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月浮かぶそら、輝くひかり。 -静かな夜空の小さなトモシビ。

最終章-失われたヒカリ

少女は数メートルほど飛ばされ、地面にたたきつけられた。少女から流れ出た鮮血が、雨によって流され、道路を血に染める。少女はその場で倒れたまま、動くことはなかった。
「ひ・・・轢いた・・・人・・・轢いた・・・」
車に乗っていた人が、恐怖に怯えながら弱弱しい声で言った。
「に・・・逃げなきゃ・・・捕まりたくない・・・」
男性はそう言って車に飛び乗った。エンジン音が鳴り響き、車がUターンし始める。周りにいる人は少女が轢かれたことに気をとられ、男性を止めることが出来なかった。周りの人が我に返ったとき、そこに車はなかった。ただ、少女だけが残っていた。ギャラリーの一人が言った。
「け・・・警察だ!誰か警察と救急車を!」
まだ我に戻っていなかった人たちは、その声でいっせいに我に返る。
「け、警察ですか!?今すぐ救急車をお願いします!人が、人が轢かれました!」
ギャラリーの別の一人が警察に電話をかけた。
数分後、警察と救急車が到着し、少女は救急車に乗せられた。警察に電話した人は警察に事情を説明する。そして少女を乗せた救急車は、病院へと向かった。


プルルル・・・プルルルル・・・
「はい、瀬川ですが」
テレビを見ていた陽介は、電話のコール音に気づき、電話にでた。
「あ・・・あなたが陽介君ですか?」
受話器の向こうでかすかに泣いているような声も混じっていた。
誰だろう?聞き覚えがない声だな。
「はい、そうですけど、どちらさまでしょうか?」
「里緒の・・・東野里緒の母です・・・」
「里緒の?里緒に何かあったんですか?」
「く・・・車・・・車に・・・」
そう言ったとたん、泣き声の勢いが増した。
「車?」
「里緒が・・・車に・・・轢かれました・・・」
「は・・・?今・・・なんて・・・?」
「車に・・・里緒が・・・轢かれたんです・・・」
「轢かれたって・・・まさか・・・今、どこですか!?」
僕は里緒が轢かれたと聞いて、焦った。
「病院です・・・、白川病院です・・・」
「里緒は!里緒は無事なんですか!?」
「まだ・・・なんとも・・・」
「今すぐ行きます!病室は!?」
「303号室です・・・」
僕は病室を聞いた後、すぐに電話を切り、病院へ向かった。
まさか・・・里緒が・・・さっきまでデートしてた里緒が・・・そんな!!
僕は息が切れることも気にせず、全力で走り続けた。

303号室─。
「里緒!!」
病室の空気は、かなり重かった。里緒の家族が全員集まり、里緒の母は、泣きながら蹲り、父は里緒をじっと見つめ、里緒の姉と弟は病室の端で泣いていた。
「君が・・・陽介君か・・・?」
里緒の父がこちらを向いて言った。
「はい・・・僕が陽介です・・・」
「あなたは・・・里緒と一緒じゃなかったのか・・・?」
「途中まで・・・一緒でした・・・」
「なんで!!なんでずっと一緒にいなかったんだ!!なぜ途中で里緒と別れた!」
「里緒は・・・寄るところがあるからって・・・だから・・・だから・・・」
里緒の父は僕の服をつかみ、自分の元に引き寄せた。
「ふざけるな!お前が・・・お前が付いていたらあんなことにはならなかったかも知れないんだぞ!!」
「はい・・・」
僕は里緒の父の言っていることがあまり頭に入ってこなかった。混乱していた。里緒の父の後ろには、里緒につながれた心電図があった。そこに表示された波は、今にも無くなりそうな、弱弱しい波だった。
「あなた・・・やめてください・・・」
里緒の母が泣きながら父に言う。
「何を言う!こいつが・・・こいつさえ付いていれば・・・」
「その人はこんなことが起こると思ってなかったんですから・・・その人を責めても・・・何も戻りません・・・」
そういい終わると同時に、さらに泣き声の勢いが増した。病室には、三人の鳴き声が響いていた。
「そうだな・・・すまなかった・・・」
そういうと僕を解放した。
「いえ・・・」
僕は動けるようになり、里緒元へと足を運んだ。
「里緒・・・」
僕は里緒の名前を何度も何度も呼んだ。返事はなかった。僕はもう一度心電図を見る。
弱弱しかった波が、一つの線に変わった。
「り・・・里緒!里緒!!里緒っ!!!!」
全員がこちらの方を向き、そしてその次に心電図を見た。
「・・・!」
全員が、声に出ない程絶句した。
「り・・・里緒・・・?里緒?・・・里緒!!」
里緒の父が里緒の名を何度も呼びながら里緒に駆け寄った。その後、全員が里緒を取り囲む。
「り・・・お・・・里緒~~~~!!!」
母が泣き崩れ、父が叫び、姉、弟も母のように泣き崩れた。僕の目から、涙が零れ落ちた。その後、医師によって里緒の顔に、白い布が被せられた。
「里緒・・・なんで・・・なんで・・・」
僕はとまることのない涙を堪え様ともせず、里緒の手を握った。
303号室。その病室から、泣き声が廊下にまで響き渡った。

そして今。
僕の心の中にある
ちっぽけなヒカリが、
闇に飲み込まれた─。













































東野里緒、14歳。2017年、6月9日、PM5時37分。永眠─。


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