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ruka126053のブログ

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第20章

第20章―メロディーはお決まりのきっと退屈な曲で
                1

「狂気か、復讐か」
いつもながら、面倒な親子だ。というか、あの長身のえらそうなマントを背負った、貴族然とした男が僕の実の父とか無理があるが。更に無理があるのがアルバートだ。横目で見るが、冷徹、威厳、品格、鋭い眼光の男だ。無理して親子の振りしなくても、さっきから哲学だの政治学だの、帝王学だの、カイザーは父思いの少年を演じているが。
ハイソというか、インテリというか、まあシリアスな空間だ。
「お父様と話されないの」
フリーデリ―ケ、何ナチュラルに僕の膝に乗っている。普段無視のくせにこのときだけ僕のところに来るな。
「さて、ゴットヴァルト、狂気のものは自分をまともだと思う、お前の意見を述べてもらおう」
ヴォルフリートを長年否定し続け、親の資格ない貴族の男、魔術師や軍人はそんなものだがいいよ、無視していい。なんなら、そこらの置物でいいから。やめれ。
「いえ、僕下賤の生まれなので」
笑顔を浮かべ、服従の笑顔だが男は不遜そうに僕を見る。
「まあ、そうだろうな」
えらっそうに、何遺伝子に馬鹿にすることが書き込まれてんのか。またカイザーたちとしゃべる。本をめくりながら、その男を見る。カイザーが憎む男、あいつを見捨てた男。正気か、狂気か。
遊び人には見えない、気晴らしか趣味か、僕は彼にとって使えるカードなんだろうか。
パンドラを道具にする、武力主義。正直僕では勝てないだろう。ただ悪なのだろうか、まあ巨悪だ。
命令か、何かしらの信念や目的か。正直、目の前の軍人が父親だという感じがしない。
それでもいい気持はしないだろう、悪人だろうと冷酷な人間でも、おかしいものはみたくないものだ。血のつながり、愛されたくはないし面倒だ。迷惑をかけたいわけでもそんな命令を彼に従わせるのは、実に面倒だ。彼の人生の間違い、ああ面倒。貴族はうわべとか色々あるから、目的だの国だの、まあ・・・・面倒だ。
「ゴットヴァルト様、後で旦那様の部屋に来るように」
「・・・・・ええと、体調があまり万全では」
カイザーの近くは選んだが、いいから、家族ごっこに無理に入れなくていいし、いい目にあわせてもらっているし、いいから。

「代わりなどいくらでもいるでしょう」
信じられないことだが、あの女は平然とそういったのだ。いら立ちとともに、確かにその方法しかなかった。だがなんで自分がエレオノ―ルの戯言のために、計画に乗らないといけないのだ。あきらめてしまえばいい。それだけのことだ。
「貴様・・・」
お前を巻き込みたくなかった、それでも。ゴットヴァルト。

≪バーがトリー・ボーダー≫
この究極武装はセアドアか。
「邪魔するな、セアドア、腰ぬけが」
「あのさ、そんなくだらないことは、戦闘以外の時にしてくれないか」
「チッ、オルフェウスに飼いならされて」

彼が鳴けば自分はなくだろう。彼が傷つけば、相手を傷つけるだろう。
「・・・・君も彼らの作戦に魅了されたんだね」
「シュテファン様、違います、俺は」
「理解できない、ありえないといった顔だね」
背筋が冷たくなった。あんな人格破綻者、のんびりした人格にあの能力。

当初、ローザリンデは田舎から来たありすをなんとも思っていなかった。美しい物語だ。カイザーもそう。多くの騎士たち、神に選ばれた。
他者を思いやる心、アルバートもハインツも、友と力を合わせ、悪と戦う。

アテナの剣が壊れ、パンドラが牙をむいた日。自分達が戦えないと思い知らされた日。
信じていたものが壊れた日。
悪魔崇拝しゃが自分の叔母だと知らされた日。フォース・ナイツの自分はどちらを倒せばよかったのか。白衣はちで染まっていた。
「お願い、待って」
腕の中にいた小さいそれは。助けに来て、家の奥までいったら。
「違うの、お願い」
「こっちへ、そいつは僕が」
「違うの、この子たちは、お願い助けて」
「大丈夫、そいつらをすぐ」

「白フクロウの騎士団は揺れているな」
「アスラン、君のせいじゃない」
エリックとしてはフレッドの意外な選択に驚いた。デヴィッドも驚いている。顔見知り程度だがそんないい加減な、無計画な感情タイプに見えないからだ。

―時計の針は、16年前に一度戻る。
マギア・ウォー、それだけではない沈静化した抵抗運動、これは仕方ないことではある、どの国、どの時代、それもあらゆる移民や主義、魔術を受け入れるということは同時に彼らの抱える矛盾や軋轢も引きいれることだから。
レオンハルトは、最後のマルスの目の戦闘員を討伐し終わった折、病院から双子が無事生まれたことを知らされる。
「なんか嬉しそうじゃないですね、先輩」
19歳ほどの少女は不思議そうに見る。
「予言のことを考えると、ついな」

まるでハイエナだな、使う術もゾンビのようなダーク・マギを使う。言うならば、王国の闇、毒に愛された男、道化師、強いものにすがりつき、自分は常に安全地帯にいる第4位純血貴族はレッド・レジ―ナの不在の国では摂家や公爵家とともに権力をほしいままにしている。忠義ト常識が歩いているような武人、第五位純血貴族デザルトは、臣民を思う。勿論自分達が帝国を掌握するのはたやすいが、長年の友人に泥を塗るような行為だ。
第六、第七の吸血鬼貴族はそもそも黄昏のベーゼで兵士と領民の多くを失っている。血に溺れる、殺戮こそ本能。第八、第9はそもそも爵位と領地を一族の中の叛逆者のせいで王族に特権を停止され、第10は青の救世主と打たれたのち、深い眠りについている。
純粋に王家に従わないものは人間世界に拠点を持ち、騒乱を起こし、ウォーロックや覇権を求めるものと手を組み、禁じられている人間との婚姻までするものもいる。もっとも吸血鬼にとって人間は食料、野生の獣、あるいは子供のような存在だ。
追放された鬼族と結託した紫髭公は第26位純血貴族、無実の罪で追放された第73位純血貴族、魔術師との戦争ごっこをする第66位純血貴族、武力主義で支配主義の第17位純血貴族。吸血鬼といえど、王家に賛成の者がいれば、中立は、反対派もいる。・・・ブルー・レジ―ナの血族に出会わなければ。

パーンがアルバートの依頼でその少年の新編を探っていた時、フィリップは誘拐犯の生前の姿を唯一残した写真を見つける。
「君と同じダヴェーりゃあ足りの生まれなんだろうな」
「・・・え、ええ」
ダーウィンはわからないがブルー・メシア、予言のことで協力してくれる。
名前や経歴、出身自体は普通だが、魔法植物の専門家であり、各地を転々として、イカロスの槍という一座、冒険者のパーティー、二ケの肖像にみをよせていたことがわかる。パンドラを一体所有しており、自分で手に掛けたこと。ゴットヴァルトは赤子のころ、男に売られ、孤児院にたらいまわしされていたことがわかった。
「何というか、顔立ちとか雰囲気が似ているな、世界には似た顔がいるというが」
「奇妙な偶然ですね」

「あほか」
「はぁぁ?」
「お前の頭の中は、何、石器時代で止まってんのか」
「ふん、死ぬ前なら何とでもいえるな、だが無駄なあが気はよせ、お前らは兄弟二人で死ぬんだ、そこの娘二人とな」

「ななな・・・、貴様、吸血鬼か、魔王か」
さすがに三人、スぷらったが目の前で行われると思わなかった。
「知り合いにこの手のマジックに詳しい奴がいてね、真似だな」
「プライドはないのかぁ」
「え、何それ、おいしいのか」

あの日の後悔をマリアベルは忘れないために。
歓声が聞こえる。あらゆる冒険者、魔術師、そのすべてで勝利を手に取る。
「君が求めるものは」
「統治され、秩序がある世界よ」

一を救えば十を見捨てる。リーゼロッテ・オーウェンはアーデルハイト、すべてのパンドラの敵である。多くのパンドラたちに守られ、同時に悪のパンドラを倒す。
「スパロウ卿・・・・」
「斬ったか、敵の大将を」
「はい・・・」

わがままで残虐、傲慢不遜、気まぐれ、いたずら好き。第22皇子はその日、赤い巻き毛の少女に恋をした。
いつも出会うのは地獄。戦場という地獄だった。だがうぬぼれ屋で冷酷、自由奔放な少女には死が紙屑のよう。
制圧されていた。悪魔属も鬼属も。

とくん、とくん。心臓の音が小さくなっていく。
「お前、その惚れっぽいというか、浮気性なところ直せよ」
「すごい顔」
ルヴィーサもひいている。
「いやあ、可愛い子が多すぎて」
オルフェウスとルヴィーサはお互いの顔をみる。
「だめね」
「ああ」

「ですが、次の当主はシーザーが」
「あはは、それはないよ、俺は向いていない」
ザースハはその関係性が自分と、本家のランス・ルヴァロアと同等だと感じていた。
「でもマナや実力はほぼお前のほうが」
だがシーザーは首を振る。
「俺が兄さんを裏切るわけがない」
「それに、それは周りが勝手に言うだけで俺があの人と並べるわけがない」
「あいつは化け物だ、確かにもっと大きくするだろうが、俺は未来が見える、あいつではアマ―リエを幸せにしない」

ああ、似ているなとアルヴィンは思う。
アーディアディトはあいつに似ていない。性別も違うし、だがそのあり方が正反対なのに。主義も価値観も重ならない。

彼女の遺体は空が生える山に埋めた。結局、善意では好きな女も救えない。革命では友の願いも叶わない。
なのに今更。メシアだと。
生きていただと。

4年前ー・・・。
再会は意外な形でかなった。
「無理だよ、ヴァイオレット、ミラージュ」
ブラウン・ローズのごく一部がトラップ用の魔法アイテム、バールぜフォンの揺り篭。
「あの結界魔法だけで彼らは動かなくなってしまう、どこのパンドラにしても」
「先生・・・」

「そもそも傭兵とかハンターなんて、どんな悪い子としているかわからないじゃない」
アラッドは、ルドガーと大声で叫ぶアイエルに遭遇する。
「しかし、アクア石は大変危険な場所にありまして」
ギルドはこういう変わり者、荒くれ者が多い。フレーヌもそうだろう。ルドガーは何度か、戦闘を共にした。他人に奉仕する、この世の全のために。シスターの鏡だが、ルドガーには世間を知らないお姫様の妄言だ。


「いやあああああああああああああ」
「騎士の分際で、私のものに触れようとしたその罪、身をもって償うがいい」
「・・・すまない、兄さん、本当は俺が」
だが、人並み外れた、幼少から並はずれた美貌と一族1の天才、精密機械のような兄は誰とも同党ではない。当然だ、生まれながらの支配者なのだから。
「ザースハ、お前の女の管理くらいお前でしろ、つまらないことで私の邪魔するな」
「なぜ殺した、あいつは誤った、なぜひどいことができる」
「お前もお前の女も生まれてからずっと私の所有物、剣だ」
だが死んでいる、死の美しさ、間違わない後継ぎ。
「そうだよな、わが友よ」
ランスはもう兄に逆らえない。逆らう心を折られた。
「貴様は人間じゃない、人の皮をかぶった冷たい化け物だ」
「つまり、お前は私に逆らうか、そうか、いいともだと駒だと気に行っていたのだがな」


「皮肉なものね、エレオノ―ル、貴方は今命を授かり、同じ時にサイトが持続するのだから」
「そんな、姉さん・・・」
二人はよく似ていた。髪の色以外はまるで鏡のよう、だがまとう空気は違う。
「天魔落ちが予言の勇者とか」
「・・・・きっと、今は変わる時なのよ」
「私は、あんたと違う」
ブリジットは立ち上がる。
「娘を駒扱いなんかしない」
「私達には無理な願いよ」

「そうね、マリー・アンジェ、それはありえないわね」
薄暗い表情のエレオノ―ルは、バドォール伯爵とともに黒髪の息子とともに日だまりの中、戯れていた。
「神が許すはずがない」
誰よりも幸せに、彼女の眼には涙のようなものが浮かんでいた。もう双子は彼女のものではない。こんなことを強制する世界は間違っている。自分の最愛の人だけではない、帝国の魔術師の家系の女性は皆、悲しみを持つ。

「裏切りには死を」
銃声が鳴り響く。非人道的な同族。ユリウスは諦めてしまえばいいのに。
隕石が落ちたような元鉱山の訓練所で暗殺や諜報、さまざまな戦術がエデンから来たもの、辺境から来たもの、だが多くが故郷や親を知らない。
ユリウスは神とハイエルフの血を混ぜたものであり、その神とは風と雷の神だという。
「君はどうもまだ人間だと思っているようだね」
すぐせいかは出たが、ユリウスは愛想がないが情に熱い性格はここではだめな奴。
「ここを解体すべきだ」
ただ、シエラはひかない。
「貴方はそう決めたのね」
鋭く、熱を帯びた瞳。
「俺は・・・」
「憐れみなら最大の屈辱だわ」
でも彼女は、エドガーのことを覚えていないだろう。

飛行艇が近づいてくる。機密院や国の重要人物、その中央で姉が。アヴリルはおじに胸の中で抱かれ、フレッドも、多くの民にものやら何やらを投げられ、いまだ自分の状況がわかっていないアンジェリカを見つめるしかできない。
いやじゃますれば、エリックが彼らの前に出る。
「こんなのは嘘です」
「・・・・・残念です」
女王陛下付きの女性士官がそういった。

「君は馬鹿か」
「何だよ、お説教かよ」
「領主の息子だからって僕は自分がここで終わるなんて思わないよ、お前は乱暴者だが本当はわかっているんだろ」
「わかんねえよ、大義とか、皆のためとか言われても」
「で、大人になって、その辺のこと結婚して、死ぬの?」
「悪いことじゃねえだろ、大体都会ならおれよりすごい奴いるんだろ」
「でも世の中には馴れない奴もいるんだ、君が行っているのは彼らを馬鹿にすることだ」

「ふてえが気だ」
旅一座に蹴り飛ばされ、僕は帝都より二キロ離れた町で取り残された。田舎の孤児なので移動するのにもお金で、そもそも僕はとうさんに甘えて各地を転々としていた。
ぐうううう。
「・・・はぁ」
とりあえず、ご飯か。
噴水広場で休んでいると銀河歌劇団なるものが来ているというチラシが目に入る。
「ぼうや、一人旅かな」
振り向くと露出度の高い女性が近づいてきた。
「え、いや、パパとはぐれて」

・・・ヴリルは、彼らは役に立たない。なんでここで急に頭がさえてきたのか、実は天才なのか、ともかく僕は時間を浪費してきた。
「正しいことをしなくて、お前」
協力を求めたが精神論で、勝手な理想ばかり。あれ、死んだ騎士もヴリルもアリスの役に何も立ってなくね。
あれ。
自分が正しいと思っているみたいだが、ああ、そうか。僕はなめられていたのだろう。
発動してしまった。
庭の中でリスがその音に飛び放って。
みてしまった。そう僕は、うつろな瞳のそばかすがある平凡な顔の少年の左手に浮かんだ魔術刻印を、次々に殺される小動物を、亡骸を。
口元には赤い、毒々しい液体がかすかについていた。

いちいち、それが何かは考えない。ロザリンドは。白い、何もない無機質な部屋。
けれど、額から血を流し、泣いていた。

カイザー・クラウドが温かい暖炉、乳母の腕の中で何の不安もなく寝ているのを、ルヴィーサは見ていた。別の部屋にクラウド家の騎士、分家の親せき筋がひしめき合っている。奇麗な金髪だ。
ルヴィーサとヴィンセントは、間違いなく兄弟だ。赤い髪が本家筋、炎の精霊王に選ばれた者の証だ。これからこの子は栄華と愛情を受けて、期待の中生きるだろう。

「帝国の拷問姫か」
「その言い方はふさわしくないのでは」
「全く、アテナの剣の残党といい、頭が痛い問題だ」
帝国軍の最大の高い地位のものはガブリエ―レやエルヴィーラだが、鬼の巣窟というべきか、名だたるもう商が火閉めているのもまた事実。アテナの剣、 彼らは、赤の死霊軍団―サングレ・デモ二オア―マ―を見ると、ショックを受けてしまうという。真紅、赤は、軍国の人間が一番嫌いな色だ。
彼らと戦うのは帝国軍最強の本部隊、戦場はさながら死の舞踊会場だ。亞人がいるところ、第一部隊の猟場である。
彼らとともに、数百の聖騎士や兵士がなぶりにかかる。戦場において、ワイバァン隊やイフリート隊がメインの戦力と連携で追い詰めていく。
ズダァぁン、カツゥゥン。
「ひっ」
「ウソだろ」
姿の見えない相手との激闘、ひくことを許さず、オルフェウスはフォルクマ―は自ら先頭に立ち、兵士とともに敵をせん滅する。
・・・騙し打ちなんて。
だが、戦争なのだ、勝てば官軍なのだ。
戦況において、アーシャは指揮官としての顔を持つ。
「本国から増援を」
「なりません、上からはここでもちこたえろと」
「アーシャ様ッ」
指揮官ナべりウスは少女の横に控えている。戦闘の指揮官は戦うか、ここは引くべきかをいつも求められる。
「フレイ・・・・」
「ワイバァン隊は、パパと大好きな人達を私から奪った」
「でもそれ以上にあいつらがいるから、パンドラがいるから」
純天使ヴィ―オラと契約した、フリッツの妹は阿羅漢宝具を生まれつき所有していた。ずっとずっと、ヴァイオレット・ローズと、ユリウス・ツヴァイリングと戦い続けた。スカーレット・ヴィ・メレフナイト。フリッツ・ヴィ・メレフナイトの二つ下の実妹である。
「間者はすべて・・・」
優雅に少女はほほ笑んで。
「ええ、死にました」

「・・・・・お前・・・」
ヴィッターは、アーロンをみる。デスティネも。
「馬鹿な奴・・・」

庭で遊ぶカイザーは間違いなく平凡な愛の中にいた。あの男は相変わらず自らの家庭に興味がなく、軍事に身を費やしている。アマ―リエだけは事情を知っている。エレオノ―ルの子を育てさせられて、優しい人だ。
多くのマリアベルの異母兄弟も知っている。だが、そこはカイザーのものではない。
・・・ひもじい思いをしていないだろうか。
温かい家にいて、生きているなら、何をしているのか。虐められていないか、どんな子になっているのか。
この家の仕事にかかわればわかるがパンドラはまず戦闘員となる。
ぞっ、とする。早く見つけないと。
相変わらずカイザーは笑っている。誘拐されたあいつは怖い目に会っているかもしれない。今だってハンターや魔術師に殺されるかもしれない。
だから、家を出て、魔術師の勉強しつつ、帝国各地を回った。魔術の道具にされ、バラバラにされる可能性があるからだ。

「お前…」
ハートの騎士が、アルベンティ―ナを連れたダレンを驚いたように見る。
「お願いです、助けてください」

西の魔女の末裔、ただそれだけでオルフェウスの運命はきまった。
彼の心の中の葛藤を、深い闇を彼らは知らない。
強大な力は人を委縮させ、同時に過信につながりやすい。

西は動乱と流血の場所である。おしくもオルフェウスは、オ―ウィンをその名と絶大な魔力と支配力を収め、自由の国の聖女ドロシーに倒された魔女の血を引いている。そのことをおかしくからかったのはルヴィーサ。
言ってはならない言葉がある、たとえどんな狼藉者や罪人でも。

「また、こんなところでさぼってる」
「ええと・・・」
「クラスメイトのアリーよ」
ああ、とそこでオルフェウスは思い出す。
「予言の信仰者の妹か」
「熱心なのは兄さんだけよ」

「俺はいらないんだ」
「まさか、そんな」
「クラウド家にいらない子なんだ」
わがまま、聡明、いたずら好き、だがもともとそういうのに鋭い少年だ。9歳になった時。自分というものが確立され。

熱で頭がおかしくなったのか。オルフェウスの知るアルバートはいない。
カイザーの後にゴットヴァルトはついていく。
「使用人のようね」
「まあ、頭悪いし、ねぇ」
オルフェウスがにらむとメイドたちは去っていく。

「温かい・・・」
シルヴァ・クロスもパンドラを捕まえて、下僕にする。オ―ガだ。異界の扉が開き、シュレアの力が足りないからか、13歳ほどのオ―ガが現れた。
「おとうさま・・・」
人間の少女に姿を変える。茶色の髪に青い瞳の。腕の中に転げ落ちて、自分をみる。
「・・・・初めまして、私の王様」

「いずれ、後悔するだろうよ、王族の狗が」
フィランはため息をつく。
「オルフェウス、ご迷惑を」
「いいさ、もう慣れた」
アーデルハイトはため息をつく。
「中核を担うあのような立場の者さえ、愚かな革命に参加するなんて」
「ヴァーヌスの革命の残りがだろう」

「まさか、フレッド、あいつが負けると思うか」
「何を・・・」
「どういうわけだか、あの能天気な変人の性格のわりにあいつには天性の才能が与えられているんだ」
「まさか・・・そんな」
「結構えぐいぞ」



2
「止めて、私は人間よ、こんな首輪なんて、鎖なんてつけないで」
「ほっほ、馬鹿なドールですね、お前達に権利なんてありませんよ」
白い部屋だ、壁も机も何もかも。
「時折、人間の中にお前達のような混ざりものが出るんですね」
「お父さんが黙っていないわ、いつかあんた達なんか倒すんだから」
髪を引っ張られる。
「そうですね、立場をわかるには現実を見せた方が子供にはわかりやすいです」
ヴァイツェンはじょき、という音が自分から聞こえたとは思わなかった。どんなに男勝りでもお転婆でも、ヴァイツェンは自分の桃色の長い髪が好きだった。心のどこかでいつかレディーのような綺麗な人になりたいと思い。
白と青の綺麗なスーツ風の制服のエデンの関係者。優しそうな男だ。だが無表情な方がましで穏やかな顔でヴァイツェンの長い髪を切っていく。
「兵士に長い髪は必要ありません、大人になるまで、お得意様が気に入るドールになるまで、男のようでもいいでしょう」
「いや、いや、やめて、何で」
だが男は笑みさえ浮かべて髪を適当に切っていく。鎖で身動きできずむなしい抵抗だけが続き、そして、女性の関係者に服を脱がされ、男がいないだけましだが、軍服に似た服を強制的に着せられる。お願い、やめて、どれだけ頼んでも女性達は何かを書き、こんな恥ずかしいことされていても、止めてくれない。

いかにもライオンに食べられそうな哀れなウサギに見えた。
ヴィンセントの父は、侯爵家の家の中で供のものも連れずに、危機意識のかけらもないそれについ厳しいアイスブルーの切れ長の瞳を向ける。
「・・・こんにちは」
自分の視線に気づき、化け物が人間の少年のような姿で、自分と同じ言葉を話しかけてくる。
「誰に口をきいている」
首を傾けている。
「ええと、どこかでお会いしましたっけ」
頭が悪いのは本当だ。のんびりとして、何の不安も心配もなさそうで。
先日も、ルヴァロアの若い者たちが示しをつけるため、奴を呼び出した。
「さぁ、正体を見せろ」
「狙いはなんだ」
「どうやって、カイザー様をおとしめた」
憤慨することがこのこと以上にあろうか。
「はぁ、別にヴォルフリート様に何もしていませんが」
鈍い反応、能天気に生きて、強いものにこびてきた腑抜け。
「貴様を倒し、ローゼンバルツァーに鉄槌を」
「え?え?」
二階からエルヴィーラが扇を広げ、いやらしく笑う。
当然の報いだ、これで済ますのだから感謝してほしいくらいだ。卑怯ということは今の彼らの中にはなかった。

間違いなく8歳のオルフェウスはこの時、大好きなアデル、何でか新しい弟でもできた気分で幸せな時間を過ごしていた。最初は鍛錬から空虚な侯爵家の生活から逃げる方便だった。ベルンホルト、実の父に関心がもたれない子。同情さえあったかもしれない。「・・・」
「・・・」
ガラス越しに毎日、その子を見に来た。興味はなかった。可哀想なのは自分ではないと最初は自分の自尊心の確認だったと思う。
「いいお兄ちゃんなのね」
「え」
「お母さんに頼まれたの、弟を見に行くようにって」
「俺は別に」

ゴットヴァルトは自分の後にはいはいしながら追いかけていた。笑うアデル、青空、3人のピクニック。
「ぎー」
ゴットヴァルトを抱き上げてぎゅっとした。
「大丈夫、おれがいるからな、守ってやるよ」
「ぎー?」

「お前ら、何をしている」
地面一面が焼け焦げている。
「ああ、少尉殿、偶然ですね」
ヴィンセントの父は意外な人物に驚きを隠せない。どうせレッド・レジ―ナに暗殺術でもならっていただろう、ぎりぎりのところでよけ、炎の弾をはじき返していた。
「袖が焼け焦げているな、アルバート」
「ああ、だって、一応相手臣民ですし、というか僕アルバートじゃないんですが」
「誰も傷つけたくないか、相変わらず病的だな」
オルフェウスはため息をついた。
「オルフェウス様・・・これは」
「貴方達のために」
「ここは俺に任せておけ、お前らは自分の定位置に戻れ」
厳しい視線をオルフェウスはゴットヴァルトに向ける。
「少し話がある」
オルフェウスは背中を向け、屋敷へ向ける。
「はぁぁ」


もはや、誰の記憶にもアデルの相棒、ライバル、新星の称号を持つ最強魔術師、ルナティックドレス所属の少女のことを覚えていない。異端審問官はそうした魔法の干渉を受けない。ゆえに、大罪人のことは覚えている。
「もう一度、聞く」
「なぜ、あんなことを?」
レイア・フォン・フォルトゥテ。8年前のことだった。

死神だと、風のうわさでフロイデはオルフェウスのことを聞いた。帝国軍での有名人。拷問姫と並ぶ、冷酷な青年軍人。
「ファザコン・・・」
「いきなり、何の話だ」
隣の少年は冒険者で、家が軍人で父親がサーウィンで悪魔といわれた男だ。家族を顧みず、血と戦争を求める冷酷な権威の犬。
「別に」
家を出て、ハンターとなる。帝国軍は帝国の秩序と治安、平和の要だが今はだれも真面目にしない。


爆発したソールの小都市にあるカフェ。エミリアは茫然と眼を見開かせている。碧の箒の塔の魔術師の少女も。
「貴方、冒険者・・・精霊使い?」
ウェイトレスは晴れやかに微笑み、結いこんでいた髪が突風で解き放たれる。
「ソフィアの姉妹の一人か」


3
「今、何といった」
ヴィンセントは、彼の父にとって性格が合わないが、主義や信念にルヴァロアのやり方に口出さない品行方正な息子で魔術師だった。
――いや、わかっていないのか。
「ここは今、お前の慈善趣味を出す場ではない、カイザー様の一大事なのだ」
「ですから、何をそんなに混乱する必要が、決起起す必要があるのかあるのか尋ねているのです」
ヴィクトリアも驚きすぎて、声を失っている。
「あやつに当家の敷地をまたぐ資格はない、それにこれは帝国の威信にもかかわる問題だ」
「彼は十分なほど、帝国に尽くしています、それにゴットヴァルト様に必要なのは十分な休息と家族や僕達の愛です」
周囲もヴィンセントの発言にお互いの顔を見ている。
「考えて発言してほしい、単にクラウド家だけの問題ではない、王宮や他国にこのことを」
「では、ゴットヴァルト様をカイザー様と引き離すと?あの方は今、ヴォルフリートに自分の居場所を16年も占拠され、自分の意外な生まれに大変困惑しているはず、それに父上、ゴットヴァルト様はご家族をテロリストに殺された直後、どんな危機が彼に近づくか、それを承知の上でまたアテナの剣に引き渡すと」
「当主様の血はあのものにはない」

ローゼンバルツァー家で、アーディアディトが披露される。まだ1歳。エレオノ―ルの腕の中で、白、青、赤の女王に見守られ、多くの貴族や実力者の前で披露されていた。会場の中にオルフェウスの姿はない。侯爵家の家族の中におらず、父もオルフェウスに関心はない。
それだけに意外だった。
ある日、侯爵夫人に連れられ、病院に連れて行かれたのは。テレ―ジアが女の赤子を生むという。だが変だと思う。確かに侯爵夫人は知人が多いが、マリウスを連れていくのでは?三男の自分ではなく。貴族の子は長男が大事というのは幼いながら知っていた。自分に関心はないが、虐められてもいない、普通に生活させてもらい、教育も受けている。だから侯爵夫人を嫌いではない、オルフェウスなりに敬意は抱いていた。

闇の中で、その鬼の子はいた。すでにシーザーたちは退去している。シーザーはずいぶんとショックを受けていた。
「まだ目は開かないの」
「生まれたばかりですから」
アデルはユリカゴの中で眠るパンドラに関心があるようだ。
「それでは、私たちはこれで」
疲れきっている、医者も看護婦も。そそくさと出て、オルフェウス達は取り残された。ゴットヴァルト、そう魔物の子、正式ではない子は名付けられた。
「頬柔らかい、可愛い、小さくて、赤くて」
「・・・そりゃあ、赤ん坊だし」
可愛いパジャマにフリルやレースのタオルや布団。歪な、ケダモノと呼ばれるがわかる気がする。
「でも変だな、こいつら確か、異界から15歳くらいの姿で生まれてくるんだろ、何で普通に赤ん坊なんだ」
オルフェウスはベッドの端をつかむ。意識していない。だが偶然か、ゴットヴァルトの鋭い爪がある醜い小さな手が、指がオルフェウスの手に触れた。
「えっ」
温かい温もりが感触が走った。
「…温かい?」
冷血な、悪魔のケダモノと聞いていた。だからオルフェウスは驚いた。
「う、うそ」
ぎやぁぁぁぁぁ、と予想通りの醜い耳障りな声ではないてくれたが。
「もうオルフェウス何してんの、いきなり手を離すなんて」

「貴方はまるでお人形ね」
アデルとの思い出は呪術、鬼属を使ったエデンの中の実験室だ。
「そうでしょうか」
フォルクマーはアデルが嫌いだ。天才で、常に先にいっていて。
「なぜあなたはそんなに乾いているのかしら」
ヴィンセントは笑顔を浮かべつつ、アデルをみる。
「ふたの底がなく、ただ流れ続ける」
現実に意識を取り戻す。
「お前はあいつに何か言いくるめられたのか」
騎士の筆頭、ルヴァロアの中心人物が前に出る。
「そうでないなら、なんでだ」
「もうクラウド家にヴォルフリートがいる必要はないでしょう」
冷たいわけでも、ヴォルフリートへの親愛が消えたわけではない。もう過去だと切り捨てている。今、大事なのは過去に甘受することではない。
「貴方がいうようにクラウドの血はすべて元に戻った、ローゼンバルツァーとの密約はもう終わったこと、これは当主様がいわれたこと」
バーバラスが驚くが、ヴィンセントはこういう時曲げることはない。
「・・・では、マリアベル様達の立場や気持ちはどうだ、マギア・ウォーにおける新たな火種、クレインに甘く見られる可能性もある、あいつら自体が危険な罠になる可能性だって」
ぎくり、となる。
「バーバラス、大義のために一の命を捨てること、いくら君でも軽はずみな発言はよしてもらいたい」
「あの娘のことを貴様は、だがあれは人間ではない」
「そうだ、表の医者に調べたのだろう、先ほども言ったがあいつの化け物がクラウドの血を飲み込んでいるなど、聡明なお前が信じているわけ」
そんな馬鹿な、都合いい話があるか。
「それに人格面もあれは上に立つものではない」
「ですが僕はゴットヴァルト様を後継ぎとして迎えることを父上、伯父上、貴方達に認めてもらいたい、清廉潔白なものだけが上に立つ資格ではありません」
血だらけの死体の中に幼いヴィンセント、フェリクス卿がいる。ヘンリーとクロ―ディアの父も。
「・・・・斬ったか」
「・・・・あ」
そこで茫然自失から少年は。
「・・・・僕がすべて背負う」
「駄目だ、世界はお前が抱えるほど軽くない」
「罪は償うものだ」
「お前はお前の父や祖父とは違う、あいつらに鬼を抱く資格はない、多くのものをお前は救った、答えはお前が探しなさい」
「今日の真実は皆に・・・」
「駄目だ」

仲間の一人はある日悩みから解放されたのか、エクレシアにきょうの実験を見せてきた。白い、無地の部屋だ。
「鬼属・・・なぜ」
「取引さ、彼らは帝国内に保護されているが、面白いものに変化する子がここ数年で出てきてね」
「しかし、かなり前に天災や事件とかで彼らとは」
手術台のようなものの上に角を生やした鬼がいた。
「そもそも異世界の生物に何で僕達の言語が理解できるものが多いか、魔物だからだけでは説得力ないし」
「ええ、まあ」
「それに人類の歴史で悪魔崇拝しゃ、彼らを人間と思いこむ例の病気が消えることはない、姿かたちも明らかに違い、自分の身内が手をかけられてもだ、そして人間と本当の姿に変身する生態はどうあっても、答えがない」
「ですから私やあなたがいるのでしょう」
「彼らはすべて哺乳類だよ、エクレシア」
「はぁ?」
「凶暴性や残虐性、それはどの生物にもあるものだ、だがライオンもサメもある生物よりは一定数は超えない範囲で殺している、一番最初のだれもが思う疑念、彼らが異界から来たというのなら、どうやってその出現場所を知るんだい」
「天魔落ちや魔女が出るときは何かしら破壊される」
「そうさ、だが僕らが学んだ歴史ではパンドラに関してはある日、突然襲撃されたで始まる、それだけ、随分と雑だろう、だが鬼属を始め、彼らの地位あるものは僕らと同じく恋をして、同じく家族を作る、つまり、それが答え、パンドラは僕らの兄弟なんだよ」
「それは・・・」
「もちろん言わないさ、僕も病気や主義者だと思われるから、彼らの好戦的な本能を抑えるため、多くの国がそうして兵士にする、それもいいさ、だが、人は神じゃない、自然の摂理は操れない、君にこういう話をするのは止めてほしいからだ」
「誰を?」
「友達だよ、彼は特に凶暴で手がつけられないものを個人的に所有する気なんだ、彼らを戦士から穏やかな臣民として帝国内に入れる気らしい、僕のチームからもかなり出ていくものが多くてね、怪物のパパになる気らしい」


ルヴァロア家は、ベルクウェイン家と同様、規律や掟、裏切り者は許さない。フレイム家は鬼族とのかかわりが強い、数年前にある噂が流れていこう、優遇されても彼らは大分苦しい立場に置かれている。敗者は、い分子はいらない。
故に彼らの治める領地で、その小さな双子は初めから一人で生まれたとされた、陰惨な魔女の伝承もあり。
「締め付けがひどいんじゃないか」
「いいのです、民は甘やかすとすぐ反乱をおこすのですから」
父や分家の当主は厳しく、ヴィクトリアとて逆らえない。正しいこと、災いのもとは消えた。それでも、バーバラスやグレイはその死体を抱きしめ泣いていた。サーウォンは争いが絶えない、疑いの種はなければいい。

決闘場、コロシアムである。
「お兄様に何をしたの」
「お兄様、ああ、あの怖い人ね」
お嬢様はこれは、もう。もう、幼いころから護衛、お目付け役の少年騎士はおてんば姫のわがままに振り回されていた。
「正直に言いなさい、あんな怪しい奴も取り囲んで、何をたくらんでいるの」
「なんかいつもイライラしてますけど、何で?」
それも炎の聖剣を向けるとか。
「なめて、いいわ、私がはかせてあげる」
ヴィクトリアが剣を構えつつ、炎を身にまとう。あれかな、ビタミン足りてないのかな。正面から剣を突く。
「やめましょうよ、お腹すきますって」
近接戦、ワンプレイのソロ精霊剣士といったところか。なんか、同じ攻撃ばかりだけど意味あるのかしら。
「この、なんでペルソナを使わない」
「えーっ、だって、これじゃれあいでしょう」
まあ、飽きたので領域術式を使う。頭の奥が痛む。ペルソナが解放され、彼女と自分の足元に僕の支配領域が生まれ、主ぐるしい音をする。対象の自由を奪い、一時的に支配する。
「何よ、これ弱いからってこんな卑怯な」
「だって暴力とか喧嘩とか無意味だもん」
集中しないとすぐに術式が解けるし、不便だなぁ。
「こんなもの・・・・」
「あ、動かないほうがいいよ、重力とかよくわかんないのが徐々にのしかかってくるから、もうやめようよ、女の子痛めつけても無駄だし」
「カイザーを返して」
「それは僕では無理だなぁ」



あれ、ここ手芸部でもダンス部でも調理部でもないよな。ダヴィデはもう一度部室を見る。
「ぐ、偶然だね」
ピンクである。クマさんである。ブレアが部屋をおとめチックにしたらしい。えらいごてごてというか、なんちゃって元太陽王の国風ができていた。
「お、おお、あの、これは」
「テおドール君がラファエル様に聞いて、それでシエラちゃんと用意したの」
一応生徒会に許可もらいに行ったのか。ラファエルというのはおチビさんの美少年の通称である。抱かれたい、彼氏にしたい男がアレクシスやカイザーなら、ゴットヴァルト君は可愛がりたい、手元に置きたい男一位とか。つまりは女子達の××なのだろうか。あれ、傍から見ると、レベルの高いいじめに見えるんですが。
「・・・あいつ、何こういうの趣味なの」
「違うよ、知り合いのお嬢様の先輩が教えてくれるんだって、みんなに優しいから」
何一つ拾えない。けっ、お優しい美少年だぁ?世間なめてるじゃねえか。んナの学校出れば、醜い素顔みせるだけっての。

4
正直言えば、ヴォルフリート・バルトはヴァイツェンにとって、嫌いなタイプだろう。結構自己中というか、だからこそ、レッド・レジ―ナに呼ばれいるからと自分がいら立つ理由がわからない。
彼に特別、魅力があるわけではない。ドジだしおチョコチョイだし。
自分勝手で気を使わない。
「ただいま」
皆になめられてるかな、それで痛めているかなと思ったが彼にはいちいち悩むことではない。厳しく辛い、死を望まれる日々。生き残ること、当たり前で。
「いいよな、いいところのお坊ちゃんは」
「え、ああ、誰だっけ」
いい性格をしている。
だけど、ある日気づいた。卑怯者ばかり、兵士であることにこだわる彼らはヴォルフリートの前では笑顔を浮かべるようになっていた。そもそも興味がないと本気で人を覚えない嫌な性格だが、ある日自分たちに番号以外で呼ぶようになったのだ。まあ頭が悪いので単に呼びやすくしただけだが、見分けがつきにくいトロールや悪魔属には嫌いなのか毛虫の名前をつけていた。
まあ、性格が実は歪んでいるのだが。
「トランペットだよ、忘れたのか」
「ああ、ゴブリンの、人間の姿だからわからなかった、まだ生きているんだ」

ずいぶんとハーブが育った。ヴォルフリートは一人で魔法関係やそういった知識で記憶魔法や幻術を覚え、13歳のときには帝国全土の名前を覚え、変装術や情報収集を身に着けていた。いくらか、パンドラの幼児たちや少年少女がいつの間にか、畑を手伝っていた。
ラミアーや悪魔属に話しかけ、吸血鬼の歴史や習性を調べ、お茶会に参加し、まるでそうしないと死んでしまうように。

「あれだろ、名門フェリクス家の親せき筋って」
周囲がざわついている。雰囲気からして、上流階級のものが多く在籍する名門校だろうか。ノーマナの光の魔術師の伯爵家の娘。
くすくすと取り巻きを連れた貴族の少女がマギアソードを持ちながら、魔法の才能がない妖精娘、セレスト・ヴィ・ダスティン・ヴィナ―二アをあざけりの目で見る。
来年には13歳になる次女・セレストは、それでもにげることは許されない。
・・・アンジュリカお姉さま。

「エデンもアテナの剣もすべてなくなればいい」
「そう思う時もある」
リーゼロッテやジ―クムントは顔を上げる。
「ですが、それは」
「あいつらは、もう奴らは帝国にいらないんだ、だれかがあんなものを止めなければいけない、悲しむものを少なくするためにも」

ベリエは街の中を引きずりまわされ、あるかされるアンジュリカを多くのクラスメイトとともに見ていた。
「騙しやがって」
「裏切り者・・・」
だが、石を投げられ、罵声を投げられ、アンジュリカは屈辱の中、耐えるしかなかった。


軍国の暗殺者なのだろう、ハ―ピ―はすでに魔性の歌は使えないようだ。
「う・・・ぇあっ」
血だらけで、シュテファンはすぐにわかる。壊されている。理性を失い、戦闘マシーンになる、おのれの欲求に従い、魔獣となる。
そんな世界に熱意が、正義が彼らにいかほどの価値があるだろう。心が温かくはならない。

目の前でダレンより数倍も大きい、巨体のパンドラをオルフェウスが手下を連れて、通常の身体能力を超えて、人並み外れたマナ、轟音と爆発音、赤く染まる剣を手に果敢にパンドラに立ち向かう。

「お前は賢者か学生の方が向いているんじゃねえの」
「そうかな・・」
ラフォールは鉱物と時空を操る魔術師である。
「じりじりと敵が降伏するまで、面倒な檻の中って性格歪んでるだろ」
「中尉殿・・・」

4
「一かけらも興味がないくせに」
「憎悪しているくせに」
ヴィンセントは寝ているゴットヴァルトを後ろから手を伸ばして。
そもそも、ディアボロ家の少年は言う。
「君の初恋の人はそいつのせいで殺されたのに」
人生がめちゃくちゃにされた原因なのに。
お前はヴォルフリートが大事なんだ、なら、悪魔は倒さないと。

「ホラ、これが答え?貴方は誰が原因でアデル様が死んだか、気づいているのでしょう」
「離せ、本当に殺すぞ」
だがその声は、邪悪さを放つ少女とは逆に清浄な雰囲気を持つ聖女の涼やかな声。妖艶さが、体の芯まで支配するような甘い、毒を含んだ声。
この女を変えたのは、自分だ。
「望みをかなえたいなら、天使に心を傾けなさい」
オルフェウスは結局、邪悪、悪というものも見捨てることができない。捨てることなどできない。呪いだという敵もいた。人間としてはそれは攻められるものではない。平等の命、たとえ外道でも悪魔でも殺人鬼でも、だが勝負の世界、真に目的があるなら己以外は切り捨てる、それは真理である。
「狂信者め、お前は狂っている」
耳元でささやく。
「貴方のあれへの感情は愛ではありませんわ、早く認めなさい、殺したいのでしょう、憎んでいるのでしょう」
それだけは、誰にも踏み入れてはならない。オルフェウスがマナを解放し、マルスの加護を纏いながら少女に剣をふるう。
「てめえ・・・」
「家族ごっこは無意味ですわ、あのものが貴方の期待を答えるわけがありません、貴方がどんなに偽りの愛をささげても」
「俺は嘘なんてついていない、大事な弟だぞ」

―6年前。
ブッシュノウム家の柩の前で、あいつの親戚、親が涙を流していた。7月の革命、サーウィンとツヴァイトークの動乱、銀の頂の革命。死者は恨みも生者の幸福もいわない。狂った悪魔崇拝者、5百年のうちの天才。
ヴィッターというパンドラを助け、鬼属を救い、目の前の理不尽と戦い、命を使い果たし。ブッシュノウムの実験で、何度も何度も。
トトの異界、力ある魔術師から宝具を奪い。
死者は答えない。彼女は親が決めた相手も将来も才能もあって。
二ケの肖像が奴を連れて行った。そうして、俺は初任務で、呪いを受けて死んでいくあいつを。アデルは笑っていた。
王宮前の広場で。観衆の目の前で。
「さあ、異界へ・・・」
向けられた短剣。呪文を唱え、彼女の胸に剣を。
皆よかった、正義がなされたと叫んで。転がる薄紫の長い髪、女の白い肌。石畳の上の赤い血。亡骸は運ばれ、朱色の赤が目の前が真っ暗に。空が赤い。
「悪魔はもういない」
目がくらむ。全てが色をなくして、においさえない。西の魔女のけがれた末裔。

一年後、アデルの葬式は行われた。叛逆者でも娘は娘。葬列の片隅で。オルフェウスは死ねない。自分は正しいか、でもアデルは答えない。

BGMは、いつもけたたましい銃声。聞こえる遠くからの音は、軍国の亞人兵が放つ魔術アーマー、近代的な最新鋭の長身の銃をオ―ナブルみたいに、それはまるで洗練された宮殿の舞踏ノよう、坂の上からガウェインの旗印である火だるまが堂々と掲げられて、次々と兵士は射殺され、あるいは切り取られ、決戦の舞台に向かい、アルフレートはヴォルフリートにきりかかるガウェインの前に出る。
教科書通りの戦場と、現実の戦場。命というのがこんなにも簡単に扱われる、それゆえに軍服を着て、錬金術や魔術を繰り出し。

「これであの邪魔な庶民王子は帝国の鬼が討ちとってくれるでしょう」
すでに彼らは宴を繰り出していた。庶民に手が出せない豪奢な衣装、豪華な催し物。主だった錬金術師のマスタークラスのものたちは、本来なら敵同士の宮廷魔術師、政務に携わる者達、本来なら庶民のために真っ先に前線に立ち、国の威信や大義のために出なければならないものたち。軍国は世界中から富を集め、武力を尊び、平等を国の理念とする。
「冷酷な鬼畜の国を滅ぼしてくれるでしょうよ」
「違いない、武神にだけは愛されているようで」
「気高き天帝の子孫である我らにはできぬな」
確かに彼らは民衆に優しく、亞人達にも臣民としての立場を与え、区別はしない。だが自分に従う穏やかな民であるからだ。皇子たちは、国王の元に集まっている。皇女も数多くいるが、浮かぶ表情は嘲笑。
軍国は武力を尊ぶが故、民に嫌われればどうなるか歴史が教えてくれる。隣の帝国が反面教師となり、彼らはごまをすり、優しいご主人様を演じる。
情けない男だ。
その中で、うっ屈した軍人がいた。彼自身は呼び出され、すぐに戦場に戻ることになっている。国王という頂きだが、彼は先代の模倣に過ぎない。政治や軍事も貴族や息子達に任せ、人形遊びに明け暮れている。城を建てる、芸術品に明け暮れるなら、少しは宮殿から出ろ。お前には民の声が聞こえないのか。

「よろしいのですか、刺客や暗殺者など」
正義感の皇子は、勧善懲悪を愛し、ガウェインとともに戦場に向かっている。
「あの方はこういう裏の事はお嫌いだからな」
第3皇子は、慈愛の王子とともに停戦、交渉までこぎつけた、第一皇子を味方につけたまでは言いがうまくいきすぎて、それで今回の戦争のきっかけの事件である。ディアナという跡継ぎ娘がいた遠い異国での軍国の人間が起こしたクーデター、使節の暗殺事件である、勿論、どの国も知らない。
「ともかく、救世主を討てばいい」
「今回と次で戦争終わるのですか」
「さぁな、筋書き通りに現実は正義の味方もサタンもいないからな」


「よかった、死んだかと思いました――」
「イリス・・・」
飛行艇から、会見会場からそのまま着たであろうイリスが降ってきて、ヴォルフリートに抱きついた。

「大切なものは目に見えないんだよ」
ローザリンデは、ほほ笑みあう金髪の少年とアンネリーゼを見あいながら、お茶の席を同席する客人がヴィクターに言うのを奇妙に感じた。
「どういうことだよ」
庭先ではアリスとメイド達が小さなステップを振って、くすくすと笑い、踊っている。
並べられるトランプ。
「君は力を崇拝しているね、なぜだい」
「何でって、そりゃあ、強い方がいいだろ」

「お前は馬鹿ね」
「酷いな」
「そんなに褒められたい?」

「もうどこに言ったのかしら」
「どうした」
「ヴィルフリート、あの子がいないの」

「なんだよ、イザべラ」
「クロノ、彼はどこだい」
「アンネローゼじゃなくて」

「・・・どこに行く気だい」
「・・・何」
アルバートは抜け道に向かうヴォルフリートに話しかける。

少女がすでに壊れているのをアリスはサファイヤエルに肩を支えられながら、痛感する。
「ヴァイオレット・・・」
「もう、無理です」




スフィアは現在、銀の十字架の学園に所属している。将来目指すのは、魔法騎士の中の騎士、伝説の女英雄、栄剣のロザンナのような、女性だ。その子孫が今のフェリクス家やローゼンバルツァーだ。イフリート隊に所属し、西方や北方に行かされることも多い。

「・・・・なんだ、気づいていたのか」
「ああ、お前ダヴェーりゃのスパイだろ」
ドラマチックだ、見ヶ月の晩、いつも通り、友達に会いに行けば、こうだ。
「で、警察でもウロボロスでも連れて行くの」
まあ、いいか、楽しめたし。
「いいや、おれはお前を誘いに来た」
「ん?」
「お前、おれのチームに、このまま帝国の人間になれ」
「いや一応半分は本当に帝国なんだけど」









「・・・貴方は、イフリート隊ではお優しい方ですね」
「まあ、アウレリア、うれしいことをいうのね」

下に降りていき、細めの優しい法術士は扉を開ける。けれど廊下が現れ、扉を開けて、善良な市民の商会の男たちが涙をこぼし、縄で身体を拘束されていた。
「いけませんわ、おさぼりになっては、それでは貴方は罪を償えませんわ」
「頼む、金は払う、返してくれ」
「神は全ての罪人を許します、だから正直に貴方達も罪を告白し、罰を受けるのです」
「俺達はなにも、なぜこんなひどいことを」
「まぁぁ、ご冗談を、ご自分がよくわかっているでしょうに、おバカさんなふりをすれば、自分の罪から逃げれると思っているんですね、自分が経験しない痛みは見逃していいなんてわたくしなら恥ずかしくて死んでしまいますわ」
「今回のヴァガットが起こしたこともその前も全て知っていたのに、貴方達は自分が力がないという理由で行動しなかった」
牙を彼らの前に差し出す。
「なんだ、これは」
「本物のエミ―ル・ドットの体の一部ですわ、あの子も可哀想に、18年も兄の名を自分の名だと信じて、貴方のような嘘つきをいい父だと信じていたんですから、これは人間の男性のつめですわ」
「・・・は?いや、これはオ―ガとゴブリンの合成種のものだと、昨日」
「高原で数匹で活動していたパンドラの一体を冒険者が、それで魔物商に」
「貴方の店は息子さんが生まれた年からずいぶん冒険者たちに愛されていましたね、奥さんは誰とでも仲良くなられて、何ですか人に駄目な人はいないでしたっけ、おかしいんですよ、このパンドラの血液の正確なルーツを教えたら泣きだすんですもの、少し聞いたらねぇ、悪魔に呪われただの」
「・・・・お前は奴らの一人か、そうかお前が妻をヴァガットの元に・・・」
「貴方達は、そのパンドラの最後の声を聞いて、何かおかしいと思いません?これはその時のですわ」
再現される音源。パンドラの声だ。
『・・・ぉぉ・・っ、う・・・・、ドウシテ、ドウシテ・・・・』
「人間の真似してるだけだろ、しゃべるパンドラなんて」
『・・・・ムカエニ行く、・・・・ヤクソク、うああああああああああああ」
「これが彼が人間に変身した時の最後の映像ですわ」
「・・・・エミール?」


炎が胸に浮かぶ。高貴なものとは無縁の、ある部族と流民の女性との間に生まれ、だがファーシーは今日まで両親を恨んだことはない。故にレッド・カルヴァエ―レの末席として宿命を受けたことも祝福だと思った。乱暴者、雑なボーイッシュな少女。だがその一方で文学や詩も愛する。

「ルヴァロアの焔は消えない」
ウルリヒの前で、騎士は妖精種の大群で最後のエレメント、炎を出す。恐怖に負けたものは死がある。
けれど、だれもが考えを放棄していた。
「仕方ありません、目の前の焔使いを処分しましょう」
彼らに一瞬の油断も情が浮かばないよう、自分達が教えたことを。負けること、退くこと、何より諦めるという選択肢を彼らに選ばせて来なかった。

「これが彼の日常だよ」
召還された天魔落ちやパンドラ達の一団が戦場に向かう。
「そんな・・・」
「前に言っただろう、彼らのおかれた状況は何も変わらないと、危険になれば戦地に行かされる」
「でも大人の兵士はいない、ほぼ俺とタメじゃねえか」
「戦争は続くよ、表向きは隣人同士になってもね」
「誰かが止めれば、こんな」
「この優しい国が愛する国民を戦地に行かせる、しないだろう?素晴らしい博愛、大いなる愛だ、正義は悪を倒し、王様は国民とともに生きる」
「助けてって言えば・・・っ」
「冷酷な魔物にはそんなものはない、あれは体温がある、殺戮のための生きた魔法兵器だ、王の命令があれば、君でさえ手に掛けるだろう」
「そんなの人に対する扱いじゃない、おかしくなるだろ」
「そうさ、とぐすまされ、削られ、磨き抜かれ――、これで君はなぜ彼らが友愛を許しを情を持てると思うんだい、おかしいことが彼らの普通なんだよ」


「・・・・侯爵様」
教会の仲は、化け物や闇社会の人間の死であふれていた。吸血鬼貴族の気まぐれか。帝国がこの地を捨てたのか。
「人間は変わらないな、神ではないのに自分以外のものを作り出せると思うのだから」
時代は中世のアルトメルデ。緑が溶け込んだような紺色の長い髪の村の少女。死体に炎が放たれる。本来ならそのまま、死に絶える数ある一人だ。
「・・・・・死ぬのか、娘」
「・・・・はい、侯爵様」
忘れられた場所、ゆえに魔女と思われても、敬遠される程度ですんだのか。
「どうせ生き延びても使いしてられるだけか、よし、娘、貴様に復讐の機会をやる」
「・・・・何を」
賢者の石のかけらを渡す。
「退屈していたところだろう、さぁ」


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