第14章第14章素晴らしくうちの妹(弟)は可愛いは不思議の国の兎と同じ1 うそつきな女、別れる時、思った。アリスに対してマリアベルはそう思った。何もかも持っている人に私の気持ちなどわからない。 悲鳴が鳴り響く。泣き叫ぶ民衆。守るべき人々。故に今日も剣を取る。誰かを奪う剣だ。 アウレリアヴィーナは当然だが兵士から悪魔に落ちるパンドラ入るのは当然だ。ブレイヴとなる時、彼らが悪だと、成り立ちを教わるが、確かに目を覆う、目をそらしたい。 「ぐるるる・・・」 これがパンドラ。 マリアベルの手をアリスがすくい取る。 「大丈夫よ、絶対」 「でも」 「貴方はだれよりも輝く女の子になる」 バレッタをつけたハーフアップのオレンジのロングヘアの精霊術士がデヴィッドの腕の中で倒れている。 「お前、まさか」 「ハルト、僕がそんなことするわけないだろ」 この紋章、イーグル隊の軍人か。 出席番号23番、エルゼ・ビギーン。身分は庶民。武器商人の娘だ。カノンと同クラスだが、特別美人でもなく、かといってブスでもない。マナの量は少々高い。 「ラ―ス・・・・・」 時臣に少年は銃口を向ける。 「ここで貴様を殺せば、どうなるんだろうな」 「冗談だろう」 ザカートブレス家の令嬢は、4年前に空に降り注いだ聖なる乙女の十槍(セイント・アルテミス・スピア)の一つ、ナナのやり、混沌の槍を大事にする当主モ―ジの高揚する気持ちがわからない。じゃじゃ馬娘、おてんば娘、長女のシレントに比べると、容姿は金髪碧眼、体も成長途上。アイエル・フォン・ザカートブレスは女学校に来年、入学が決まっている。 「何よ、あんたが悪いんでしょ」 北条時臣が呆れた目で見ている。殴る、ける。 「何だよ、寸胴」 モ―ジは深くため息をついた。 このあたりは、ベルクウェインの土や鉱物のマナを扱う魔術師がおり、かってドラゴン種族がいたと伝説もある。 少し離れた場所では黒狼が騒ぎを起こし、知り合いの町の民が避難している。 現場に駆け付けた時、魔術大学、イシュタルの学園は数人の死体が転がっていた。およそ8百年前。 「これは・・・」 全身を血で染めた侍女が駆け付けたオーウェンに血まみれの物体を見せる。 「完成です、どうぞお受け取りを」 青年はすでに死んでいた。 「カールス・ブラックです」 「まあ、皆仲良くしてね」 「へえ」 「ふぅん」 女子は笑顔だが、こういう時の品定めは結構怖いな。ともかく、それが俺がカールスとであった瞬間だ。 「よろしく」 俺は自分の名前を言って、笑顔を浮かべた。 「年は君より下だから、名前で呼んでいいよ、仲良くしようね」 「・・・・ずいぶん大きいですね、ちっ」 ちっ。 「神経質そうだし、イグナスの価値下げるから表面上付き合いなよ」 「でも仲間だし」 もう一度、背がそこそこの痩せた少年をみる。ぼさぼさだな、メガネの下はあれはくまか。16歳らしいが自分に興味ないのだろうか。 「じゃあ、とりあえず、作業の説明はセレアちゃん、頼むね」 「えええええええええ」 「・・・うざいです」 スィリィの胸を、レーヴェ家の魔術師は図書館の隅で軽くたたく。 「お飾りの同情も憐れみもたくさんです」 ライトニング・ヴァリアで有名な伯爵の令嬢。魔術の世界は知っていたが、田園地帯が広がる何もない場所。年の離れた姉たちはよく帝都に生きたいとか、花々しく活躍したい。そんな姉達がいたからだろう、悪魔崇拝しゃやユーリヒューマン、天魔落ちの残忍さ、悪魔的所業を、帝国出身の母はローゼンバルツァーに倒され、名誉も誇りも奪われこんなところに繰るしかなかったといい、私に異性というものを関わらせなかった。 そんな時だ、自分にマナがあることを知ったのは。 元々魔術師の家なら喜ばれたが、母は混乱して、だけどある女学院に送られることとなり、私は華やかで冷たい貴族の世界に放り込まれた。 「あの子いつもうつむいて」 「変な子」 王宮付きの聖騎士ならば、そうそう血でぬれた戦場に送られることもない。 憎悪。 そんな二文字だけで、あの人は死んでいった。 狂気。 そんなに文字だけで、助けようとも、あの人の孤独や優しさを見ようともせず。 残酷。 ブルー・メシア、ならばお前が幸福のために何人、あの人の家族を殺した。 「どうだい、いつも君よりすぐ下の僕でも、こんなことができるんだ」 アーロンは驚いたように勝手の同級生を、アイエルとともに見る。場所は草原。ソールの首都より三キロほどの田舎だ。 ドラゴン、いや練成獣がフェリスがうなり声を上げる。 ≪クレピュスキュール・スロマーチ・・・・・・ッ≫ イングリッドの一撃が敵に一揆に放たれる。 桃色の長い巻き毛の奇麗な、天使のような少女が天空要塞から、アーロンたちを見下ろし、ブレイブを地上に投下する。 厳しい魔術の訓練は愛らしい少女とは無関係に行われていく。上の兄たちは前妻の子、優しい母も誰も止めてくれなかった。満ち溢れたお嬢様の生活、後継者としての鍛錬。親しい友人も自由に選べず。 「・・・フォボスと組んだのか」 「なに、日常を守るためだ」 ディートリッヒ達は信じられないと言った顔だ。 「君達は誤解しているが彼はああ見えて平和主義の紳士だよ、必要だからね」 「・・・でも、わかんないな、帝国は一応、あいつらにも権利とか普通のこと、与えてるし、無害なパンドラもいるのに」 「ああ、昼間の、まあ、銀の十字架を始め、アテナの剣との盟約で戦闘員にパンドラが入るだろ、レイモンドはあれで臆病だから」 「まアテナの剣も崩壊、奴らを抑える上もいないんじゃ、ああいうのは怖くて仕方ないんだ」 リーゼロッテ・オーウェンの名を有名にしたのは、ウロボロスの重鎮の娘を勇敢にも第一部隊だけで助け出したことだろう。 「さすが武力が正義というお姫様のナイトなだけあるな」 「もう一度言う、罪を認め、人質を解放しなさい」 「アロイス、アルベルト、君達は若い」 「理想というものは叶わないから、美しいのだ」 ハートオブクイーンは黙り込む。 「・・・アルバート、君もだ」 「お前、あいつ嫌いだろ」 「うん、まあ」 爪をといでいる。 「別の相手でもいいんだぞ」 「アルヴィンの代わりはいないからね」 「それはそうだが」 そういう生き方を強要し続けている。いけないのに。 「嫌いなのに傍にいるのはきついぞ」 「ああ、あのことか、まあその辺の動物だと思えばそんなには」 「相手人間だぞ」 「…理解できないよ、命は一つしかないのに、頭おかしいよあれ」 怒っているのか。 「いい奴だろ」 「すごい嘘つきで、あいつに似てて、いやだよ、あんなのがいるから」 「・・・・貴方を待っているんじゃないかしら」 いつもキ―キ―うるさいセレア?、女子の一人がそういった。名門の制服を着ている。 「まさか、他の人でしょう」 どこにも居場所がない。 その自覚があるものにとって、どうして世界に熱狂できよう、執着できよう、狂うことができるか。大切なものを失ったものは寂しいものだ、だが、最初から大切なものなどない人間は孤独を感じるか? その名前は焔の風で主を守るためと、いまわしい記憶を忘れないために残した名前だ。畜生の母と最低な父、薄情ないまわしい最低の血族の血が流れていることを自覚し、誰かに依存しない己でいるために。己を世界に刻むために。 初恋と友情、それさえも乗り越えて、唯一無二の自分でいるために。 主や国、弱いものを愛する。そんなものは自分で自分を正当化できない弱い奴がすることだ。 「・・・・お前、ヴリルか」 「ルドガー・・・」 盗賊ん手下か、何人か倒れている。 「お前も賞金目当てか」 「いや・・・」 「何だよ、お前らしくねえな」 「今回の青の騎士は珍しい組み合わせよな」 清涼な雰囲気が掻き消え、まるで大輪の花のごとく、グリムは笑う。フロイデは何かの魔法の影響か、彼女のことは覚えていない。アヴィスは青の騎士を放棄し、自分に渡した。 「バルツァーとバドォールのものが仲間になるとは」 「・・・・ブルー・レジ―ナ」 リヒャルトは敵に関与し、資格が失われている。サファイヤエルは女神との契約で永遠に結ばれているはずの騎士達に戸惑いを感じていた。必ずしも志が高く、魂が高貴なものが選ばれるわけではない。 「勿論よ、エルフリーデ、明日処刑されるパンドラは今回の事件の関係者は一体もいないでしょうね」 「なっ」 セイントシスターがそういった。 「ヴァイオレットッ」 「・・・」 だが彼女は答えない。 「アルフレート君」 クラスではまとめ役ではないが、何かとリーダーをさせられる。目立つのは好きではない。 「わかったよ」 はぁ、とため息をつく。 正直、アリシア先輩は苦手だ。ヴィクターは自分を見ると嫌そうな顔をする。カイザー、挑戦的で冷たい、合わないことはわかる。意地悪で告白で世渡り上手で。やはり苦手だ。廊下に出ると、周囲がざわめく。 「奇遇だね」 「・・・アレクシス」 「ヴァガット、お前は優しすぎ」 「そうは言われてもな、ヴィント、困っているものは放っておけないだろ」 「これだから坊ちゃんは」 「お前、馬鹿」 ヴィクターは喧嘩仲間の片思いの相手だったことを知る。 「少し驚いた」 「もう無茶するなよ」 「そうね、今度は気をつけるわ」 「・・・・頑固者」 「何よ見た目ヤンキーのへたれ」 ブレアのイメージは太陽とか、まあトロピカルだろう。誰をも平等に愛する。本人は汚くて卑怯なところがあるというが、俺は別にそれは悪ではないと思う。シエラのイメージは月だろうか。冷たく冷え切って、自分だけでたつ。テおドールは地球だろう。よくわからんが髪の色とか、穏やかな感じだが以外と俺より怖いと思う。後輩は、小惑星な感じだ。むかつく生意気でいやな奴だが、まあバランス考えれば、部活にはああいう激辛も必要だろう。俺は空気だろうか。そういうと、常に正面パンチ、圧制者の姫はさすがに哀れんだ表情を浮かべた。 「誰もが貴方をそこまで嫌ってないわよ、意識して相手していないだけで」 「どういう意味だよ」 「そうだよ、空気なんて悲しすぎるよ、みんなダヴィデが苦手なだけだよ」 だが、悪魔の笑み、違う、妖精の笑みが向けられる。ただし、邪悪な妖精である。いやな予感。 「皆に必要だといいたいんですよね、先輩ったら意識たかーい」 それやめてくれよ、幼等部でエドガーに公開処刑された時みたいじゃん。 「まあ、あなたのヒロイン気取りはともかく」 ブレアさんが奇妙な生き物を見るように俺を見た後。 「うん、大丈夫、イケメン、男前だよっ」 「違うから」 「大丈夫、私ダヴィデは女装もに会うと思うよ、いけるいける」 だがいつの世も、独裁者に全て搾取されるものだ。友情の形も残念なのが欠点、テおドール並みの待遇は期待していないが、シエラは今日の部活動内容を発表する。 「わー。楽しみだなぁ」 ブレアが隣に座る。え、マジですか。そろそろ、ブレアさんが虐められたい人か聞きたいくらいだ。慈悲、ボランティア、高貴なるものの奉仕。ブレアはモテる女子だ。誰にも優しい行動は、正し頭が残念。 「文芸部をうちの部に取り込みます」 テおドールが俺を見る。きりっとしているが、え、師匠様、どういうこと? だが、動かない機能があるのか、他の部員は俺に視線を集中させる。お前らアクティブ系じゃないの? 「つまり?」 「あれは権力を個人のものとした悪の象徴、私が間違いを正すわ」 思わず突っ込んでいた。 「・・・・お前、生徒会長になるって、あれ、マジだったの」 「お姉さま達がしたことが私にできないわけがない、それにここに人がいるのも私の人徳のおかげでしょ」 彼女はクールながら決意していた。 「勝利は私の前にある、誰もが私にひれ伏す日は近いわ」 いつも思うが、この人は何で自信があるのか。中二病?ではないか。優等生のかかる病気だ。頭がいいと成績がいいとは実は違う生き物だ。でもお前がひれ伏せるって、男子だけでは? 「でも何で文芸部?はっ、恋花ですか、先輩にライバルですか、青春ですね」 一見ただの恋花が好きな女子の発言だが、この子はいるのはシエラは無関係だ。容姿、才能、あらゆる面でそこそこではあるがアリシアに逆らい、隔離されたもの。自分ルールでいえばシエラと同類に見えるが、彼女は現実を理解している。悪ではあるが人間関係の哀れな殉教者なのだ。 「じゃあシエラさんはあの顧問と交渉を?」 テおドールは、本人隠している、純粋にシエラの崇拝者のようだが、カイザーから監視役を任されたが正しい。正しくまじめ、優しい。正論だ。だが俺を恋愛教や青春教に誘わないあたり、バランスがわかっている。ただ、自分の周囲の女子のスパイラルは全然読めないのだ。アレクシスを見習えよ。 「ああっ、あの先生、ロゼット先生と仲悪いんだよね」 ブレアは闇を理解していない正義のヒーローでプリンセスだ。男子が理想とする女の子だろう。一人を俺がいまだ、ドキドキ☆マジで魔法少女の公開処刑だよ、にされていないのはブレアのなせる業である。では男子にはいじめのダンジョンが来るかと思うが、音沙汰もない。どんな男も近いだけで殺されるかなと思ったが、俺にはそれなりに信頼があるらしく、いや、まあ確かに一人で生きるといったけども、女子に関心あるよ? シエラを慕う友達ではあるが、ブレアはお前には扱えないと思うよ。理想な女子のまんまということは邪悪が通じないのである。 「一応、作戦とかあるのか?生徒会が認めた部活だぞ」 それに文芸部は生徒がどうこうできない。 「顧問一人に部長が一人って、確かにありえないが」 「なら簡単よ、カイザー、あの泥棒貴族はブラコンだもの、弟が私の下につけばそれなりに言うこと聞くわ」 なめてんのか、考えた上なのか、あの着れ者というかい闇というか高圧な感じがブラコンね。 「じゃあ部活でしないでお前個人で誘えば?」 「ねえ、ダヴィデ君、男友達ってなんていえばできるものかしら、私告白はされるけど男の子には友達はいつも断られるノ、なぜかしら、女神すぎるから」 「俺は友達だよ」 おお、テおドール、フォローだ。 「それで、どうすればいいかしら」 高圧的、高圧的だよ。悩んでいる風だが、威圧感だよ。テおドールが好きなのだろうか。なら、告白しろよ。 「文芸部…を廃部するんじゃなく、そのラファエル様自体を陥落ですか、シエラ先輩は駄目ですね」 「そんなことない、シエラは可愛いよ」 「・・・ブレアったら、恥ずかしいわ」 「先輩、可愛い・・・」 うーん、現在社会の闇があるなぁ。 「まあ、じゃあいっしょに遊ぶとか」 「・・・」 実に平和な解決法だが、それできるのテおドールだけだよ。 「遊ぶ・・・、ダンスとかピアノとかテニスや舞踏かしら」 「まあ、買い物ですかね」 「そうだ、公園でダンスだよ」 「まあ、まずは一緒にご飯行くとか、山でキャンプとかが基本だろ」 あれだ、一見他の三人が最強に見えるが、全然方向性が違う。シエラのは論外だ。 「そもそもどういう奴なの?テおドール、ラファエルの友達とかに聞いてこいよ」 「それは無理だよ」 おや、中立はのこいつらしからぬ言葉。 「・・・・・・・・・・・ゴットヴァルト君、学園に友達はいないから」 「生徒会の奴とかクラスメイトは?」 「あれはお兄さんがいるからかな、僕からはいえないよ、シエラさんの方が」 ちら、と見る。 「そうね、持つものは持つもので苦労があるから」 窓際に立ち、視線をそらすのは何だよ。 「お前の幼馴染だろ、カイザーって、ならヴィクトリアは、あいつ、カイザーの子文になるんだろ」 「対岸にいるからできることもあるかもしれないわね」 なぜか窓際を見つめ続ける。なぜか周囲が俺を見た。え、何? 「先輩、お願い聞いてくれます?」 何というか、大事にしまわれたクリスタルガラス、解ける前の雪を感じさせるような、一種の非現実的な、触れてはならない禁忌、冒しがたい気品。はかなげで壊れやすく、同時に一度触れてしまえば、壊れてしまう。いや、俺にこんな美少年とか関わらせるな。肌が白いなぁ、というか、これ、男? 俺と同い年?だが俺の困惑をよそに長いズボンより短めのズボンが似合いそうな、ダークブラウンの髪が奇麗な、いかにも箱入りのお坊ちゃんがようやく俺に気付き、視線を向けてきた。 「え?君、誰」 「すまない、無理だった」 「早いよっ」 ブレアは信じられないと言った感じだ。いや、いきなり文芸部に遊びに行くとか、ぱーりーぴーぽーなギャルとかでもしねえよ。 「お前、ナルシスト仲間だし、行けば」 「貴方は私がわかっていないわね、どれくらいの付き合いだと思っているの」 まあ、半年かな。 「ブレア・・・さんは?」 「もうブレアでいいのに、大体ダヴィデ、他の子は呼び捨てじゃん」 「ブレアさん、もう少し気遣ってあげましょう、彼は精神が豆腐なみに砕け散るタイプなのよ」 お前がメタルすぎるんだろう。 「もう一回」 お、おお、でもあまり胸が揺れないね。さすが清純系女子。 「何だよ」 アルヴィン・スパロウは私の顔など覚えてないだろう。世界に期待していない、他人に立ち入られることが苦手な濁った瞳のクラスメイト。 「あ、いや、今日はいるんだなって」 テおドールは、銀の頂の塔で修業しながら、先輩に言われたことがある。 「君は戦いとなれば勇敢だが、肩の力を抜くことも覚えた方がいい」 「は」 「依存しすぎるのは駄目だが、頼ることも覚えてもいいだろう」 彼を知る人は皆言う、まじめで優しく努力かで、仲間思いで抜けている。誰もが彼を友人にしたいと思うだろう。 扉を足で閉めると、アルフレートに注意された。 「手でしめろ、従士なら礼儀正しく」 「イヤ、少し変な子に出会いまして、ここって個性的な人多いですよね」 ぎろり、と緊張感むき出しのオルフェウス隊のメンバーが睨む。 「…お前以上の個性はいらないが」 「ルイ―ジでしたっけ、あんな壊れたパーツをよく部隊に入れましたね」 少年少女以外にも、それより上の青年の、いかにも軍人といった雰囲気の人間が多くいる。 「はいはい、書けばいいのね」 が、ゴットヴァルトには世間が怖いと思う、犯罪者や暗殺者のような顔も普通に見えるらしく、普通に作業を再開する。 青の騎士の女性騎士がクロウの髪をくしで梳かす。雪が降っていた。 「―それは大変ね」 「別に俺は剣士だ」 どうにも青の騎士や白の女王は苦手だ。悪い人間ではない、善意の人物は。 ヒュウウウウ。 「何だ、一閃で・・・」 氷の刃で見事目の前の強敵を身体を引き裂き、水の龍があたりを地面を持ちあげ、コウモリたちを助けていく。 「寒そうだな」 ここではあまり見ない鮮やかな金髪、お育ちのよさそうな整った、きざな顔立ち。 「はい、女の子が身体を冷やしたらだめだよ」 赤いマフラーをクロウに巻きつけると、殺戮の嵐――裏切り者や手下のパンドラを討つ少年の元に一気に駆け寄り、隣に立つ。 「手伝うよ」 「後ろを任せる」 当然だが、彼らの日常はゴットヴァルトには華やかだが、退屈極まるものだ。マリアベルは美しい、そう主役になるべき、高貴な少女だ。 「ふぅん、お前がベルンホルトおじさまの息子か」 多くの客から、巻き毛の少年が騎士を連れてやってくる。 「あまり似ていないね」 じろじろ、と値踏みされる。 「失礼、僕はイアン・クラウド、オスカーにいさまの弟といえばわかるかな」 握手を求められるが口の端がかすかに歪む。 「きれいな顔だね、女性に人気だろう?」 「まさか、自分なんて全然ですよ」 「なっ」 「何だ可愛い顔で寝てるから、いい夢でも見ていると思った」 にっこりとセアドアがクロウに微笑む。 「俺は男だ」 「はいはい」 やはりこの男は嫌いだ。 扉が開き、ゴットヴァルトが入ってきた。ミリアムがパタパタと近づいていく。 「わたくしが買いに行きますのに」 「ただの昼食でしょう、大体何で君が僕の昼ご飯を買いに行くんだよ」 私は貴方に仕える立場ですので。 「けっ、また女をたぶらかしてんのか、女たらしが、小さいくせに」 「ダノンクン、俺との言いつけ、忘れてないよね、ね?」 セアドアがにっこり優しくほほ笑む。 「え、いや、おれは」 「ね?」 「セアドア、仲間を虐めるなよ」 「大丈夫?一人で総隊長のところに行けたか」 「小さい子じゃないんだから、じゃあ、僕はコウモリの方に戻るので、ってなんでついてくんの」 「同じ隊の仲間じゃないか」 「薄気味悪いんだけど、その性格の変化」 じっとラフォール隊の少女がクロウを見る。 「顔が怖いわよ」 「えっ、あ」 「えー、僕人間に興味ないなぁ」 「・・・・イヤ、あいつらお前を心配しているぞ」 「はは、君は虫の言葉なんか真面目に捉えるのか」 爽やかにきらきらしながら言うな。ひでえな、いつも。 「一応王宮騎士か、聖騎士が狙えるんだろ、お前」 「まあ、≪秩序≫≪誓約≫≪神の息吹≫で、水のマナだしね」 つまりは光や白魔法とかの系統か、だからなんでいるんだよ。 「じゃあ行けよ、ここに活躍する場は暗くて汚い所ばかりだろ」 「大丈夫、僕はどこにでも行かせるから」 「・・・何か、ここにいなくちゃいけないのか」 「ヘンリーがいるからだよ、僕は彼の相棒だからね」 ドンッ。 「鍛え方足りないんじゃないの」 「いたたた、セアドア、離せっ」 相性悪いな。 「お前、クロウと仲いいだろ」 「え、全然」 「イヤいいだろ、コウモリの中でお前と一番話してるぞ」 「そうかな」 「胸がむかむかする、何だ、これ」 「ああ、水をどうぞ」 クロウはそのまま、端に向かう。 「ヘンリー、組み手をしよう」 「ああ、はい」 そうして前に出る。 ほんっと、あの二人は、自分と相性が悪い。別にセアドアが嫌いなわけでも、ゴットヴァルトを差別していない。どうにも調子が合わない、二人とも頭がおかしいからか。俺様だからか。 ・・・ヘンリーがいるから。 「セアドア、応援に来たよ」 「ああ、うれしいよ」 女好きが、ふまじめな、国を守る兵士のくせに。志が低い奴。 誰かを思う、というか、あれは依存だ。過去は知らない。だが一方だけの友情は思いはたぶん健康的ではない。 それにあいつ、そんなに追いかけるほど、すごい男か? パンドラにほぼすべて忠誠を持たれているというがただのキメラだろうに。 「ほんと、最悪・・・」 「はは、じゃあ止めればいいのに、ついでに実家戻ればいいのに」 「大丈夫、僕はできる、君を悪魔達の手から守る、彼女とともに」 ・・・ああ、人間の間の手から。 「深刻だね、で、君の性格が激変したフェリクス家の儀式だけど」 「それで従士は大変だろう、僕が代ろうか」 「聞けよ」 「うんうん、聞いているとも、危険な輩がいたら僕が全員殺してあげるからね」 「ほんっと、安心できないな、君」 どんっ。 「あ、弁当落ちた」 ゴットヴァルトは悪いなと思い、ぶつかった人物、突進してきた人物に顔を出す。 「悪いな。前が見えなくて」 「あ、言え、俺もちょっとパニック起こして」 ルイ―ジが痛みを抑え、顔を上げると。 「すいませんすいません、マジでごめんなさい、ひえええええ、そんなつもりなかったんです、ゴットヴァルト様ぁぁ」 ゴリゴリ。ずりぃぃ。 「・・・・・セアドア、僕って実は不良キャラに見られてんの」 「これで気を収めください、生まれてきてすいません、宇宙のゴミです、ですから怒らないでください」 財布を差し出された。 「ルイ―ジ君、落ち着こうか」 「それはつまり、高貴な方の前を通ったから、腹を切れということでしょうか」 「イヤ、僕、孤児だから、親が金持ちだっただけで」 「つまり、首をつれと、それはあんまりです」 ええと、何だこいつ。 「安心なさい、そのようなことを僕が君に強要するわけがないでしょう」 関わりたくないな、うん、危ない。 「つまり自主的に死ねと?」 「人は神の子、誰も見な神の前で平等なのです、一つとして軽く扱って命などありません」 ぼろぼろと涙をこぼす。 「ゴットヴァルト様・・・」 笑顔を浮かべる。絶対関わりたくない、怖い。 「許してくださるのですか、哀れな僕を」 「僕と君は同じ隊の仲間じゃないですか」 だが、くんなよ、オルフェウス隊にくるなよ。 「ゴットヴァルト様ぁぁ」 「はは、しょうがない方だ」 軍服が汚れるな、ははっ、抱きついてくる、きもい。 どすっ。どがっ。ずさぁぁぁ。 「もう、ルイ―ジ君ってば、泣き虫さんだなぁ」女性隊士。 「仕方ない奴だな、はは」青年隊士。 「少しは強くならないとな」美少女隊士。 ルイ―ジはそのまま彼らに連れられて行った。 「あれ頭を狙ったよな」 「うん、未曽有地にパンチだね」 「確かマナは使わないような」 多分あれがラフォール隊の愛の表現何だろう。大変だな。 「それでは、わたくしが帝国を変えて見せます」 アリスは驚いたようにイリスの横顔を見る。 「わかっているの?それは、国王陛下に挑むということよ」 周囲の二ケの肖像の関係者、軍人も驚いたように見ている。 「わたくしは権力がほしいのではありません」 「私もお姉さまみたいにきれいならいいのに」 「・・・いいのよ、それに一つしか違わないのだから」 エステルと違い、兄弟の中ではヘレネは妹にかかわる機会が多い。だがすねている。母は厳格であり近寄りがたく、父も同様。 「あなたは甘えていいの、それは悪いことではないわ」 仲が良い家族ではないが、ヘレネは不幸だと思ったことはない、兄は立派で姉も素晴らしい女性、妹は繊細で可愛く優しい。彼らの期待にこたえようと勉強も礼儀作法もスポーツも求められるものはなんでもして、賞もできるだけとった。 けれど、だれも妹のことを理解してくれなかった。彼女の存在が邪魔だとか下とか見たことはないのに。大好きだ、幸せだと言えばヘレネは素晴らしいわねと無理していると決められた。 「・・・・何を優先させるか、か」 ヴィクトリアはやはりカイザーが苦手だ。 「こういうことに馴れているのね」 「求めたわけではないけどね」 「どうだか」 「悪魔め」 「お前は遅すぎるのだよ、いつもいつも」 地下には悪魔たちがうようよと。 「ヘルミ―ネを助け出すには二日ほど、だが永遠といえるほど、遅い」 孤独。当然だが、そうなることを選ぶ奴とならざるを得ない奴がいる。 「どうにかならないかな」 「やめたほうがいいわよ、貴方達も周りが何とかして、実際望み通りの結末を迎えたと気があった?」 「・・・・」 ブレアが考える。皆と同じ、皆といる場所、確かにそれは一般的な正義で概念がある。 一人すきのおれでさえ、急に周りに人がいないと同じ行動しないと、そういうのに囚われると気がある。多分大人に近づけばそういう時間のほうが長い。 「まあ、俺達がどうこう言うことじゃないし、考えても仕方ねえよ」 「違うよ、それ」 「・・・・じゃあ、どうするの?」 「本人を変えなきゃ、何も変わらないよ」 アシュレイは、闇の世界の住人だ。戦いの中に自分の価値を見出してきた。故に、光そのもの、ありすがなんで自分にほほ笑んでくれるのか、そのいみがわからない。 なんで、こんな自分に優しくしてくれるのか。 「アロイス」 「アルバート、お前も気づいていたか」 アロイスは柱の陰から見る者の存在に気づいていた。 だが、それでもそのものをとがめることは最後までしなかった。様々な色彩の花びらが舞う。 「カイザー、着てきて」 「リーゼ、待ってくれ」 美しい姫だ。だが、彼女は王宮騎士に守られていた。 決して手に入らないものへの慕情。それをとがめるものがいるなら、それは何者だろうか。 「いずれ、あの二人くっつくのだろうな」 「ヴィルフリート、その言い方は」 「わかってるよ、姉さま」 「どけよ、邪魔するな」 「いやよ離さないわ」 「この女のくせに」 あっ、と思わず手を振り上げ、アリスを傷つけそうな感じになってしまった。 「きゃっ」 「止めて、姉さんを虐めるなぁぁ」 泣きながら、ヴォルフリートがタックルしてきた。 「このっ」 殴ると吹き飛び、点々と転がる。 「う・・うぇ・・ぅぅ」 「このチビがっ」 「先輩って、馬鹿ですね」 「いきなり、それ」 「ああいう人たちは聞く耳ないの、わかりません?」 周囲がザワツク。 「げ・・・」 マリアベルか。 「ああいう、家族間のすれ違いというんですか、こういうところ、魔術師とかいやですよね」 「ああ、お前アレクシスのいる部活にいたんだったな」 「カイザー先輩もなんか私のこと、好きっぽいですし」 「それはねえな」 「なんか、わけありですし、私はアレクシス先輩がいますし」 「それはねえよ」 ―五年前、 「何度目かで、受け入れちゃったよ」 「え・・・」 ヴィクトリアは驚いたようにアレクシスを見上げた。 「貴方でも一度だって」 「アウグスト様・・・」 扉が開いた先、そこに広がるのは、緋色の方舟の塔の中でのホムンクルス達の死体。拘束されたワ―ウルフたち。 「何だ、君か」 優しく微笑んでいる。 「大変だったわね、フレッド、アヴリル」 母の葬式の後、兄の捜索に行こうと思ったところ、エリックやフェリシアがやってきた。 「来てくれたのか」 アテナの剣。 「失敗作だ」 正確に規則正しく。 討伐され、利用されるだけのパンドラ。だが、大尉は実験対象が予想外の行動を起こし始め、当惑していた。命令に逆らうものが今月で5回。 「次、またお前かユリウス」 パンドラ達が憧れの視線をユリウスに向ける。 「ジ―クベルトに見習い、心を捨てろ」 お前はもう人間じゃない。 「その命令には従いません」 「フランティスカ」 「クララ」 魔術師での修業は厳しい。 「ごめん、遅れて」 フォボスが起こした騒ぎの中、アリスは瓦礫の下で私服姿の学園の教師、アウィンを見つけた。 「大変っ」 包帯が巻かれたアウィンは鏡の中の自分を見る。 身分証をみながら、自分の性格からして教師などというふざけたものはならないが。「まあ、現実逃避しても仕方ない」 なったものは仕方ないが、革命家の起こした抵抗運動ね。何だってそんな場所に自分は言ってたんだか。 「あの、先生、お医者様が呼んでます」 「ああ、行く」 扉を開くと、いかにも金持ちっぽい女子高生がいた。 「記憶喪失?」 アリスは隣のヴィントを見て、医者の言葉に首を傾けた。 「まあすべてではないですが」 「で、じいさん、日常生活は大丈夫なんだろうな」 「先生、お医者様になんて口のきき方を」 「うるせえ、病人だぞ、おれは」 「う・・・」 「そうだね、こういうのはいきなり治る時もあるし、一生戻らない場合がある」 どこかの奴がいいそうだな。 「そうか」 まあ、別に過去を忘れたわけではない、ウロボロスの前は銀の十字架、その前はまあどうでもいいよな。また吸血鬼やパンドラ供を殺せばいいだけだ。 「だが一応診察や詳しい検査を・・」 「いらねえよ、別に」 「君の友達や家族を忘れている可能性もあるのに」 ヴィントにしてはああ、と生気のない表情をした。家や電話番号、現在の交友関係。 「あー、おれの家族は全員死んでるんで、友達は外国だ」 「じゃあ、頼れる人はいないんじゃ」 「自分の面倒くらい自分で見る」 「いいのか、君自身が辛くなると思うが」 そんなハッピーな人間関係作ってないしな。嘘をつくことになると言いたいのか。確かにそれは直した方がいいが。 「先生・・」 「ま、何とかなるだろ」 「正しさとは何だろうね」 レーヴェ卿は、赤の女王により叛逆者となった魔女が死ぬ前にそう告げられた。悪魔と契約し、多くの無辜な民を殺した悪行の数々を起こした女性。 少女の顔をラ―スは戦場で見る。まだ16歳くらいで。ベルンホルトの下にいる限り、見たくないものを見る、帝国軍にいながら、タナトスや犯罪組織、革命家。汚れ仕事をして、ルヴァロアの騎士達に距離を置いて。 声でしか知らない。ブレイヴにいる時も、ラ―スはありのままなんて見せなかった。 「かわいそうね・・・貴方」 なぜ多くのパンドラハンターをアーデルハイトは帝国各地に放ったか。 「任務完了」 「ほんと、に・・・・可哀想」 来月で17歳。天魔落ちの部外者を主とかついで。 「アデルが死んだ時から想像していたことでしょう」 「女王陛下・・・」 女王の国では、パンドラ達は次々に自治権を求める亞人達の小さな特区が生まれている。今や世界各地で、もっとも強く、同時に立場が弱い彼らは声を発し始めた。 人間達は動揺している。ありえない、革命家たちに惑わされていると。 他国の一部では、パンドラは武装を解き、武力となることを放棄している。生まれてから殺戮と戦争しか知らない。そんなにもじぶんたちの手が借りるのが嫌なら自分達で魔女と戦え、それは彼らには当然の長年戦士という仮面の下でため続けた魂の叫びだった。 「あ・・あぁ・・・っ」 「アルベルティーナ、どうしたんだ、おれだ、兄のダレンだ、わからないのか」 だがなおも牙を向け、襲いかかる。 ヴォルフリートが屋敷で遊びに食旅にアリスは違和感を覚えた。スノードロップという猫が時々ヴォルフリートを嫌い、好きな色や服、遊ぶおもちゃ、現実的じゃないことばかりしゃべるようになって。 「アーディアディト」 大勢の前で抱きついてくることもあって。 そう、ちょうどお父様の友達が死んだ時から。 「ねえ、貴方は誰なの?」 「貴方はカイザー・・・いや、ヴォルフリート様の兄だろう」 「だからこそ容赦はしない」 「そんな、血を分けた双子の兄弟だろう」 ぎくり、となる。 「何だ、その右目のそれは」 マーレイはだが、すでにその術式にかかっていた。 「ぬるい」 「な・・に・・・」 鈍い痛みが頭の端に走った。 「だぁぁぁぁーっ、あの馬鹿弟が――ッ」 アリスが困ったように困ったようにロゼッタと、元気娘のセレナを見ていた。 「問題児何だって」 「ああ・・」 アリスも困ったように、セレナの荒れ狂う姿を見ている。ちなみに友達が多いアリスは下級生であるセレナとも友人だ。 「ほんっと、嫌い」 「慕ってくれてるんでしょ」 「甘えればいいと思っているのよ、あいつ、大体長女だからって何で弟や妹の面倒見るのよ」 「私は羨ましいかも、一人っ子だし」 「うーん、でもいたらいたらで苦労するよ、それもまた可愛いけど」 数歩、友人達が引く。 「でた、ブラコン」 「いつまでも弟なんかにかまけてないであんたもなんかほかの事にかまけなさいよ、あんたのところ、一つしか違わないじゃない、あのくそむかつくエルネストもだけど」 少し、落ち着いたらしい。 「え、で、でも」 「あんたが構いすぎるから、あの弟、頭がおかしくなってるんじゃないの」 指差さないでほしいな、と思うが気弱なアリスはいえない。 「でも前に比べると親近感わくよ」 「・・・私は、前の方がいいけど、何か別人になった感じするし」 「狂人ね」 「さて。ハルトヴィヒクン、君は何を持って、そう定義するのかな」 「お前と話すことはない」 「何、血に踊ることが生きることではない、人とは知的な生物だ、本を読み、他者を理解し、文化を作り、人間だけができることだ」 「ふざけるな、何人をマルスの目に」 「君は気持ち悪い、いや、変だなと思わないか、不自然なまで、おきれいなこの国を」 ウルリヒをみる。 「ひゃああああああああああああああああああ」 少女たちの悲鳴が鳴り響く。その時、屋上のフェイスを超えて、鮮やかな金髪が月光に照らされて、空中にその華奢な体を身を乗り出した。金色の瞳が大きく見開く。漆黒の闇の柱に包まれ、少年は少女の姿を見る。ワイヤーを手ごろなところに巻き付け、少女は変身途中のゴットヴァルトに腕を伸ばす。 「手を伸ばしてっ」 青い瞳はまっすぐゴットヴァルトをとらえていた。しっかりと腕がゴットヴァルトの腕をつかんだ、わっと校庭から生徒たちの安堵の声があふれた。 「よかった」 誰からも好かれていて、頼りにされ、弱い者の味方。 コーデリアは眉をひそめた。 アレッシオは難しい顔して黙り込んでいる。 「ヴォルフリート・・・」 ディアナは複雑な感情を表情に浮かばせていた。 「救世主・・・・」 女性に(おそらく女性だったら男性に)好かれる人格者。 「きゃああああああああああああああああああ」 誰もに必要とされて。 「困るんだよな」 「全く、当学園の恥さらしだよ」 天敵であるはずの不良生徒と優等生がタッグを組み。 ヒーローとは孤独だ。 貴族の生まれで、秘められた力を持ち、あがめられる。フォボスがダークヒーローならヴォルフリートは正統派ヒーローで。模範的で、革命者。友も信望しゃも多く。人生勝ち組の少年で、聖剣に選ばれた存在。 「・・・どうする」 「呪われた勇者か」 「勝てないよ」 あるものは恐怖し、恐れ、決して近づかない、青ざめた顔のものもいる。 「ヴァン戦で多くの革命家を血祭りにあげたって」 「ひでぇ・・・」 ・・・ヒーローは孤独だ。 「大丈夫だって、がんば」 「いつかわかってくれるって」 友人は二名はいるらしいが、大分立場が弱い。 あれ、これ、青の騎士を集めて、救世主させて、あの人を倒す計画大分難しくない? 「ヴィクトリアのあれはね、勇敢でも無謀でもない、あれは恐怖に対抗しているだけよ」 アーデルハイトは困った表情をする。 「後悔なんだろうね、自分のせいで多くの仲間を奴らに殺戮したという」 「彼女のせいではないわ」 「何、これ」 「俺がよく行くハッピー屋のカレーパン」 え、なに、ボランティア?というか、何でテーブルの前で座ってんの、何かわくわくした顔で見てくるんだけど。 「いや、君の好みなんて心底どうでもいいんだけど、何で覗き込んでんの」 「君と話せるのが楽しくて」 「きもっ、まじっ、きもっ、何、君ナルシスト?まじっ、きもっ、というかイケメンきもっ」 「俺、今月二回はいるんだ、ああ、そうだ、おれのこと知ってる?」 「・・・・・いや、知らない、君誰ですか、というか、何で隣座るの、怖い怖い」 思わず、あとずさむと、 「一緒に食べて、しゃべろうよ」 指先で来い来い、とされた。満面の笑み。・・・これは純粋に友達になろうというやつか。いやビジネスライクか。 「俺、イグナス・ソラヴィー、君はカールスだよね」 「・・・そうですが」 まあ、ただだし、食べたら逃げよう。 いつもみたいに食べていると、意外そうに見てきた。何で呆けてんの。 「・・・食べるんだ」 「?僕の分何だろ、何移動代か飲食代払えって?僕、手持ちないんですけど」 なぜかイグナスがあわてた。 「違うよ、そういうつもりじゃない」 「あっそ」 まあ、いいや、次の攻撃地点、探しておこう。カチカチしてると、 「君もしゃべるんだね、ほら、おれたち会話する気かいないし」 隣を見ると、イグナスが照れつつ困ったように言う。 「その好きな趣味は?やっぱり、本?」 「寝ること、本を読むこと、虫の観察」 「そっか、ネルのいいよね、おれも好きだ、普段友達とどこ行くの?休日はどっか行くの?」 「友達・…とは特に行かないかな。休日は・・・・」 ええと、職場の人に不審がられない内容ね。どうも友達がいないのは変らしいからな。 「休日は?」 ごめん期待された目見られてもない、特にない。 「・・・ええと、山にひきこもるかな、あの会話もういいですかね、そろそろ帰った方が」 「じゃあ、帰ろうよ」 「は?」 「俺、荷物取ってくるね」 「いや、あの」 イグナスはそのまま走り去って行った。 「・・・・・セカイ系?」 「あぁーーっ」 顔を真っ赤にして、豪華な装飾の車いすで歩いていた黄金の長い髪の緩やかなカーブの大きな瞳の少女が、ゴットヴァルトに対して声を荒げた。 オリエントブルーの瞳は、月夜の中でもきらきらと輝いていた。中等部の制服に身を包み、小柄な少女は自分に駆け寄ってきた。 「お兄様、いままでどこにいたのです」 いい加減な記憶魔法だ、誰なんだ、犯人は。 「フィネ、久しぶりだね」 「そうではないでしょう、なんなんですか、いなくなったり、いきなりクラウドの人間となっていたり、お兄様は何者なんです?」 息巻いている。 「・・・ええと、パンドラ?」 「ルベンティ―ナ、貴方は」 驚いたように冒険者たちは、中央に進んでエレクをかばうように前に出た少女をみる。 「もうやめましょう」 「うわあああああああああ」 いきなり、捕縛されたパンドラがフロイデに襲いかかってきた。 「こいつ」 「フロイデ様」 「離せ、離せ」 ザザザ・・・ッ。 「ひっ」 噂に勝るとはこのこと。 「カイザー、これは一体」 ヴィクトリアがさすがに異常な現実に不安そうに声をかけた。 「学園長室は表玄関は言って右だ」 ヴィッターなる唯一の大人、青年は眠そうにあたりを見ている。 「トワイライトレディーね」 カイザー(兄)の天敵、青いきざ男エクリプスと同じく愉快犯の泥棒だとか。 「あ、俺がクラウド家の人間と」 「ありえない、ねえよ、ねえ」 ヴォルフリートは困ったような表情をした。 セシリアは、壁一面に書かれる術式が昨日話した魔術教師の新しい魔術様式や作動、具体的な活用、人数における戦術や戦略、人を殺せるかというところまで書かれていた。 ゴットヴァルトは軽くその教師を超えていた。無論中級の魔術師だ。表情乏しく、のんびりした表情で夢中で書いていた。 「彼には遊びだよ」 「アルバート」 「勿論君や僕でも可能だ、でもパンドラは攻撃される側だからね、余計覚えるのも早い」 「誰かな、君」 あえて乱暴な通常の口調ではなく、優しい感じで突然の電波系、危ないガキに対応した。 「ちょっと」 エストが珍しく感情的だ。 「え、ああ」 双子という奴か、でもクラウド家にこんな顔のガキいたかな。頭の足らなそうな、苦労知らずッぽいガキである。 「いや、ごめん、知り合いと間違えたみたいです」 「受け入れるの速すぎだ」 カイザーは頭を抱えたくなった。 「レッド・レクスの忠臣を」 「そうかお前達には心があったんだな」 闇の廃墟で子供たちは目をぎらつかせる。パンドラだ。 「フォボスが変える」 「革命を」 双子が生まれた時、クララはあまり喜ばれなかった。生きるからには見返したい、正しさがある、自分には価値がある、役に立ちたい。 「・・・・カイザー様」 「君は頑固者だな」 「わかんねえな、でもいちいち、本気にするんだよな」 「ああ、別に誰がなんか言おうと気にしなくていいのに、そういうまじめなところ、フランティスカ似たんだろうな」 ブレアが不安そうに見る。でも不安されることも心配も必要ない。似ていない親子なんて変じゃない。 「でも親子だもん、好きだから心配なんだよ」 「知ってるよ」 ただ、待ってほしいというのもダヴィデは思う。好きだからとかでなんでも受け入れる、同じというのは、別にまったく受け入れていないわけじゃない。好きか嫌いか、それだけなのに。誰かとつながれない人間はそんなに行けないことなのだろうか。 「なぁなぁ、で、どっちが本命何だ」 まあ噂するよね、どう見ても20代のさわやか男子に見える父と可愛い系美人がいるが俺の親です。 ブレアは心配する相手間違えている、ミントやシエラの家族のほうが深刻だろ。 でも間違いなく、俺はこの一年ラブラブの親から生まれた長男です。 「・・・・・・・・友達だけど」 きつい、そんなキラキラしてみてこないでほしい。僕の性格が歪んでて、内気なのはあなたのせいですよ。絶対ホラーなの、俺ではなく目の前の父親だよ。 「デートしているらしいじゃないか、とうさんはうれしいよ」 「そ、そんな透明度のある青年ボイスで言われてもダヴィデ、困る」 「でも、両方はいけませんな、そんなふしだらな息子に育てた覚えママありませんよ」 でしょうね、貴方がた、妹はともかく使用人に任せていたし。 「そんな清らかなお姉さんボイスで言われても対応困る」 まあ善意なのだろう、後継ぎを妹にしたから。 「いいのよ、照れなくて、ママ、ダヴィデがやっと年頃らしくなってうれしいもの」 「部屋に荷物おくから」 「もー、ダヴィデは昔から奥手なんだから、ママがあんなに絵本代わりにパパとの馴れ染めから今になるまでの素敵な話聞かせたのに、少しは強気じゃないと彼女さん達に飽きられるよ」 いや、あんたのその毎晩のラブコメハラスメントのせいで、一人すきになったんですが。何でこの人、毎回俺に生涯一人を決意させるんだよ。「もう、つらい、楽になりたい」、思わず小さいころのトラウマがリアルアンコールしてくるだろうが。 「・・・・・・・・・・・単なる同級生でそれだけだから」 「そっか、まだ気づきたくない、無意識での片思いなのね」 辞めてください、お腹いっぱいです。 「いいか、ゴットヴァルト、たぶん非難されるから覚悟して」 「まあ、嫌われるの慣れてるし」 がらっ、と教室を開いた。 「はじめまして、ゴットヴァルト・クラウド様、ヴィクトリア・フォン・ルヴァロア様」 後ろの取り巻きの少女達は下唇に化粧を施し、まるで演劇のような華やかな礼装のような軍服風の制服を着ている。雪のような白い制服だ。 「今日は生徒会の命令で貴方達を一日サポートさせていただきます、風紀委員会・・二ケの親衛隊のキャメリア・グルントです」 「仲良くしましょう、わからないことがあったら何でも教えますね、ああ、わたくしぺルラ・ウ―トラです」 「二人の補佐の一年生、マイカ・ハープとマリア・ローブです」 「え、えぇ」 ヴィクトリアは押されていた。 「どうもよろしくお願いします」 「動揺しないんだ?」 おおげさにヴィクトリアは驚いた。 あれが、クラウド家の・・・。 イグナスはクラスメイトの友人達に囲まれながら、学園内を案内され、目的の宝石のある中央広場まで歩くゴットヴァルトやヴィクトリアを見る。 「ゴットヴァルト、あとでフェンシング部に来ないか」 ハルトヴィヒが決心したように二階から話しかける。 「・・・ああ、じゃああとで連絡してくださいね」 困ったように、ゴットヴァルトが会釈する。 「了解した」 そして、ゴットヴァルトは立ち去っていく。 「ああ、アウィン先生、今いいですか」 「・・・何だ、この前の課題はもう集めたはずだが」 生徒指導室に呼び出されたアガットは、うんざりした様子のアウィンを見る。 「・・・先生があの外部の人間を入れたと聞きました、事実ですか」 「別にヘンでもないだろ、大体、今日、教師風邪で人数少ないし、大体何で二クラスも俺がガキの世話しないといけないんだ、時臣司祭、お前も教職取ってるだろ、出ろよ、歴史」 「・・・教師でしょう、一応」 エルネストの言葉にはぁ?という声を上げた。 「知るかよ、給料分以上の労働はしない主義なんだよ、お前らの喧嘩はお前らで解決しろよ、アガットの面倒はお前の担当だろ、何で俺が男子の指導するんだよ、お前らが気に悩みなんて存在しないだろ」 「本当、アウィン先生、子供嫌いなのになんで教師してるんですか?」 「決まってるだろ、女子高生がいるからだ」 最低だ。 「それで話を戻すんですが、何で予定もないのにパンドラをいれたんです、先生は子供以上に面倒事が嫌いでしょう?一応は生徒を守るなら、あんな危険要素入れたらだめなのでは」 「21の新米教師に権力にたちいるだけの権限はねえよ、大体そいつらにはあの風紀委員達がついてるんだろ、それに噂じゃ壊れた卵ごときだし」 「会ってはいないんですか、立ち入りは許可したのに」 「まあな、別に会う必要ないだろ、日差し強いし今日」 「自分中心ですね、相変わらず、」 「で、片方美人なのか?」 そこですか、アガットトエルネストはお互いの顔を見た。 「まあ、クラウド家付の騎士系貴族とか、でも何で警察の制服きてるんだろ」 「馬鹿、怪盗を捕まえるためだよ」 アウィンはピくっ、と動かした。 「・・・・おい、その女、まさか赤い髪してないか、連れているのって、茶髪のチビじゃなかった?」 「ええ、でも、あれ、何でゴットヴァルトが背が低いの知ってるんですか、先生、どこへ」 「用事だ、授業は途中までお前らでしてくれ」 「はぁ?」 寒い、とヴォルフリートは思った。 「いやですわ、ゴットヴァルト様ったら、さっそく可愛い下級生をナンパですか?お父様の血を継いだということかしら」 「またまた、公爵家のアーデルハイト様ったら僕がナンパなんて、いつでも美男子を侍らせてマドンナ気取りのお姫様みたいなまねするわけないでしょう」 ぴしっ、と顔が引きつった。 「うふふふふ、でも噂ではエルフの女の子と鬼の女の子を家に雇っているんですって、さすが名門クラウドの嫡男は違いますよね」 「あはははは、彼女達はただの使用人ですよ、アーデルハイト様こそ噂では毎日違う男性を連れ歩いてるとか、公務にかこつけて羨ましいですねぇ、リア充ライフで本当羨ましいですわ」 にこにこふわふわほほ笑み合い、見つめ合い、 「表に出なさい」 「とっくに出ていますよ、雲の上の人は頭の中身もお花畑なんですね、地上でひいひい生きるしかないか弱い僕にはまねできないですわ」 そして、 「貧乳」 「チビ」 電流のようなものが流れた。 「電波キモえせ美少年」 「気違い戦闘馬鹿勘違い女が」 そして、笑いあい、軽く会釈する。 「今日はこれくらいで済ませてあげますわ」 「それではよき日を、ッァバァイバスラ―嬢」 微笑み合い、別れた。 「・・・もしかして、仲悪いのか、知り合い?」 恐る恐る聞くと、いやだなぁとコロコロと微笑む。 「まさか仲いいですよ、お互いの家に熱いラブレターとかみそりを送りあい、目があったら唾を飛ばし合うくらい」 「へ、へぇ・・・」 「生かすというのか、クルーエルエッグだぞ、戦場で見方も敵も多く殺した」 だがフランシスは表情を変えない。 「わが帝国は誰にでも自由と権利があるはずだ」 別にご主人様が変わっても、帝国のどこかで少年の革命家が勢力を広げようと夢だの理想は何の意味もない。宗主は諦めるなといった。誰かに近づけば嫌われ、異端だと思い知らされる。 フォボス、ヴァガット。自分達は不幸だと彼らはいう。隣人を愛せ。 「・・・・もういいわ」 ローザリンデはそれが誰の娘かはすぐにわかる。息子か男ならわかるが、エレンは太陽の祝福を受けたように美しい。淑女たる母とは真逆の。けれど彼女はドレスや宝飾品、甘いセリフより、剣に魔法に魅せられていた。いくら剣、忠義一筋、戦争に夢中な男だと彼女の父をいっても、狂気的な男の背中をエレンは追う。自分をみることはない。 「私はできます」 細長い長方形の金属製の飾りのペンダント。 「しかし、ゴットヴァルト様って、本当にヴォルフリート君の親戚じゃないんですよね?」 熱い、主に後ろにいる生徒たちの眼が。というか、痛い。 「ええ、まぁ」 「家柄は?どこの生まれなんですの」 可憐な容姿の少女たちは自分の素姓を知っているらしい。おい、個人情報保護はどうした。 「閃撃のマリアベル様の異母兄なんですよね、カイザー、貴方のお兄様の家は偉大な魔術師にして超名門貴族で政治家の家柄とか、御親戚に同じ目の優秀な兄弟が養子として迎えられてるとか」 昼めろな感じだが、どうも英雄たちの子孫でもある魔術師や騎士の人間には家族ではなく、単位や資源の感覚なのである。純潔を守り、近しいものは必ずも優秀な人間を産まないという歴史がある。それにしても同じ顔、同じ誕生日が七人、姉さん、世間はぐちゃぐちゃでした。 「お母様はどこの塔の出身ですの?マリアベルのお兄様ですから貴方も高いマナを所有しているんでしょう」 ヴィクトリアも興味ありそうに見ている。 知らんがな。 「生まれは帝国の端の端で、家柄はないです」 委員長が話しかけてきた。 「へぇ?まあ、雷帝だし、各地を反乱分子を鎮圧するために回った時に出会ったのかしら」 いや片目隠す中二病、いや、崇高なるエリート軍人のことなんて知らん。 「でも庶民の魔術師とクラウドの人間が出会えるの?確か、白夜の蛇竜の塔の出身だからそこの生徒か女教師かも」 「・・・・まあ、お父様《仮》は、噂の絶えない方だから(らしい)」 「で、光のマナですの?炎?」 スキャンダルや噂話が好きなギャル風の女子と男子生徒が来た。 「いや使えないですから」 すると生徒たちがぽかんとした。 「ノーマル・アンチマナということ?」 「僕、パンドラだから」 ヴィクトリアが止めに入るが、風紀委員の女子たちはじっと見ていた。観察処分か、剣を抜くか、あの封術魔法を使われるか。ここにいるのはアテナの剣を処罰することを許されたもの、彼らにとってパンドラは畜生、モンスターだ。手にかけても殺人ではない。 「それでは、トワイライトレディーの捜索、並びに厳重態勢、同時に紋章霊石による怪人の捕縛について対策をとりましょう」 「何で?」 「きつい女だな、お前」 エースであり、パンドラのハーフとは。 「今さらだからよ、くだらない、種族が人間だからと偉そうに」 フロイデはため息をつく。 いかなる場合においても、例外なく、すべての魔女に不幸を。 緑の髪の長いロングヘアは腰まで伸びて、月の色を映したような大きな瞳。もう遠い昔だ。あらゆるこの世の幸福から切り離された、だが魔女がかって、討伐する側の聖女だったことは誰も知らない。 「女王陛下・・・」 それはもう遠い夢。だが伸ばす手には、年月はない。成長期のみずみずしい白い手だ。よの女性の永遠の夢はかなえば呪縛でしかない。自分は女王の国で、ただの田舎の少女で、運命が来るまでただの村娘だ。それが今では、数百、それ以上よりもっと、少女の姿で生きている。ならば、蚊の始祖の吸血鬼のように眠りにつけばいい。だが、今も歴史の陰にいながら、世に関わるのは、初恋の男の魔術遺伝子を耐えさせないためだ。 彼の子孫は、現在帝国のどこかにいる。どんな生涯だったのだろう。名門の魔術師の家に入り、彼は死ぬときまで魔女の保護を唱え、誰にも理解されなかった。 私は愛した男に一生消えない烙印を与えたのだろうか。 「また、あなたですか、エリザベート」 「なによぉ」 ジュリエットはため息をついた。 「二つ同時に予告状着たと思ったら、また」 シエラは戦闘技化で、アルフレートのクラスで、ブレアは一般科、テオドールはヴィクトリアのクラス、ミントはカイザーのクラスだ。そういえば、集まる割に、こいつらクラスのこと話せねえな。大体、部活でもテオドールが回している、まあ、部長が問題児だからなのと、ミントは今時のマイペース系小悪魔だからだ。俺も一般科だが、魔術師の名門だからと差別されることはない。むしろ、自由権やわがままは許されている。 「ダヴィデ先輩は、女神教会の信者ですか」 「神も仏も信じなさそうなのに」 ブレアさんよ、それは俺でも傷つくぞ。 「悪魔崇拝しゃなら友達とかいそうね」 おおっと、シエラさん、鋭いですね。俺をマゾにする気かな。 「憂鬱だよな、今年も女神祭りがあるし」 「ああ・・・」 皆、文化祭で暗くなる。ここが魔法の学校でなければただの行事なんだが。 「ヘンリエッテ嬢、本当にやられるんですか?」 「ええ、やるわ」 「復讐なんて無意味なのに」 「そうだよ」 アリスも隣の金髪のメシアも、ミラージュの決意にそういった。 「何なんですか、あなたは」 アリスはしがみつきながらエクリプスに言う。 「失礼思わぬアクシデントがあったもので」 「・・・・お前は」 銃口を向ける黒髪の少年にエクリプスは一瞬目を見張った。 「それは大変だったなヴォルフリート」 「そうだろ、全くマジシャンなのか怪盗か知らないけど」 カタカタとパンドラの男の子は身体を震えさせていた。 「もう大丈夫・・・」 あの高さだ、男子でも怖いのだろう。 「うん・・うん・・・」 アリスは身体を離すと金色の目で自分をまっすぐ見ていた。みたこともないタイプのパンドラだ。悪鬼、悪魔と呼ぶべき、尖った耳に黒い長髪の男の子。 「・・ごめん、こんな真似させて」 「いいのよ、困っていたら助けあうものだもの」 「気持ち悪いよね、怖いよな、お願い黙ってて…でも、お願い、嫌わないで」 涙ながらにゴットヴァルトは拳を握り、嘆願していた。 「怖いならもう姿を現さないから・・・」 半分だけ皮膚がはがれているゴットヴァルトは泣きじゃくっていた。 「ごめんなさいごめんなさい」 「ちょっと・・・」 「僕がパンドラがいるのに、ローゼンバルツァーを助けられなかった、力なくてごめん」 アリスははっとなる。 「いいよ、許す・・・」 「でも・・・・」 気づいたら抱きしめていた。 「ありがとう、私たちのために悔んでくれて…大丈夫、だれも貴方を責めたりなんか、嫌ったりなんかしない」 「たくさん人が死んで、わけわかんないよ」 「うん・・・」 「火がいつまでも夢に出てきて、怖いよ」 「うん・・もうないよ」 「怖い夢は私が半分背負ってあげるよ、だからもういいの」 「・・・うん、ありがとう、アーディアディト」 異端審問、アンソニーはチュイン・ウィッチの結界が壊れ、魔女が現実世界に出現したその時、祖国北の大女帝の国を思い出す。女帝の国、男子がそれほど力がない国。けれど世界はどこも変わらない、祖国というべき国。寒いだけの大国だが野蛮な軍事国家。 「なんなのです、こいつは」 「せんぱーい」 騎士団の生活で穏やかな日常、学園絵はなかなか通うことはできないが。 「いいのか、フレッド」 まじめそうな男だ。ルヴァロアの威光程ではないが宮殿ともつながりがあるローゼンバルツァーの騎士でもある18歳の少年。四つのエレメントの騎士たちを一つにもてるのはやはりローゼンバルツァーだからできることだ。ルーク・ファレクスミーゼ。ヴィンセントに弟がいればこんな雰囲気だろう。 「いやだって、明日からソールへの遠征だろ、少しは後輩に訓練しても」 「それなら僕じゃなくても」 「君はもう少し、恋愛にも関心があればね」 曲がり角で、ゴットヴァルトはぶつかった。 ぼさぼさな髪の少年だ。 「ああ、悪い」 「いや」 この学園の生徒だろうか。 「・・・・奇跡はサンド起こるものだと思う?」 軽やかな風のような声だ。軽薄そうでどこか鋭い。 「はぁ?」 夜の闇を思わせる冷たい青だ。 「お前はどう思う?」 「何、宗教の話か?」 「たとえ二度と戻せなくてもまた手に入れたいと思う、無駄な努力でも、一瞬しかない奇跡のためでも」 最近、頭がわいてる人多いな。 「―君が変われば、じゃないか?」 世界は変わる。ヴァイオレットはそう言っていた。 「そうだよな、ありがとう」 少年は駆け出していく。 …まあ見知らぬ相手に愚痴をはきたい人だった、でいいか。 「やあやあ、僕の英雄君」 「さぁ、世界を壊しましょ、真実は僕のために」 ヴィンセント嬢とヘンリエッテが現れた。 「そりゃあ知っていたよ」 「なら、なんで」 「従士ガ上に意見を?まさか」 「だが、多くのものが危険にさらされることにもなったっ」 胸ぐらを掴む。 「血が通わないケダモノだから、お前は平気で入れるのか」 平然と・・・。 「統べるものが生きればいい、優秀な命が優先される、普通のことなのに何を怒っているの?」 「自分の命より大事なものがある、わからないのか」 襟元を掴む。だがゴットヴァルトはアルフレートを見る。 「魔女ですか・・・・」 ミリアムの出身は女王の国だから聞いたが、そんな珍しいか。 「貴方が私に興味持つなんてお珍しい」 「ああ何か君に年前に知り合いが剣の魔女に殺されて、呪術や黒魔術に詳しいんだろ」 周囲がざわついた。 「ええ、人間に15年も変身していた黄金の魔女が近くでいましたから、絶滅させたいのはパンドラですが」 「じゃあ、破壊の魔女について情報をちょっと」 ミリアムは僕を見る。 「午後、お付き合いしてくれるのでしたら」 「ごめんなさい」 ヘレネはフロイデにそう言った。 「今だけだから」 「あぁ」 「お客様、艦内には他のお客様もいるので大声や奇声はおやめください」 「君は彼女と僕のデートを阻むというのか」 「カールスに任せるのは、・・・いいのか」 「誰でも塩対応だし」 「口下手なだけだろ」 カールスがたちあがり、中に戻ると、三つの本を差し出した。 「今日からできる他人とのベストコミュニケーション」、「必勝、恋愛マスター」、「友達に相談しよう、ストップストーカー予防」をファスに差し出す。 「何だ」 「いえ、お客様にはこれがいま必要だと思うので、借りますか」 …だよね、カールスに人間らしい対応無理だよね。案の定、怒られている。 「僕と彼女は結ばれる運命なんだ、まさか君も彼女のことが、地味面のネクラ男子なのに」 「そうですか、では初回ですから新しい貸し出しカードを作ってください、各場所は右奥です、次回も来られるのをお待ちしています」 聖騎士はスタンプカードを渡され、帰って行った。そして、座って本を読む。お前こそ人と関われ。 「・・・・・可愛い」 何やら美男子、いやイグナスが本棚から覗きこんでいる。まあ、確かに現実を見たくないのはわかるけど。あ、イグナスに気付いた。 「・・・・踏み潰されればいいのに」 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 まあ、あれはあれだが人のプレゼントだったのか。 「カイザー、貴方、絵を教えなさいよ」 ヴィクトリアが思わずそういう。 「無理だな、俺は秀才タイプで、あいつは感性で動くタイプだ」 グリシーヌやアデレイドにねだられたらしいが。 いわゆる静物画である。完璧に人が脇役で、背景が主役である。むしろ、人物には下手以上に愛がない。灰色を主体に書き、緑や庭はカラフルな色彩で愛があふれている。 「こんなの送られても嬉しくないわよ」 「まあオルフェウスはつつましやかにほほ笑んでいたぞ、ワイバァン隊の自分の部屋に置いているそうだ、俺も書いたんだがそれは家に置き去りなだそうだ」 それはあれだ、送られて困って、でも頑張ったしなという、ちなみにピクニックの絵らしいが、隊士によるとどう見ても爆撃を受けた瓦礫の場所に犬?鬼?猫?が鳥をもって中央で歩いている絵だとか。後、やはり仲が良くないのか。本人は一番のごちそうを持って楽しくあるいている、普通の光景だとか。 「・・・なぜか、あいつ、この絵の後、周りが優しく、医者が呼ばれていたな」 「そうでしょうね」 「気にすることないわ」 「彼は少し、八つ当たりしたいだけよ」 相変わらず、クール女子だ。 「またなんか、文句?」 「・・・・貴方は人を疑うことしか知らないのね」 「で、本題は?」 「・・・・貴方がいつも不幸そうな顔をすると、悲しむ人がいるわ」 「そりゃ、ご親切にどうも」 肩を掴まれた。 「・・・・自覚して、貴方は何で、そう」 「シエラさま、なんかいつもと」 「何で、自覚してくれないの、ぶつけてくれないの」 何で? 「・・・何で、貴方が泣きそうなんです」 「なら、答えて見せて、ヴォルフリート」 布に包まれた骸骨。 「なっ」 「こいつを前にしても貴方のいう正義には正当性があるかしら」 エルフリーデがヴォルフリートの横にたつ。 「陳腐な脅しを」 「できるわけないわ、これは正当なクラウド家の子息の頭だったものだもの」 「狂人が」 「・・・・・あなた」 マリエルは抑えつけたマリアベルを穏やかな笑みで迎える。 簡単なことだよ、痛めつけられたものがいじめたものを愛する、簡単な復讐心さ。 「それであなたは何がお望みなんです」 復讐したい、仕返ししたい。君はその女の子が聖女か何かと思っているんじゃないか。 「罪を犯す、法を犯すのが狂人や悪人なら、君達の女神はどうだ」 「離せ・・・・」 夜景が見える。美しい帝都の夜の姿だ。 「皆が笑える楽園、あの死神の姫君もいう、正義とはいつからそんなに安い名前になったのだろう」 ウルリヒは魔法アイテムで体を押さえられていた。 「私が手に掛けたのはせいぜい数百人、たったそれだけだ、だけど、最初は自分で臨んだんだ、今の世界から救ってほしいとね」 「貴方は医者で大学教授だった、何でそんな考えに」 「キモチ悪いからだよ、満ち足りすぎると、冒険したくなるものさ、私も以前は平凡な臣民、どこにでもいるマナを持つだけの男だった、さて、アイリス、彼女や多くの改革者はいうね、ここは人間もパンドラも愛し合う国だと」 「だがね、アルトメルデ程、他者に冷たい場所はない、あの崩壊で、少しはわかっただろ、自分に従わないパンドラ、自分の考えを理解しないパンドラや貧しいもの、命は同等というなら、討伐の前に説得や布告はするだろう、だがアイリスの愛はずいぶんと個人的だ、金持ちや貴族や王族、君たち庶民は後回しだ、アーデルハイトもしかり」 「お前だろう、自分を理解しないから、駄々をこねているだけだ」 「行き詰まり、生きにくいからヒステリーを起こしていると、なるほど正しい行為でい意思を示せば愛を得る、アイリスらしいしそうだ」 「さて、本物か偽物かなんてどうでもいいことだよ、アルバート君、君があのベルンホルトの息子という証拠もない」 「逃げるなッ」 「精々、余暇を楽しめ、この地獄を楽しみたまえ、いくらでも書き換えられるのだから」 「貴方は間違っている」 「君に私の人生を私を決める権利はない、主義も価値観も違う他人だ、なんて苦しい生き方だろうね、壊れてしまえば救われるよ、認めたまえ、自分が罪人であることを」 「リアルでは偽物が本物として選ばれることもあるのだ、甘えてはだめだ」 「どんな女性何だ、レッド・レジ―ナは」 北の大女帝のプリンスは、イシュタルの第34皇子に言う。イシュタルに留学していたこともあり、将来はッァバァイバスラ―侯爵家の娘を迎えることになっているが美しい貴公子は不遜な笑顔を浮かべる。大女帝の王家は、イシュタルとは違い、側妃をそこまで必要ないし、女性の方が英雄足る立場に置くことも多い。が、今の女帝には皇子の方がはるかに多い。マナの高さが高いことが重要視され、血統だけのものは王位をはく奪される。いうなら、17歳の少年はただ安穏と第3皇子の立場でいていいのではない。 「ほう、さすが社交界の貴公子といわれるわけだ」 だが、いわれ慣れているが、あまりうれしくないようだ。あちこちを今後のためと、行かされるが、要するに嫌がらせだ。 「それはともかく、帝国も酷なことをするものだね」 「女性といっても吸血鬼だから仕方ない」 |