があり、次の動きを待ち構えていた。レッド・レジ―ナ、アテナの剣で鍛えられたのか。
「行くぞ」
片手使いか、スピード重視のタイプかもしれない。獲物を見る、あのがらくたやちりを見るような、もの扱いする目が気になるが、次の一振りで決める。接近し、剣を眼前へと向け、そしてーー
剣が折れた。
「なっ」
「あらら」
ゴットヴァルトはアルフレートののど元に剣先を当てた。冷たい剣の感触が背筋に冷たいものを感じさせた。ひたひたとくっつけてきて、アルフレートをまっすぐ見てくる。
「つまんないな」
ゴットヴァルトがアルフレートをけり上げ、床に倒すと、両手で剣を持ち、剣をアルフレートの心臓の上に。
「勝負はそこまでだ」
「・・・・え、でも」
「仲間だぞ」


雨の中の廃墟で、黒髪のロングの少年は死んで、紋章霊石を持っている。
「これはいつの出来事何だ」
「未来の出来事よ」
エプロンドレスの金髪の少女は意地悪そうな目つきだ。
「未来、でも・・・」

「あれがヴァーヌス方面遊撃部隊の剣聖のアールヴ系エルフ、エレンヴェレッド・リリージーナ・アウルムリトス・ノービリス・フィエリテイヴリンか」
テおドールは、ラインホルトの横で長いなと思った。
「大の男や鋼鉄のようなものでも触れずに倒すことができるらしいぞ」
「あんな華奢な女の子が」
金髪の髪をくしゃくしゃしながら、ヴォルフリートは女好きそうなリートゥすという隊長とエルフの少女を見た。魔女を倒すための遠出、天魔落ちのリーダーとして駆り出されるわけだが。



「すごいな、アレクシス」
「あはは、結構大変なんだよ」
「さすがお兄様ですわ」
アリ―シャは満面の笑みだ。
「アプリコットを操ったのはお前ですね、死霊使いドイド」
「クロ―ディア、何を言って・・・」
アリスは驚いたように目を見開いている。

「ペルソナが少し暴れただけでそう怒らなくても」
「いいえ、坊ちゃんは精神が不安定しすぎます」
「おい、はずれてくれ」
マ―キューリーは去り、ゴットヴァルトが残される。
「さすがに演技が過ぎると思うぞ」
「…演じてないけど」
「お前一人がどうにか慕って、ここはどうにもならない、あえてピエロを演じてもクラウドは今を変える気はないぞ、お前がいくら弱者やパンドラを救いたくても」
「いや、ごめん、僕そんな高尚な理由で動いていないんだけど」
「何で、本当の自分をそうも殺そうとする、そんなに別人になりたいのか」
「ですから、貴方の言うパンドラと僕は別人ですって、いいですか僕は南部生まれじゃないし、貴族の母なんていないし妹もいませんよ、中尉殿とはあの日初めて会ったんです、ハンカチだけでベルンホルト様の子というのは」
「あそこまで追い詰める男だ、お前が父と思いたくない理由はよくわかっている」
どこまで悪魔なんだろう、つくづく暴力親父だな。
「へ、へぇ・・・」
なら、なおのこと追い出されたいな。いや、殴られたり監禁されて殺されたくないし。
「でも冷静に考えてみません、そんな人が護衛も連れずに街をふらついていると思います?僕はアーディアディト様のおまけで確かに貴族の家で育ちましたけど」
僕に似ている嫡子ねえ、でもすぐに気付きそうだけどいたかな、そんな客。
「お前も冷静に考えろ、お前に似ている人間がそんなに何人も、お前のすぐ近くにいると思うか」
「最初の説明で7人兄弟だと侯爵様いいましたよね」
「あの偏屈で傲慢でケチな男がパンドラを二つも作るはずがない、お前も現実を認めろ、お前の失敗を、母の死を」


ロザリンドは、繰り返す戦闘に、意味もない殺人に、人間であったこと、自分が何者か、見ないふりをした。ここではだれもが欺く。だが生き残って、その先に何がある。ここにいる人間は妹を見殺しにした、最低な奴ら。だが、そうでもしないと生きられない。裏切りものは殺せ、帝国の敵を殺せ、隣人を殺せ。
変な場所。
兵士ではない、完全にそうなられては困ると恐怖した。だから中途半端な優しさを見せる。ご主人さまのいい加減な慈悲や優しさ。そんなときに、神様や魔王、英雄を夢見た。気づいていた、モンスターを助けに来る人間はいない。都合いいものはいない。
「・・・・・お前が新しい、ブラウン・ローズの副隊長か」
ルイと大広間と話す機会があった。








ズォォぉン。
柱の陰にレオンハルトの招待客だろう。セリーヌは魔女になる前に呪いをコーデリアとヘルミ―ネにかける。
忌み嫌うウサ耳ピンクの異母妹のおふざけに付き合うことにしたのだ。
お前達の思い通りにさせるか。



4
ワァァァァ・・・。
地下にあるこれは。
「パンドラ同士を戦わせる決闘ですよ、小規模なものですが」
「これを俺に見せてどういうつもりだ」
「あなた、正義なんてもの信じていないでしょう、陛下は間違いを認めようとなさっている、天魔落ちを帝国の英雄にする気だ」


「・・・離せっ」
ハーフエルフ、マリエルは無益に子供の命を散らす気はない。だが同じ隊の戦闘狂は。
「お前は失敗作だ」
「くっ」
床に投げ飛ばされる。
「俺達とあの餓鬼の命は対等じゃない」

「おふざけが過ぎるんじゃないか」
「?」
明るく優しいエストになぜか、クリスタルという少女は喧嘩腰だった。気のせいか、エストもどこか意地悪そうな笑みだ。
「何のことかしら、クリスタルちゃん」
「また陥れるようなまねは私が許さないわ」

ディートリットは移民、流民の子だ。両親はすでに他界、ずっと商売人の遠縁の夫婦の元であちこち旅しながら、生きてきた。
「ディヴッド」
パヴォーネ学園の制服で、街の通りを金髪碧眼の少年は歩いている。
「・・・やぁ」
そうか、家族とともに帝国に移り住んだのだったな。
「君がここにいるということは、ラインホルトもいるんだね」
「会うかい?」

「ゾフィー?」
アリスは大きく見開く。
「貴方がなぜ、ここに」
「誰かを救おうなんて考えないことだ」
「え?」

「今の貴方を大事にして、それが貴方が大事にすることよ」


「・・・貴方は悪い人ではない、ヴォルフリート」
風のオーウェンから離れ、パンドラを保護する組織を作った翡翠色の瞳の黄金の髪の、主候補だったオぅパール。
「だからこそ、言っておこう、君は早く戦いの場から身を引いた方がいい、エリザベートを救おうなんて思ってはいけない」
ジ―クヴァルト・オーウェンは、彼が慈愛と同情をはき違えていると聞いた。バドォール伯爵は相談役の青年を偽善だといった。
「何でです、彼女は強引に・・・」
「私も殊勝な理由で彼らを助けてるのでもない、そんな優しいもので区別する気もない、このまま他人を救う道をとるなら君は今より辛いことを背負うことになる」


その光景に意外なほど、ヴィントは執着していないことに気づく。
昔は好きだった正義感の英雄。少年の主に仕え、守護者として、青の騎士にあこがれた時期もあった。
―アーディアディト。










宵闇の中で、二つの光が砲撃音を合図するようにぶつかり合い、幾条もの光線。甲高く響き渡る金属音、激しい殺陣。ワイバァン隊につく闇を一番に振り払う役目、それこそがバーバラスの目の前の少年達の怠慢な通常通りの日常だ。月さえ寄せ付けない剣閃、刃が発する火花。
ワイバァン隊が打つのは、パンドラ、魔女、ウォーロックだ。同胞うちを名乗りあげたのは先頭にたち、的確に指示をし、攻撃し、防御し、その場で適応的に小隊をルヴァロアの騎士と編成して、目的を遂行する少年。主力戦力はアルフレートたちが撃墜している。ことに普段ののんびりした幼い少年は戦場となると、冷静な戦士に入れ替わる。情けはない、ただ踏み潰し、自分のものにする。

5

夢のように消えてしまった、アンジェリカお姉さま。
「アルベンティ―ナ・・・」
とげのように目の前の存在がミリアムを醜い憎悪のものにする。
いけない。
「・・・」
けれど、面白くない。

「はーろん、アレクシス、テレジア」
「・・・・こんにちは」
「お久しぶりです」
すると、シエラはそそくさと去っていく。魔術界は自然と顔なじみが多い。
「何の御用ですか」
アリ―シャが前に出る。ちなみに穏健派で中立をとっているが、フェリクス家現当主はエステルの家とも親交があり、アレクシスにはエストは年上の先輩、気の置けない姉のような人だ。
「あら、元家庭教師が元生徒に話しかけちゃいけない」
「…そんなの、お父様をだますための策略じゃありませんか」
だが、アリ―シャを敵ではないと言いたげに、エストはアレクシスに近づく。
「聞いたよ、何か、生徒会に可愛い子が入ったんだって?」
すると、きょとんとする。アリ―シャがいやな顔をする。アリ―シャはエストが兄の初恋相手と思っている。可愛い妹だが、たまによくわからないと気がある。
「男ですよ」
「うん、私可愛ければ男でも女でもありだからよし」
だがアレクシスは笑みを浮かべている。
「大切な友達たちなので、なるべくお手柔らかに」
「大丈夫だよ。少し楽しくおしゃべりしたいだけだし、そうそう、この前、アリスちゃんに会っちゃった」
「ああ、あの一座でローゼンバルツァーの」
エストがアリ―シャに視線を向ける。
「アリ―シャ?」
「でもアレクシスが言うほど、例の男の子、変人でもエキセントリックでもないじゃない」
すると、テレジアもアリ―シャもはてとなる。
「それって、ヴォルフリートのことですか」
「そう、アリスちゃんの可愛い弟で救世主の、あれはただの男の子だよ、アレクシスもそろそろ人を見る目鍛えたら?」
「明るく仲間思いなのはエストさんの好みでは?お遊びの相手も大抵・・」
「全然論外よ、将来化けるかもしれないけど、私も本気になる相手も遊ぶ相手も一応その人みて選んでいるのよ、あの子は手を出してならないものよ」
「つまり、気になると」

「アルベルト、やはり来たか」
「君を止めに来た」
「その銃一つで」
アルベルトはグッ、と喉をつまらせる。
「君も約束を守ってくれたじゃないか」

「正しい方法でないものに価値はない」
なるほど、ヴォルフリートの影響か、たぶんアガットは愛されて育ったのも原因だろう。力あるものは、世界や愛する者のために使うべきだとアルフレート同様、トップの実力者は思っている。感情的で、だがパンドラが憎いのを抜けば彼は友にも仲間にも愛され、周りに誰かいるのが普通だ。アレクシスや兄とは違うが、リア充という奴だ。
「お前はへっぽ子だ、だが上に上がる才はある」
友に説得されたのか、組み手を組まされた。
「お前は何のために戦う、おれがその目的によって鍛え方を決める」
力あるので、中間層の少年たちに教えようというまっすぐな考えだ。
「パンドラは殺戮が本能なんだろう、お前は獣のように殺すだけか、だが違うはずだ、半分は人間なんだ、情はあるんだろう」
情にも熱いタイプだ。
酷いこと言っているようだけど、一般的なんだよな。確かに国民一つになっている。
「お前は己の力を何のために使う」

ヴァンパイアの妖気に操られたか。
アーロンはグッ、と肩に緊張を走らせる。

「お前、何者だ」
「光の騎士団の騎士か」
「・・・」
オルグは表情を引き締めたままだ。

6
「バドォールがなんでこんなところに」
「フロイデ様、彼らは・・・・」
特魔の介入か。

・・・メシア様。
コスモという少女は当然ながら、普通の人としての人生はない。多くの特権、自由は責任があるからだ。
胸の奥が微かに揺らめく。
「・・・・」
誰かに救いを求めてはいけない。

すでに、ジ―クヴァルト・バドォールにおいて、それは一つの死でしかなかった。国王陛下や帝国の秩序を守ること、帝国の闇を担う存在。その存在ゆえに自然と、特魔やタナトス、裏稼業のものとかかわることが多い。
「すごいコレクションだな」
場所はソールの魔物商人の家、祖父が死んでバカでかい屋敷を引き継いだらしい。
「ただの遺物ですよ」

「吸血鬼は性別関係なく、人を魅了するからな」
フィーネは生気を吸い取られた村人の間を通りながら、マリウスやヴィッターたちの元に歩み寄る。
「…お前の知り合いか」
「まあな」




7
「大義というものが失われているかもしれないな」
「町の連中は」
「生きるさ」
「あんたは中央に捨てられたと言ったが、近衛騎士団に」

「貴方は何をそんなに苛立っているの」
「エスト、何だよ」
今日はやけにからむ。
「貴方、変よ、最近」

「まさか、またお前の顔を見るとはな」
二度と見るはずも踏むはずもないルヴァロアの分家。
「それで俺にしてほしいことってなんだよ」

カイザーの帰りを待っているのだろう。マリアベルたちはカイザーとけんかしつつも、どこかライバルじみた空気が流れている。本来はアルバートがいる場所だ。
「・・・・」
アルバートなら多分、同じ場所にいる。

親戚たち、使用人はゴットヴァルトを庶民とも扱っていないがいてもいなくてもいい、腫れ物にでも扱うような態度だ。ディートリンデやフリーデリ―ケ、オスカー(オルフェウスも入る)など関わってくる人間の方が少なく、あくまでカイザーのおまけの扱いだ。
敬遠ではなく、あれは無視だ。アマ―リエのひきつった笑顔。おびえた目の距離を置いた妹。マリアベルは追い出せないならと使用人とはいかないまでも、いないものと存在しないと扱い、嫌っている。嫌悪するものと上から目線の自己満足の同情。クラウド家の使用人は囚人たちの前では嫌悪した表情を見せないが、はっきり言えば怯えている。正式の息子として認められている形の上、追い出すわけにも―ベルンホルトの意志もあるから、バルドォルのいやみやいじめもみないふりをする、アルフレートも完全には助けない。侮蔑する者もいるが、そんなものは少ない。
赤の女王のお気に入り、遊びのことか実験体とかそういうことは次だ、パンドラであることが存在自体が疎ましい、パンドラ狩りの誇りを傷つけられている。魔術の実験で少しおかしいが人間ではないから処分することもできない。
―だが、彼らを困惑させたのは少年の態度なのだろう。
カイザーは立ち向かい、自分の風を起こし、アウグストたちも手を出さない。立ち回りもよく、彼らの中には認めていいのではというものもいる。
ゴットヴァルトは気にしていないのだ。アルバートではない、そのことが露見し、追い出せるはずで反抗されるのかという意見もあった、財産狙いだという奴の化けの皮がはがれると。
「じゃあ、仕方ないですね」
でていこうとした。アマ―リエやマリアベルにもその妹たちにも興味を見せず、カイザーに「またあとで」とだけ言って。


7

「強いんじゃないよ」
「そうなのか」
前のヴォルフリートをみる。
「ごめん、秘密にしてて」
「誰でも薄暗い過去くらいあるだろう」
俺も彼女もブレアも。
「大体清廉潔白なだけの人間なんてもう人間じゃねえよ」

「俺はお前に負けない」
カイザーは、異界と現実のはざまで、敵に立ち向かう。
「大事なものはお前なんかに譲るものか」

「これは何のつもりです」
甲高く、イリスが叫ぶがヴァガットは仲良しで世界を飾る気はない。
「パレードですよ、イリス様」


ソファーに座り、ゴットヴァルトがカイザーの横で同じ本を読んでいる。
「お前らまたつるんでんのか」
オルフェウスがカイザーに手をまわし、間に顔を出す。
「オルフェウス兄さん」
「ん、いいだろ、家族なんだし」
にやり、とオルフェウスは笑う。
「・・・」
正直、カイザーも信用ならないが、まだゴットヴァルトほどの拒絶感は覚えない。マリアベルと同じく誇り高いようで繊細な面があるせいか、割と受け入れている。
「ゴットヴァルト、パン屑ついてるぞ」
「いや、ハンカチあるんで」

「気がたっていますね」
「オスカーか」
爽やかな少年だ、18歳の落ち着いた少年だ。アーク隊に所属し、ウロボロスからも期待された親戚の一人だ。
「なぜ、オルフェウスはどこの馬の骨のものともわからないものを」
「マリウス兄さんは彼の言葉を信じているんですね」
ダークブラウンの、あいつと同じ色の整えられた髪。それにいら立つが表には出さない。
「あの映像は一部しか映っていないが、真実ならなぜアマ―リエは奴を追い出さない、パンドラならエデンでもゲヘナでも送ればいい」
学園に生き、別荘に住み、警備がつき、つまりは今までと変わらず。まるで王族のような扱いにも見える。警備を増やしたのは、オルフェウスが願ったのだろう。もともと高貴なものは護衛がつく、それに侯爵家の流れということで疑問を持つものはいない。カイザーも同じ扱いで、見えないだけで相当の護衛もいるのだろう。マリウス達は実は言うと、あの騒ぎ以降、近づくことは少なくなった。ゴットヴァルトはカイザーを守るための眼隠しで同じ扱いなのかもしれないが。元々近づいていないが、完ぺきに関係を持たないというのは無理だ。ベルンホルトがカイザーより先にゴットヴァルトに過保護なようで、徹底された管理体制、監視のような使用人や傍づきの護衛、軽い牢獄のような世界を作ったのは彼なりに一族を自分の不始末とはいえ、自分の血を持つ悪魔から一族を守ろうとした意志だろう。ゴットヴァルトが自分達に近づかないのもベルンホルトの意志だろう、そうした制約を条件に屋敷で生活をしているのだろう。パンドラ嫌いのベルンホルトが敵との間に子をというのは実は、何か裏があり、何かしら得るものがあるから傍に置いている、魔術実験、帝国の発展のためのあえての悪を働いたということではないか。
「それは難しいではないでしょうか、侯爵も・・・あのお方も表向き仕方なく引き取ったとはしてはいますが、パンドラとされる子供がどのような扱いを受けるかは知っていますし」
「パンドラ狩りの家の侯爵がか」
「ともかく、マリウス兄さんは彼からオルフェウス兄さんを離したいんですね」
「当然だ、弟を殺人兵器の傍に置けるか」
「ですが、難しいと思いますよ、オルフェウス兄さんのゴットヴァルトに対する感情は並々ならぬものがありますから」
「頭がおかしい冷酷な奴に何で執着する」
「アデルさんのことがあるからでしょうね、それに彼は家族を小さい時奪われていますから」
「アデルはあいつとは違う、死んだ人間は戻らない」

「いや、だから空中から連続の爆撃攻撃すれば」
「あほか、もっと戦況が悪化するわ」
「そうだ、応用を考えろ」
「そう言われてもな、じゃあ、二つに分けて後ろから攻撃したように見せかけて、敵部隊の中からアタックするとか」
オルフェウスが頭を叩く。
「お前はな、もう少し倫理というのを覚えろ」
「倫理じゃ人が死ぬけどいいの?」
「じゃあ、上官の恥ずかしい秘密を外に出すと脅しつつ、敵のお偉いさんの弱点を突き、精神攻撃して、休戦状態に追い込むとか、この間多分兵力が蓄えられるね、味方に見せかけて油断したところを攻め落とすとか」
「人の道に反しているぞ、さすがに」

屈辱で見を震え、ショックを受けていた。
「こんな、下等のものに・・・」
「冷静なんだな、妹が命を狙われかけたのに」
マリアベルがゴットヴァルトの腕の中で恐怖で震えている。それを言えば、ゴットヴァルトも怪我をしていた。
「―パンドラの命を狙えば、ありえることでしょう、マリアベル様、もう大丈夫ですから」
「う、うん・・・」
「アマ―リエ様、あとは任せても」
「え、ええ」
「カイザー、少しは後先考えてくれよ、シスコンで命落としそうとか馬鹿なんですかっ」
「言うな・・・」
「ゴットヴァルト、血が」
「ああ、いいですよ、これくらい」


「・・・何というかシャ―リぃは変な人ですね」
長身ウェーブヘアの美人でお嬢様なのに。
「意外な一面だ」
アルベルトがヴォルフリートに問いかける。
「彼女は遺跡何か、特魔の人とめぐって何をしているんだい」
「さぁ、サーウェンの生まれだし、鬼とか自分が殺した死体とか探しているんじゃないの」
ローザリンデの言葉にアリスは怒るような視線を向ける。
「・・・・ああ」
「大変だったからね、例のバラバラにされた暗黒騎士の傍遣いは」
ヒュウウウウ・・・。
「え?」


いつも通り、出没したパンドラを倒しに行くと冒険者が飛び込んできた。
「大変だ、帝都が」


















ワイバァン隊の隊士たちは裏切られたというように見ている。仕方ない、とあきらめるもの。
「邪悪な悪魔め」
変身していく時、ああまたかと思った。
オルフェウスが叫んでいる。
ショーは観客を満足させること。座長は最低だったがそれは教えとなった。
「違うの、私やカイザーのために」
事実は捻じ曲げられ、彼らの罪が自分に降りかかる。人を疑え、アテナの剣の教官は言った。
アルバートが止めに入る。さばきはなおも継続し、罪なき国民は盛り上がる。
「やり返せよ」
「何で抵抗しないんだっ」
抵抗したら、自分がいなくなったらアルバート同様、保証される?馬鹿か、ありえない。
「止めろッ」
「邪魔するなら、お前達もただではおかない」
それを見ながら、ああ、面倒だと思った。
「・・・くっ、くっくっ、あははははははは」

「あーあ、ばれたら仕方ない、せっかくお上品な貴族さまをだまして、言い思いしようと思ったのによ」
痛みが身体を襲うが今は無視だ。
「そうだよ、お前らの言うとおりだよ、たまたま俺の変身術で見事に侯爵家をだましてドンパチできるとおもったのに」
エルヴィーラが剣を抜き、
「下劣なパンドラめ、やはり、おのれ、成敗してくれる」
カイザーに指示をする。一秒、二秒。できるか、相手は超一級品の軍人でマナの使い手だ。一瞬だ。
一瞬で決めるしかない。
捕まったら、カイザーも調べられる。殺されてもあれが見つかったら困る。

よし、今だっ。

「・・・・ふうん、君がシエラちゃんの友達ね」
え?先程の明るく優しいエストから一転、温度のない歪んだ笑みが浮かぶ。それが完成されているというほどに、馬鹿にしてるでも下に見てるではない、敵いではない。
「そうですけど」
「シエラちゃんは君のどこを気に言ったのかな」
それは気に留めていない。
「さぁ、俺は彼女ではないので」


「お前には、数ある予備が減っただけか」
「いい加減にしろ、アルフレート」
「私にはあなたが何をそんなにこだわっているのか、理解できません、これは、デッドドール、死んだあの人の妻でも何でもありません」
アルフレートは銃を向ける。
「貴様は帝国を歪ませる」

主義者に暇はない。
「オスカーか」
「フィリップさまも」
革命するもの、力を行使するもの。鬼属が罪を認めることなく、ただ間違いが広がる。犯人を裁く、だが、武力で制してはイタチごっこ。きれいすぎる、とジ―クヴァルト・パヴォールにいわれた。
「有力者の娘を誘拐か」


「あははははっ」
いきなりの聖女の笑いにアリスはびっくりした表情になる。聖なる土地を邪悪なけがれた土地に変えた。
「せ、聖女様?」
「なんておかしい人たち、馬鹿な人たち」
異端審問官も少々驚いていた。しばらく、笑い続けた後、慈愛のこもった笑顔を浮かべ夢を見るように。
「あぁ、ありがとう、救世主様、アリス様、わたくしをつまらぬ人間の女に落としてくれて、あんな豚たちのために涙を流して、浄化してくれてありがとう、これでわたくしは晴れて地獄に落ちれるわ、すくってくれてありがとう」


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